タイプ
レポート
日付
2011/5/23

第7回「介護現場の声を聴く!」

 第7回のインタビューでは、全国各地で在宅介護サービスを手掛ける「株式会社日本介護福祉グループ」直営事業部長の麻生拓郎さん、介護業界を含めたコンサルティング業務に当たっている「株式会社ディーセント・スタイル」代表取締役の南部晃舗さん、日本介護福祉グル―プ経営企画室で務める広仲信太郎さんに対し、介護現場が直面する課題などを聞いた。


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インタビューの概要
<インタビュイー>(画面左から)
広仲信太郎さん(株式会社日本介護福祉グループ経営企画室)
南部晃舗さん(株式会社ディーセント・スタイル代表取締役)
麻生拓郎さん(株式会社日本介護福祉グループ直営事業部長)
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年5月9日に収録されたものです。


要 旨

被災者の受け入れに奔走

 今シリーズは冒頭、3月11日に発生した東日本大震災が介護現場に与えた影響を聞いており、第7回も震災の話題でスタートした。

 まず、麻生さんが挙げたのがガソリン不足。日本介護福祉グループのデイサービス事業所は関東の事業所がメインとなっているため、「(高齢者の送迎に使う)ガソリンで打撃を受けた」と話す。ガソリン不足は間もなく解消されたが、先が見えない中で給油所では20リットルの制限があったため、ガソリンの確保には苦労した様子。ただ、麻生さんによると、「こちらが言うまでもなく、各スタッフは普段のニュースを見て、スタンドを見付けたら毎日少しずつ給油していた」という。

 さらに、24時間態勢で人を配置した社内の緊急対策本部を中心に、ガソリンスタンドの情報共有に努めたほか、食糧備蓄についても3日分を確保するよう指示したという。

 さらに、福島県から避難して来た18人を関東の事業所に分散して受け入れた関係で、高齢者の安全対策や受け入れ準備、連絡調整などに奔走したようだ。中でも、大型バスで避難して来た直後、多くの高齢者が寒さを訴えたため、血圧や体温など健康状態に留意しつつ、お風呂に入って貰ったり、温かい飲み物を提供したりしたという。しかし、それでも安全な地域に避難して来た安心感のためか、麻生さんは「床に毛布を敷くような過酷な生活の中で逃げて来たので、高齢者は最初、ぐっすり眠っていた」と振り返った。

 しかし、震災から2カ月が経過し、家族と連絡が取れるようになった上、高齢者も避難先での生活に少しずつ慣れ始めており、地元への帰還を希望している高齢者が増えているとのこと。麻生さんは「復旧・復興(が終わり)次第戻るという形で事業所で過ごして貰っている」と話した。

 続いて話題は介護業界のキャリアアップに移った。

 多くの日本企業は年功序列の給与・昇進体系を取っており、長く会社に在籍するほど給料が上がる仕組みを採っている。

 これに対し、介護業界は様相が異なる。第5回インタビューに続く2度目の出演となる広仲さんは現場のヘルパーから振り出しに介護業界に入り、現在は株式会社日本介護福祉グループで経営企画に携わった経験を引き合いに、「個人で(役割を)考えて行くなり、(自分なりの)ポジションを置かないと、(単に)待ってても給料が変わらない」と指摘した。

在宅希望者が施設に入る理由は…

 その後、政策立案を担っている霞が関・永田町と、介護現場の間に横たわる認識ギャップに話題が移った。介護保険制度は2000年の制度創設後、3~5年に1回の頻度で制度の見直しを実施しており、制度改正が介護現場に与える影響は大きい。今年の通常国会でも24時間巡回サービスの創設などを盛り込んだ介護保険法改正案が提出されている。

 ただ、法律や制度改正に対する介護現場の関心は必ずしも高くないという。麻生さんは「専門学校の時に法律を勉強したが、働き始めた頃は目の前の利用者にどう接するかを全力投球していた」と振り返る。広仲さんも、介護事業所のマネジメントや利用者にサービスを説明するケアマネージャーに就任した後には、法律や制度改正の知識を更新するようになったというが、「利用者と接する時間が長い時、(法律や制度の仕組みに関する知識は)学校で習った程度だった」と話す。

 一方、第6回インタビューに続く2度目の出演となる南部さんはコンサルタントいう仕事柄、介護以外の業界に関わることが多く、他の業界に比べて相違点が多いという。

 例えば、他の業界であれば利益率の向上を優先し、人員を削減することが可能。しかし、介護業界の場合には職員の人数や資格を巡る規制が多く、「ある程度、自由な発想が規制される。経営努力ではどうしようもない部分がある」という。しかも、規制の必要性に疑問を感じる機会も多いらしく、「(役所は)最悪のパターンを考えて制度設計しているのだろうが、稀に起きることに対応する投資額が大きい」と不満を漏らした。

 麻生さんも、人材不足が指摘されている中で、事業所を設置する際の職員の人数・資格が邪魔になっていると指摘した。「(サービスの)質の部分を担保する部分は分かるのだが、現状で困った高齢者がたくさんいる中で、どれだけ質が上がるのか疑問」という。

 さらに、話題は在宅介護の在り方に移った。介護保険制度は2000年度のスタート時点から、施設から在宅介護へのシフトを重視しており、麻生さんも「住み慣れた家に住み続けたいと考える高齢者は多い」と語る。

 だが、実情は大きく異なるという。南部さんによると、実際には「施設の方がニーズが高い。『入れるのならば入りたい』『入れたい』(という気持ちの人が多い)」と指摘する。

 その理由として考えられるのが家族の負担。広仲さんは「『家で住みたい』『畳の上で死にたい』と考えている人が圧倒的に多く、『地元を離れたい』と思う人は少ない」と強調。その上で、「(要介護度が)重くなって来ると、施設で掛かるお金よりも在宅でサービスを複合的に使った方が高くなる。この場合、家族に迷惑を掛けたくないので、施設(への入所)がちらついて来る」と述べた。

 さらに、麻生さんも自らの経験を振り返り、「施設に入りたいという人と会ったことがない。(施設入所者の大半が)『迷惑を掛けたくない』『一人じゃ何もできないから』という理由」と述べた。

 このため、広仲さんは「サービスが足りず、(在宅介護へのニーズを)介護保険の中でフォローできていないので、施設に行くしかない流れになっている。(夜間対応などの)サービスを充実すれば、在宅の可能性は非常に広がっている」と話した。

 最後に話題は介護業界のやり甲斐に移った。

 「3K(=きつい、汚い、危険)」の代表格とされる介護職。だが、麻生さんは「テレビで放映される暗いイメージばっかりじゃなく、楽しい記憶しかない。だからこそ10年間も続けて来られた」と強調する。

 麻生さんがやり甲斐を感じるのは、利用者の笑顔を見た時。「利用者が『生きてて良かった』『ここに来て良かった』と話してくれたり、笑顔を見せてくれたりする所に仕事の喜びを感じる」という。例えば、一般的に当たり前のことであっても、「独りじゃできないから…」という理由でトイレでの排泄を諦めている高齢者は多い。

 そこで、ヘルパー達が協力してトイレで排泄して貰うと、「(高齢者が)泣いて喜んでくれて、職員も泣いて喜ぶ。そういう時に仕事のやり甲斐を感じる」という。

 さらに、人生経験を重ねた高齢者は話が面白く、昔のことを覚えている高齢者も多いため、様々なことを学べる機会になっているという。麻生さんは「(利用者から)料理を教わったこともある」と振り返れば、広仲さんも「(ヘルパー達を)育ててくれる気持ちが(高齢者に)あり、(弱点だった)家事は利用者に助けてもらった」と応じた。

【文責:三原岳 東京財団研究員】