タイプ
レポート
日付
2011/8/10

第18回「介護現場の声を聴く!」

第18回目のインタビューでは、小規模デイサービスなどを展開する「株式会社日本介護福祉グループ」の管理部長代理を務める落合伴重さん、同社直営事業部トレーニングマネージャーの可知久美子さん、小規模デイサービスを展開する「株式会社グロープ・トレイル」茶話本舗デイサービス粋生活相談員の鈴木淳一さんに対し、改正介護保険法の評価などを聴いた。


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インタビューの概要
<インタビュイー>(画面左から)
落合伴重さん=「株式会社日本介護福祉グループ」管理部長代理、「一般社団法人日本介護ベンチャー協会」事務局
可知久美子さん=「株式会社日本介護福祉グループ」直営事業部トレーニングマネージャー
鈴木淳一さん=「株式会社グロープ・トレイル」茶話本舗デイサービス粋生活相談員

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年7月25日に収録されたものです。


要 旨


予防介護が普及しない理由

第18回目のインタビューでは、今年6月に成立した改正介護保険法が話題となった。

今回の法改正では、これまで「医療行為」と定義されて、医師や看護師にしか認めていなかった痰の吸引について、一定の研修を受けた介護事業所を対象に解禁することが決まった。

しかし、鈴木さんは「実際にはグレーゾーンだった。現場の実態に沿った形で制度を見直した側面が強い」と指摘し、現場への影響は軽微にとどまるとの見方を示した。実際、鈴木さんは同意書を貰った上で、現場の実情に応じて痰の吸引を始めていたとのこと。

可知さんも「(身の回りに)痰の吸引を利用する人の利用がない」と語った。痰の吸引が必要となる高齢者は寝たきりが多いため、デイサービス事業所で働く可知さんや落合さんにとっては、制度改正が業務に与える影響は小さいようだ。

鈴木さんも「特別養護老人ホームに関しては、(国が)1年前ぐらいから(制度改正の)アナウンスを流しているが、有料老人ホームはアナウンスがなかった」と話し、同じ施設系でも国の対応に際があったと指摘した。実際、厚生労働省は2009年から、医療・介護関係者の連携による痰の吸引が可能かどうか、特養を対象に検討しており、国としてモデルケースという形で導入して、最終的に制度改正につなげる思惑があったとの見方を披露した

その際に論点となるのが看護職と介護職の線引き。鈴木さんは「cureとcare」という言葉を使いつつ、両者の大きな違いとして独占業務の有無を挙げた。看護師は医療行為を独占的に実施できることが認められている上、資格も免許制で取得に向けたハードルも高い。

一方、介護職に関しては「(介護職の)専門性と独自性に関して一般の方が分かっていないし、教育が機能していない」と指摘。さらに、看護職に比べて介護職が不利な状況として、「介護福祉士の取得者が多いが、低賃金や職場環境の悪さで、仕事に就いていない」「看護師は歴史があるので、賃金保障の面では介護福祉士よりも進んでいる、定年まで活躍するのは難しくない」などの点を列挙した。

このほか、インタビューでは過去の制度改正に対する評価も話題となった。2000年4月の創設後、3年に1度介護報酬が改定されているほか、2006年度には▽中重度者への支援重点化▽介護予防の推進▽地域包括ケアの推進―などの見直しが実施されるとともに、事業者に支払われる介護報酬は計2.4%減らされた。

この際の制度改正を振り返り、鈴木さんは「介護報酬が下がり、訪問介護が大打撃を受けた」と発言。さらに、介護予防の導入に関しても、「予防に力を入れようとする事業所が少ない。なかなか大規模施設だと(理学療法士による)本来のリハビリ部門が主流なので、ヘルパーの予防介護は普及しない」「大多数の民間事業所は職員の定着率が悪いため、システムとして高度にノウハウが育っていない背景がある」と話した上で、「制度の狙いと、現場の実情に沿っていない点が介護保険の課題だ」と述べた。

これに対し、可知さんは介護予防の創設について、「『実際に介護を必要なのかな?』と思う人が介護を使っている事情がある。利用する側の意識が変わるだろうし、こちらの投げ掛け方も変わって来るだろうし、そこの改正は悪くなかった」と一定程度、評価した。

このほか、制度改正に対する現場の対応も話題となった。

鈴木さんは現場のケアを専門的に極めたい願望を持っており、「制度に応じて働きたいので、(制度改正を)個人的に勉強している」とのこと。さらに、「事業所で教育に力を入れているのであれば、管理職が部下にインフォメーションを流す時がある」「ルールが変わると影響を受ける業種もあるため、(事業所や業種ごとに)対応は異なる」と話したが、その一方で「(職員の判断に)任せている事業所も多い」という。

可知さんも「会社の方から頂ける情報や個人的に調べている所で勉強している」という。さらに、2009年の要介護度認定基準の見直しを通じて、要介護度の高かった高齢者が要支援と判定されて、現場が混乱した一件を引き合いに出しつつ、「『だったら周りの人が何とかして下さいよ』と思った。『こういう介護が必要』と専門職が分かっていれば(不満を)行政に掛け合うべきだし、それが出来ていれば問題が生じることは本来ないはず。介護職やケアマネージャに責任がある」と述べた。

さらに、落合さんも「自分の関係するサービスから入って、それに付随する(制度の)順番で追って行く」と語った。このため、デイサービスなど訪問系は特養などの施設系に関する知識に乏しく、同様に施設系は訪問系の制度を知らないのが実情という。

今年末に控える介護報酬改定も話題に及んだ。介護報酬は3年に1回改定されており、2年に1回見直される病院向けの診療報酬の改定と併せて、2012年度予算編成の焦点になると見られている。

その中で、論点の一つとなるのが「介護処遇改善交付金」の取り扱いだ。

同交付金は介護職員の待遇を月額平均1万5000円アップするため、3カ年の措置として2009年度第1次補正予算に計上された。しかし、同交付金が2011年度に期限切れを迎えるため、2012年度以降も継続する是非が検討されているほか、継続する場合でも今までと同様に国費100%で負担するか、介護保険料や地方自治体の負担増加を伴う介護報酬に組み込むかが論点となっている。

鈴木さんは「(交付金を)介護報酬に組み込む話が出ているので、現場レベルでは『少し明るい材料が出ている』と感じている方は多い」と期待感を示しつつも、その対応策が決まっていないため、「まだまだ不透明なので(現場は)不安を感じている」と語った。


腰を痛める初心者も


その後、介護職の苦労が話題となった。

介護職と言えば、重労働に加えて排泄介助などの業務もあるため、「3K」(=きつい、汚い、危険)の建設現場などと同様に、その過酷ぶりが指摘される時がある。

その苦労として、「腰を痛める人が多い」と語ったのは落合さん。高齢者をベッドや車椅子から運ぶ際、その重量が腰に負荷を与えるため、腰痛に見舞われる職員は少なくないという。落合さんも約7年前に介護業界に入った際、訪問入浴のサービス中に腰を痛めたらしく、その時の経験を「当時は体を鍛えており、体力に自信があったのに腰を痛めた。無資格でできる仕事だったので知識がなかった。体の使い方を知らなかった」と振り返った。このため、多くの事業所では膝を使うよう指導しており、落合さんも新人の時に「膝を使え。ごみを拾う時でも、とにかくしゃがんで、(普段から)膝を使う癖を付けろ」と言われたという。

可知さんも「自分を過信して男性の方が腰を痛める。(中でも)背が高い人は膝を曲げなきゃならない」と応じ、総じて見ると背の小さい人の方が腰を痛めるリスクが少ないと述べた。一方、鈴木さんも「男性は力任せでやって腰を痛める」と応じたが、自身はヘルパー2級養成講座を通じて重点を低くするコツを学んだため、腰を痛めた経験がないという。

一方、利用者の男女比率も話題となった。

「(介護される人間の比率は)圧倒的に女性」と明かしたのは可知さん。その原因として、鈴木さんは「(女性の方が)平均寿命が長い。男性の方が仕事以外の生き甲斐をなくすと、外に出なくなって介護サービスを利用したがらない」と指摘した。実際、鈴木さんの祖父は「世話になりたくない」として、介護保険を使いたがらなかったという。

3月11日に起きた東日本大震災の影響も話題になった。

原子力発電所の事故に伴って首都圏では節電が実施されているが、高齢者を受け入れている介護事業所では難しいようだ。落合さんは「温度設定を高めに設定しているぐらい。目が行き届いていない」、鈴木さんは「マメに電気を消しているが、エアコンは付け放し」と、それぞれ述べた。

さらに、震災直後の対応に関しては、当時は東京都葛飾区内の事業所で働いていた落合さんが「葛飾区は計画停電の区域に入ったり、外れたりしたので、現場が二転三転して混乱した」と振り返った、鈴木さんも停電に備えて準備しなかったため、冷蔵庫の食材が腐ったことを紹介しつつ、調理師を雇っている大規模施設と異なり、現場職員だけで構成する一般施設は対応が難しい点を指摘した。


利用者の声を反映したサービスを

最後に、介護保険の新たなサービス像が議論された。

まず、自身の経験を引き合いに、鈴木さんは保険外のサービスが活発になるとの見通しを披露した。鈴木さんによると、自身の祖母が要介護3の状態にあり、同居している叔母がショートステイや週2回のデイサービスなどを利用している。しかし、こうした現状には「長期間歩くには車椅子が必要で、外出の楽しみがない」という問題点があるとしつつ、「ホスピタリティ(もてなしの精神)のあるサービス」がキーワードになるとして、「エンターテイメントを提供してくれる老人施設」「キャンピングカーで遠方に出掛けるサービス」などを例示した。

さらに、「介護保険が始まって家族の声は高まっているが、受給している高齢者本人の声が発せられない。(今の利用者は)物を言わない世代。我慢していることを現場で痛感する」との感想を吐露しつつも、団塊世代(1945~1947年生まれ)が介護保険を受給する状況になった場合の予測として、「(自己主張する団塊世代から)不満が多々出て来れば、保険外のサービスが生まれて来る」と述べた。

一方、可知さんは需要を見込める分野として、訪問介護の随時サービスを挙げた。今国会で成立した改正介護保険法にも、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」という24時間対応可能な訪問サービスの新設が盛り込まれているが、可知さんは「実際のニーズや職員の待遇がうまく行くと、利用者には使い勝手の良いサービスになる」と語った。

さらに、落合さんが介護保険サービスの問題点として、「サービスの枠に高齢者を当て込むのが殆ど」と指摘。その上で、「個人のニーズに応えて、(利用者の)趣味を生かせるようなサービスまで可能であれば、(介護サービスの裾野は)もっと広がる」と語ると、鈴木さんも「(介護保険外の)ケアビジネスを超えてシニアビジネスということで、介護保険を受給していないシニア層も対象に入って来る」との期待を示した。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】