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小谷賢氏の山本七平賞奨励賞受賞に寄せて

December 19, 2007

中島 信吾 (防衛省防衛研究所戦史部教官)


この度、本政治外交検証プロジェクトのメンバーである小谷賢氏の著書、『日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか』(講談社選書メチエ)が山本七平賞奨励賞(PHP研究所)を受賞したことに際し、同じく本プロジェクトに参加している一人として、また、同じ職場に勤務する者として心から祝意を表したい。

小谷氏は、日本におけるインテリジェンス研究を牽引する新進気鋭の研究者であり、受賞作は、旧日本軍におけるインテリジェンス活動の実態を体系的かつ説得的に描いた作品である。従来、旧日本軍のインテリジェンス活動に関する社会的な関心が低かったわけではなく、敗戦の重要な要因の一つとして挙げられることも少なくなかったが、それらは主に当時の担当者の回想やいくつかの断片的なエピソードに基づくものであり、いわば印象論の域を出ていたとは言い難い。

また、氏が指摘するように、イギリスなどの「インテリジェンス先進国」と異なって、「いまだにわれわれのインテリジェンスに対する概念が、『諜報』であり、スパイや謀略の域を脱していない」(118頁)ことは否定できないだろう。そうした中にあって本書は、旧日本軍のインテリジェンスという領域が、たとえば外交史、国防政策史や作戦戦闘史と同様に(あるいはそれらを横断するような)、非常に重要かつ魅力的な研究対象であることを教えてくれる。内外の関係史資料をフルに活用し、旧日本軍のインテリジェンス活動を、(1)情報収集(2)情報分析(3)情報利用に区分し、それぞれのフェーズ毎にその実像と特徴を明快に分析した上で、旧日本軍のインテリジェンス活動の全体像、さらには政策サイドを含めた政府全体におけるインテリジェンス活動の位置づけを明らかにしようと果敢に切り込んだ本書の意義は、極めて大きい。

また、本書の終章で歴史の教訓を抽出しようとしていることからもわかるように、小谷氏の関心は、旧軍時代にとどまらず現代日本におけるインテリジェンスのあり方にも及ぶ。現在日本が抱えるインテリジェンス体制に関する課題を指摘し、その変革を提言するなど、積極的に研究と実際の政策を架橋させる試みを精力的に行っている(くわしくは、http://research.php.co.jp/research/risk_management/policy/post_4.php等を参照)。

このように多方面で活躍する小谷氏は実にエネルギッシュである。氏の前著であり、初の単著となった『イギリスの情報外交 インテリジェンスとは何か』(PHP新書、2004年)刊行からわずか数年で書き下ろされたのが本書なのである。さらにはごく最近、氏の編著2冊、『世界のインテリジェンス 21世紀の情報戦争を読む』(PHP研究所)、『インテリジェンスの20世紀 情報史から見た国際政治』(千倉書房、中西輝政氏との共編著)が立て続けに出版された。

いうまでもなく、氏は防衛研究所戦史部における貴重な「戦力」であり、周囲からの信頼も厚い。防衛研究所が実施している戦争史研究国際フォーラムに関連する諸業務をはじめ、今年は国際軍事史学会において報告するなど、多岐にわたる業務に誠実に取り組んでいる。そうした多忙な業務の中で、多くの良質の研究を短期間のうちにまとめあげた力量は抜きんでており、今回の受賞に刺激を受けている研究者も少なくないだろう。その一人として心からの賀意をあらためて表し、また、小谷氏の今後の一層のご活躍を祈念しつつ筆を置きたい。小谷さん、おめでとう!

小谷賢『日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか』の書評はこちら

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