タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2011/7/6

日中政策勉強会レポート「原発政策を含む中国のエネルギー事情」

ゲストスピーカー:郭四志 帝京大学准教授



東京財団で毎月開催している日中政策勉強会では、6月23日、帝京大学の郭四志准教授を招き、隣国中国における「原発政策を含むエネルギー事情」について講演を頂き、高原明生上席研究員をはじめ議員、省庁関係者、党スタッフ、議員秘書等が積極的に意見交換を行った。以下、研究会での講演内容をレポートする。

1.はじめに
中国のエネルギー消費量は改革開放後の30年間でおよそ4倍と大幅に拡大し、現在世界のエネルギー量の2割強を中国が占めている。その7割以上が石炭に依存しており、原発依存は1%足らずだ。原発に水力発電、再生可能エネルギーなどを加えたクリーンエネルギーの需給比率も全体の8%に過ぎない。今後の経済成長を支えるため、さらに化石燃料依存からの脱却のため中国は、2015年までにおよそ30基の原発の建設を予定している。隣国である中国のエネルギー政策は日本の経済や社会、そして安全保障にも大きな影響を及ぼす。中国の今後のエネルギー政策はどうあるのか。原発の現状はどうなっているのか。福島原発事故は中国のエネルギー政策にどのような影響を与えたのか。以下の点から考察を試みる。

2.中国のエネルギー需給構造と今後も続く化石燃料依存
まず、中国のエネルギー需給構造から見てみよう。石炭については国内生産で賄えているが、中国の石油の生産量はわずか2億トン。それに対して消費量は4.3億トンで消費量の半分以上を中東、アフリカからの輸入に頼っており、需給バランスに大きな偏りがある。また原油や天然ガスについても、国内では賄いきれず、ロシア、中央アジア、ミャンマーなどからの輸入のためのパイプラインを積極的に増設している。

中国においては、今後もこうした化石燃料によるエネルギー需要は増え続けることが予想され、輸入は増加していくだろう。それは例えば自動車保有台数の急増に裏打ちされる。現在中国国内の自動車保有台数は8000万台ほどだが、2015年までに1億5000万台に増加することが見込まれている。また、日本やその他の先進国がポスト工業化の時代に入った一方で、中国の内陸部は未だ発展途上の段階にあり、今後も工業化の道を進まざるを得ない。道路、鉄道、電気、不動産等インフラや社会資本整備、設備投資が必要な状況では、資源・エネルギーの需要は大きい。工業化への道は、都市化率からも伺える。日本の都市化率は8割でほぼ都市化が完成している。世界平均は50%を超えている。それに対し、中国は農村の人口が7億人以上で都市化率はいまだ47%と世界平均にも及ばない。2015年には中国の都市化率は52%、2030年には65%に達する見込みである。都市化率の上昇に伴い、莫大な社会資本整備が必要となる。このことは、資源・エネルギー多消費産業である重化学産業に依存し、化石燃料を始めとするエネルギー消費量の多大な増加へとつながる。

3.中国の原発の現状と福島原発事故の影響
今後も化石燃料依存が続くことが予想される一方で、中国は石炭や石油エネルギーからの脱却を試みようと、12次5カ年計画の中でも、クリーンエネルギーへの転換を謳っている。そのうち、中国が最も力を入れているものの一つが原発である。フランスや日本などからの技術提供により現在中国で稼働している原発は13基(約1100万キロワット)。建設中のものは28基(約3300万キロワット)ある。さらに中国の原子力会社は、2015年までに4000万キロワット、2020年までに8600万キロワットを目標に掲げている。しかしこれを達成するには1年間に6.8基の建設が必要だ。通常1基完成させるには4~5年かかる上に、原子力に携わる技術者の不足という問題もあり難しいのが現状だ。また、これまでは、一党独裁体制及び土地が国有であることを理由に政府は好きなところに原発を建設できたが、中国全体が豊かになり始め、国民の権利意識が高まっている現在、新たな原発建設は、これまで以上に困難を伴うことが予想される。それは、今回の福島での原発事故を受けて、日本からの放射能飛来や中国の原発に対する問い合わせが行政に殺到したことから伺える。

今回の福島原発事故を受け、温家宝の指示で国家エネルギー局、放射能安全センターなどの部門が共同で安全チェックを実施している。さらにこれまで中国の原発は、津波、洪水、台風などに強い耐震設計を盛り込んでこなかったため、今回の事故を受けて設計の見直しも進められ、賠償法などの原子力立法措置も年内までに行うよう指示が出されている。今回の事故を受けて、温家宝や中国国内の専門家は、原発の推進に慎重と見られるが、そうした発言や見解は報道されていない。エネルギー局の高官達は、日本の原発事故を受けても、現在までのところ、原発政策を推進させていく姿勢に大きな転換はないため、今後も化石燃料の代替エネルギーとして中国における原発政策は積極的に進められていくものと思われる。

4.エネルギー政策における日中協力の行方
エネルギー安全保障の面から考えれば、東アジアにおけるエネルギー協力は日中両国の国益に適う。今回の原発事故の事例一つをとってみてもその影響は大きい。日本にとっては、原発事故での教訓や事故処理に関するノウハウ・技術を原発ラッシュの中国に活用・協力でき、それを売り込むことは大きなビジネスのチャンスにつながる。また、中国には原発に関する技術者が圧倒的に少ないため、技術者の育成等もビジネスチャンスとなろう。さらに、中国にはこれまで原子力に関する立法がなかったため、賠償法などを含む立法過程において日本の法律は大いに参考となるだろう。

実際、中国の国家能源委員会は、米国・日本などのエネルギー行政を習って作られ、主任が温家宝、副主任が李克強となっており、委員会の下部に位置付けられる国家エネルギー局のトップは大臣クラスとなっている。以前は、国家発展委員会経由でしか情報を上げられなかったのに対し、国家能源委員会が設置されたことで、エネルギー問題については温家宝に直接情報を上げ、さらに温家宝も直接指示を出すことが可能となった。こうした原発にかかる組織、法律、管理、運営の面での日中協力は、地域全体の安全にとっても非常に重要であり、原発技術に関するハード面だけでなく、こうしたソフト面において日中技術協力が今後進むことが望まれる。

さらに、エネルギー外交の面でも、日中での協力は重要になってくる。中国は経済成長し続けるためにも、近隣諸国そしてアフリカ・中東などへの資源外交を活発化させており、その傾向は今後ますます強くなっていく。今後、日中両国はエネルギー政策で保護主義に走ることなく、アジア域内のエネルギー消費大国として互いに連携し、積極的にエネルギー価格や新エネなど供給・省エネなど需要サイドにおける問題等の共通のエネルギー問題に取り組むべきである。その際、いかに日中そして韓国なども含めアジア域内エネルギー協力体制を築くことができるかが問われている。そのため、エネルギーに関する両国・多国のチャネルを絶えることなくオープンにし、対話し続けることが必要だ。

(文責:大沼瑞穂 東京財団研究員)