タイプ
レポート
日付
2015/3/13

イスラム国(IS)の特徴(2)  ~ISが停滞するグローバルジハードに与えた影響~

[特別投稿]]和田大樹氏/東京財団アシスタント

 昨今ISはシリア・イラクの一部領域を支配するだけでなく、東南アジア地域のアブサヤフや南アジア地域のパキスタン・タリバン運動、またアフリカ地域のアンサールベイトアルマクディスやボコハラムなどの中からはISへ忠誠・支持を表明する声が聞かれ、さらにISのSNSを使った巧みなリクルート活動などが功を奏してか、ISに参加するためシリア・イラクへ流れ込んでくる者の数も短期間で急激に増加している。

 イラク軍やクルド民兵組織との戦闘や有志連合による石油施設への空爆が続く中、ISは一時の勢いを失いつつあるとの見方もあるが、米軍がより積極的な介入をしない限り、早期に状況が好転するとは考えにくい。米当局者の多くも、ISとの闘いは長期戦になるだろうとの見解を示している。このような状況の中、日本国内でも新聞やテレビなどを通し、日々ISの行動や国際社会の対応について目にするが、ではいったいISと同じような目標を持つアルカイダなどのイスラム過激派グループ、それを構成するジハードネットワークにはどのような影響を与えたのであろうか。ここではISの特徴の一つとして、ISの台頭が顕著になる中で、それがアルカイダを中心とした既存のグローバルジハードネットワークにどのような影響を与えたのかを観ていくとする。

 アルカイダを中心とするサラフィージハーディストによる脅威は、当然ながら9.11以降も続いてきたが、その脅威は9.11テロ時と比べ、今日ではより不確実な、不透明なものに変化している。多くのテロ研究者も、9.11テロ時のアルカイダと今日のアルカイダは質的に変化しているとの見解で、例えば今日のアルカイダを中心とするサラフィージハーディストの脅威を、?パキスタン・トライバルエリアで今なお存在するアルカイダ・コアを筆頭に、?AQAPやAQIM、ソマリアのアルシャバブ、そしてイスラム国の全身組織であるAQI、シリアで活動するアルヌスラなどアルカイダコアへの忠誠を誓ったアルカイダ系組織(Al Qaeda affiliate)、?ボコハラムやアンサール・ベイト・アル・マクディス、アブサヤフ、また今日では弱体化したインドネシアのジェマーイスラミアなどアルカイダコアへの忠誠は公言していないものの、目的や価値観が一致した場合にアルカイダ系組織と協力するイスラム過激派(Like-minded groups)、さらには、?アルカイダ系組織とは直接的な関係はないが、インターネットのイスラム過激派サイトなどを閲覧することなどで自ら過激派した個々人や小規模グループ(Inspired individuals and network)、までを含んで捉える動きは世界的にも主流となっている。

 そして近年ではビンラディンの殺害などでアルカイダコアが弱体化する一方、拡散するアルカイダ系組織やそれと関係を持つイスラム過激派、過激化した個々人による活動が活発になった。このような組織や個々人は、アルカイダコアのアイマンザワヒリから直接指示を受けて活動しているわけではなく、自らの意思と能力で活動しており、言い換えれば ザワヒリもインターネットによる広報活動を続けてはいるものの、それらの自主的な活動に自らが掲げるグローバルジハードを依存せざるを得ない状況にあったといえる。要は本来リーダーシップを発揮すべきアクターがそれを十分にできず、イスラム過激派や個々人が各自で活動をしているという、“停滞するグローバルジハード”とでも表現できる環境が生じてきたのである(その中でもAQAPは第一義的に欧米へのジハードを重視し、さらに組織によってどれほどグローバルジハードを重視しているかは異なるが)。

 そのような中、2014年に入ってから、ザワヒリが破門したISがイラクで攻勢を強め、同年6月にISの建国を一方的に宣言し、組織的、財政的、軍事的に強大化したということは、ザワヒリにとっては決して都合の良い話とは言えず、今日ではどこまで他のイスラム過激派や個々人に対する求心力を持続できるのかといった議論も浮上している。そして昨今では、リビアやエジプトで活動してきたイスラム過激派の中からISを名乗る組織が台頭し、さらにボコハラムやアブサヤフ、パキスタン・タリバンなどアルカイダと関連していると位置づけられてきた組織の中からも、ISへの忠誠・支持を表明する動きが出ている。これは裏を返せばアルカイダコアの存在力低下を証明するもので、またISが組織だけでなく、アルカイダのようにブランドやイデオロギー機能を併せ持つようになっていることを意味する。そしてこのグローバルジハードのリーダーシップを巡るISとアルカイダの競争が起こっているとされるが、それは今後ISが組織としてどの程度の組織力、財政力、軍事力を維持できるかが大きなファクターとなるであろう。

 しかし今日では両者が対立関係にあるとは言われるものの、より深く分析するとその対立関係の中には両者の補完的な関係も見えないわけではない。ISもアルカイダもカリフ国家の復活を目的とするスンニ派のサラフィージハーディスト集団で、また残虐性・暴力性における程度差はあるものの、両者とも暴力的過激主義を貫いている。ISが行っている事の全てをアルカイダが反対しているわけではなく、例えばISが欧米への敵対心を強め、”Far Enemy”への攻撃意志をより鮮明に持つことは、”Far Enemy”を重視するアルカイダにとっては補完的な意味を持つことになる。

 このような両者の間における補完性に焦点を当てる立場から言うならば、アルカイダが掲げるグローバルジハードが停滞する中でISが台頭し、それに忠誠・支持を表明する組織や個々人が増加し,近年のグローバルジハードに大きな転機を与えた(グローバルジハードのルネサンス)ということからは、国際安全保障上のジハーディストの脅威はむしろ増大していると判断でき、我々国際社会はより真剣にこの脅威に対処していかなければならないことを意味する。