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【開催レポート】地域再生研究プロジェクト公開研究会「専門人材の恒常的な確保による地域再生」

August 21, 2009

東京財団「地域再生研究」プロジェクト 公開研究会
日時:2009年8月21日(金)19:00~21:00
テーマ:「専門人材の恒常的な確保による地域再生」

 7月に発表した提言書「専門人材の恒常的な確保による地域再生」を土台として各方面の専門家を招き、公開研究会を実施した。
 同提言書で韓国の「専門契約職公務員制度」を紹介しているが、今回は、実際に韓国で活躍中の専門契約職の方をお招きし、制度と仕事の実態をお話頂いた。
 具氏のお話を受け、プロジェクトメンバーの矢作先生がモデレーターとなり、パネルディスカッションを行った。日本で専門人材の採用を始めた数少ない地方自治体の代表として加西市の実態をご紹介頂いた他、日本の地域再生の現場からは、日本での制度の運用における留意点等につき、ご意見を頂いた。パネリストは以下の5名の方々である。
 

具 滋仁
韓国全羅北道鎮安郡 むらおこし支援チーム長
ソウル大学を卒業後、同大学院で環境計画学修士号を取得。韓国都市研究所という民間学術団体の勤務を経て、日本へ留学。鳥取大学大学院にて農学研究科博士課程修了。専門は地域開発、環境社会学、集落、日本の村の歴史。日本学術振興会特別研究員。2004年より韓国全羅北道鎮安郡庁 政策開発チーム長、村おこしチーム長を経て、現在むらおこし支援チーム長。

矢作弘
大阪市立大学大学院創造都市研究科教授・東京財団研究員
横浜市立大学商学部卒業。博士(社会環境科学)。1971年日本経済新聞社入社、ロサンゼルス支局長、編集委員を務める。1984-85年オハイオ州立大学客員研究員、2002年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)客員研究員。東京大学先端科学技術研究センター客員研究員。

東郷邦昭
兵庫県加西市副市長
京都大学工学部卒業。同大学院修士課程修了後、富士通株式会社入社。2005年全国公募により加西市助役に就任。2007年4月より現職。加西市では2009年4月より任期付き職員として専門人材の採用を始めている。

御手洗照子
T-TOP代表取締役
慶応大学仏文科卒。専門学校にて、インテリアデザインを学ぶ。インテリア雑貨専門店海外買い付け担当、百貨店商品企画部などを経て、(有)T-POT 設立、代表となる。現在、百貨店インテリア家庭用品部クリエイティブディレクター、インテリア雑貨専門店MDアドバイザー等。その傍ら富山大学芸術文化学部にて客員教授として伝統工芸の継承と現代化の研究プロジェクトを推進、又日本各地の伝統工芸品のブランディング、海外拡販などに力を注ぐ。年間を通して、海外の展示会、日本各地のものづくりの現場などを歩いている。

関幸子
NPO法人地域産業おこしに燃える人の会 理事長
1980年法政大学法学部政治学科卒業後、三鷹市役所に入庁、教育委員会図書館勤務。89年同市企画部企画調整室、95年同市生活環境部経済課、99年株式会社まちづくり三鷹に出向し、中心市街地活性化法に基づき、TMOのマネージャーとして三鷹産業プラザの建設、三鷹電子商店街、三鷹子育てねっと、三鷹光ワークスプロジェクトを立ち上げる。これらの活動が認められ、2003年内閣府より「地域産業おこしに燃える人33名」に選定される。06年三鷹市教育委員会駅前図書館館長、07年内閣官房より地域活性化伝道師に選定される。07年5月より財団法人まちみらい千代田に転職し、秋葉原タウンマネージメント株式会社を設立し、秋葉原での新しい産業の創出のしくみづくりに着手している。


各パネリストの発言の主な内容は次の通り。

(具氏)

 人口2万人強の農村、鎮安郡で専門契約職として村おこしに取り組んで5年になる。人口動態等のデータに基づいた地域政策を策定し、持続可能な村を作ろうと考えた。そのため、4年の任期中に目に見える成果を出したがる首長を説得し、より息の長い取り組みを認めてもらった。首長は基本的なことだけを認めてくれればいい。あとはむしろ、現場にいる人々、住民を説得して、彼らとの信頼関係を作ることが大事。首長が替わっても住民との信頼関係があれば住民が首長を説得してくれるので政策は続けられる。
 都会からの若者や「熱い人」を集めながら、U・Iターン者を含む地域住民参加型の活動を活発にすることを目指し、288ある域内の集落に年100回以上足を運んだ。住民と行政と専門家の交流の機会を多く設け、集落幹事制度を作り、地域で新しい産業を起こす等、専門家に頼らずに仕事が回る仕組みを作ることに専念してきた。自分は、地域の発展のための最初のプロセスをどう設計するか、足りないものをどう埋め込むかといった「ソーシャル・デザイナー」的な立場だと考えている。或いは行政と民間の間に立つ仲人とも言える。
 昨年1年間で鎮安郡に100 世帯以上のU・Iターン者が移住してきた。特に若い人が多い。地域内での交流が多いことが魅力と評判になっている。地域は公共事業や補助金ではなく、人が動くことによって変わる。地域内部の内発的な力を育成すること、住民の自治ができる状況を作ることが最優先で、国からの補助金はあくまで補完的、二次的な手段。
 自分は任期付き公務員の村おこしチーム長というポジションの公募がきっかけで今の仕事を始めたが、身分には拘っていない。前任者が種を植えて、私が芽を育て、果物を収穫するのは次の人だと思っている。任期が終わったら民間の立場からお手伝いをしてもいいし、いずれは鎮安を離れようと思っている。
 日本での契約職公務員の採用については、まず地域社会でどんな専門人材が必要か議論して合意を得ることが大切だと思う。人材の候補としてはやはりポスドクは可能性がある。ポスドクは現場に入ってみたら今まで勉強したことが現場では役に立たないことがすぐにわかるし、実際面白いので大学に残ることばかり考えずに、大いに現場に入れと言いたい。
 
(関氏)
日本には地方自治体が任期付きの専門人材を採用するための法制度は整っているのだが、運用するかどうかは首長に掛かっている。議会と地域住民の合意を得るプロセスで政治的に窮地に追い込まれたくないと及び腰になりがちだが、その決断ができるかどうかで今後地域間の差が出てくる。
 公務員の中にもジェネラリストからスペシャリストに変わろうとしている人が多くいる。人材は多種多様で、生き方も多様になった。特に公務員を辞めた団塊の世代の、いいノウハウを持った人が都市や地域にたくさん埋もれている。本来的には韓国のように国の法律で制度化してこのような人を地域に取り込み、地域再生に向けた一つの流れを作り出すのがよいと考える。

(御手洗氏)
 伝統工芸等の地場産業による再生の取り組み現場を見てきて、人が要だということは痛感している。成功したプロジェクトでさえ、外国や都会から来た「よそ者」のキーパーソン、プロデューサーが去った後どうなるかといった懸念は確かにある。
 地域再生に「バカ者、若者、よそ者」が必要だというのは本当だ。そのうち,今回の任期付公務員の話に該当する「よそ者」は実際にはUターン者や「婿殿」のように、地縁や人の縁がある人が多い。都会で働いた経験が地方で大いに活きる。中でも今、地域に一番必要なのは地域の中で経済をまわしていける経営センスを持った人だ。 リタイヤした経営者などが自分の経験や知識を自分の故郷に返すつもりで地域経済を見ていくというようなUターンの形もあると思う。
 
(東郷氏)
 企業での経験等から、大都市は別として地方の中小都市では専門人材は絶対に必要だと思う。コンサルタントを頼む予算はないので必然的に任期付職員ということになる。加西市では公民連携と市民参画の分野で任期付職員を採用したばかり。議会で一度否決され、二度目にやっと認められた。まだ結果は出ていないが、応募方法も含めた採用の仕方については検討の余地があると感じている。地域間で共有できるような人材のデータベースがあれば望ましい。
 今後は企業の参加・協力を仰げないものかと思う。研修の一環として地域の現場に人を出し、給料は自治体が持つが、それ以外は地域の仕事を通して企業内の知見を蓄積し、次のビジネスに活かすという発想をしてもらえないものか。国からの補てんも選択肢としてはあり得る。

*まとめ
韓国の契約専門職公務員制度を日本にそのまま導入できるとは限らない。地域再生は行政だけでも民間だけでも難しい。行政と民間をつなぐ存在として専門人材を任期付公務員として採用することは選択肢の1つとして大いに可能性があることを再確認した。あとは各自治体が地域再生の方向性や手段について議会・住民と合意形成し、専門人材の登用のための環境整備を図っていけるかどうかに掛かっており、そのために必要なノウハウにつき引き続き議論していきたい。

(文責:安井美沙子)

    • 元東京財団政策研究部研究員
    • 安井 美沙子
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