タイプ
論考
日付
2012/6/5

インタビュー番組から分かった業界の実像

「介護現場の声を聴く!」の総括(上)


東京財団研究員兼政策プロデューサー
三原 岳

東京財団は「医療・介護・社会保障制度の将来設計プロジェクト」*1の一環として、介護保険制度を現場で支える方々に対し、課題や問題意識などを聴くインタビューシリーズ「介護現場の声を聴く!」という番組をUstreamで昨年4月から1年間放映した。

番組は石川和男上席研究員がインタビュアーとなり、毎週木曜日午後8時からUstreamで配信するとともに、要旨と収録の模様を財団ウエブサイトに掲載した。放映回数は全48回で、出演者は在宅介護事業所や訪問看護ステーション、有料老人ホームの経営者、特別養護老人ホーム(特養)や老人保健施設(老健)の施設長、ヘルパー、ケアマネージャー、大学教員、シンクタンクの職員、高齢者専用賃貸住宅*2(高専賃)の責任者、介護事業所を主な顧客とする行政書士やシステム会社経営者ら延べ人数で113人に及ぶ*3

番組では介護業界に入った動機、介護職の苦楽、制度改革に向けた意見などが話題*4となり、出演者からは「利用者の反応を直接得られる感動は大きい」などの声が寄せられた。これらは低賃金や過酷さだけを強調する報道のイメージとは全く異なる内容であり、政策立案者やメディアとの認識ギャップに気付かされた。

(上)では番組出演者の主な意見を整理した上で、介護業界に対する一般的な認識が一面的であることを指摘するとともに、(下)では現場本位や利用者視線に立った制度改革の方向性を考えたい。(上)では以下の3点について、介護現場に対する一般的な認識と実態のギャップについて考察する。

(1)「介護職=つらい仕事」という認識
(2)「介護=低賃金=離職率が高い」という認識
(3)「介護=施し」という認識


(1)「介護職=つらい仕事」という認識

インタビューで浮かび上がって来た第1の点として、以下のような現場の生き生きとした声が挙げられる。これは「介護職=つらい仕事」という一般的なイメージを覆す内容だった。

・会話や食事介助などで利用者と交流がある。心の入った人間味のある仕事。
・利用者の笑顔を見た瞬間、「やってて良かった」と思う。
・利用者とのコミュニケーションを報酬として受け取っている印象。
・苦しい記憶はない。こんなに楽しくてクリエイティブな仕事があることに驚いた。

一方、メディアは仰々しい見出しを付けて介護職の厳しさを報道しがちである*5。確かにインタビューでも「力任せで運ぶと腰を痛める」「給与が低いのでライフプランが立てにくい」「職場の人間関係で悩んでいる職員は多い」などの声が聞かれたほか、後に触れるように離職率の高さを訴える声も多く出た。しかし、総じて見れば仕事のやりがいや意義を強調する意見が多かった。実際、筆者が見学・体験勤務した介護現場は明るく、高齢者の笑いも絶えなかった。

では、何故こうしたギャップが起きるのだろうか。第1に、介護現場が「閉ざされた空間」であることが影響していると思われる。病気の際に訪ねる機会がある医療機関と比べると、日常の生活で介護現場に接する機会は圧倒的に少なく、両親や親戚、知人らが要介護状態になって初めて介護施設に触れる人が大半である。実際に経験する機会の少ない世界の場合、一般的にはメディアで情報を入手せざるを得ない。

しかし、そのメディアが必ずしも真実を伝えていないのが第2の理由として考えられる。テレビや雑誌に限らず、特に近年のメディアは世間の耳目を集める分かりやすさを追求する傾向があり、介護現場の実態を伝えているとは言えない。例えば、介護分野で言えば、「利用者と触れ合う楽しさ」という「日常」はニュース性がない分だけ取り上げにくく、むしろ「安い給料だけど、慈愛の精神で独居の認知症高齢者をケアしている」といった「美談」や、「給料が安い中で、人が少ない職場で苦労している」などの「悲劇」に仕立て上げがちである。メディアによる悲劇と美談の度重なる強調が偏ったイメージの定着に繋がっていると見られる。

この点は表1に示した内閣府の世論調査*6でも伺える。介護職に対するイメージを問う質問に対し、「きつい仕事」「給与水準が低い仕事」といったマイナス面の回答が1位、3位を占めている。こうした側面が存在するのは事実であり、インタビューで関係者自らが「使い捨てライターのように『若い子でいいや』という意識の経営者も存在する」と手厳しく指摘している通り、介護職の育成を怠っている事業所も少なくないと思われる。介護職の資質向上に向けた取り組みも欠かせない。しかし、出演者の殆ど全てが生き生きと介護現場の楽しさを強調していたにも関わらず、「やりがいのある仕事」「自分自身も成長できる仕事」という回答は下位に低迷している。この点はメディアによる悲劇の強調が影響していると考えられる。インタビューではメディアへの注文として以下のような意見が出た。

・悪いことばっかりじゃない。公平にスポットライトを当てて欲しい。
・テレビで放映されるような暗いイメージばっかりじゃない。
・今の報道は利用者と関わる楽しさが全く伝えられていない。

その半面、内閣府の世論調査では「社会的に意義のある仕事」というプラスの評価も2位に入っており、美談の側面を強調するメディアの報道が影響しているのだろう。インタビューでも以下のような声が出た。

・周囲から「大変だね」「偉いね」と言われるが、「どの辺が?」という印象。お金を取り扱う仕事の方がよっぽど大変。
・周囲は「ボランティア精神で認知症患者を相手している」というイメージだが、自分は普通にやっているだけ。

給与の低さ、ケアの安全性、利用者の権利擁護など介護職の特殊性に目配りしなければならないが、メディアが喧伝する「悲劇」「美談」は一部に過ぎず、大半を占める「日常」は一般のサービス業と余り変わらないという認識が必要と思われる。


◇表1 介護職のイメージに関する世論調査結果 ≪拡大はこちら≫


(出所)内閣府『介護保険制度に関する世論調査』(2010年9月調査)図14より引用。


(2)「介護=低賃金=離職率が高い」という認識

次に、多く話題となったのは離職率の高さである。インタビューでは以下のような実態が話題になった。

・前日から働き始めた新人が出勤して来ないので連絡しても電話が繋がらず、そのまま辞めた。
・1カ月程度で辞めた人は「結婚するのに家族を養えない」と言った。
・ライフプランを立てにくい。結婚した頃、手取り収入は15万円程度。子育てなどを考えると不安が残り、周りからは「大丈夫?」と言われた。専門学校の同期は5年ぐらいで1割程度しか残らず、結婚などを契機に別の業界に転職した。
・大不況期なのに離職率の数字が上がっている。社会保険に入れて正規職員として年収300万円を確保できる業界は地方では余りないのに、離職率の高さは異常。
・離職する人は20~30歳代の男性が多い。採用に時間と金を掛けているから定着してくれないと経営上、非常にマイナス。
・デパートで販売員をやった方がヘルパーよりも高い時給。だから離職率が高くなる。

確かに財団法人介護労働安定センターの調査*7によると2009年10月~2010年9月までの離職率が17・8%と、前年同期比よりも0・8ポイント悪化している。「介護サービスを運営する上での問題点」を問う質問(複数回答可)に対し、51・5%の事業所経営者が「今の報酬では人材確保・定着のために十分な賃金を払えない」と答えているほか、「労働条件・仕事の負担についての悩み、不安、不満等」を尋ねる質問(複数回答可)でも46.6%の介護職が「仕事内容のわりに賃金が低い」と回答している*8。表2に見る通り、全産業平均と比べると、賃金が大きく見劣りするのは事実である。


◇表2 全産業平均と介護職の賃金カーブ比較 ≪拡大はこちら≫


(出所)2010年12月7日緊急雇用対策本部実践キャリア・アップ制度専門タスク・フォース介護人材ワーキング・グループ第1回会合資料「介護人材の現状」より引用。


しかし、一般的に言われている通り、離職率が高い理由は待遇の悪さだけなのだろうか。介護業界の関係者が自ら以下のような意見を披歴していた点は見逃せない。

・他業界の新卒と比べると、初任給は高い。5~10年後のステップアップに向けたプロセスや給与体系も作る必要がある。
・どの仕事であっても初任給は安い。それなりに年数を積んで、資格を取れば一般企業と変わらないぐらいの給料を貰える。
・厚生労働省との交渉に際して、「職員はこんなに仕事が大変なのに給料を上げられない」と強調した。象徴的だったのでマスコミが報じた。しかし、これが介護業界のイメージをダウンさせた。

ここでは、離職の理由として給与・待遇以外の側面に着目したい。インタビューでは経営者自らが「あなたが何を考えているか分からない」と従業員から言われた経験を引き合いに出しつつ、離職が増える理由として職場の雰囲気を挙げた。確かに介護は生活全般を舞台にしており、個人の生活感や死生観、習慣が生々しく重なり合う上、利用者や家族を中心にしたケアを進めるため、介護職同士の連携や異なる職種の協力なしに成し得ない仕事であり、職場の人間関係が重要な鍵を握る。以下の発言が職場における人間関係の重要さを物語っていると言えないだろうか。

・職員同士で人間関係がうまくいかなかったことが辛い。
・職場のコミュニケーションに苦労する。無意識的に他の職員の目を気にして仕事している時がある。例えば、利用者と会話を楽しんでいると、「何をゆっくりしているの?こっちは忙しく動いているのに…」という周囲の目が気になる。
・職場の人間関係に悩んでいる人は多い。仕事以外の要因で愚痴を言い合い、当初の志を忘れてしまう。介護業界の場合、離職率の高さに結び付いている。愚痴がエスカレートし、職場を辞める。

先の介護労働安定センターの調査でも「直前の介護職を辞めた理由」を問う設問(複数回答可)に対し、「法人や施設・事業所の理念や運営の在り方に不満があった」(24・5%)、「職場の人間関係に問題があった」(23・4%)という回答が上位を占めており、「収入が少なかったため」(20・3%)という回答を上回っている。早期離職防止策を聞いた設問(複数回答可)でも、「仕事上のコミュニケーションの円滑化を図っている」という答えが64・1%でトップとなった。インタビューでも「離職を防ぐ上ではコミュニケーションが一番。職場が楽しくなる宴会を開いている」との声が出た。待遇改善の問題は重要であり、そのために業界として職員の資質向上に取り組むことも欠かせないが、「介護業界=低賃金=離職率が高い」という一般的な理解とは異なる姿を見て取れるのも事実であろう。

(3)「介護=施し」という認識

「介護業界=施し」という一般的なイメージとは違う点も印象に残った。サービス提供主体が限定されている医療保険と違い、介護は従来型の社会福祉法人だけでなく、株式会社やNPO(民間非営利団体)、農協など多様な主体が参入しており、サービスを継続する上では相応の利益を出すことが求められる。利益を最優先し過ぎて高齢者のケアが蔑ろにされる事態は避けなければならないが、民間団体も公益性や社会性を有しており、旧来の施しという観点だけでは事業が継続しない点に留意しなければならない。言い換えれば、本質的には他のサービス業と何ら変わることはない。サービス水準の質を証明するISO(国際標準化機構)の規格を取得した施設長のコメントはサービス業としての側面を示唆している。

・安心して利用して貰うにはサービスの質が見える形にしなければならない。ISOは自分達が作ったルール通りにサービスを提供し、改善できる所があればルールを見直して第三者が監査するので、サービスの中身が外から見やすくなる。

民間のサービス主体が利用者のニーズを汲み取った結果、介護保険外の私費サービスが拡大していることも注目に値する。介護保険は保険サービスを受けつつ、いわば「混合介護」として保険外サービスを上乗せすることが可能である。インタビューでも高齢者の自宅に食事を届ける配送や買い物代行、宿泊付きデイサービス*9、足湯、葬儀支援、音楽療法を介護施設や利用者、家族に提供するサービスが利用者のニーズに寄り添う形で生まれていることが明らかになった。こうしたサービスが生み出されている背景に、施設サービスの不足*10や生活支援サービスの抑制傾向があるのは事実だが、それでも民間の工夫が発揮された結果、新たなサービスが相次いで誕生していることで、「介護=施し」という旧来の見方では捉え切れない市場の拡大が起きていることに注目すべきであろう。

介護業界を単なる「施し」と考えるべきではない、もう一つの理由として、雇用の受け皿として機能していることが挙げられる。高齢化に伴う介護サービスの需要増を受けて、介護職従事者は2000年度の55万人から2009年度までに134万人に増えており、今後も増加が予想される*11。さらに、インタビューでは介護業界に足を踏み入れた動機を問う質問に対し、「専門学校で福祉を勉強した」「高校生の頃から漠然と福祉に行くことを考えていた」など業界に最初から思い入れを持っていた回答だけでなく、「離婚して手に職を付けたかった」「たまたま別の仕事を探していた」「高齢者の待遇を変えたいと思ったので、無資格だったけど介護の世界に飛び込んだ」などと多種多様な答えが聞かれ、介護事業所に就職するハードルの低さが見て取れた。先の介護労働実態調査を見ても、前職のある人に対して直前の仕事内容を聞いたところ、「直前は介護以外の仕事」と答えた人が61・1%に及んでいる。言い換えれば、労働集約産業で人手を要する分、資格や経験、年齢を問わず他業界から比較的参入しやすい半面、業界内外への離職率が高い点を指摘できるのである。

さらに、インタビューでも「ここ1年ぐらいで男性が増えた印象がある」「2008年9月のリーマンショック以来、職員確保は一時的に楽になった。他の業界が不景気になると、職員の人材獲得が容易になる」などの声が出ていた。表3を見ても全体の失業率が上がると介護職の有効求人倍率が大幅に下がる傾向が見て取れ、不況下では雇用の受け皿として機能していることが伺える。介護業界を単なる「施し」と見るのではなく、サービス産業としての側面も重視する必要性に気付かされる。(下)では、これらの実像を踏まえつつ、インタビューから浮かび上がった論点や課題のうち、今後の制度改革に向けて必要な施策の方向性を考える。


◇表3 介護職の有効求人倍率と全体の失業率 ≪拡大はこちら≫


(出所)2010年12月22日第8回今後の介護人材養成の在り方に関する検討会資料「介護職員に占める介護福祉士の割合について」より引用。

※「介護現場の声を聴く!」の総括(下)はこちら



 本稿執筆に際しては、インタビューの中身だけでなく、関係者から有用な示唆を頂いたほか、数回の施設見学や体験勤務で得た感想も反映させた。インタビューにご出演頂いた方々も含めて、関係者の方々に感謝の意を記したい。なお、出演者の声は意味を損なわない範囲で編集した。
*1 東京財団ウエブサイト「医療・介護・社会保障制度の将来設計プロジェクト」。
   http://www.tkfd.or.jp/research/project/project.php?id=73
*2 通称は高専賃。バリアフリー施設などの基準を定めていたが、2011年4月成立の改正高齢者居住安定確保法で「サービス付き高齢者向け住宅」として一本化された。
*3 インタビューの内容、ゲストの氏名、主な話題などは東京財団のウエブサイトに一覧表として公開している。
   http://www.tkfd.or.jp/research/project/sub1.php?id=319
*4 インタビューで出た声を東京財団のウエブサイトに整理・公開している。
   http://www.tkfd.or.jp/files/doc/2011kaigo_voices.pdf
*5 例えば、『週刊ダイヤモンド』2007年5月19日号、2009年5月2・9日合併号は表紙に「介護地獄」という見出しを付けて、家族の負担や苦労に加えて、現場の過酷ぶりや介護職の低賃金を特集した。『週刊エコノミスト』2007年7月17日も「介護崩壊」という表題を付けて、介護職の低賃金や重労働を取り上げている。
*6 内閣府『介護保険制度に関する世論調査』(2010年9月調査)。
*7 財団法人介護労働安定センター「平成22年度介護労働実態調査結果」(2011年8月23日)。
*8 待遇を少しでも改善しようと、自公政権末期に編成された2009年度第1次補正予算では月額平均給与を1万5000円引き上げるための「介護職員処遇改善交付金」が創設された。しかし、同交付金の期限が2011年度末に切れたため、2012年度政府予算では介護報酬に吸収された。
*9 通称「お泊りデイサービス」。特養などと違って施設・人員の配置基準が存在しないため、東京都は利用者の尊厳保持・安全確保のため、2011年5月から新たな基準をスタートさせた。具体的には、1カ月に5日以上宿泊サービスを提供する事業所を対象に、▽宿泊日数の上限は原則30日▽宿泊室の床面積は1人当たり7.43平方メートル以上―などの要件とともに、事業所の状況を都に届け出る義務も課し、その情報を都のホームページに公表している。
*10 厚生労働省の試算によると、特養への入居を待つ高齢者は約42万人に上る。
*11 厚生労働省は2014年度時点の介護職員を138万人~156万人に達すると試算している。