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ポスト社会保障・税一体改革の税制とは

May 16, 2014

社会保障の充実とその財源を確保しつつ財政再建を目指した社会保障と税の一体改革は、消費税率を本年4月から8%に引上げましたが、本来の意味での一体改革とは、社会構造変化や財政構造を踏まえた改革でなければならないものの、それらには抜本的に着手せず、課題は先送りされたままです。

このたび、個人の所得を対象とした税制を中心に、社会保障と税の一体改革の観点から、あるべき税制改革の方向性を示しました。
わが国の課税ベースが諸外国と比べ小さく、また、縮小傾向にあることを踏まえ、課税ベースの拡大を通じて、所得再分配機能を高め、格差是正につなげることを目指しています。これは、現行社会保障システムの是正、合理化にかかわり、その基盤整備にもなるものです。

政策提言「ポスト社会保障・税一体改革の税制とは」(PDF)はこちら(B5版3.04MB)

要旨

1.課税ベースの見直しの意義

わが国は先進国中、所得課税の割合が低い国である。給与所得控除や社会保険料控除など、各種の所得控除制度が課税ベースを縮小させており、高齢化による年金給付額の増加による公的年金等控除の拡大などが、さらにその傾向を強めている。
脱漏している課税ベースを見つけ出し、課税ベースを拡大していくことは、所得税の所得再分配機能を高め、所得、資産格差の拡大を防ぎ、格差是正につながるとともに、公平な税制の構築につながり、併せて税収の増加につながっていく。

2.社会連帯税の創設

社会保険は保険と再分配の二面性を持ち、社会保険料は実質的に賃金所得に対する課税であることから、社会保険料のうち再分配機能に相当する部分(健康保険における拠出金・支援金部分、国民年金の未納者や3号保険者分)を「社会連帯税」に置き換え、社会保険料の事業主負担に当たる部分は全て個人に対する社会連帯税とする。これにより、直接的に労働コストの増加につながらず、課税の対象は所得に応じることとなり、雇用形態に拠らないため、正規雇用と非正規雇用の代替を誘発しない。

3.公的年金課税の改革

公的年金に対しては、拠出時で社会保険料控除、積立期間に発生する利子は非課税、受取時は公的年金等控除により税負担が軽減されている。実態として、公的年金等控除の枠が大きく、多くの年金受給者の税額はゼロである。年金の過去期間に係る給付負担について、現役および将来世代の賃金からの負担が500兆円に上る中、年金受給時課税を強化することは年金受給者が将来世代と日本経済の活性化のためにできる貢献の一つである。

4.配偶者控除から家族控除へ

女性が活躍できる環境整備として、働き方の選択に関して中立的な税制・社会保障制度の検討が進められている。約6千億円規模の税収減となる配偶者控除は、専業主婦に与えられる優遇措置であるとして議論が続いてきたが、家族の就労に対する中立性を確保するために、現行の配偶者控除を世帯単位で負担の公平性を図れるよう「移転的基礎控除(家族控除)」の導入が必要である。

5.非課税年金を巡る不公平

遺族年金は非課税であるが、若くして遺された配偶者や子への配慮は必要であるものの、高齢者においては受給する年金の種類が異なるだけで課税か非課税かが異なり不公正が生じており、高齢者が受給する遺族年金は他の年金と同様に課税対象とすべきである。

6.課税ベース拡大による格差是正の効果

課税ベースの拡大は、控除の縮減により課税を免れてきた人々に課税することを意味するが、その際に懸念される格差の拡大については、国際的に見れば、各種所得控除を縮減して課税ベースを広げる際、同時に再分配的な政策も実施することによって、格差自体は改善される可能性がある。

執筆

  • 東京財団「 税制改革 」プロジェクト (2013 年度は「税と社会保障の一体改革」研究プロジェクトの名称で実施)
  • 森信茂樹 東京財団上席研究員/中央大学法科大学院教授 ※リーダー
  • 川出 真清 東京財団上席研究員/日本大学経済学部・経済学研究科准教授
  • 佐藤 主光 一橋大学経済学研究科応用経済専攻、国際・公共政策研究部教授
  • 田近 栄治 一橋大学特任教授
  • 土居 丈朗 慶應義塾大学経済学部教授

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