平和構築委員会(PBC)議長国としての一年の活動を振り返って | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

東京財団政策研究所

詳細検索

東京財団政策研究所

平和構築委員会(PBC)議長国としての一年の活動を振り返って

September 2, 2008

遠藤 彰(国連代表部参事官)

1.はじめに

2005年9月に開催された国連首脳会議では国連システムが効果的、効率的に機能し、平和、開発、人権の分野で役割を果たし続けるための数々の施策を示した成果文書が採択された。

平和構築委員会(PBC)は、その施策の一つとして盛り込まれ、同年12月に総会及び安全保障理事会が同一内容の決議を採択する形で正式に設立された。

我が国は、2007年6月27日、第2会期に入ったPBCの組織委員会第1回会合に於いて満場一致で議長国に選出され、任期1年の予定で第1会期の議長国たるアンゴラからこの重責を引き継いだ。そして、はからずも、更に本年末までの約6ヶ月間、同議長職を継続することになった。

以下では、これまでの一年間のPBCの活動について振り返りつつ、PBCの進展、課題につき担当者として感じたことを若干ご紹介したい。

2.平和構築委員会(PBC)議長国としての我が国の活動

過去一年間、我が国は、議長国として、設立後日が浅く、いわば未だ幼少の段階にあるPBCを如何に成長させていくか、より具体的には、作業手続きといった組織事項の整備をはじめ如何に効果的に運営していくか、また、如何にニューヨーク国連場裡そして国際社会にPBCの存在を浸透させ認知度を高めていくか、更には、何よりも重要なことであるが、PBCの活動が紛争後の状況にある現地の平和の構築に実際のインパクトを与え、現地の現実をどのように変えていくことができるのかという観点から具体的な成果を挙げるよう努力してきた。

議長国としてのこれまでの主な成果を簡潔に纏めれば以下のとおりとなると思う。担当者の一人として手前味噌に聞こえることを怖れずに言えば、上記の目標はかなりの程度達成されたものと思う。(我が国が議長国を務めた1年間のPBCの活動の詳細については、PBC第2会期報告書(国連文書番号はA/63/92-S/2008/417:国連ウェッブサイトhttp://documents-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N08/401/90/pdf/N0840190.pdf?OpenElementにて閲覧可能)を参照下さい。)

(1) PBCの活動の強化

-平和構築のあり方に関する戦略・政策的議論の実施
-国連事務総長・安保理常任理事国大使も交えたハイレベル・リトリートの開催
-安保理との関係強化(安保理議長・PBC議長間の月例協議の定例化/PBC対象国への取組についての対安保理ブリーフィングの慣例化)
-主要関連機関との関係強化(議長(高須大使)が世銀、IMF、欧州連合の本部にて意見交換/アフリカ連合の高官をPBC会合に招き意見交換)

(2) 新規検討対象国の追加

ギニアビサウ及び中央アフリカ共和国を新たな対象国として追加。これにより、当初のブルンジ及びシエラレオネに加え、現在の対象国は計4ヶ国なった。

PBCは、その検討対象国として安保理等より付託された国々の平和構築を支援する国別会合が活動の中核であるが、同時に、平和構築と復興の途上にある国々に国際的な関心を集め、国内外の関係主体の間で統合的な平和構築戦略枠組みを共有し、必要な資源の更なる動員を進めていくというPBCのアプローチは、PBCが活動対象としていない国や地域にも有益な示唆を与えるものである。議長国として、上記のとおり、週末を利用して大使級のリトリート会合を本年1月に開催したり、組織委員会において有識者を招いた議論や国際社会における規範形成をも視野に入れた戦略・政策討論を行ったりしたのはそうした考えに基づくものである。更に、そうした規範形成に向けた一助として、高須PBC議長は、6月23日の第2会期最終会合において、「効果的な平和構築の推進に向けた共同取組チェックリスト:9つの問いかけ」(末尾注)を提示した。PBCとしては、かような議論のエッセンスを国連内外の場に広く唱導・発信していくことも重要であろう。

3.PBCの進展、課題の一例

このようにPBCは2年目の活動を終えるに当たり、手続き、議論の内容の両面で一定の進展が見られた。その一方で、PBCには今後更に議論し確立していくべき課題もある。

(1)合理化された年次報告書の策定の協議プロセス

PBCではその活動の年次報告書を会期末の6月に採択することとしており、議長国が平和構築支援事務局(PBSO)の協力を得つつその起案、交渉のための会合の議長の役割を担う。即ち、本年は当代表部がその役割を果たした。起案者たる我々としては、組織委員会の活動、ブルンジ、シエラエオネ及びギニアビサウという3つの国別会合の活動、今後の課題を記述するというバランスの取れたものとなるよう目指して原案を作成した。

また、策定過程の協議の取り進めについても、昨年、複数回に亘った大使レベルの会合で議論の収斂に時間を要した反省に立ち、担当官レベルの会合で可能な限り議論を尽くすとの方針で臨んだ。担当官レベル会合は、計4回、延べ20時間近くに亘り、特に最終日には朝から夜まで議論することとなったが、大使レベルの非公式会合では具体的なコメントは殆どなく了承され、上述のような取進め振りは概ねうまく機能したと評価出来る。

また、これは過去2年間のPBCの活動を通じて、メンバーの間でその活動の方向性や作業方法について一定の共通認識が醸成されつつあること、更には、高須議長以下我が国の議長国としての取り進め振りに対する信頼も一因であろうと思う。

(2)プライオリティに関するコンセンサスの欠如

他方、上記文言調整プロセスを通じて困難を感じた最大のポイントを挙げるとすれば、PBCの活動に関し、大別して、?PBCはその対象国に対する支援に関する議論に集中すべきという思想と?平和構築全般に関する一般的な議論も積極的に行うべきとの思想があり、双方の間で如何なるバランスを取ることが適切なのかについて、メンバー間には確たる共通認識が形成されるに至っていないということであろう。

この点については、上述のとおり、議長国たる我が国としては後者の立場であるが、一部安保理常任理事国の立場からは、安保理のみならず総会の下部機関たるPBCが平和構築に関する国際社会における議論をリードし、特に規範形成の役割を持ち得ることに対する警戒感もあろうと思われる一方で、一部発展途上国には、PBCを通じて、安保理や事務局の意思決定に影響力を行使したいとの思惑もあるといった側面もあるのではないかと思われる。

(3)予期せぬ出来事――我が国議長職の延長

第2会期の終了間際になって、昨年、議長国に就任した際には予期していなかったことが起こった。それは、6月までに予定されていた次期第3会期の新メンバーの選出の調整が難航し、結果として第2会期メンバーの任期が暫定的に延長されたことである。

PBCがこれまでの国連内の機関・組織と異なる大きな特徴は、国連の安保理と総会の双方につながる「政府間諮問機関」であり、多様な背景をもつメンバーから構成されていることである。即ち、PBC組織委員会メンバーは、安保理、経済社会理事会、財政貢献国、要員派遣国、そして総会という5つの選出枠から構成されている。一方、本年6月は、PBCにとり、メンバーの多数が任期(多くの場合2年)を終了する初めてのケースであった。こうした中、1つの地域グループが地理的衡平性の観点から、同グループのPBCメンバー総数につき一定数を確保したいとの主張を強く行ったため、5月下旬以降、総会議長の下、調整のための会合等が行われたが、結果として、妥協は得られず、結果としてメンバーの任期は本年末まで更に暫定的に延長されることとなった。

新メンバーの選出が出来ないと、それは、PBCの議長、副議長等の選出にも影響する。こうした状況の下、議長国たる我が国は、新メンバー選出の調整が整わない場合に備え、国連事務局からPBCのサポートを行うPBSOに加え、総会事務局や国連の法律家である法務局等の関係者を交え、議長等を如何に手当てするかに関し、コンティンジェンシー・プランとして、様々な選択肢と各々の選択肢の妥当性について法的・実務的な観点から検討した。若い組織であるためPBC自身の前例に乏しく、総会等他機関の慣例等も参考に手探りの状態で、かつ状況が状況のため大至急で行った検討の結果は、現行PBCメンバーの任期が暫定的に延長されるのであれば、議長、副議長等の役職についても延長するのが適切というものであった。その上で、上述の総会等での決定を受け、最終的に、PBCとして議長、副議長等について年末までの延長を決定した。

(4)日本そして高須議長に対する高い評価と期待

こうした決定に至る過程のPBCにおける議論では、高須議長が本件に関する説明の最後に暫定的に議長を務める用意がある旨の発言を行った直後、ギニアビサウ常駐代表より、「高須議長の最後の発言を聞いて非常に安心した。暫定期間が何時まで続くか定かではないところ、暫定期間中は一貫して議長となって頂くことが良い。」旨発言があった(於6月19日のPBC非公式会合)が、同発言は、同会合において今後どうなるのかに関し不安感で張りつめた雰囲気があった中、全PBCメンバーの安堵感を表すには十分なものであった。議長等の延長がスムーズに決定されたことは、高須議長以下我が国が議長国として努力してきたことに対する評価と信頼の裏返しであり、担当者としては嬉しく感じた。

4.おわりに

上記の事例は、これまで国際社会が取り組みを行ってこなかった分野に新しい方法で取り組むPBCの可能性に対する国連加盟国の関心と期待の高さを示すと共に、新しい取組みであるが故の困難さ及び若さを示していると言い得るのではないかと思う。実際、紛争をようやく脱した国において、内戦の再発を防ぎ、持続的な平和と開発の基盤づくりを支援するPBCへの期待は高い。それは議長国として活動するなかで我々が肌で実感するものである。PBCは国連システムに加わった最も新しい機関のひとつであり、今後とも乗り越えるべき様々な山はあるであろうが、その潜在力は大きい。「平和協力国家」を掲げる我が国の議長国としての活動への評価は高く、はからずも議長任期が半年延長される中、PBCの足場をさらに固め、期待に少しでも応えられるよう引き続き努力していきたい。


(注)「効果的な平和構築の推進に向けた共同取組チェックリスト:9つの問いかけ」(原文は、国連日本政府代表部ウェッブサイトhttp://www.un.int/japan/jp/topics/080623_Note%20on%20Peacebuilding.pdfで閲覧可能)
1.個々の異なる平和構築の取組みを画一的な枠にはめこもうとしていないか?
2.平和構築に向けたその国の確固たる主体性(オーナーシップ)と、責任感をもって取り組もうとする当局が存在し、それが尊重され、支持されているか?
3.平和維持活動から次のステップへとスムーズにつないでいくにあたり、治安・安全、開発、人権・法の支配の三分野を平和構築の重要な基盤として相互に連関させ、これらに対し、適切な優先順位とシークエンスで取り組もうとしているか?
4.平和の定着に向け、建設的な政治プロセスを前進させるための着実な努力が効果的にとられているか?
5.能力と説明責任を伴った国づくりのため、政府活動の効果的なチェック・アンド・バランスを進め、能力向上と制度改革を促すべく適切な支援策を提供できているか?
6.復興と経済開発への継ぎ目のない移行を確保するため、人々に目に見える平和の配当が迅速かつ適時的に提供できているか?
7.現場でのスムーズな移行を目指した国内の努力と国際社会の努力を共鳴させるべく、効果的なリーダーシップの下、すべての関係主体を集め、調整され、一貫性のある、統合的なアプローチが適切に計画されているか?
8.持続的な関与を促すため、長期的な観点で取り組もうとする政治的な意思が示されているか?
9.国際社会の関心と支援を求める国々からの要請に対し、我々一人ひとりが応える心構えがあるか?

    • 国連代表部参事官
    • 遠藤 彰
    • 遠藤 彰

注目コンテンツ

0%

INQUIRIES

お問合せ

取材のお申込みやお問合せは
こちらのフォームより送信してください。

お問合せフォーム