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トップインタビュー:在ニューヨーク国連代表部 高須幸雄大使に聞く

September 21, 2007

高須幸雄国連首席大使は、古くは、国連のACABQ委員や国連事務次長補、財務官、最近では、外務省本省の国際社会協力部長や在ウィーン国際機関日本政府代表部大使などを歴任し、国連システム内外の国連関係者間に高い知名度を誇ります。

国連60周年を記念した2005年の成果文書が、21世紀の国連の将来像に関し、人権理事会や平和構築委員会の創設などの一部成果を除き、明確なビジョンが描ききれなかったと批判されている現在、日本の国連外交の今後のあり方に関し、国連首席大使就任にあたりどのような抱負をお持ちかを中心に聞きました。(於:在ニューヨーク日本政府代表部、日時:2007年8月29日、インタビューアー:蓮生郁代、大阪大学大学院客員准教授)


インタビューの全体の構成

質問1:国連改革(行財政改革)
・ 包括的な国連改革の意義
・ 賢人会議の成功の原因
・ 国連の行財政改革への今後の抱負
・ 『士気に溢れた元気な国連』
・ 透明性の向上と情報開示の推進

質問2:安保理改革
・ 安保理改革への3つの質問
1. 常任理事国の反対を今後どうするのか
2. 準常任理事国という案に対抗する案の形成は可能か
3. 仕掛けのタイミングはいつか
・ アフリカ票の行方

質問3:長期的な人材育成プラン
・邦人職員のライフロングの人材育成の制度化

質問4:今後取り組むべき他の課題
・平和構築委員会
・人間の安全保障


質問1:国連改革(行財政改革)

--包括的な国連改革への取り組みは?
「過去20年あまりの国連の行財政改革の大きな変革のモメンタムとなった時期を振り返ってみますと、1985年の国連創立40周年記念総会における賢人会議の設置が挙げられるのではないでしょうか。同会議の立役者だった大使は、以前別のところで、同会議はもともと国連だけでなく国連システムも含む改革を、また、国連憲章改正も含みうる抜本的な改革を目指していたが、様々な反対にあい意図したようにはならなかったということを発言しておられました。」
「その後国連で試みられた行財政改革は、これら2つの限定条件の下に行われるのが通例となりましたが、私は、それには大きな疑念を感じています。たとえば、石油食料交換計画破綻の一連の過程からも明らかなように、安保理の機能向上にも踏み込んだ機構改革の一環としての行財政改革というものが、本来は求められるべきなのではないでしょうか。」
「国連首席大使として、国連システム全体の改革を目指すようななんらかの仕掛け、あるいは国連憲章改正を含みうるような抜本的な包括的な改革を、今後日本が主導していくような抱負がおありかどうかお聞きしたく思います。」

孤立無援から成功させた賢人会議

高須大使
「まず、なぜ1985-87年の賢人会議の改革があれだけの成功を―国連のスタンダートから言って―収めることができたのかということから話したいと思います。第1に、賢人会議は日本のイニシアティブで始まったのですが、最初は孤立無援の中での奮闘であったがゆえに、逆に日本代表部が結束して日本の真意について加盟国の説得が得られるようみんなよくがんばったということが言えると思います。第2に、当時の国連は、カッセバウム修正条項の米議会可決による分担金の不払いが起こり、深刻なキャッシュフローの問題に直面しておりました。したがって、背に腹は変えられないというか、国連存続の危機という意識が皆に強く共有されていました。ちなみに、この分担金不払いの問題は、その後アメリカは何度か同じようなゲームをやっているのですが、二回目以降は同じような効果はありませんでした。」
「誤解のないように申し上げますが、賢人会議の提起自体は日本がアメリカを助けるためにやったというわけではありません。また、日本のイニシアティブをアメリカが当初から積極的に後押ししたというわけでもありませんでした。むしろ、当時(1985年)40歳になった国連には中年太りをおとす改革が必要だという純粋な認識がその原点にはありました。当時既に国連と国連の専門機関の関係は希薄でしたが、それは、そもそも国連憲章が想定したような国連が発足した40年前に考えられた国連と国連の専門機関とのあり方とは違うのではないか、その意味で、国連システム全体のあり方を含め、もう一度見直す必要があるのではないかという意識がありました。」
「当初各国は大変警戒心が強かったけれども、純粋に国連の機能強化のためを思ってやっているのだという日本の真面目なイニシアティブや善意が自然に周りにも伝わっていき、途中から驚くほど多くの加盟国が日本のイニシアティブを支持してくれるようになりました。もちろん多くの加盟国の支持を得る過程においては、国連システム全体ではなく国連のみを対象とする、および国連憲章改正は伴わないというような妥協も重ねなければなりませんでした。ところで、ここでいう国連憲章改正を伴わないというのは、具体的には、主権平等の尊重のことを言っており、すなわちカッセバウム修正条項の要求した加重投票制は検討しないという意味だったことをお断りしておきます。」

周囲のサポートが改革に必須

高須大使
「次に、今後、賢人会議が目指したような国連システム全体の改革、あるいは国連憲章改正を含みうるような抜本的な改革をまた再び目指す意図があるのかという質問についてですが、安保理改革はまた別だけれども、国連行財政改革一般に関しては、今日、事務総長にも申し上げたのですが、洗濯物を一度洗ったのだけれどもきれいにならなかったからもう一度洗う必要があるというのに似た感じというか、新味がないというか、そういう感じがありますね。したがって、その機運というか、それをやるだけの周囲のサポートが得られるのかどうかということを今我々は考えているところです。」
「1985年の賢人会議が目指したような国連システム全体の改革の必要性という問題に関してまずひとつ言えるのは、ここ20年間、グローバル・イシューズに対する取り組みへのニーズの拡大により、国連および国連の専門機関のもつ専門分野の役割というものが拡大したということが言えるのではないかと思います。国連憲章に規定されたような国連総会が全体の姿をえがいて、専門機関がそれぞれの専門分野で、というような関係をこれから築くというのは、大変難しい課題です。いろいろな理由からそれをやる意味があるのかなという気がします。」
「もうひとつは、特にブッシュ政権になって、国連や多国間主義を幾つかの外交の道具の一つとしてみる態度、あるいはアラカルト多国間主義の傾向が強まったことを受け、それに対する諸国(とりわけ途上国)の反発も非常に強くなりました。したがって、建設的な議論-マンデート・レビューにせよ―の進展が妨げられるようになってしまいました。」
「さらに、国連における改革というものの特性として、迫られてやるというような状況が必要なのではないかという気が致します。いわゆる”Don’t fix it until it’s broke.”の思考方式の方が多いのも理由の一つですね。改革というのは、一人で逆立ちしてやるのは無理なので、どこまで野心的なことができるかに関しては、MDG達成などの活動の調整をこえて、国連システム全体について今抜本的な改革にはあまり期待はもてないのではないかと思っています。」
「その一方で、国連については、かなりやれることがあるな、という気がしています。ただ改革は一人ではできないので、改革を推進していくには仲間が必要なわけです。ところがそれに対してなかなかいい仲間というのは少ないわけです。アメリカも新しい国連大使が就任し、彼の就任演説の優先事項の中にマネジメントやマンデート・レビューが挙げられていたわけですけれども、彼がどこまで本気なのか是非見極めたいと思っています。特にアメリカで問題なのは、米政府内でもなかなか意見の一致がみられないことが多く、それゆえ具体案がなかなか伴わないということです。ということで、日本のような国が提案を作ってどうだ、というようなことが必要となってくるわけです。そうすると先方もまとまりやすくなる。また、アメリカには、マネジメントの問題をポリティサイズする傾向がある人たちが存在するのは事実ですし、それによって実際足をすくわれてきたこともありました。ただ、今度の新任の(アメリカ国連)大使は人の話をよく聞く人だということですので、本当に(改革を)一緒にやっていける相手なのかどうか、よく見極めたいと思っています。」
「さきほど石油食料交換計画を例に挙げておられましたが、これに関しては、まさにおっしゃられたとおり、安保理が同計画の枠組みとなるメモランダムを決定したにもかかわらず、事務局がそれを実施するのに必要なサポートを安保理は与えなかったというのが、問題の根底にありました。国連事務局にはこれほど大規模な事業を実施できる体制、職員、手続きも整っていませんでした。もちろん不正をした事務局の人間がそれを追及されるのは当然のことですが、問題は確かにそれだけではなかったということが言えると思います。」
「昨日、(大使)就任の記者会見があったのですが、いったい何を改革したいのかと聞かれて、事務局は複雑骨折している状態に近いので、完治するためには全部やらなければならない、しかし、全部やるとなるとどこから始めればいいのかわからなくないという状態に近いと思います。その中でも、特に強調したいのは、調達の問題のところですね。」

--『士気に溢れた元気な国連』は可能か?
「2005年の成果文書採択以降の国連の行財政改革の主たる特徴は、捜査機能の強化など行政の事後統制強化に重きが置かれていることです。このようなアメリカ主導の動きの中で、日本は、第5委員会のIAAC(独立監査勧告委員会)のTOR(terms of reference)の交渉の場などで、内部統制の重視という価値観を打ち出してきたのが注目されます。」
「アメリカの国連観が事務局性悪説に傾きつつある現在、より協調的な日本の国連観あるいは日本的な行政文化が、広く国連行政の屋台骨の中に植え込まれていくことを望んでいるものは多いと思われます。私としては、平たく言えば、『士気に溢れた元気な国連』というのを望んでいるのですが、たとえば新公共経営論に基づく権限委譲の推進など、今後日本としてはどのようなリーダーシップをとることをお考えか、お聞きしたく思います。」

職員には精神的な満足感を

高須大使
「日本の協調的なアプローチというのは、おっしゃる通りでして、そういう意味で事務局からも大変感謝されているということが言えると思います。しかし、その一方で、国連の事務局のような他人のことには口を挟まない、言われたことだけを最小限やるというような大変デフェンシブな蓄積された(行政)文化があるところでは、性善説だけでは対処できない問題が現実にあると思います。権限の委譲の推進により一人ひとりの士気を高めるということも重要ですが、監査のような事後統制の強化はやはり必要ですね。というのも、人数の限られた非常に優秀で献身的な人達が事務局を支えているというようなお寒い状況が事務局にはあるからです。」
「ところで今ご指摘された士気の問題ですが、確かに事務局の士気は今大変低いと思うのですよ。最近で事務局の士気が高かったのはいつかというと、たとえばコフィー・アナンの任期で言いますと、第1期(注:1997年-2001年)に大変高く、第2期(注:2002年-2006年)に落ちたということが言えるのではないかと思います。士気がどういうときに上がりまた下がるかと言うと、給料の昇給やリワードの付与のような物質的な要因はもちろんありますが、それが全てではなく、精神的なサティスファクションとかモーティベーションというのも大変重要な要因だと思います。第1期には、アナンは内部出身だったこともあり、スタッフに対する配慮というのがあり、それがプラスに働いていました。また、イラク訪問など外交的手腕もみせました。私も、当時、職員がみんな輝いていたのを覚えています。ただし、第2期には、ベノン・セバンの問題(注:石油食料交換計画関連不正スキャンダル)の対処の仕方といい、内部出身だったことが身内に甘いという結果につながってしまいまして残念でした。」
「私自身も事務局に出向していた当時、(加盟国の不払いによる財政危機に対処するため経費の大幅削減が決まり、)事務局の職員をみな大会議室に集めて、集団団交に似たようなものをやったことがありました。もちろん大変な反発と抵抗を事務局内部の職員から受けました。また、給与、年金などに関する国連総会の決定は、国連システムの他の専門機関にも適用されるため、ユネスコの組合を始めとして大変な抗議を受けました。しかし、結局は、職員の大幅な配置転換を行い、首は切らない、ただし給与や年金などの待遇に関しては痛み分け、今やらなければ将来的にはもっとカットしなければならなくなるだろうということで、なんとか納得してもらうことができました。このようなことは、やはり組織トップに対する信頼感が大変重要になってくるわけですが、ただし、今このようなことを(内部で)やることができるだけの力をもった人材は残念ながらいないです。」

--国連事務局財務官時代、透明性向上で苦労した点は?
「大使が事務局の財務官(コントローラー)だった当時、透明性の向上や情報開示の推進に努め、それが内外の信頼感の醸成に役立ったと言われています。この国連(注:外交団も含む広義の国連)に対する情報開示の推進や透明性の向上の要求というのは、東京財団メールマガジン『国連ウォッチング』の目指している方向とも一致しています。そこで当時、事務局内部から情報開示を推進していった上での苦労や成果などをお聞きかせ下さい。」

「情報の選択は悪」「政策判断は事務局ではなく加盟国に」を徹底

高須大使
「コントローラーのようなポストに国連事務局外部の人間がくることは大変稀でまずありえません。私のケースは例外です。事務局生え抜きでない外部(注:加盟国政府)から来た人間としてまず驚いたのは、当時、事務局の管理部門には、情報は力なりというか、自分にとって有利なように情報をセレクティブに出し、全体像は言わないという悪しき傾向があったことでした。また、全ての情報を出してしまえば、自分の立場(ポスト)が脅かされると信じ込んでいる職員も多くいました。一部の先進国は事務局の中にかなり深く入りこんでおりますので、情報の入手が可能でしたが、途上国のほとんどの国にとっては無理な話でした。そこで、私は事務局の管理部門の職員に対して、事務総長や事務局職員がアカウンタビリティーを果たすべき相手は、主人たる全ての加盟国政府に対してであって、加盟国が正しい判断をできるような全ての必要な情報を提供する義務があるという建前を強く主張しました。すなわち、全体像を把握し、バランスのとれた健全な判断をするのは、事務局幹部職員ではなく、あくまで加盟国のほうなのだということを改めてはっきりさせたわけです。また、加盟国の中には、当時新規の加盟国なども多くあったわけですが、そのような行財政のような専門分野に必ずしも明るくない新入生(注:新規加盟国)を含め、かんでふくんだように誰にもわかりやすいように説明することの重要性も説きました。」
「当時の雰囲気は、ご存知のような時代(注:ガリ事務総長)ですから、総会や第5委員会などに説明に行くと本当にみんな怒っていて、加盟国から石を投げられそうな雰囲気でした。ただ、その石は自分に投げられているのではなく、その背後にいる事務総長に向かっているのだろうな、と自信を持って臆せずに説明に行きました。」
「ガリ事務総長の時にアメリカが管理局長のポストを始めてとったわけですが、最初の方はすぐにやめ、次の方もすぐに解任され、しばらく同ポストは空席となり、その後に、プライス・ウォーターハウス出身のアメリカ人が来ましたが、『プレゼンテーションが全て』という持論を持った人でした。ということは、自分たちのシナリオ通りによく見せることができるかということに固執したような側面もあったわけです。しかし、それは加盟国にはわかってしまうわけです。それで途上国を中心とする加盟国には随分批判されるようなこととなりました。97年初め、日本政府代表部のほうから、日本が安保理非常任理事国になったのを機に、私に代表部に戻って欲しいということで事務局を去ることとなりました。その時、途上国の代表が嘆願書を持って事務総長のところに会いに行き、情報開示に積極的な私だけは(事務局内部に)残してくれと頼んだということもありました。」
「私は、事務局の外から来ておりましたので、事務総長に罷免されるのが怖いというようなことはなく、怖いもの知らずというようなところがありましたが、内部の生え抜きの職員は事務総長にはだれも逆らえないというか、びくびくしておりだれも思ったことは言わないというところがありました。その一方で、あまり表の世界では何も言わず、むしろ裏の誰もいないところでぎゅっと押さえてやってしまうというか、そんな裏の面がありましたね。実際、事務局内の主要ポストを押さえている一部の特定国にとっては、情報の開示などを推進しないことによって、むしろ利益を得ていたというか、それをうまく利用していたようなところがありました。」
「そのような国連や国連事務局を自国の外交の道具としてしかみなさないというような考え方とは、日本は一線を画していたと思います。日本は謙譲の美徳、コンセンサスの重視というか、途上国の主張にも耳を傾けていこうということがありました。日本にとっての多国間主義というのは、国連を道具のように使うとか、国連を道具としてみなすということではありません。また、多国間外交において、日本の主張だけが通るということを求めていたわけでもありません。ODAが世界のトップレベルにあった時点の日本の外交は、言うなれば楽だったわけですが、そういう気前の良い外交が通用しなくなったからといって、国連を道具とみなすという方向に急に転換するというわけではありません。国際公共財の拡張に尽くすというか、そういう公共的な意識を失わずにやっていこうと思っている部分が半分はあります。」
「その一方で、残り半分は、日本にとっての国連という部分になるのですが、それにしても、単に日本のためばかり考えるわけではありません。たとえば安保理改革を例に挙げても、60年前の安保理の構成が現在の国際社会の現実を反映していないし、安保理の機能向上のために役立つ改革を行って、その中で日本の常任理事国化を目指すという側面があります。」

質問2:安保理改革

--安保理改革の今後は?
「大使の『G4案の見直しが必要で拡大後の総議席数は25よりも少なくする。しかし、準常任理事国という新たなカテゴリーを設けることには反対』という発言に関して、詳細をお聞きかせ下さい。」
「とりわけ、1. 常任理事国であるアメリカ(拡大後の総議席数は20までと主張)と、中国(そもそも日本の常任理事国入りに反対)をどのように説得していくのか。2. 準常任理事国という案に対抗するような独自案の形成は可能なのか。3. 安保理改革に関するなんらかの仕掛けというのをするとしたら、それはどのタイミングで公にしていくことを考えているのか、の3点についてどうお考えでしょうか。」

先の見えない「準常任理事国案」には乗らず

高須大使
「2005年当時のG4案が頓挫した今、まったく同じものを持ち出しても意味がないということに関しては、既に広くご理解頂いていると思います。アメリカを含むP5(注:拒否権をもつ5大国)が、心からの賛成はしなくとも、少なくとも強い反対はしない、かつまた、総会の3分の2の賛成もとらなければならないということになりますと、選択肢はかぎられてきているという問題はあります。」
「まず、1. のアメリカの反対に関する問題ですが、アメリカは安保理改革の問題については積極的には取り上げたくないというのがもちろんベースにあるわけです。ただし、それについては、安倍総理になってからアメリカの大統領と2回も首脳会談で問題提起して理解が進んできていますし、中国との関係も以前に比べ、状況は良くなってきている面はあると思います。」
「次に、2. の準常任理事国という案に対抗するような独自案の形成は可能なのかという問題ですが、中身については、まだ模索しているところでして、はっきりとは申し上げられません。ただし、暫定的措置あるいは中間案が言うような準常任理事国案に積極的にのっていくというのは、考えていません。その理由は、暫定的措置あるいは中間案というのは、最終的な段階への過渡的なプロセスであるべきなのですが、同案の問題は、最終的にどこにゆきつくのかが、今の段階でははっきり見えていないからです。最後に安保理改革が行われた時(注:1965年に行われた安保理非常任理事国の拡大)を考えても、もしも今回暫定案を受け入れたら、その後の改革案が合意されないままそれが40年、さらには60年は続いてしまうかもしれないという危惧があるわけです。そのようなことは受け入れられない、というように考えています。」
「3. については、第62回総会会期中になんとか実質的な前進を図ろうと思っています。私は、以前のG4案の25カ国への拡大というのは、そのままでは無理だと思っています。また、G4との連携に関しては、G4の国はそれぞれが天敵となるような国をもっているわけで、G4と一緒だと、日本はそれらの国をも敵に回してしまうという危険もあります。その一方で、2005年の首脳会合のときのように、総会の3分の2の票をとるのに大変近いところまでいったというのは、やはりG4諸国との連携の成果だったわけです。たとえG4や主要国の間で、今後、新しい改革案の内容に内々で理解が進んだとしても、誰が提出するかたちをとるのかということも慎重に考える必要があります。」

--アフリカ票獲得の対策は?
「1986-87年のラザリ案の形成過程しかり、2005年のG4修正案形成過程しかり、今後の安保理改革においても鍵となるのは、quick sandsのようなアフリカ票の行方ではないでしょうか。日本のODAも総額として低下傾向にある中、今後、どのような対策を考えているのかお聞かせ下さい。」

今総会中に実質的な前進図る
高須大使
「アフリカ票に関しては、おっしゃる通り、その趨勢を押さえるというのは非常に重要なわけで、先ほど私が安保理改革の次の一手を『年内すぐに』ではなく、『第62回総会会期中に』やろうと言ったのは、その意味です。というのも、安保理改革に関するアフリカ諸国の合意というのは、首脳会合(注:アフリカ連合)において決まってしまっているわけで、首脳会合でなければ、その合意の変更はできないというのがアフリカ諸国の立場だからです。来年1月の首脳会合における決定の動向を見極めてからという意味で、来年7月までの第62回総会会期中というタイムフレームの中で実質的な前進を図ることを考えています。」

質問3:長期的な人材育成プラン

--邦人職員のライフロングの人材育成制度が必要では?
「邦人職員増強の分野では、シニア・レベルの高級ポストへのポリティカル・アポインティーと、エントリー・レベルのジュニア・ポストへの送り出しの二つのルートが、これまで主流でした。その中でとり残されてしまったのが、ミッドキャリアの邦人職員のキャリア・ディベロプメントの問題です。」
「そこで、たとえば、ミッドキャリアの職員をリーブの制度を利用し外に出させる、その間、公共政策大学院などで実務的な講義の教鞭をとる、シンクタンクなどで国連研究のプロジェクトに従事する、トランスナショナルなNGOで政策提言的活動を経験するなどのより付加価値のつくような経験を2、3年させ、また国連システムに戻すというような制度構築を考えるべき時にきているのではないでしょうか。国連システムの屋台骨となって支えるべきミッドキャリアの職員たちが自らの将来像に関し夢を描けないようでは、『志気に溢れた元気な国連』の実現は難しいと思うのですが。」

政府代表部や国連大学も受け皿の一つ

高須大使
「中堅の邦人職員の問題が、今のご質問の趣旨かと思いますが、問題はそれだけではないので、まず、エントリー・レベルのほうの問題から、お話したいと思います。今、おっしゃられたように、エントリー・レベルの人材補強のためには、アソシエート・プログラムや国連競争試験などの制度があります。後者の競争試験に関してですが、既に98年に財務で合格した邦人がまだポストをオファーされていなかったということを最近聞き、私自身も大変驚き、これでは駄目だと思ったのですが、このように、エントリー・レベルでもJPOを重視するなどまだまだ取り組むべき課題が多数あります。」
「次に、中堅職員の問題ですが、中堅職員の場合は、家族、キャリア・パス、昇進などいろいろな問題が複合的にあり、なかなか容易にはいきません。特に、最後の昇進の問題が一番重要ですが、いったん中に入ってしまいますと、内部で昇進していくのは大変時間もかかり、また難しいのが現実です。そこで、いったん1回外にでて、また内部に戻るという作業が必要になってくるわけですが、そういう意味で、今、おっしゃられたような選択肢は重要ですし、さらにプラスして申し上げれば、日本政府代表部や国連大学なども、その受け皿の選択肢の一つになると考えられると思います。」
「最後に、幹部職員の問題ですが、この問題は、現在実に深刻ですね。今、国連事務局本部には、USG(注:事務次長)が一人いるだけで、ASG(注:事務次長補)もゼロ、D(注:局長)レベルは、D2もD1もゼロです。私が以前代表部にいたときは、邦人の人事の問題は積極的に自らやりました。今、戻ってくると、それらのシニア・レベルの方たちが皆退職なさってしまっていて、いわゆる端境期に入っているというのが現状です。もちろん内部出身者に上がっていってもらうのが一番いいわけでして、現在、事務局本部にはP5は16人いるということですが、D2がいないということは、もちろんASGの候補にはすぐにはなれないというわけで、本当に問題ですね。」
「この計画的な人材育成プランの欠如という点に関しては、私にとってもう少し身近な例を挙げれば、実は、外務省も同じことが言える。私の場合は、マルチが長くなってしまったわけですが、私のような例は、外務省の中では例外なわけです。それで、私の役割の一つは、外務省の中でマルチ外交に強い後進を育てるということだと思うのです。それを偶然の積み重ねではなく、外務省の中で制度としてやる必要がある。そのような人材を計画的に育てるためには、普通の人事のローテーションではなくて、たとえば、適性がある人を若いときに国際機関に長く出向させる、本省だけでなく現地も知る必要があると思うので政府代表部も何回か経験させるなど、計画的にやっていく必要があると思っています。誰もが平均的にいろいろなことを知っているというようなジェネラリスト志向の人材の育て方では、それでは、もうマルチの外交では通用しなくなっていると思うのです。外務省の中の人事の都合もありますので、(人数に関しては)多くを望むのは無理かもしれませんが、少しでも多くのマルチ外交に強い人材が育つことを希望しています。」

質問4:今後取り組むべきその他の課題

--今後取り組むべき課題は?
「今後取り組むべき課題として、既に挙げた課題(国連行財政改革、安保理改革、人事制度改革)のほかにあれば、お聞かせ下さい。」

平和構築委員会、人間の安全保障の強化・拡大を目指す

高須大使
「来年の安保理の非常任理事国の選挙、これは安保理改革の問題もありますし、大変重要です。」
「平和構築委員会の議長を1年務めることになっています。まだ稼動し始めたばかりで具体的成果が少なく、一方的にその存在意義を問われ始めてしまっているような現在の状況をなんとか打破したいですね。ただ単に平和構築委員会の定款を作りそれに満足してしまうのではなく、いかに現地の平和の構築に実際のインパクトを与え、現地の現実をどのように変えることができたかという観点から成果をだすのが重要だと思っています。世銀などの国際機関との連携だけでなく、国際的NGOとの連携の推進や、また対象国を増やすなどいろいろな可能性を模索し、その中で成果をだしていきたいですし、また、日本が議長国をやっているゆえに違ったというように言われたいですね。平和構築委員会には、大きな可能性があると私は思っているので、これは是非がんばりたいです。」
「もう一つは、人間の安全保障について、カナダなどの多くの国を巻き込んで、世界的なプロモーター作りのためにFriends of Human Securityを結成したわけですが、このような輪にもっと多くの国を巻き込んでいきたいです。人間の安全保障のいう個人の視点をもっと組み込むことにより、MDGの達成など国連の活動において、アカウンタビリティーの観点からも、より厳しい基準が適用されることになり、より厳しく成果が問われることになると思います。」
「Human Security Networkの大臣会合が今年5月にスロベニアで開催され、それに私はゲストとして招かれました。そちらでも、私は、人間の安全保障は観念から成果を出していく段階に入ったこと、そして、成果重視のアプローチをもっと深化させていくべきであることを説きました。それには、規範形成自体に価値をおく観点の方、特に人権問題の専門家の方からは反対も受けましたが、グローバル・スタンダードを形成するということの価値はもちろん私も認めておりますが、規範が形成された後、それを適用し具体的成果を出すということの意義の重要性を是非強調したいと思います。」

--最後に。
「『元気な国連』の再生を目指した包括的な国連改革、また、邦人職員との関係では、それぞれが夢に満ちたキャリア・ビジョンを描けるような『志気に溢れた国連』を目指して、大使には代表部にて陣頭指揮を執って頂きたいと思います。」
「今後、11月にはACABQ委員の選挙、12月には国際刑事裁判所(ICC)の選挙、来年2008年には人権理事会、経済社会理事会、そして来年10月には安保理の非常任理事国の選挙が予定されています。ご健闘をお祈り申し上げます。」

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