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レポート
プロジェクト
日付
2009/3/12

2008年度 第8回国連プロジェクト研究会 議事概要 No.2

2008年度 第8回国連プロジェクト研究会議事概要 No.2
「国連PKOにおける調達行政と民間企業の役割」
作成:都築正泰(東京大学大学院法学政治学研究科)

○報告者・議題:
・坂根 徹 氏(日本学術振興会特別研究員、東京大学)
・「国連PKOにおける調達行政と民間企業の役割」

○議事要旨:
・冒頭の報告で坂根氏より、国連PKO調達行政の概要、そこにおける企業の役割の重要性、また国連側の調達体制と各国政府の支援体制の現状と課題について説明があった。
・さらに、国連調達行政における日本の貢献のあり方について提言があった。政策的・人的貢献とともに、日本企業からの物・サービス供給の増大、そのために政府による支援を一層拡充する必要性が指摘された。
・報告後の全体討論では、「国連PKOの持続性」を重視する点で見解が一致。その上で、調達を巡るアクター間の緊張関係(各国政府と事務局、先進国と途上国)、効率性を重視した調達実施の可能性、また日本の貢献のあり方について幅広く議論が行われた。


1.坂根氏報告
(1)はじめに
・本発表の目的・分析内容は、国連PKOの行財政的分析の一環として、調達行政について、その概要・主要な意義及び、民間企業の役割を多面的に提示し、それを基に、日本との関連・政策的含意を検討することである。
・調達は、行政活動に必要または関連する物やサービスを、外部からの購入その他の手段により確保し使用できるようにすることである。単に「購入」の段階だけに着目するのでは不十分であり、それ以降の輸送や貯蔵などのサービスによって「使用できる」ようにする(現地に供給する)プロセスにも注意が必要。

(2)国連PKOにおける調達行政の概要・主要な意義
・国連調達の主要な内訳は、空輸サービス、燃料、食糧、車両・輸送機器、通信機器、設計・エンジニア・建設、レンタル・リース、電子データ処理、プレハブ施設等となっている(2006年・上位10項目を順に列挙)。
・以上のような兵器関連以外の物資・サービスは、PKOのミッションの達成に不可欠な手段という意義がある。つまり、要員の輸送や現地での活動を支える物資の購入とその輸送などの調達活動は、フィールド・現地での円滑で効果的なオペレーションのために必須である。
・国連の調達規模は、1997年には約3億ドルであったものが、2006年には約20億ドル近くに増加。その内、PKO関連の調達は約17.8億ドルを占める。他方、同年のPKO予算規模は52億ドル程度であり、財政上の重要性がある。
・不正・不祥事(疑惑を含む)は、例えばUNAVEM?(第3次アンゴラ・ミッション)など、PKOミッションでは以前から存在しており、最近でも、例えば燃料調達などで問題が指摘されている。また、国連本部の調達部でも不正・不祥事が発生し、逮捕・有罪となった調達官もいる。
・ゆえに調達には、不正防止と不正への対応の体制強化という重要な意義がある。主にアナン事務総長末期には、贈答等の受領禁止、財産公開義務、退職後規制、取引企業に対する行動規範、OIOS(国連内部監査部)の調達監査機能の強化、不正行為に関する通報者に対する保護、悪質なケースの告発や損害賠償訴訟の提起、指名停止やロースターからの排除などの多面的な改革がなされた。

(3)国連PKOにおける企業の役割
・国連のPKOや平和構築における民間企業の役割は、近年注目されてきている。企業からの物とサービスの「調達」は、企業による物・サービスの「供給」として、国連PKOにおける民間企業の主要な役割と看做しうる。
・PKO調達への企業の「参加」の意義・重要性は、例えば空輸サービス調達からうかがえる。ここでは、十分な参加業者の確保が難しい場合もあり、履行能力のある企業の「協力」の重要性が極めて大きい。また単純に、参加業者が多ければよいのでもなく、安全性の問題もあり優良な企業の参加が求められる。つまり、単に資金さえあれば自動的に購入できるわけではなく、「参加」の確保自体、必ずしも容易ではない。ゆえに、国連側の調達体制が重要となってくる。
・調達実施体制の組織的側面については、本部レベルでは、実質的に管理局のUNPD(調達部)が担っている。ここには、調達実施(PKOミッション・PKO輸送・本部の調達)とサポート機能がある。PKOミッションによる調達も重要であり、2006年には約11.8億ドルの調達(発注ベース)を実施している。
・PKOミッションと国連本部の間には、調達実施における役割分担がある。本部は、空輸サービスのほぼ全て、そして車両の調達も多く担当している。PKOミッションは、燃料や食糧のほとんどと、情報機器・通信サービス等の多くを担当している。貨物輸送などは本部とミッションが同程度である。
・調達実施体制の実施手法の側面については、一般競争及び制限競争が基本的手法であり、公告や直接の招請に基づく正式な招請が特徴である。随意契約は、条件付で可能。特徴的な実施手法として、システム契約がある。これは、特定企業から一定期間の間、契約で定められた条件で個別の調達を行う工夫である。
・企業から国連への供給においては、政府の役割も間接的だが重要。調達には経済的な利益が絡み、各国政府は自国からの調達増加を志向する傾向がある。
・アメリカ政府は、自国の企業がフェアに扱われることを確保するため、自国企業からの調達受注に向けたサポートをすることがある。調達に関わる個別のケース・自国企業からの申し立てに、具体的かつ積極的に対応する場合があり、個別問題の対処のみに限定せず、それをシステム的分析と調達制度の改革に結び付けようとする姿勢が窺える。
・多くの途上国政府は、より直接的に「調達増加」のための施策と実績を求める傾向がある。また、アフリカや移行経済国などの途上国からの調達に対して優遇措置をとるようにと求めたこともあるが、事務総長が財務規則の原則を理由に事実上拒絶した。但し、途上国からの調達率を含んだ統計の継続、ビジネスセミナーの開催、国連調達の紹介・広報などの措置を実施している。途上国からの調達増加のための措置に関しては、途上国の経済発展への寄与、寄与の程度・インパクト、限られた国連の資源がより効率的・効果的に使われることに対しての影響等に留意が必要。

(4)おわりに―本報告を通しての日本のPKO・国連政策への示唆
・第1に、国連の調達行政に対する政策的貢献がある。長期にわたり改革が継続されてはいるが、途上国等からの調達増加要求への対応、競争強化と透明性確保、(善意の調達官の萎縮効果を防ぎつつの)更なる不正防止策・体制の充実などをはじめ、依然課題は多い。そして、組織改変・ルール改正・リソースの付与など、加盟国側の関与がなければ成立しない改革も多い。つまり、調達改革とそれへの日本のコミットの重要性がわかる。
・第2に、日本からの物・サービスの供給を通しての貢献がある。国連PKO全体に占める日本からの調達率は、近年概ね1桁台前半で推移している。この水準は、日本の国連への財政貢献度と比べると低いが、PKOへの人的貢献の人数ベースよりは高い。国連PKO活動に必要な物・サービスの日本からの供給増加は、財政的・人的・知的・政策的な貢献と共に、「物・サービスの面での国際機関の活動への寄与・貢献」として積極的にこれを捉えることが可能。外国での日本企業の活動にJETROや在外公館によるサポートがあるのと同様に、国連の調達案件においても政府による日本企業へのより一層のサポートが考えられる。

2.議論
(1)調達を巡るアクター間の緊張関係及び緊急性と透明性の相克等
・PKOでは、安保理が決定したマンデートに基づいて、そのために必要なリソースを事務総長が総会に要求するが、安保理と総会との間には、緊張関係が存在する。2006年2月には安保理で調達が取り上げられたところ、途上国は財政問題であり、総会事項であると反発し、安保理の「一体性」が問題となった。
・特にPKOのスタートアップ段階において、緊急性と透明性の相克がある。緊急性ゆえに透明性を犠牲にしなければならないことは、実務家にとって最大の悩み。2つの間のバランスが重要。また、現場への調達権限の移行の是非も課題。システム契約は、これらの課題へも寄与する手法であり、イタリアのブリンディシにあるロジスティクス基地も迅速な展開に一定の寄与をしている。
・調達は権限に関係する話であり、加盟国間・事務局幹部にとって重要。加盟国側からみれば、提供した資金が有効に使用されることが問題関心。ただ、調達主体はあくまでも国連であり、加盟国側が実態を完全に把握することは困難。各加盟国政府と予算の柔軟性を求める事務局側とのせめぎ合いがある。国連調達問題は、先進国と途上国の思惑が凝縮した政治力学の事例の宝庫でもある。

(2)効率性及び具体的な調達実施の検討
・PKO増大の中で効率性は一層重要になってきている。こんなにお金がかかるならば止めてしまおうという議論になりかねない。PKOの持続性が課題である。効率性を考えるにあたっては、相対的に価格を重視する受入れ可能な最低価格の考え方や、相対的に質を重視するベストバリューの考え方がある。更に、落札価格のみでなく、手続きコストも含めた効率性が考慮される必要がある。
・例えばWFPの食糧調達では、モリス事務局長が企業経営の考え方を導入し、計画的に安いときに大量に買う工夫を行った。これは従来の公的機関の考え方ではない。国連PKOでも例えば、燃料の調達などは価格変動が大きく類似の工夫が考えられる。
・国連とPKOの調達で最大を占める輸送費には課題が多い。MONUCのミッションでは、東欧の飛行機を購入して使っているが、輸送費が高いという。国連全体では、出張の際の座席ランクもコストに直結するため重要である。
・安全確保のための経費も、無視できない。2006年には、国連全体の調達内容のまだ20位程度である。しかし例えば、MONUCのミッションなど現場では、かなりの数の警備員が確保されてきているようである。

(3)PKO規模拡大の問題や日本からの物・サービスによる貢献に関して
・金融危機でPKOの持続性はより一層問題になりうる。これまでPKOの財政負担が集中している日米などはPKOの効率化を重視していたが、欧州も近い立場になってくるのではないか。PKOを派遣することで、装備の更新ができ、貴重な外貨を得る機会になる国々もあり、軍事要員の確保は問題ないであろうが、質の問題は残る。例えば、ソマリアやスーダンからわかるように、PKOをAUに委託することはやはり非常に難しく、現状ではうまく機能していない。質の問題への対応では、質の高い軍隊を持ち、要員派遣に余力のある日本などの加盟国がより参加することが重要。
・政策・資金面以外の、物・サービスでの貢献は、地味でイメージが困難な面もあるが、PKO執行上・財政上・不正防止上の重要性などを能動的にアピールすることにより、もっと着目されるであろう。日本からの調達については、現状ではトヨタなどからの車両の供給が多いが、PKOの主要な調達内容ごとに、どのような物・サービスの供給が可能かの検討が考えられる。