タイプ
レポート
日付
2011/7/27

第16回「介護現場の声を聴く!」

第16回目のインタビューでは、「スパテクノ株式会社」足湯セールスマネージャーとして介護事業者向け足湯サービスをセールスしている近藤心也さん、小規模デイサービス事業を全国で展開している「株式会社日本介護福祉グループ」で茶話本舗デイサービス中村本舗施設長兼エリアリーダーを務める丸長朗さん、同社直営事業部のエリアマネージャーの田村恵さんに対し、事業所の職員研修など介護業界の現状と課題を聴いた。


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インタビューの概要
<インタビュイー>(画面左から)
近藤心也さん=「株式会社スパテクノ」足湯セールスマネジャー
丸長朗さん=「株式会社日本介護福祉グループ」茶話本舗デイサービス中村八幡施設長兼エリアリーダー
田村恵さん=「株式会社日本介護福祉グループ」直営事業部エリアマネージャー

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年7月4日に収録されたものです。


要 旨


療養病床廃止方針は無責任

16回目のインタビューでは、介護業界の人材育成が話題となった。

一般企業では毎年4月、新入職員に対して電話応対や言葉遣いの指導などの研修を実施するのが普通。しかし、丸さんや田村さんによると、こうした研修が不十分な介護事業所も少なくないという。丸さんは「(挨拶や電話対応など)社会人として当たり前のことをできていないところがある。(事業所では)口うるさく言っている。一番底辺の所から直していく作業をやらないと。まだ間に合う」と危機感を披露するとともに、事業所や企業ごとで対応に格差が付いていると述べた。

田村さんも「優良な事業所はたくさんあるし、大手事業所はきちんとやっている。しかし、全部がそうじゃない。営利法人がどんどん参入して来ているので、利益ばっかり目に行っている企業がないわけじゃない」と指摘した上で、職員研修に関する業界の対応として、「追い付いていなかったのが現実。ここ半年ぐらいで採用時の研修に力を入れて電話応対に必ず触れている」と応じた。

足湯サービスを介護事業所にセールスしている近藤さんも「電話対応でも酷い所はある。(企業経営者や施設管理者と)話してみると、(サービス向上や利益拡大など)何処に重要度を置いているのかも分かる」と述べた。

さらに、丸さんは職員の意識改革の必要性を強調した。丸さんは物事に取り組む上で、セミナーで学んだ「成長への階段」という成功哲学を中心に考えているという。人間は最初、無意識でできない段階から始まり、「意識してできない⇒意識してできる⇒無意識でできるようになる」と発展して行くという中身で、丸さんは「一般企業や大手ファンドで使うだけでなく、介護現場でも取り入れて質の向上をしっかりやれば介護の地位が上がる」と熱く語った。

その上で、低賃金が指摘されている介護業界の地位向上に向けて、「一人一人の職員が(仕事への態度を)真剣に考えて行けば(賃金水準は)上がる。ネットなど使えるものを使い、貪欲に吸収していけば、必ず熱さは人に伝わる。みんなで一つのものを作るにならば大きくなる」「(多くの職員は)最低賃金や生活保護(の扶助基準)という底辺から考えている。その考え方自体を止めないと、キチンとした稼働や集客を見込めて、実際に結果を出せば賃金は上げられる」と力説した。

さらに、介護報酬の仕組みを職員に勉強して貰い、利用者数や稼働率が増えたのか職員に考えて貰う重要性を強調するとともに、「利用者のことを本気で考えて本気で行動すれば、勝手に質が上がって来る。結果は追うのではなく勝手に付いて来ることが分かれば、数字ばっかり追う方法は減って来る」と熱っぽく力説した。

今年6月に成立した介護保険関連法の改正も話題となった。今回の法改正では、2012年3月末に廃止される予定だった介護型療養病床の廃止期限が2018年3月末に6年間延期された。

元を辿ると、この方針は後期医療制度改革の創設などと併せて、小泉純一郎政権末期に決まった医療制度改革に盛り込まれていた。具体的には、当時約38万床(医療型約25万床、介護型約13万床)あった療養病床について、「医療が必要な病床だけに絞り込む」として、医療型を約15万床に絞り込む一方、介護型を廃止して高齢者を特別養護老人ホームなどに移行させる方針を掲げた。背景には高齢者医療費の急増を抑制するため、家庭の事情などで入院し続ける「社会的入院」を解消しようという狙いがあったが、特養への入居を待っている高齢者が約40万人に及ぶ状況を引き合いに、「行き場のない高齢者が難民となる」との批判が当時から出ており、民主党は2009年総選挙のマニフェスト(政権公約)で、「当面、療養病床削減計画を凍結し、必要な病床数を確保する」とうたっていた。

田村さんは「家族は施設に入れたいが、自分から望んで施設に入る人は余りいない」と強調。丸さんは「受け入れる所がないのに無責任。箱(=高齢者を受け入れる施設)を造らないのならば延期(するのは当然だ)」と訴えた。

さらに、特養への入居を待っている高齢者が自宅にとどまっている現状について、田村さんは「(多くの)高齢者は老老介護」と語り、高齢者同士による介護が主流になっている点を指摘しつつ、デイサービスなどの資源をフルに使う必要性を強調した。

丸さんも「認認介護」という表現を使い、認知症の高齢者同士がケアしている現状も紹介しつつ、「特養に入りたいというニーズに対応できていない」と指摘した。


SNS活用の背景に危機感


インタビューでは、介護業界を巡る報道ぶりが話題となった。介護業界に関する一般的な報道は往々にして「介護地獄」などのセンセーショナルな見出しを付けて、介護職の過酷な勤務ぶりや低賃金を取り上げることが多い。

しかし、田村さんも「(利用者と)関わることの楽しさや充実した部分が全く出ていない」と述べた。一方、丸さんはヘルパーを題材にしたドラマが放映された点などを引き合いに出しつつ、「(今は)いい面と悪い面が出ている分岐点。実際に沿ったドラマや報道が出来れば漸く周知される。新たな発展になるのでは」と期待感を示した。

一方、近藤さんも「福祉の部分が強いと思っていたが、笑顔があふれている所もあるし、(顧客満足を考える飲食店や一般企業と同じように)サービスの向上をきちんとやっている。(一般企業と)変わりがないと思えた」との感想を漏らした。

こうした負のイメージを払拭する方策として、田村さんは「情報発信が足りないので、ブログを更新させている。楽しい部分を外部に認識して頂けるよう発信している」と発言。丸さんも「(介護業界は)究極のサービス業。(何もやらなければ)淘汰されてしまうという危機感がある。SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を使わないと時代に乗り遅れる」と危機感を漏らした。

このほか、近藤さんが介護関連施設にセールスを掛ける足湯サービスも話題となった。元々、近藤さんの企業は神奈川県湯河原温泉地区のホテルを主な顧客とし、湯を循環させる温泉のメンテナンスなどを手掛けていた。しかし、「色んな観光地が出来て来ると、基盤として旅館だけでは厳しい」とする判断の下、最近は風呂を小さくした足湯の拡大に努めており、受注が1年間で飛躍的に伸びているという。

中でも、ニーズが強いのは介護業界。近藤さんによると、かなりの高齢者は冷え症。このため、付加価値的なサービス提供を強化したい介護関連施設が足湯の導入を図っており、近藤さんの会社では車椅子の方が入りやすいようスロープを付けたり、病院の待合室に併設したりして足湯などを提供している。利用者からも「余り旅行に行けないので温泉に行った気分になる」「リハビリサービスの後、最後に足湯に入ると寝やすくなる」「仲の良い人達が病院待合室の足湯に集まると健康的」「体のリラックスだけじゃなく、コミュニケーションを取って心もリラックスする」などと評判は上々のようだ。

丸さんも利用者に喜んで貰うため、中古のスロットマシーンや麻雀を取り入れた経験を披露した。丸さんは「1日楽しくて認知症予防に繋がるのならば、(こうした方法も)ありだ」と強調した。

3月11日に発生した東日本大震災の影響も話題となった。近藤さんの会社はマラソンのゴール地点やビヤホールに足湯を置く注文が来るが、震災の影響でイベントが減ったとのこと。

今後については、東北では夏に掛けて祭りが相次ぐため、足湯を設置する予定という。さらに、近藤さんはゴールデンウィークの頃、宮城県気仙沼市を訪ねて体育館に足湯を置き、被災者に喜んで貰ったという。その時は足湯を動かす電気や水道を確保出来るメドが立たなかったため、その時に機械を持ち帰ったらしいが、近藤さんは「マッサージでコミュニケーションが活発になった」と振り返った。

一方、田村さんの勤める事業所では被災地から高齢者を数人受け入れており、「高齢者は傷ついていることを表に出さない。1カ月ぐらいあって少しずつ昔の話が出て、心のケアが大事であることを実感した」と話した。

最後に、制度改革に向けた注文も話題となった。田村さんは「枠を縛って本質が見えていない。根本には利用者の生活。根本があって制度があるべきなのに、制度ありき。それを忘れないで欲しい」と注文。廃止期限が延期された介護型療養病床に関しても、「(療養病床を)止めるからには受け皿をどうするのか打ち出した上で考えるべきだ」と話した。

丸さんも、民間企業がコスト削減に迫られている点を引き合いに、「徹底的にやらなければいけない。事業仕分けのような形で、(業界全体として)膿を出すべきだ」と話した。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】