タイプ
レポート
日付
2011/8/10

第17回「介護現場の声を聴く!」

第17回目のインタビューでは、介護・保育を組み合わせたサービスや介護事業所の不動産物件仲介などに携わっている「株式会社Caihome」代表取締役の永井玲子さん、小規模デイサービスを展開する「株式会社グロープ・トレイル」茶話本舗デイサービス粋生活相談員の鈴木淳一さん、介護事業所の広告事業を受託している「株式会社Skyers」広告事業部取締役COOの夏目優さんに対し、「サービス付き高齢者向け住宅」への需要など介護業界の課題と現状を聴いた。


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インタビューの概要
<インタビュイー>(画面左から)
永井玲子さん=「株式会社Caihome」代表取締役
鈴木淳一さん=「株式会社グロープ・トレイル」茶話本舗デイサービス粋生活相談員
夏目優さん=「株式会社Skyers」広告事業部取締役COO

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年7月25日に収録されたものです。


要 旨


お泊まりデイサービスに潜在需要

インタビューでは、今年4月に成立した改正高齢者居住安定確保法が話題となった。

これまで高齢者用の賃貸住宅としては、高齢者の入居を拒否しない「高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)」、高齢者向けにバリアフリー化などを講じている「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)、高専賃の優良物件を認定する「高齢者優良賃貸住宅」(高優賃)などの制度が存在した。

しかし、同法では「サービス付き高齢者向け住宅」に一本化し、▽床面積25平方メートル以上▽トイレ、洗面設備の設置▽バリアフリー施設▽安否確認、生活相談サービス提供―などの要件を満たした住宅を都道府県に登録する制度が創設された。

鈴木さんによると、これまでの高齢者向け住宅は概ね訪問介護に近いサービスを提供しており、「ケア付き住宅」を名乗っている所もあるとのこと。さらに、鈴木さんは「(高齢者向け住宅の近所に)訪問介護事業所を全く別に設けて、サービス提供責任者が訪問する形で、併設する事業所モデルをやっている事業者が増えている」という。

さらに、インタビューでは宿泊付きデイサービス(お泊まりデイサービス)も議論になった。

一般的なデイサービスの場合、4~6時間か、6~8時間の利用が通常。しかし、近年は介護保険の対象外サービスとして、高齢者を事業所に宿泊させるデイサービス事業所が首都圏を中心に増えており、人気を博している。その一方で、特別養護老人ホームなどと違って職員や施設の配置基準が存在しないため、東京都は1カ月に5日以上宿泊サービスを提供する事業所を対象に、今年5月から規制をスタートさせた。具体的には、▽宿泊日数の上限は原則30日▽看護師または介護福祉士ら介護職員を1人以上確保▽宿泊室の床面積は1室当たり7・43平方メートル以上―などの要件を求めるとともに、事業所の情報を都のホームページで公開している。

しかし、鈴木さんによると、お泊まりデイサービスに近い事業が制度上では手当されており、その不十分さが指摘できるという。

それは2006年度の制度改正で創設された「小規模居多機能宅介護サービス」。同サービスは通常の場合には通所、体調の悪い時は訪問、家族が遠出したい時は宿泊といった形で、宿泊、通所、居宅の3つの機能をトータルで実施するモデルが想定されている。

しかし、鈴木さんは施設の定員として、25人以下の登録が義務付けられている点などを引き合いに、「採算が合いづらい(事業の)モデル。(当初の想定よりも)事業所の整備が進んでいない」と強調。その上で、「参入企業が余りに少な過ぎて、それを補完する形で宿泊付きデイサービスが普及したのではないか」との私見を披露した。

同時に、それまでは自治体や民間の篤志家が実施している宅老所が通所介護の時間外サービスとして存在しており、お泊まりデイサービスの潜在的なニーズは古くから根強かった点も指摘した。

その後、永井さんの会社が取り組む介護と保育の融合も論点となった。永井さんの会社では介護と保育の事業所を近くに併設することで、介護事業所で働く女性の子どもを保育施設で引き取ることを想定しているほか、高齢者と乳幼児の交流を通じて高齢者は介護に、乳幼児は保育面で相乗効果が期待できる。さらに、利用者にとっては、高齢者と乳幼児をほぼ1カ所で預けられるメリットもある。

永井さんは「これから広めて行こうという出発点の段階。現時点では新規事業の段階」と話したが、「(介護・保育の融合は)一石何鳥にもなる」とメリットを力説した。

さらに、「夜間版デイサービス」に関する潜在的な需要の可能性も話題になり、鈴木さんは「訪問介護として、夜間にも排泄介助(のニーズ)がある」と指摘。永井さんも「夜になると幼児は帰るが、(高齢者の)夜間サポートを付けている。(夜間の保育サービスについては)それぞれの家庭環境によっては出て来る」と述べた。


看護、介護の重複も

介護業界の情報発信も話題となった。介護業界の広告を支援する夏目さんによると、インターネットでの情報提供が充実している医療系に比べると、「介護系のポータルサイトはバラバラ。人、物、事業所を(全部検索できる仕組み)があった方が良い」と述べた。

さらに、鈴木さんは女性職員が介護業界に多い点に触れつつ、「『俺が…』『私が…』と個性を主張するワーカーが少ない」と述べた。鈴木さんによると、女性職員の中には、専門誌などでインタビューを受けているケースのほか、インターネットのブログによる発信に取り組んでいる人も散見されるなど「志ある人は自分で独立して有名になっている人もいる」という。その反面、「現場ではネガティブ志向。SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)のコミュニティを見ても、愚痴の書き込みは多いが、良くしようというポジティブな意見が見られない」と苦言を呈した。

その一因として、鈴木さんが挙げたのが看護職と介護職の関係。介護職は看護職の助手的な業務に従事する場面もあるが、看護職との役割分担が不明確な部分があり、鈴木さんは「(介護職と業務の)概念が看護とかぶって来る。歴史的に見れば介護は看護のバックボーンがあるので、そこから派生して来た分野なので未発達。(介護職は)アイデンティとして自信を持っていない」と指摘した。

さらに、介護職の待遇問題に話が及んだ。厚生労働省の集計によると、介護職(常勤労働者)の平均賃金は23万9200円と、全産業平均の32万3000円よりも低い水準。このため、政府は月額平均の賃金を1万5000円をアップするため、2012年度までの3年間の措置として、2009年度第1次補正予算で「介護職員処遇改善交付金制度」を創設したが、鈴木さんは「医療モデル」「生活モデル」という2つの支援モデルを提示しつつ、介護職の位置付けを解説してくれた。

鈴木さんによると、医療モデルは「大雑把に言えば看護師さんの補助、専門職の代行」。一方、生活モデルは高齢者の生活支援サービス、在宅生活支援、デイケアなどが中心だが、「そちらのモデルのプロとしての事例が少ない。専門力を示せるケースが少ない」という。このことが評価や給与水準の低さにつながっているといい、このことに不満を持つ職員は多いとのこと。その反面、こうした専門性を評価する経営者や事業所運営者も存在するため、鈴木さんは「(事業所ごとの給料)格差が激しくなった。メディアが報道するような安いところも増えているが、その点(=給与水準の低さ)がクローズアップされ過ぎている」と指摘した。

さらに、介護業界向けに不動産取引を支援している永井さんは介護業界に対する周囲の誤解を指摘した。一般の人が介護施設に触れる機会と言えば、家族が入所した時などに限定される。このため、永井さんは「業界が(周囲から)閉じられているため、大家や近隣の人の理解を得るのが難しく、誤解を起こして(物件を)貸して貰えない時がある」と話しつつ、「(介護業界の実情を)皆さんに知って貰いたい」と語った。


コミュニケーションが報酬


「(高齢者が)普通に笑顔。カラオケしている人もいて、激震が走った」―。事業所を初めて訪れた際の感想について、夏目さんはこう振り返った。その時は介護事業所用のパンフレットを作成するための下調べが目的だったらしいが、「これが(高齢者を)元気にするためのデイケアなんだ」と感じたという。

これに対し、鈴木さんは「(入所者の)家族やボランティアを除けば(介護施設は)隔離されているイメージがある」と語り、介護事業所の明るさが世間に知られていないと指摘した。鈴木さん自身も最初は「独特な雰囲気に慣れなかった」というが、今では「『おじいちゃん、おばあちゃんの家に帰る』という感覚。従事者の多くは『有り難う』と言われるのが新鮮で、コミュニケーションが報酬として受け取っている傾向が強いように感じる」と述べた。

3月11日に発生した東日本大震災の影響も話題となった。

これまでも「計画停電で入浴時間の変更を余儀なくされた」「直後のガソリン不足で送迎に苦労した」といった声が出ているが、鈴木さんは「手伝いたい気持ちもあったが、個人単位では寄付程度しかできない。歯がゆい思いはあった」と振り返った。さらに、夏目さんは首都圏における変化として、「(液状化で)家が傾いたのに、資材が入らなかった。それが流れるようになったら(不動産関係の)クライアントが『高齢者向けに何かやりたい』と話すようになった」と話し、法改正で制度化されたサービス付き高齢者向け住宅の建設を持ち掛けられる機会が増えていると語った。

このほか、震災の影響に関しては、「関東圏ではパニックがなかった。特に耳には入らない。(計画停電の影響としては)大規模施設では食事提供に行き違いで苦労したと聞いた」(鈴木さん)、「電話して(関係者の)無事を確認するのが大変だった」(永井さん)といった声が出た。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】