タイプ
レポート
日付
2011/9/15

第23回「介護現場の声を聴く!」

第23回のインタビューでは、現場での経験も活かしつつ医療・介護政策を研究する淑徳大学准教授の結城康博さん、認知症患者への対応などをフィールドワークも交えて研究している奈良女子大学の井口高志准教授に対し、認知症患者との対話や診療体制、ケアの在り方などを聴いた。

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インタビューの概要
<インタビュイー>(画面左から)
結城康博さん=「淑徳大学」准教授
井口高志さん=「奈良女子大学」准教授

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年8月29日に収録されたものです。


要 旨


認知症の専門医が不足

第23回のインタビューでは、認知症患者への対応が主な話題となった。

厚生労働省の2002年9月時点の試算によると、認知症の高齢者(日常生活自立度?以上)は2010年時点で208万人に達し、高齢化に伴って2045年には378万人に達するとされている。

また認知症と言えば、以前は「呆け」「痴呆症」などと呼ばれて、一般的には「認知症になると何も分からなくなる」と理解されていた。しかし、「表現が差別的」「呆けても心が残る。表現に配慮すべきだ」との声が出たため、2004年から「認知に障害のある人」という定義から名称が認知症に変わっている。

『日本の介護システム』『介護』などの著書があり、著書で現場の声を多く紹介している結城さんは「認知症は基本的に治らない」としつつも、「(症状の)進行を遅らせることはできるし、問題行動を抑えることはできる」と指摘。その上で、「利用者から見れば(医療、介護の区分は)余り関係ない。治療アプローチ、生活支援のアプローチが2つある」と語った。

一方、『認知症 家族介護を生きる』という単著がある井口さんも、「家族が認知症に遭遇した時に周囲がどういうリアクションを取るか?」という点について、フィールドワークの経験があり、最近はNHKの過去の番組を検証することで、認知症患者に対する社会の認識がどう変わったかを研究している。

井口さんは名称変更の背景について、「治らないけど、早目に受診して問題行動を和らげることが可能」「何処かに早目に繋がった方が良いだろう」という社会の理解が進んだ点を紹介。さらに、名称変更時のNHKの報道姿勢については、「(社会の)変化を受けて変わったというよりは変えようという意図を持っていた。キャンペーンとして一翼(を担っていた)」と解説してくれた。

さらに、名称変更の効果として、早期発見、早期診断、予防など医療的な側面が絡みやすくなった点を挙げた。井口さんは「昔は精神病院に入れとく絡み方だったが、ケアと連携して行こうという意図を持って関わって来る」と語った。

しかし、井口さんの単著では「呆け行く人」という言葉を意図的に使っている。その理由として、井口さんは「目の前の相手が段々と変わって行く。何か変だと気付いて、どうすれば良いかと言えば基本的に変わらない。相手が変わって行く言葉の方が現実的」と話し、認知症が進行する患者を抱える家族の戸惑いや「スティグマ」(負の烙印)を表わしたかったようだ。

その後、話題は認知症患者に対する診療体制の在り方に移った。結城さんは「認知症を理解している(専門的な)医者はいない」と話した。現在の仕組みでは医師が「長谷川式」と呼ばれる幾つかの質問を聴いた上で、最終的に認知症の有無を判断する。しかし、結城さんは「(ヘルパーや看護師が認知症である可能性を感じた場合でも)医者は全然分からない。社会全体で認識して行くには、認知症を分かる医者を増やさないと難しい」と強調した。

同時に、結城さんは徘徊や暴言といった「問題行動」に言及しつつ、「問題行動で施設にお願いすると言っても、施設が足りない。ショートステイ(=短期間、入所して貰うサービス)も東京を中心に入れない」と話し、施設整備の必要性を訴えた。

さらに、結城さんは「最も一番問題なのは一人暮らしの認知症をどうサービスに繋いで行くのか」と提起し、認知症の独居高齢者に対する政策的な手当てが必要との認識を披露した。以前から高齢者が高齢者をケアする「老老介護」は以前から問題視されており、近年は認知症の高齢者同士がケアする「認認介護」も話題となっている。

しかし、介護保険は利用者とサービス供給者との間で交わす契約が前提の制度。このため、認知症の独居高齢者はサービス契約まで行き着かない時があり、政策的な手当てが行き届かなくなっている可能性があるという。結城さんは本人が『使いたい』『使えます』『能力が欠けているから』と言わないと、サービスを使えない。認知症患者は言えないし、『まだまだいける』と思っている。家族がいれば『サービスを使おう』と言えるが、一人暮らしが増えているので、政策・制度で頭を抱えている。本当は介護保険を使わなければならない人が介護保険に行かない」と強調した。

一方、井口さんは日本の認知症ケアについて、「外国も参考になるような高レベル、良いケアはある一方、底辺は悲惨」と述べ、広がりという点では不十分であるとの認識を披露した。さらに、「ケアの現場から考えると、生活のスムーズに行かない部分が問題となる。医者からすると、機能テストや画像診断の水準で確定したい。(医者は診察時の)一時点で見ていることになるので、(家族との)意見の違いが出て来る」という現状に触れつつ、「認知症と認めるのは難しい。どの水準を政策の基準にするのかが必要」と語った。


若年性認知症も課題に

その後、認知症介護の実情も話題となった。

自らの現場時代の経験を引き合いに、「認知症ケアが一番苦手だった」と振り返ったのは結城さん。結城さんによると、「(認知症の利用者は)言っていることが目茶苦茶だけど、時々真っ当なことを言う。私の発言を間違って覚えているけど、時々は当たっている。『結城さん』と呼ぶ時もあれば『田中さん』という時もある」といい、日によって症状が異なるという。

さらに、一人暮らしの認知症患者から「来るな」と言われた経験やセールスマンに間違えられた体験、要介護度5だけど身体的には歩ける人の部屋が排泄物だらけだったことを披露してくれた。

このほか、結城さんはヘルパーを週3日派遣して貰っている独り暮らしの認知症高齢者と接した経験も引き合いに出しつつ、「(認知症が軽い人は)何とか細々とやって行けるけど、重い方は火の(不)始末で火事になってしまう。症状が重くなると施設(入居)を考える」と述べた。しかし、結城さんによると、「施設入居は100人待ち」といった状況のため、実際の対策は一筋縄では行かないようだ。

さらに、「老老介護」「認認介護」の実態に話が及んだ。一般的に女性が男性をケアすることが多い点について、井口さんは「女性の方が寿命が長いし、(結婚する年齢も)男性の方が年上。有配偶率が少ない比率は女性の方が高い。男性の方が介護を心配せずに生きられる」と指摘。

結城さんも「一生懸命やっているけど罵倒される、名前を忘れちゃう。認知症患者は(記憶が)まだら的な部分があるが、重くなって来ると(家族が)切なくなって来る。男性が認知症の奥さんを虐待に発展して行き、最終的に介護殺人になる最悪なシナリオもある。早い段階で社会的なケアが入ればいいのだが、(家に)こもられると(大変)」と応じた。

一方、若年性認知症も話題となった。

若年性認知症とは、65歳未満で認知障害を持つこと。主に40~50歳代を中心に徐々に増えており、井口さんも最近、若年性認知症のフィールドワークに力を入れている。

井口さんによると、最近の傾向として若年性認知症を特別な病気として考えず、一般的な病気として早期受診、早期診断を薦めるケースが増えており、専門医が告知することも多いという。クリスティーン・ブライデンという若年性認知症のオーストラリア人が2004年に日本で講演活動を展開したのを契機に、当事者がテレビに出演するなど世間の理解が進んだことが影響しているようだ。

井口さんは「(それまでの)医者の定義は『自分のことを認知症だと言っている人は認知症ではない』という定義。(最近は)早期のうちに診断、告知して、認知症と分かりながら生活する流れがある」と語った。

結城さんも「認知症かどうか不安になって、メモをいっぱい書いている人もいる。『私は認知症じゃないから、まだまだ』という人が認知症。認知症の問題意識を持っている人は支援しやすい」と述べた。

しかし、井口さんは若年性認知症患者の家族が内にこもる傾向も明らかにしてくれた。井口さんによると、家族には「周りに状況を見せたくない」「診断を受けた時に悪くなるんじゃないか」という不安から、介護保険サービスを使いたがらない傾向があり、夫婦間の介護に終始する傾向があるという。井口さんは「最後まで夫婦でやって閉じてしまう。段々と入浴介護が困難になって来るとか、自分ができないと介護保険を使うが、熱心な人ほど『私がやる』という感じ」と話した。

具体的には、「国民生活基礎調査の介護サービスの利用調査を見ると、入浴や散髪など一手間掛かるサービスは使っているが、デイサービスなどは使っていない」「『まだ(夫婦で)できるし…』という形で付加的なサービスが億劫になる。こちらで見れば遅れることになるが、夫婦間では一生懸命やっている」といった事例を挙げ、「認知症関係を良くするのはコミュニケーション。2人で一緒にいると憎らしいところしか見えて来ないけど、(介護保険を使って)たまに離れると(視野が)開ける」と述べた。

さらに、若年性認知症に特有の課題もある。まず、結城さんは「(若年性だろうが、高齢者だろうが)介護保険の適用を受ける。デイサービスに行っても、70~80歳代だけど、自分だけ50代なんで世代間ギャップはある」と指摘。

井口さんも「50代後半だったら(定年まで)10年ぐらい生活する。定年退職をどう乗り切るか。会社を辞めるのか繋ぐのか」と語りつつ、「デイサービスで暫くいても、重度になって行って家族と一緒に過ごせなくなり、何処か施設を探す(ことになる)。若い人は動き回るし、長い期間をどう過ごすか大きな問題」と提起した。

実際、東京都が2008年に実施した実態調査(対象者47人)によると、「認知症ではないか」と周囲が気付いた頃の年齢では、15人が50歳代、1人が40歳代と答えており、認知症が高齢者特有の問題ではないことが分かる。

さらに、同調査では仕事の有無を聴いた質問に対し、41人が「働いていない」と回答。そのうち31人が「認知症になる前は仕事していた」と答えており、職を続けるかどうかの判断や職を失った後の収入確保などが課題となっていることが伺える。

こうした状況を踏まえて、井口さんは「家族だと『前の姿に近付けたい』とか、そこ(=以前の姿)から外れることに対するショックや切なさがある。家族が関わっても良いが、フリーになる形で生活できる」と強調。その上で、ありのまま変わった姿を受け入れて行く宅老所など新たな認知症ケアの方向性に言及しつつ、「社会的な資源配分として可能であれば、普遍的なものとして出来れば(いい)」と期待感を示した。

【文責:三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】