タイプ
論考
日付
2014/6/11

比較優位の地域サバイバル戦略 ~持続可能な地域経済構造を目指して~(2)


第2章 持続可能な地域の必要条件


付加価値の高い雇用が必須条件


危機の本質は地域の雇用減少による人口減少の加速(社会減)である。現在、地域活性化の名のもとに全国各地で様々な政策が実施されている。しかし、地域の雇用がなくては、いかなる町おこしイベントや住環境・子育て環境の向上などの地域活性化政策も一過性のものに終わってしまう。

既に述べた通り、東京一極集中の流れに乗って若者が出て行く主な原因は職を求めてのことであり、とりわけ女性の流出が深刻である。人口流出は少子高齢化と域内消費の減退に拍車をかけ、ますます地域の雇用を減らしてゆく。高校・大学を卒業した(あるいはUターン、Iターンした)若者の受け皿としての雇用を生むことこそ持続可能な地域をつくるための条件である。

特に必要なのは付加価値の高い雇用である。持続可能性の観点から考えた場合単に雇用がありさえすればよいというわけではない。地域からの人口流出の原因は、地方と東京圏の所得格差であり、地域に雇用があったとしても賃金があまりに低ければ、やはり若者は流出してしまう。

必ずしも賃金の金額の上で東京と完全に同額である必要はない。生活における地方の優位性(住環境の良さなど)と所得を合わせて同等であることが必要である(現在はそうした地方の優位性を含めても地方が東京に負けているということになる)。そうなることではじめて、現在の地域人口の社会減の流れを食い止めることができる。

地域や地方自治体はまずこのことを強く自覚し、高付加価値の雇用の確保を最優先課題として設定することから始めなければならない。


中心市の役割と重要性


その際重要になるのが地方経済の中心となる都市である。地方都市の多くは、農村を含めた周辺自治体を支えている側面が強い。例えば、農村で農業を行いつつ地方都市に働きに出るということは典型的に行われる。また、雇用だけでなく、病院と救急医療体制やごみ焼却、教育など、行政面での広域連携、スポーツ・文化施設、サービス産業など、都市的機能の拠り所ともなっている。こうした状況において地方都市が衰退することはその地域全体の衰退につながる。

総務省が進めている定住自立圏構想では、中心市という概念を採用している。中心市の要件は、?人口5万人程度以上(少なくとも4万人超)、?昼夜間人口比率1以上(つまりベッドタウンはこれに入らない)、?地域的には3大都市圏の都府県の区域外の市、である。この条件を満たす市は243市あり、これらの都市がその周辺地域を含めて文字通りの「人が定住し自立した経済圏」として持続していけるかどうかがカギとなる。

ある地域に特定のサービス産業が成立するには、一定規模以上の人口が必要になる。国土交通省国土審議会の資料によると、生活の基本的な部分を支える基本的なサービス業(保育所、病院、葬儀業、訪問介護事業、生命保険業、ソフトウェア業、不動産賃貸業)などが成り立つために必要な人口として1万人~5万人の人口が必要とされる。そして、5万人~10万人程度から、法律事務所、広告代理業、インターネット付属サービス産業、損害保険業などの対企業向けのサービス業が成り立ち始める。これらの業種は第一章で述べた女性の雇用創出という点でも意味が大きい。


当該市町村に立地する確率が50%及び80%を超える人口規模

(出典)国土交通省『「国土の長期展望」中間とりまとめ』図?-16より一部抜粋して作成


今後の目標が地域経済の高付加価値化ということになると、当然にそれを支える各種の知的基盤が必要となる。必然的に中心市は周辺農村部を含めた地域全体の頭脳として戦略を立て、推進する存在とならざるを得ない。中心市のビジョンとリーダーシップの力にその周辺地域の将来がかかっている。いわば地域の防波堤としての役割が中心市に期待されるのである。


中心市一覧(都道府県別)

(出所)総務省ホームページより


地域資源を最大限活用せよ~比較優位の地域経済論~


では、どのような方法で地域の雇用の高付加価値化は実現するのだろうか。かつてのように国からの公共事業や工場の全国分散配置による経済活性化を期待することは難しい。
地域の雇用創出にあたって、即効性のある政策としては企業誘致がまず浮かぶ。それは重要ではあるが、経済構造の変化の激しい時代においては、急な撤退をしていくリスクも存在する。また、一時的な予算の投入で雇用を生み出してもそれは長くは続かない。一過性でない、持続可能な産業・雇用を作っていく必要がある。

そのために必要なことは、それぞれの地域が東京にはない優位性を極限まで伸ばすことである。ここで重要になるのは、「比較優位」である。それは、遠く19世紀の前半に古典派経済学者リカードが国家間の貿易(輸出入)の利益を説明するために導入した考え方である。当時のポルトガルは、毛織物生産でもワイン生産でも労働生産性が低いという意味で、イギリスに対して「絶対劣位」にあった。だが、その場合でも、毛織物とワインの労働生産性の「比率」を考えてみると、その比率にはイギリスとポルトガルで差があるはずである。言い換えれば、イギリスとポルトガルのそれぞれに、どちらかといえばこちらを生産した方が相対的に効率的という商品、逆に非効率的な商品が存在しているはずである。

すなわち、絶対劣位なポルトガルにも必ず「比較優位」な生産物があることになる。事実、土地資源が相対的に豊かなポルトガルはイギリスに対してワイン生産に比較優位を持っていた。この時、ポルトガルは、相対的に生産性の高いワイン生産に向けて資源をこれまで以上に多く投入し、イギリスに輸出すれば、国全体の労働生産性は上昇し、一人当たりの所得も上昇する。しかも、その上昇率は、ワインと毛織物の生産性の相対比率がイギリスに比べて大きければ大きいほど高まることになる。

この議論は、東京をイギリスに見立て、他の地域をポルトガルに見立てれば、そのまま地域間の貿易(移出入)にも応用できる。すなわち、東京に比べて絶対劣位にある他の地域が一人当たりの所得を増やすためには、まず第一に比較優位を追求して行くべきだということになる。それは、各地域において東京より相対的に豊かな資源を最大限に引き出すことである。重要なのは、東京との差異性であって、東京と同じ土俵で勝負しては決してうまくいかない。今後は、それぞれの地域が、地域資源を活かして東京にはない差異を生み、魅力的な商品・サービスを生み出していかなければならない。

では、各地域の比較優位の源泉となる資源、地域にあって東京にない資源とは何か?
まず考えられるのは農地、漁場、森林、すなわち一次産業の領域である。加えて、大都市にはない田園風景や各地に残る歴史や伝統、文化、生活習慣自体が重要な資源である。これらは観光をはじめ、交流人口を増やすための重要な資源となる。

人口減少のインパクトは、速いペースで襲ってくる。日本全国の各地域が、中心市を中心に様々な創意工夫を行う中で、高い付加価値の雇用の創出に成功した地域に人口が流入し集約されていく可能性が高い。都市間競争という言葉を使うまでもなく、ティボーが唱えた、「足による投票」に近い状態が必然的に起こってくるであろう。地域は厳しいサバイバルの時代を迎えるが、目指すべき方向性自体は極めて明確である。

現在、地域はそのポテンシャルを最大限に活かしているとは言い難い。高付加価値化の余地はまだ多く存在する。個人や民間企業の努力はもちろん必要だが、国や地方自治体の動きも重要である。


■次へ→第3章 付加価値の高い地域経済をつくるための提言

■前へ→第1章 人口の「社会減」が引き起こす地域の危機