現場主義を徹底した復興構想を

~住民の息づかいが感じられる暮らしの再建に向けて~

東京財団研究員 井上健二
東京財団研究員 大沼瑞穂


「東日本大震災復興構想会議」(議長・五百旗頭(いおきべ)真防衛大学校長、以下、「復興構想会議」)の初会合が4月14日、第二回会合が23日に開催され、東日本大震災の復興計画の策定に向けた議論が始まっている。これまでの会議では、被災地主体の復興を基本としつつ国としての全体計画をつくること、単なる復興ではなく創造的復興を期すことなどの方針が示された。構想会議と並行して開催されている下部組織の検討部会でも具体的施策への議論が進められている。一方、構想会議は、「阪神・淡路復興委員会」よりも委員の数が多いことで議論が拡散し、各論での議論が深まらない、増税論に始まる検討部会の温度差などの問題点も指摘されている。

先の論考 「いまこそ、中央防災会議の開催を―既存の組織を最大限活用し、一刻も早く被災地域創生の基本方針を示せ―」 では、土地利用に一定の規制を加えることや被災者にとって安心かつ安全な暮らしの再建や持続可能なコミュニティの再建につながる復興のあり方について、一刻も早く基本方針を示すことの重要性を指摘したが、今回の論考では、先の論考での指摘事項を踏まえた上で、今後の復興構想会議での建設的な議論を促すことを狙いとし、地域再生の視点から、被災地域の復興を具体的に進めていく上で、大切なポイントを明らかにしたい。

1.被災者の住まいや職の確保・創出こそが出発点

この度の大震災の復興に関しては、多くの有識者が、様々なメディアを通じて、「単なる復興ではなく、新しい時代のモデルとなる地域創りを行うべき」と主張している。復興に当たって、新しい時代を見据えて、環境やITSをはじめとした最先端の技術を導入した世界に誇れる地域づくりを進めるという方針自体は悪くはないが、こうした方針での復興を目指すかどうかは被災地域の住民自らが決めることである。復興には、医療・福祉機能、働く場、住まい、教育の4つはどれも欠けてはいけない要素といわれているが、特に、被災者にとっては、暮らしを続けるために必要な生計を立てる職の確保や生活の拠点となる住まいの再建がなければ、いかに立派なインフラが整備され、最先端の技術が導入された世界に誇れる街が再建されても、暮らしが復興したことにはならない。そこで、住まいの再建のあり方や被災者が生計を立てるための働く場の確保・創出について、詳しく見ていくこととしたい。

(1)高齢者が住まいを再建できる支援スキームの構築を

被災地域は、全国に比べて高齢化率が高い地域も多く、年金生活者も多いことから、
今後こうした高齢者がお金を借りて家を再建していくことは至難の業である。現行の被災者生活再建支援法による支援では、最高でも総額300万円しか支給されない。これを200万円上乗せし最大500万円まで支援できるようにするかどうかの検討も進められているが、いずれにしても、不足分は手持ちの自己資金と融資を受ける必要がある。ほとんどの年金生活者はお金を借りることは難しいだろうし、また、借りることが出来ても、返済が難しく、現実には、家を再建することはほとんど無理である。被災者の置かれている厳しい実態を踏まえ、無理のない形で、住まいの再建を実現する知恵と工夫を凝らす必要がある。

たとえば、中越沖地震の際に、新潟県では、リバーモーゲージの仕組みを参考に、土地及び建設する建物の売却により一括返済することを条件に、(財)新潟県中越沖地震復興基金が被災者に対して最高1,200万円の融資を受け、自宅を再建し、生存中は年0.4%の金利返済だけで住むといった住宅再建支援スキームを創設するとともに、同県柏崎市では、短期間で、しかも融資を受けることが可能な金額1,200万円の範囲内で建てられる低コスト仕様の復興支援住宅の提案を行っており、県の住宅再建支援スキームと合わせることで、土地を所有しているものの借入れが困難な高齢者等が無理をしない形で住宅が再建できるような環境を整備している。また、石川県輪島市では、被災者が所有する土地を寄付すれば、その土地の上に市が復興公営住宅を建設し、元の土地所有者が入居でき、一定の年数が経過した後、残存価格で住宅を払い下げるとともに、いったん無償で市に寄付された土地をもう一度、無償で元の所有者に返却するという住宅再建支援スキームを創設するなど、知恵と工夫を凝らし、被災者の住まいの再建を図っている。

家や財産の多くを失い、これからの暮らし向きに不安を抱える被災者が、安心して新しい生活の再スタートを切ることができるため、このような過去の被災地でのモデルを参考に、住まい再建のために英知を結集して対応することが求められている。

(2)働く場の確保・創出の支援なくして再建なし

被災者の暮らしを安定させ、再建を進めるには、生計を支えるための働く場を確保することが重要であるが、これは地場産業が従業員を解雇することなくどこまで耐え抜くことができるかに大きくかかっている。

■被災した地場産業ができる限り速やかに操業を再開できるように、必要な設備等の整備も含め支援可能なスキームを構築することが望まれる。たとえば、能登半島地震の際には、甚大な被害を受けた漆器産業や酒造産業などの地場産業の再生・復興を図るため、国(中小機構)と石川県で基金を創り、建物はもとより設備の復旧や被災企業の首都圏等での販売促進キャンペーンの実施などハードとソフトの両面にわたって地場産業の復興を支援した先例もある。

■また、オールジャパンで被災地域への復興支援を促す仕組みづくりが必要である。すでに首都圏等でも被災地域の産品を購入することによって被災地域の地場産業を買い支えする活動が積極的に行われているが、一時的な盛り上がりで終わることのないよう、大都市圏等において復興支援のための物産市の開催などのキャンペーン活動を持続的に展開することが重要である。また行政も、被災地の農産物等を積極的に仕入れようとする卸業者やスーパーマーケットに対してその仲介役となるなどの取り組みも被災地にとっては大きな力となろう。

地域再生の取組への直接参加は難しいが、「縁のある被災地域の復興には協力したい」との想いを持った人から、地域への想いのこもった「志金」を集め、これを復興に有効活用する仕組みを整えることが望まれる。

■たとえば、「復興田・畑オーナー制度」のような仕組みを構築することも1つの方法であろう。これは、全国で現在行われている「千枚田オーナー制度」を応用し、被災した農家の田・畑の一定区画を割り当てオーナーとしてなってもらい、それに対して会費を徴収し、収穫が出来た場合にその収穫物を手渡すといった制度である。

■農産品等の加工を行う事業の場合には、事業に必要な材料等を購入する費用を、被災地域の復興に共感する人から投資という形で小口での資金を集め事業ファンドを造成し、金利の代わりに製品を現物提供し、最終的には製品の売上から出資金を返還するといった共感をベースとした事業ファンドを造成することも考えられよう。

■このほか、被災地域での事業の再開・創業を支援するため、地域活性化総合特区制度の特区内でのソーシャルビジネス事業者への個人出資に関する所得税控除制度の仕組みを援用し、被災地域の中小企業への出資に対しても同様の税制特例措置を行うことも一案である。

(3)より利用しやすい「ふるさと納税制度」へ

既にメディア等で多くの有識者等が指摘している「ふるさと納税」制度を活用した被災地域の支援についても、被災地域の復興財源を少しでも確保するという意味では大変大きな意義を有するものである。現在の「ふるさと納税」制度では、先に納税したい旨を市町村に伝え、納税後も確定申告しなければならず、手続きが煩雑である。この制度の一層の活用を促すため、「年末調整」手続きの中で控除申請が可能となるよう申請方法及び申請用紙の様式の改善を図るなど、国民が「ふるさと納税」制度を利用しやすい環境の構築を図るべきであろう。

2.復興イメージの共有と具体化のために

復興は、そこに暮らす住民がこれから望む地域での暮らしへの想いを集め、これからの「暮らしのイメージ」や「地域のイメージ」を皆で共有する作業なくしては始まらない。この「イメージの共有」作業をせずに復興の取組みを進めても、住民が望む地域の復興は実現しない。イメージの具体化を図り、実現するために今後何をすべきかを取りまとめた復興ビジョンが、復興を進める上で不可欠である。

このビジョンは、被災地域の暮らしに関わる教育、医療、福祉、産業振興や社会資本整備まで幅広い分野にわたるため、地域の住民、まちづくりNPO、社会福祉協議会、自治体、商工会、農協などの多様な主体のパートナーシップによる地域ぐるみの体制が構築され、そこでのワークショップ等を通じて、地域の想いを形に取りまとめていくことが望まれる。復興ビジョンに盛り込むべき内容は、地域毎に置かれている状況や課題が異なるため、その内容に違いがあるのは当然であるが、主なものとしては、ビジョンの推進期間、目指している復興の方向性やイメージ、そのために必要な具体的な取組・事業内容や実施順序、ビジョン推進にあたっての各主体の役割や取組等の実施体制などがあることが望ましい。ビジョンの推進期間については、復興という取組の性格上、5~10年先程度であることが望まれる。

実際、各避難所や各自治会では、すでに漁村を離れて高台に移るかどうかの議論が行われているが、それは、長期的視点に立ったビジョンを掲げた議論とは言い難い。高台に移って港に通うか簡易住宅を作ってそのまま漁村に住み続けるか、「防災的視点」からの見方にとどまり、真二つに割れているようなところもある。防災的な視点での議論はもちろん必要であるが、高台に住みたい人は高台で、港近くに住みたい人は港近くで。というようにこれまでのコミュニティが分断されてしまえば、その後の生活では、より一層の過疎化や高齢化を招き、コミュニティの崩壊へと続いてしまう。復興までには時間がかかると苦渋の思いで地元を離れて別の仕事を探そうとする若者も多い。コミュニティの存続と新しい漁村の姿とはどうあるべきかの議論を防災的視点とともにセットで行い、「新しい漁村」のイメージをともに作っていくことがビジョン作りには欠かせない。

そのためには、小さくとも多くの住民やNPO、行政などの主体ができるだけ関わる形でビジョン策定委員会のようなものをつくっていかなくてはならないだろう。政府は復興ビジョンが具体性を備えたものとなるよう現地の人たちがビジョン作りをする中で必要としている様々なジャンルの専門家、建築家や企業経営者、地域コーディネーター等を委員会からの要請に応じて派遣し、現場からの声を忠実にプランに組み込んでいく必要があるだろう。官邸での議論も重要だが、現場の声をしっかりと聞くという観点から東北での復興構想会議開催も東北経済が冷え込む中、前向きに検討してよいのではないだろうか。

出来上がった復興ビジョン自体の推進は、最終的にはコミュニティが中心となって、行政とも連携しながら進めることが望まれる。特に、地域資源を活用したコミュニティビジネスやソーシャルビジネス等の事業については、事業を行う上での責任体制の明確化や迅速な意思決定を図るため、地域の多様な主体のパートナーシップによる事業組織を立ち上げ、この組織が自ら様々な事業を展開することで、被災者の雇用の場も創出しながら、復興に必要な事業を積極的に進めていくことが効果的である。そうした事業組織に対して、志金やふるさと納税が直接支援できる「見える化」も行政にとっての大きな役割となってくるだろう。

なお、津波によって甚大な被害を被った市街地等では、今後、復興ビジョンを集約した上で、市町村の策定する復興計画に基づき事業を行うため、土地の区画整理が必要となる地域も出てくると思われる。復興事業が着手される前に無秩序な建築物等の建設が行われないように建築制限をかける必要がある。すでに多くの場所で住民がプレハブの住宅を建築しているなどの報道も散見される。現行の建築基準法第84条では、被災地域内での建築制限を災害発生日から1月以内の期間、延長する場合には更に1月を超えない範囲内に限り行うことができると規定されているが、未曾有の被害を受けた被災地域の実態を鑑みると、現行の建築制限の期間では対応は極めて難しい。このため、政府では、建築基準法第84条の規定にかかわらず、一定の要件に該当する市町村などの特定行政庁が指定する区域において、最大11月11日まで建築制限を可能とする建築制限特例法案の検討が進められている。今後、国会での速やかな法案審議が行われ、復興計画を進めるために必要な環境整備が着実に進むことを期待したい。

3.地域の自由な意思と自由な創造力を大いに発揮できる支援を

国による復興の支援にあたっては、抜本的な規制改革もまた一つの大きな柱となってくるだろう。4月24日に開催された東日本大震災復興構想会議の第二回会合でも、村井宮城県知事が「東日本復興特区」を打ち出した。これまでも、国はパイロット自治体構想や構造改革特区、そして現在も総合特区と地方分権を進めるために、様々な方策を提示してきたが、各省庁の反発は強く細かな政令等はいまだに地方を縛っている。そのため、「特区」という言葉を超えて、「規制ゼロ」という言葉を掲げて、地域主体での復興ビジョンが実現すべく、政府として方向性を示していくべきである。また、復興ビジョンに基づく市町村の復興計画に対して、必要な事業費を被災市町村に交付する際、被災地域の実状や状況の変化に応じ、執行過程で発生した余剰分等を計画に記載された他の事業にまわすことができる、また、年度内での執行ができない場合でも特別な手続きをすることなく次年度に持ち越すことができる複数年度の執行を可能とする柔軟性と迅速性を兼ね備えた交付金制度であることが望まれる。「特区」「規制ゼロ」を掲げた抜本的な構想が出来上がったとしても、その後の運用が硬直的では本末転倒だからだ。なお、事後に評価委員会を設け、適切な執行が行われたかどうかをしっかりと検証することとは当然のことである。

大震災発生から一ヵ月が経過し、復興に向けた議論がこれから本格化してくると思われるが、被災地域をどのように復興するかは政府が決めることでも、自治体が決めることでもない。そこに暮らす住民のこれからの地域での暮らしの想いを集め、形にしていくことが基本になければならない。「住民の自治力」が今まさに問われているとも言える。


【参考】
第6章 雑則(第84条-第97条の6)
(被災市街地における建築制限)
第84条 特定行政庁は、市街地に災害のあった場合において都市計画又は土地区画整理法による土地区画整理事業のため必要があると認めるときは、区域を指定し、災害が発生した日から1月以内の期間を限り、その区域内における建築物の建築を制限し、又は禁止することができる。
2 特定行政庁は、更に1月を超えない範囲内において前項の期間を延長することができる。

井上 健二

  • 元東京財団研究員

大沼 瑞穂

  • 元東京財団研究員