観音寺市議会の議会改革―2008年度議員研修会(講師:森亮二氏)

地方議会改革のうねり

全国の地方議会の間に改革の大きなうねりが起きている。政権交代に伴い、地方分権が進むのではないかという期待を持ちながらも、今までのように国の動向を期待するばかりではなく自分達が行動を起こすべきと言った機運が高まっている。そんな議会改革の大看板とも言えるのが「議会基本条例」だ。

そこで、今回は改選前に条例の制定に漕ぎ着け、その条例の運用に果敢に挑もうとしている香川県観音寺市議会へ、条例制定後の動向を探るべく足を踏み入れた。

栗山発、議会改革旋風

今から約4年前、議員のスキャンダルでもなく、タレント候補が立候補した地方選挙でもなく、一つの地方議会が全国のメディアや地方行政関係者から注目を集めた。北海道栗山町議会による「議会基本条例」の制定だ。本稿では、同条例の中身については割愛させていただくが、一般的に言われる地方分権とか、政治への市民参加といったような政治論の枠を超えて、本来、地方議会とはどうあるべきかを明文化したことで、全国の地方議会に一石を投じたのだ。

全国の市町村議会、都道府県議会の動きは早かった。全国から栗山町へ問い合わせが相次ぎ、議員視察が殺到した。「向こう半年先まで視察受け入れが決まっていた」と栗山町議会事務局長を当時務めていた中尾修東京財団研究員は振り返る。物見有山と言われていた地方議会の視察であるが、栗山町議会への視察は、他の議会から学ぶという視察の本来の目的を達成するに値するものになり、瞬く間に全国に広がった。そして、今100を超える議会が基本条例を制定したことを知った中尾研究員の表情には、達成感とパイオニアとしての感慨深さがある。

観音寺市議会の転機

「議会基本条例の制定を目指しているが、壁にぶつかっている・・・」1年ほど前、観音寺市議会の大西勢津子局長(当時)より、突然連絡があった。電話口にて簡単なヒアリングを行ったところ、新しく就任した井上浩司議長(当時)と数名の議員、それに大西局長が連携を図りながら基本条例の制定を目指しているが、議会内の抵抗が大きく、苦労しているという。筆者の地方議会議員の経験から、その状況はおおよそ察することができた。

例えば、地方議会の運営に当たっての約束事として、「(自分たちの議会においては)時期尚早」「議会内での根回し不足」といった決り文句が反対者から発せられる。簡単に言えば、行政職員に対して「改革」を声高に叫ぶ議会でありながらも、自らを「改革」するとなると及び腰になる。そして改革を実行しないための理由づくりとして前述の言葉を並び立てる。観音寺市議会も例外ではなかったようで、行き詰まり始めた矢先の相談であった。

過去に基本条例を制定した議会を検証すると、最終的に全会一致で制定されているケースは多いが、議論を俎上に上げるのに一苦労、また、その後の制定過程においてももう一苦労といった様子が見受けられる。その理由として考えられるのが、自己改革である議会改革を求める議員は、議会内では常に少数派であり、正論を主張し孤軍奮闘するが、同僚議員への説得についてはおざなりになりやすいからではないだろうか。

しかしながら、観音寺市議会の改革を推進した勢力は、議長を中心とした当選回数2~4回ほどの市民感覚に近い議員が超会派で集まっていたところが大きい。更には、議会事務局職員も議会改革の必要性を理解し、積極的に議長が進める改革路線のサポート役に徹したことが大きかった。

価値の共有

「わざわざ条例を制定する必要があるのか」「当たり前のこと書いているだけではないか」議会基本条例の制定に当たってはこのような反対派の声がある。観音寺市議会も同様のケースが見られた。

議会基本条例は制定することが目的ではなく、制定する過程において行われる議論の厚みが重要である。市民と議会が対話をしながら共通の目標を作り、それを目指すことがもっとも大切である。議会基本条例を制定することは通過点に過ぎず、むしろ制定した基本条例をしっかりと使いこなすことが大切なのである。

地方議会は年間を通じても80日程度しかない開会日数の中で、定例会以外に全議員が集うことはほとんどない。そのような現状では政策や議会運営を議論しあうことについて十分な時間が確保できるとは言い難い。その結果、全議員が議会改革の必要性という一つの価値を共有することは極めて難しい。一方で観音寺市議会は、議員研修をひとつの手法として、議会として統一した価値を創造できた。議長のリーダーシップや議会事務局長のサポート体制がいかんなく発揮された成果と認識している。このような環境を常態化することが全国に地方議会にも求められる喫緊の課題ではないだろうか。

議論する議会へ

議員研修会から4ヵ月後、2009年6月に基本条例は制定された。その後、議会は改選を経て新たな議員6名を迎えたのだが、メンバーの入れ替え以上に大きな変化が生まれていた。基本条例制定を通じて培われた会派を超えて議論する風土である。

多くの地方議会では基本条例制定が一つの節目を迎える。つまり、制定する時点においては、その後の運用に関する部分まで議論を掘り下げられていない議会も少なくない。議会基本条例の制定が一つの目的となってしまっている議会もある。俗に言う「お飾り条例」である。そうなると、基本条例の存在が塩漬けになってしまう。

また、東京財団では市民参加が保障されていない条例を“ニセ議会基本条例”と位置づけ警鐘をならしている。基本条例が単に議会の自己満足のためにつくった条例であってはならない。基本条例の真の目的は、市民のために開かれた議会である。だが、運営が伴わない、まさに絵に描いた餅になってしまう議会基本条例も多く見られるのが実情である。
実際、改選された観音寺市議会でも基本条例の運用についての具体的なイメージはなかった。例えば、基本条例に明記された「議会報告会」の開催については、どのような内容を報告し、どこの会場で開催するかなどについては議員間で協議を開始したものの、4名の議員は、そもそも基本条例を運用すること事態に反対の態度を表明していた。

しかし、制定に尽力した議長を中心とするコアメンバーが集まり、運営についてもイニシアティブをとり始めることで約2カ月の議論の結果、まずは一度だけ全議員参加の議会報告会を市民会館で開催する案が全議員の合意を得られるという結論となった。崇高な理念と対象的に運営に際してはハードルを下げてしまったことになるが、全議員の価値を共有することを優先し、その後の展開に期待することを選択した。

議会報告会の主な報告事項は、次年度予算に関する内容とした。また、議会報告会を確実に実行していくために、任意組織ではなく広聴広報委員会を常設型(常任委員会化)にすることにした。これにより議論の厚みが期待できる。このような運営方法は他の自治体議会と比較しても極めて稀である。だが、常任委員会である広聴広報委員会が中心となり議会報告会を主導していくことで責任が明確になる。この委員会の動向が今後の観音寺市議会の行く末を占うといっても過言ではない。大いに期待しつつ注視したい。このように具体的、そして着実に走り始めた観音寺市議会は、日本経済新聞社が実施した「議会改革ランキング」で上位にランクづけされた。

強い地方議会へ

地方議会は合議体である。合議を図るには、多様な意見や価値観をぶつけ合いながら意見を集約していくことが求められる。政党色の弱い議会においては、イデオロギーや政治理念という枠に捉われず、生活に密着した問題意識から議員が発言することが珍しくない。世代やそれまでのキャリアなども十人十色の議員同士が集まるのが地方議会の実像である。そのため、議論なくしては何も始まらない。多様な価値観を持ち合わせた議員同士が集合し議論を重ねることが「価値の共有」につながり強い地方議会に変わっていく。わずか1年間で観音寺市議会は「強い地方議会」の代表として生まれ変わった。進化のスピードは当初の想像を超えるものがある。観音寺市議会に続く地方議会の登場が待ち望まれる。

<文責:森亮二>

森 亮二

  • 元東京財団研究員