タイプ
レポート
日付
2010/9/29

地域再生Leader's Voice:熊本・南小国町長

熊本県南小国町長/河津修司氏インタビュー概要



○日時:2010年9月2日(木)
○場所:南小国町役場
○インタビューアー:東京財団政策プロデューサー 井上健二
             広報渉外              松下薫




阿蘇外輪山のふもとに位置し、黒川温泉をはじめとする温泉と、九州最大の河川である筑後川の源流域として豊富な水資源と美しい自然に恵まれた日本の農山村の原風景が残る癒しの郷、南小国

地域住民の主体性を大切にしながら、自然と調和した「きよらの郷づくり」を進める河津修司町長にお話を伺いました。





心からやすらげる「きよらの郷」づくりを目指す

(事務局)
本日はお忙しいところお時間を頂戴し、ありがとうございます。

まず最初に、地域リーダーとして、南小国町をどのような地域にしていきたいとお考えでしょうか?町長の地域ビジョンをお聞かせください。

(河津町長)

南小国町では、以前から、「きよらの郷」づくりを目指して、地域づくりに取り組んでいます。「きよらの郷」という言葉は、地域の若者が提案してくれた言葉です。「きよら」という言葉は「きよらかに美しい」という意味で、この地域に住むみんなの手で、きよい郷(環境)、きよい品(物)、きよい心(人)を実現し、『住みたい』、『住んでてよかった』と思える、そんなまちづくりを目指そうという想いが込められています。

ただ、「きよらの郷づくり」とは言いながら、実際に、地域の自然や景観を守っていくのも大変な時期に来ています。この地域は阿蘇の一角にあり、阿蘇の草原がずっと広がっているのですが、たとえば、これを維持するだけでも大変なことなんです。以前は、この辺りの農家は、農業と畜産を一緒に行っていたので、農家は自分が飼っている牛を夏の間、草原に放牧していたんです。牛が草を食べてくれることで、草が伸びるのを防ぎ、春に「野焼き」をして、5月頃に新芽が出るという循環を繰り返すことで、阿蘇の草原が維持されてきたのですが、農家の減少や高齢化の影響で牛を飼う人も減っていて、春に野焼きをするのも危険な状況になってきていて、長年親しんできた阿蘇の草原の風景が維持できない危機的な状況になってきているのが実態です。

(事務局)
長い時間をかけて地域で育み、形成してきた南小国の地域景観がもはや維持できないギリギリのところまで来ている厳しい状況にあるのですね。

(河津町長)
こうした状況を何とか変えていきたい。先人から引き継いできた南小国の素晴らしい景観を維持していきたい。そのためには、危機的な状況にあることを、地域の皆さんはもちろん、多くの方にも知ってもらう必要があると思っていました。

そのような時に、ちょうど「日本で最も美しい村」連合に加盟しないかとのお誘いがあり、その活動趣旨が、南小国町がこれまで取り組んできた「きよらの郷」づくりと軌を一にしていることや連合に加盟することで、様々な人との交流の中で、南小国の草原の維持が危機的な状況にあることや福岡圏の水源林としての役割を担っている南小国の林業が木材価格の低迷で、もはややっていけない状況にあるといった地方の実情や地方が抱える問題も広く知ってもらうこともできるのではと考えました。同時に、「きよらの郷」づくりを進めてきた南小国は、美しい自然やのんびりとした田舎の風情が広がり、黒川温泉をはじめとする温泉もあって、全国に誇れる素晴らしい地域なんですが、それに気がついていない人が地域には多い。それを気づいてもらい、地域に誇りをもってもらういい機会になるのではと思い、「日本で最も美しい村」連合に加盟することにしたのです。

(事務局)
なるほど。「日本で最も美しい村」連合への加盟にはそのような狙いがあったのですね。

(河津町長)
「きよらの郷」づくりとの関連でいえば、南小国町では、30年以上も前に「有機農業・低農薬農業の町」を宣言し、自然と人にやさしい農業を進めてきたという実績があります。30年以上も前からの取組なので、当時使用していた「有機農業」という言葉は、今の定義とは異なりますが、できるだけ減農薬や減化学肥料の農業を町全体で積極的に進めてきました。ですから、南小国は、九州の中では米のおいしいところとして有名で、ここで作った米は収穫した時点で販売先が決まって、すぐに売り切れるという状況です。

地域住民の主体性を尊重した地域経営

(事務局)
現在、町長として、南小国町の地域経営にご尽力されているわけですが、どのような点に留意して地域経営を進めておられるのでしょうか?

(河津町長)
私の地域経営の方針は、開かれた行政を基本としています。トップダウンで進めるのではなく、地域の皆さんとよく話し合って、地域づくりを進めるということですね。まずは、地域の皆さんの話をじっくり聞いて、よく話し合って、調和を取りながら、物事を進めていきましょうということを、常々言っておりますし、実践しています。

それと、南小国町には、昔から「肥後もっこす」と呼ばれる頑固者多く、みんなそれぞれに想いと意見を持っているし、自分の意見をはっきり主張する人が多い。まちづくりも、「自分たちの地域のことは自分たちで」と言って、役場にはほとんど頼らず、自主的に活動している人が多いです。逆に、役場が何か旗を振ってやろうと呼びかけると、みんな傍観者になって見てるだけということになりがちで上手く進まないことが多いんですね。ですから、私は、地域住民の主体性を大切にしながら、その動きを後押しすることに徹することにしています。やっぱり、まちづくりは、みんなが楽しみながらやるのが一番ですからね。

(事務局)
そうですね。まちづくりはマラソンのようなものですから、楽しみながらやらないと持続しないですからね。地域住民の自主性を尊重し、町は黒子に徹して、その活動を後押しするという形は理想的ですね。

(河津町長)
地域住民主体のまちづくりを後押しする仕組みとして、規模は小さいですが、「きよらの郷」づくり基金を設けています。地域づくりを進めるため研修で海外に行くとか、地域を元気にするイベントを開催するといった地域住民からの提案に対して、事業内容をみた上で支援をすることにしています。支援の割合は事業内容に応じて、その都度、決めていますが、自分で負担するからこそ真剣になるということもあるので、全額支援はせず、一定の負担は必ずしてもらうことにしています。

また、地域住民の自主性を尊重した地域づくりということで言えば、最も象徴的な出来事は、平成の大合併の際の周辺町村との合併問題でした。町民の意見を聞いたところ、反対の意見が多かったわけですが、合併の議論を全く最初からしないとなると、逆に町民の中に合併賛成派、反対派の二派ができてしまって、地域が分断される恐れがあるので、隣町の小国町と合併協議会を立ち上げて、合併するならどういうまちづくりにするのかということを決めた上で住民投票に諮ることにしました。合併協議会で1年以上かけて話をし、合併案をまとめ住民投票をしたんですが、結果は、74%が反対に投票し、大差で否決されました。

住民への説明会では、何度も繰り返し、合併のメリット・デメリットを説明していますので、合併をしなかった場合には、国からの交付金等も相当厳しくなるということも十分分かった上で、合併に反対という住民の意思表示だったわけです。住民からは、たとえば、合併をしないことで交付金等が減るのであれば、その減少分の1/3は町の方で収入を増やす努力をする、1/3は町民自身が負担する、残り1/3分は行政サービスを我慢する、という意見もありました。「自分たちの地域のことは自分たちで決める」、「意見も言うが、責任もとる」というのが南小国の町民性のいいところ。町民の自主性を生かした地域経営を今後も大切に続けていきたいと思っています。

ブームや目先の利益に惑わされず、適切な成長管理を

(事務局)
南小国町といえば、黒川温泉での旅館経営者の皆さんによる温泉地再生の取組が全国的にも有名ですね。

(河津町長)

黒川温泉は山間に囲まれた小さな温泉街ですが、ここで旅館業を営む方々や地域住民が協力し、統一看板の整備、雑木の植樹、建物と自然とが調和した素朴な田舎の雰囲気づくりなどに、できることから少しずつ取り組んできた結果、癒しの温泉地として全国的に有名になっており、うれしく思っています。「旅館は部屋、道路は廊下であり、黒川はひとつの宿」というコンセプトで、まち歩きを楽しみながら旅館の露天風呂を巡る「入湯手形」も人気です。今後は、ただ観光入込客数を増やすというのではなく、黒川温泉の自然、風情、食や温泉そのものの良さを理解し、ゆったりと楽しんで頂けるような方に、お越しいただきたいと思っています。外国人観光客では、韓国からも随分来て頂いていますが、中国の富裕層の方もターゲットにしたいと考えています。ただ、あまり外国からの観光客が多くなると、日本人のお客さんが減る可能性もあるので、黒川温泉の鄙びた、ゆったりとした雰囲気を壊さないように、バランスをとる必要があると思っています。

実は、以前、「露天風呂巡り」を制限したことがありました。旅行会社の方からは、黒川温泉はお高くとまっているといった批判も言われましたが、そうではなくて、宿泊しないで、2時間程立ち寄って、「入湯手形」を使って日帰り温泉入浴を楽しむ方が急増した結果、宿泊されているお客様にゆったりと過ごしていただくことができず、ご迷惑をおかけしていたため、制限することにしたのです。適切な成長管理は必要だと思っています。黒川温泉のファンの方々が黒川温泉の何を支持してくださっているのか、それをしっかり認識し、ブームや目先の利益に惑わされることなく、その魅力を大切に守っていくこと大事だと思っています。

(事務局)
黒川温泉内だけではなく、周辺の地域でも、まわりの景観と調和した、田舎らしい落ち着いた雰囲気の建築が増えていますね。

(河津町長)
黒川温泉では、旅館組合などが中心となって「黒川地区まちづくり協定」を作成していて、黒川らしさを感じさせる景観を保全するために、新しい建物等を建てる場合の建物の規模や配置、外観や素材などについて厳しくチェックしています。また、南小国町では、「住みよい環境の里づくり条例」を定めていますので、黒川地区以外でも、開発を行う場合には、事前の届出を要請するなど、町のかけがえのない資産である南小国町の美しい自然環境や魅力ある景観をしっかり守っていきたいと思っています。黒川地区では、コカ・コーラさんの協力で、地域の景観にあった色の自動販売機を設置してもらっています。また、条例だけでは縛れないところもあるので、たとえば、町なかにある全国チェーンのお店には、敷地内にできるだけ木を植えもらうといった協力をお願いするなどの働きかけを行っています。

それと、民間主導の動きとして、地域の景観を生かし、上手に雰囲気づくりをすることで、付加価値の高いビジネスにつなげる動きが出てきています。旧国道沿いに、雰囲気のいいそば屋が7、8軒ほど集積して「そば街道」ができていますが、大変な人気です。

もともと黒川の旅館を経営していた方が、黒川温泉の手法を取り入れた趣のあるお庭のあるそば屋をはじめ、それが人気となったのがきっかけで、雰囲気のあるお店が集積して、「そば街道」ができてきたようです。そば街道のそば屋の店長さんが、そば打ち講習をして、そのお弟子さんが出店していったということもあるようです。今では、小国町も含めて、小国郷そば街道と呼んでいて、阿蘇市も含めると、沿道のそば屋は24、5軒にもなっています。「そば街道」を目指してお越しになる旅行者も増えており、地域の観光魅力の向上にも大いに役立っていて、うれしく思っています。

南小国の強みである「観光」と「農業」の連携強化で地域活性化を目指す

(事務局)
南小国町の産業で、比較優位性のある産業に、「観光産業」があると思いますが、その強みを生かした地域活性化戦略について教えてください。

(河津町長)
南小国町にとって、観光産業は重要な産業の1つです。黒川温泉だけでも600人ぐらいの雇用があります。工場や企業誘致をもっとしてはどうかといった声もありますが、今の経済情勢で、そんなに簡単に企業誘致できるわけではないですし、ちょっと景気が悪くなると、会社の経営方針次第で、工場は撤退してしまいます。若い人に町に住んでもらうためにも、その人たちの雇用の場がなければいけない。雇用の場を創ることが町長として何より大事な仕事だと思っています。最近になって農水省が6次産業化なんて言っていますが、地域では昔から取り組んでいますが、そう簡単に雇用の場が生み出せるものではありません。旅館をはじめとする観光産業は、地域にとっては、安定した雇用の場を提供してくれる南小国町の重要な基幹産業ですので、その集積の強みを積極的生かしていく必要があると考えています。

すでに黒川温泉でも取組が進んでいますが、旅館と農家が連携し、「地産地消」を積極的に進めています。地元ならではの旬のいい食材を使ってお料理をお出し、お客様をおもてなしする旅館が増えてきています。

旅館と農家の繋ぎ役をしているのが、第3セクターの総合物産館「きよらカァサ」です。
旅館が「きよらカァサ」に使いたい野菜などの注文を入れて、農家が「きよらカァサ」に運んできた野菜を旅館に届けたり、旅館から買い出しに来たりという仕組みです。

こうした連携を進めるため、以前は、この会社の社長は町長が務めることになっていましたが、それを止めて、代わりに、黒川温泉で旅館を経営していた方に社長をしてもらっています。経営感覚もありますし、旅館のことを熟知されているので、旅館と農家の連携も順調に進んでいます。

このほか、黒川温泉では、地元の農家と連携して、毎月第2、第4日曜日に朝市を開催したりしていますが、安くて新鮮な野菜が買えると、宿泊客の方にもとても人気のようです。

今、役場には観光課という組織はなく、観光関係の業務は産業振興課が担当しています。町の収入も農業より観光の方が多く、町の主な収入が観光になっているので、観光課をつくるべきとの声もありますが、私はそうは思いません。産業振興課では、観光、農業、建設といった産業を一体的に所管していますので、観光だけ独立させるよりも、今の組織の方が、総合産業である観光と農業をはじめとする他の産業との連携強化を進めやすいと考えています。

このほか、阿蘇全体を観光圏にしようと取り組んでいて、九州新幹線鹿児島ルートが開業する2011年3月に合わせて、阿蘇の様々な魅力が体験できる「ゆるっと博」を開催する予定です。その中でも、温泉と農家の連携した取組を考えています。農家も良くなる、温泉、旅館の人たちも良くなるよう、繋げていきたい。黒川温泉にお泊りになる方に、1泊目は温泉でゆっくりしてもらい、あと1泊は、地元の農家の方々と一緒に農業体験をしたり、ガイド付きのトレッキングやハイキングなどの自然体験を楽しんでもらう。地域の農業も一緒になっての観光というのを、取り入れていくべきじゃないかなと考えています。

身の丈にあった社会インフラの整備の重要性

(事務局)
「きよらの郷」づくりの中でうたわれている町民の方に「住んでて良かった」と思ってもらえるまちづくりを進めるために、特に力点を置いて進めておられることを教えてください。

(河津町長)

年間100万人以上の方が、この南小国町に来ていただいているというのは、やっぱりそれだけの魅力があるということなんですね。自然の豊かさ、きれいな水とか空気、ここに住んでいる人たちの心遣いとか。そういったものが、ここに住んでいる町民の方にはなかなか気がつきにくいんですね。

それを少しでも気づきを与えて、地域に誇りを持ってもらうことが、とても大事だと思っています。

また、生活していて「不便」な点、たとえば、水洗トイレが使えるようにするための下水道などの最低限のインフラ整備は進めていかなければと思っています。小さい町ですが、九州最大の川筑後川の源流域に位置する町としては、下水道を整備して、きれいな水にして川に流す必要があります。そこで、様々な方式を比較検討し、できるだけお金のかからないような手法を探し出して、整備を進めています。年間の維持管理費が従来の大手企業の下水道の方式の1/10程度の維持管理費で済む方式で、使用料だけで十分費用を賄っていける見込みです。町の規模や財政状況を考えた、身の丈に合った社会インフラの整備を地域自ら考えていくことが大事だと思っています。