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第二期第1回研究会【給付付税額控除研究会】

February 26, 2009

2月20日、みずほ情報総研の藤森克彦主席研究員から、「英国の雇用政策」について報告を受け、その後メンバーで議論を行った。

藤森氏の報告の概要は以下のとおり。

「福祉から雇用へプログラム」

英国の労働党政権では、「働くことができる人には仕事を、働くことのできない人には保障を」という理念のもと、低所得者に福祉手当を支給して最低限の生活を保障という「現金給付」から、低所得者に職業訓練等を行なって労働市場に送り出す「能力開発型」に重点を移した。これは、「トランポリン型福祉」と呼ばれ、「福祉から雇用へプログラム」に具現化されていった。

貧困問題の捉え方について、ブレア政権では、貧困の背後にある社会構造として、「社会的排除」を問題視する。「社会的排除の悪循環」を断ち切るために、スキルをつけてエンプロイアビリティを高めることを重視したのが「トランポリン型福祉」である。「トランポリン型福祉」の優れた点としては、働くことが何よりの生活防衛であり、貧困から抜け出す最も確実な方法であるということや、長期的には、福祉手当依存者を減少させ納税者に変えるので、財政負担の軽減に寄与することがあげられる。また、「経済の担い手」を育成し増やすので、労働生産性の向上などにも結びつく。つまり、職業訓練や教育などの人的資本形成への支援は、コストではなく「投資」(A.ギデンズ「社会投資国家」)という見方がされている。

「福祉から雇用へプログラム」は、(1)就職活動支援と職業能力開発の強化、(2)所得保障給付の条件化(就職活動/職業訓練などの義務付け)、(3)就労によって得られる賃金を魅力のあるものにして、就労インセンティブの向上(最低賃金制と勤労税額控除)、(4)働く環境の整備(ワークライフバランス、保育所の整備など)がその内容となっている。

若年失業者ニューディール―就職活動支援、職業訓練等

第1と第2の柱は、若年失業者ニューディールに具現化されている。ニューディール政策の予算は、労働党政権の目玉政策で、1997~2003年度までに、民営化企業への課税を財源に、52億ポンド(約7,020億円)を投入。04年以降も、一般財源から23億ポンド(約3,173億円)以上を投入した。プログラムの内訳をみると、2000年以降のプログラム費用合計のうち、46%程度(年平均303億円)を若年失業者対策に投入した。若年失業率は、93年から01年にかけて低下したが、05年より上昇傾向にある。

若年失業者ニューディールの制度的枠組みとしては、個人アドバイザーが、各失業者に一人ついて就職カウンセリングをして、就職活動を支援する。それでも就職できない若者には、半年間の職業訓練の機会を与える。そして、このプログラムに参加しない若年失業者には、「所得調査制求職者手当」(失業扶助)の支給が停止される。

若年失業者・長期失業者を訓練生として採用した事業主は8万人に及ぶが、中小企業が多い。

ニューディール政策については、雇用後のサポートの必要性が認識されている。これまでのプログラムは、雇用後のサポートが不足していたので、電話連絡、面談、長期雇用への経済的支援、職業訓練、相談相手、トラブルの仲介役などをきめ細かく行うとともに、就職支援プログラムとスキルアッププログラムの連携を図っている。

最低賃金制と勤労税額控除

第3の柱は、賃金を魅力的にする施策であり、最低賃金制と勤労税額控除があげられる。最低賃金制を99年に導入し、平均賃金率を上回るペースで改定していった。

また、勤労税額控除(Working Tax Credit)については、「負の所得税」の考え方を反映したものである。低所得就労者には、国が税額控除として社会保障給付を支給する。その内容は以下の通りである。

(1)対象:課税最低限以下の所得の就業者(いわゆるワーキング・プア)
(2)目的:低所得者の就労を促進するための制度
→2003年の改革で子供の有無に関わりなく低所得世帯に対象を拡大した
(3)勤労税額控除の受給要件
・16歳以上で本人あるいは配偶者がフルタイムの有償労働をしていること、
・最低でも週16時間以上の就労をしていること(子供のいない25歳以上の者は週30時間以上の就労が必要)
・収入が一定水準以下であること
(4)給付額:受給資格者であれば受給できる要素:「基礎要素」
受給者の状況に応じて加算要素
(5)備考
・支給基準額(2005年:年収5,220ポンド≒約120万円)以下の所得
→基礎要素と該当要素を加えた全額が給付
・グロス所得が支給基準額を超えた場合
=(就労税控除合計額+子供税控除合計額)-〔グロス所得-支給基準額(5,220ポンド)〕×37%

働く環境の整備

第4の柱は、働く環境の整備である。具体的には、「ワークライフバランス・キャンペーン」による柔軟な就業形態の導入促進などを行った。また、柔軟な働き方に対する労働法制の整備として、週48時間労働時間規制、パートタイム労働規制、柔軟な働き方への申請権を確立した。

日本への示唆

日本への示唆としては、「トランポリン型福祉」の考え方が必要ではないか。つまり、労働教育は「コスト」ではなく「投資」と捉えて、外部労働市場における職業訓練の強化が必要である。また、「福祉から雇用へ」の具体策として、(1)就職活動支援と職業訓練の強化(個人アドバイザーの拡充、地域の事業主と職業安定所の連携)、(2)所得保障の条件化(公的扶助の重層化、給付機関+就職斡旋機関、訓練機関の充実)、(3)賃金を魅力的にする「勤労税額控除」の導入、(4)働く環境の整備としての、「ワークライフバランス」である。

また、多面的な対策として、最低限度の生活保障は、公的扶助によってのみ達成されるのではなく、教育や雇用などを含めた社会政策全体で達成されるという視点も重要ではないか。

以上の藤森報告に対して、種々議論が行われた。

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