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第6回「介護現場の声を聴く!」

May 19, 2011

第6回のインタビューでは、介護関連施設のコンサルタントなどに携わっている「一般社団法人介護事業操練所」理事長の三上博至さん、介護業界を含めたコンサルティング業務に当たっている「株式会社ディーセント・スタイル」代表取締役の南部晃舗さん、介護人材の育成や施設の開業支援業務などを担う「一般社団法人茶話介護研究所」代表理事の立川大輔さんに対し、人材不足など現場の課題などを聞いた。

インタビューの概要

<インタビュイー>(画面左から)
立川大輔さん(一般社団法人茶話介護研究所代表理事)
南部晃舗さん(株式会社ディーセント・スタイル代表取締役
三上博至さん(一般社団法人介護事業操練所理事長)
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年5月9日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/flash/viewer.swf

要 旨

資格保有者の半数以上が就職せず

今シリーズでは冒頭、3月11日に発生した東日本大震災が介護現場に与えた影響を聞いており、第6回も震災の影響を聞くことから始まった。

立川さんの事業所では福島県から居宅サービス18人、デイサービスで5人を受け入れており、「受け入れ者への対応で右往左往している」と話す。中でも、施設サービスである特別養護老人ホームの施設サービスから、在宅のデイサービスに移って貰う際、利用者に混乱が見られたという。さらに、原発事故と津波の影響によって帰宅のメドが付いておらず、費用負担を巡る厚生労働省との調整が難航していることも明らかにした。

「飲食業(のコンサルティング)を見ることが多い」という南部さんは「物流が止まって物が入らないし、お客さんがも入らない。停電の影響もあり、(経済活動が)止まっている」と指摘。介護業界の関係で言えば、首都圏の事業所では「ガソリン不足で(高齢者)送迎車を走らせられなかった」という。

また、三上さんは「(震災を契機に)都市再生機構が団地を高齢者対応に変えることを真剣に考え始めた」と話した。高齢者住宅については、ハード整備は国土交通省、ソフト面は厚生労働省、備品関係は経済産業省といった形で、所管に縦割りがあるため、各省による連携が震災を契機に強まることを期待した。同時に、世の中に蔓延していた「自分さえ良ければいい」という機運が変わり、他人に配慮する価値観が広がっているとした上で、「もしかしたら復興は見事なスタートを切るのでは」との期待感も示した。

その後、話題は介護業界の人材不足に話題が移った。

「せっかく大学を出て、介護福祉士の資格を貰っても介護業界に入る人は半分」と指摘したのは三上さん。通常ならば介護福祉士は3年間以上の従事経験を経て国家試験を受けなければならないのに対し、大学などで介護関連カリキュラムを学べば国家試験は免除される。しかし、三上さんによると、50万人以上が資格を持っているのに半分近くが介護職に従事していないという。

この関連では、立川さんも「今回の震災でボランティアを受け入れたが、介護や福祉に興味を持っている人はたくさんいる」「ボランティアには是非、働いて貰いたい人がいる」としつつも、ボランティアの多くは別の仕事に就いており、「仕事と(して介護職で働くと)なった時、介護という業界自体(への就職は)ハードルが高い」と話した。

必要なのは「愛とソロバン」の両立

さらに、介護職の離職率が高く、業界全体に対して「低賃金」「3K(=きつい、汚い、危険)」というイメージが先行している点について、実態は異なるとの意見が示された。

財団法人介護労働安定センターの「介護労働実態調査結果」によると、介護従事者の離職率(2008年10月~2009年9月)は17%と、他の産業と比べて高止まりしている。

しかし、立川さんは「介護現場で本当に辛くて辛くて嫌いになって辞める人はいないと思う」と強調する。「給与や人間関係(で辞めるケース)はあるが、殆どの人が『こんなに良い仕事はない』と言っている」と力説した。

三上さんも「30歳代、40歳代で異業種から入って来ても、『経験がない』『資格がない』(という状態)では法人の理事長は給料を払えない」と強調。その一方で、「20歳代から10年、15年やって来て、奥さんを養っている人はたくさんいる」と話すと、立川さんも「そんなに給与水準が低いとは思わない。他の業界の新卒と比べると、(初任給は)介護の方が高い」と応じた。

しかし、それでも悪いイメージが先行している理由のは何故か。その第一の理由として、バランスの悪い報道が挙がった。週刊誌の取材に協力した経験を持つ三上さんは「ネガティブなタイトルの方が売れる」と述べた上で、「そういう傾向があるが、(現場の)全てではない」と強調した。

第2に、介護職のキャリアアップ過程が整備されていない点も、離職率の高さに繋がっている可能性が話題に上った。

戦後、大企業を中心に日本の企業は終身雇用を前提に、年功序列の給与体系を採用しており、長く会社に在籍するほど給料は上がる仕組みだった。しかし、介護関連施設では年齢や経験に応じて給与が上がる仕組みが整備されていないとして、立川さんは「どこの大きな法人も若い人を雇うけど、育てていかない。『だから若い子、新卒でいい』(という雰囲気になる)」と指摘。その上で、「最終的に『人』に尽きる仕事。5年後、10年後のステップアップ(に向けたプロセス)を設けて、給与も作らないといけない」と話した。

こうした業界の体質について、三上さんからは「(使い捨ての)100円ライター」という過激な形容まで飛び出した。

ただ、給与体系の見直し策については意見が割れた。南部さんは「(介護業界は)労働集約型のビジネス。給料を上げても報酬は増えない。ステップアップの制度を入れても、夢や希望があるのだろうか」と問題を提起。

これに対し、立川さんは「(最初の資格要件は)特になくてもいい。資格があることでステップアップできる方が良い」と主張した。

最後に、三上さんは「介護のプロとして正々堂々とサービスを提供し、その対価として費用を貰おうという意識を持つ人間は多くない」と指摘。その一方で、「ボランティアや福祉の美辞麗句はもういい。『愛(=ボランティア)とソロバン(=サービス業)』のバランス感覚を持って、エンターテイメントとして最高のサービスを提供するサービス業のプロがもっと増えるべきだ」と話した。

【文責: 三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】
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