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【生命倫理サロン】第7回テーマ: 報酬付き卵提供OK? ~生殖補助医療法は必要ないか

September 1, 2011

報酬付きで海外に日本人女性を連れて行き、卵子提供をしてもらう例が出てきたと報じられている。日産婦は、不妊治療ツーリズムについて、どう対応しているのか


卵子売買を伴う生殖補助医療ツーリズムに関して、日本産科婦人科学会は他国の不妊治療について言及する立場にない。あくまで日本の産科婦人科学会の会員がツーリズムの斡旋等の行為に関与することのないように、と周知するのみ。
タイでは例えばタイファティリティークリニックのように、卵子提供、受精卵診断、代理懐胎となんでもお金を払えば、オプションが選べる。アイスクリームのトッピング感覚で。しかも徹底的なコストのダンピングをして、クライアント獲得に積極的だ。
もともとタイは、シンガポールのように富裕層に向けての医療技術提供の展開を進めてきた。しかしこれは今後問題になってくるだろう。臓器移植と異なって、生殖細胞はそこから次世代のこどもたちが生まれてくるからだ。

生殖補助医療法は必要か。それとも日産婦の「見解」(ガイドライン)は倫理規範として機能しているので十分なのか


日本で医療行為の生命倫理の問題を内包する医療行為を規定する法(ハードロウ)は4つしかない。
1.特別養子法
2.母体保護法
3.臓器の移植に関する法律
4.ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律
実質は学会の見解が、産婦人科医たちの医療行為を規定する唯一のソフトロウだ。
これまで根津医師や大谷医師などの除名問題等はあったが、ソフトロウとしてはよく守られてきたと思う。
逆に根津問題・大谷問題があり、裁判で争ったりしたことが議論を深め、見解の会員への周知を高めた、とも言えるかもしれない。
ただそのソフトロウの中では卵子提供に関して言及していない。これは子の出自を知る権利を含めてまだまだ議論が不足しているからだ。出自を知る権利、その前段階のtellingの手段については、社会全体で議論を深めるべきだ。

社会としてすべきことは何か


出自を知る権利については、これを認めるのか?認めるならば、出生児がアクセスできるドナー情報の範囲をどこまでするか?の命題は海外でも実は解決していない。
欧州でも、フランスのように「出自を知る権利」を全く認めていないが、ドナー情報は「出生した児の治療に必要な場合、レシピエントの医師がドナー情報にアクセスできる国もあれば、スイスのように憲法で「自己の血統に関するデータベースへのアクセス権」を保証している国もある。
しかし実際にこの権利が行使されることはまれだ。なぜなら全員にtellingがなされることが少ないからだ。
そもそも子を持ちたいクライアント・カップルが象徴的に思い浮かべるのは「小さな子供」だ。
それは「親の所有物としての子」の意味だ。
ただ「小さな子」は「親の所有物」ではない。彼らも成長し、クライアントと同じような大人になる、そのことがなかなか連想しにくいのではないか?
非配偶者間の生殖補助医療を考えるとき、「クライアント・カップル」(これも母になるひと、父になるひとによってそれぞれのメンタリティが異なる)、「出生してくる子供」、「ドナー」のバランスのとれたトライアングルの形成が求められる。
不妊症治療を担当している医師はともすると、クライアントに近接しすぎるきらいがあるような印象をうける。逆に不妊症に悩むカップルは「赤ちゃんを産むこと」あるいはその全段階の「妊娠すること」が最終目標となる。
日産婦はこの3者すべてを、バランスよく俯瞰できる立ち位置にいる必要がある。
ゆえに「子を産まないカップルの意思を尊重する」そして「生まれてくる子」の福祉に関して思慮する。これは、とても大切なこと、と考えている。

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