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【Views on China】習近平「核心」体制の誕生と近隣諸国の不安

December 7, 2016


静岡県立大学国際関係学部教授
諏訪 一幸


夏から秋にかけ、内政、外交の両面において、中国共産党指導部にとって喜ばしい出来事が続いた。しかし、それは諸外国、とりわけ日本を含む一部の中国近隣諸国にとっては、むしろ不安感を増す要素を含むものだった。

1.18期6中全会の開催と習近平「核心」体制の誕生

10月24日から27日まで、中国共産党第18期中央委員会第6回全体会議(18期6中全会。以下、6中全会)が北京で開催された。閉会を受けて発表されたコミュニケ [1] からは、3つの注目点が浮かび上がる。

1-1 「核心」の誕生

今回の会議では、「習近平同志を核心とする党中央」との表現が正式に提起、採用された [2] 。習近平は遂に「核心」の地位を手に入れたのである。

「最高指導者」と「指導者集団」それぞれの役割とその関係をどのように規定し、昇華させるかは中国共産党の、とりわけ改革開放期においては、一貫した弁証法的課題だった。そこで、改革開放期の公式規定に従うと、その実態はさておき、毛沢東時代は「毛沢東同志を核心とする党の第一代中央指導集団」、鄧小平時代は「鄧小平同志を核心とする党の第二代中央指導集団」、そして、江沢民時代は「江沢民同志を核心とする党の第三代中央指導集団」とされている。つまり、最高指導者は核心ではあるが、建前上或いは理念上は集団指導のしばりが設けられたのである。これが胡錦濤時代になると、「胡錦濤同志を総書記とする党中央(或いは中央指導集団)」に変化した。胡錦濤は、いわゆる集団指導体制の中で一頭地を抜く「核心」とは認められていないのである。

今回正式採用された「習近平同志を核心とする党中央」に関し、4人の新華社記者はその共同執筆記事で、「6中全会は、習近平総書記が党中央の核心、全党の核心であることを明確にした」としている [3] 。これは、公式には「習近平同志を核心とする党中央」と、党中央に重きを置いて表記されるが、実態としては「核心である習近平総書記」と、習近平個人をアピールする意図があることを示している。つまり、習近平の党中央における位置は、ワン・オブ・ゼムから核心に昇格したのである。習近平の政治的位置づけについてはその後、習の最側近とされる栗戦書中央弁公庁主任がよりストレートに語っている。栗によると、「習近平総書記の核心的地位を擁護することが党中央の権威擁護に他ならない」のである [4]

以上に加え、もう一点注目すべきは、新華社記者の上記記事に、「習近平総書記は党の領袖」との表現があることだ。党最高指導者の形容としては近年ほとんど用いられることのなかった「領袖」の出現は、あたかも文革時代の毛沢東賛歌に似た言論状況の醸成を期しているかの如きである。

1-2 反腐敗の継続

また、6中全会は、「新たな情勢下での党内政治生活に関する若干の準則」(以下、準則)と「中国共産党党内監督条例」(以下、条例)を採択し [5] 、反腐敗を今後も継続するとの方針を示した。中央政治局の委託を受け、習近平が6中全会で行った説明によると、準則には「党内法規体系において党規約に次ぐ」重要性が与えられている [6] 。習近平自らが準則と条例の起草小組組長に就いていることから、両者のいずれにも習の意向が強く反映されていると考えられる。副組長は劉雲山(党建設、人事担当)と王岐山(紀律検査担当)という二人の常務委員が務めた。

準則は1980年2月の11期5中全会で採択された「党内政治生活に関する若干の準則」 [7] の大幅修正版であり、条例は2003年12月末に公布、施行された「中国共産党党内監督条例(試行)」 [8] の修正版である。時代の変化と現状を知るためには、準則は1980年版準則と、そして条例は2003年試行版と、それぞれ比較する必要があるが、その結果明らかになったのは、いずれにおいても集団指導の重要性が著しく低下していることである。

1980年2月という時期は、一般的には改革開放初期と位置づけられるが、党主席の座に文革派の華国鋒がとどまっていたことが象徴するように、文革という混乱した時代の政治的残滓が依然として色濃く残っていた時期でもある。したがって、1980年版準則には「弱みに付け込む、レッテルを貼る、暴力を振るうなどの行為は厳しく禁止する」など、文革がもたらした悪影響や悪習の払拭を意図する文言が少なくなかった。計12ある準則の第二が「集団指導を堅持し、個人独裁に反対する」ことを強く求めているのも、「文革の再来許すまじ」の反省と決意に基づいているものと解釈できる。

今回の準則でも「集団指導体制堅持」への言及はある。しかし、その重要度は1980年版に比べて明らかに低く、それに代わり「党中央の権威を断固守る」(準則第三)こと、そして、「全党は党中央の指導に自覚的に服従しなければならない」ことがうたわれている。これは、究極的には党中央の核心である習近平個人に倣う(中国語では「看斉」する)よう求めることに他ならない。6中全会で習は、「集団指導堅持、個人独裁反対など、1980年版準則にみられる主な原則と規定は引き続き堅持しなければならない」とも述べているが、個人独裁に舵を切ろうとしているかにも見える最高指導者のこの発言は余りにも空虚であると言わざるを得ない。

次に、条例(試行)についてみると、これも導入からすでに13年経っていることから、今回修正され、採択された条例は準則同様、章の構成及び内容ともに試行版とは大きく異なっている。そして、その最大の違いは、集団指導の重要性はおろか、集団指導という文言そのものが消えたことである。そして一方で、準則同様、「党中央の集中的統一指導を守る」(第5条(二))など、党中央への服従が求められている。

反腐敗の対象に関し、条例は「党内監督の重点対象は主に指導的立場にある幹部」(第6条)とし、準則は「新たな情勢下で党内政治生活を強化し、規範化する。その重点対象は各級指導機関と指導的立場にある幹部であるが、カギとなるのは高級幹部、とりわけ中央委員会、中央政治局、中央政治局常務委員会の構成メンバーである」(前文)としている。これらから浮かび上がるのは、「党の核心である習近平による新たなトラや大トラ狩り」の展開という近未来図である。

1-3 1年後の党大会開催と関連人事

第19回党全国代表大会が来年下半期に開催されることとなった。これからの約1年間、5年に一度の重大イベントに向けた準備が行われることになるが、最も注目されるのが省長、部長クラス(地方においては省、直轄市及び自治区という一級行政区の党委員会書記、中央においては国務院の部長や主任)人事である。なぜなら、将来の指導部(政治局)入りも視野に入るクラスの幹部に子飼いの人物を据えるという政治課題を習は十分にクリアしていないからだ。

今年に入ってから6中全会開催までの間に、省や直轄市など15の一級行政区党委書記が交代した [9] 。しかし、彼らの経歴等から判断すると、習近平に近いと思われる人物は貴州省の陳敏爾、江蘇省の李強、湖南省の杜家豪、雲南省の陳豪程度にとどまる(新疆の陳全国は李克強に近いとされる)。

6中全会が終了するや、このレベルの人事が始まったが、それらのうち以下の二例はとりわけ注目される。

地方人事としては、蔡奇中央国家安全委員会弁公室常務副主任の北京市代理市長就任があげられる [10] 。福建省出身で今年61歳の蔡は、同省三明市党委副書記、同市市長などを経た後、1999年5月には浙江省への異動を命ぜられ、杭州市長、常務副省長などを歴任し、2014年3月には発足直後の中央国家安全委員会弁公室副主任に転出している。習近平が1985年から2002年までは福建省(最後のポストは省党委副書記、省長)、同年から2007年までは浙江省(最終ポストは省党委書記、省人代主任)勤務であったことから、蔡は習近平の息のかかった人物とみられる。現在の北京市党委書記の郭金龍(政治局委員)が来年には70歳になることから、その後任含み人事でもある。当面、来年の全国代表大会に先立って開催される一級行政区代表大会での党委書記人事の行方が注目される。

中央では、陳文清中央紀律検査委員会副書記の国家安全部長就任があげられる [11] 。今年56歳(1960年生)と比較的若い陳は、習近平の総書記就任と同じタイミングで福建省委副書記から中央紀律委員会副書記に抜擢され、2015年4月には国家安全部の党委書記に就いていることから、習近平の信任が篤いものと思われる。今回解任された耿恵昌前部長は、昨年6月に無期懲役となった周永康前中央政治局常務委員の影響下にあったとされる人物である。習近平は、その後任に腹心を据えることにより、反腐敗分野でも重要な役割が期待される国家安全部への指導力を確保した。

2.南シナ海情勢と近隣諸国の不安

仲裁裁判所の裁定で完敗したにもかかわらず、海洋主権の確保や拡大を追求する中国の姿勢に大きな変化は見られない。むしろ、フィリピンのドゥテルテ大統領という新たなアクターの登場で、中国は自信を強めているようにも見える。

2-1 中国とASEAN

この夏、ラオスの首都ビエンチャンで一連のASEAN関連会議が開催された

まず、ASEAN外相会議が7月24日に開催されたが、翌25日に発表された共同声明では南シナ海判決への言及がなかった [12] 。また、発表当日にはASEAN+中国外相会議が開催され、「『南海行動宣言』を全面的かつ有効に定着させることに関する中国・ASEAN外相の共同宣言」が採択された [13] 。ここでは「各方面は、自制を保ち、現在居住者のいない島、岩礁、大小砂浜或いはその他の地物の上に居住することを含む、争いを複雑化、拡大化し、平和と安定に影響を与える行動をとらないことを約束する」など、従来より主張されてはきたものの中国の進出を阻止できなかった文言が繰り返された。

次に、9月6日にはASEAN首脳会議が開催されたが、議長声明では、中国が人工島の軍事拠点化を進めていることを念頭に、「深刻な懸念」が示された。また、領有権争いに関しては「国際法に基づく平和的解決」の重要性が強調されたものの、仲裁裁判所裁定には触れることができなかった [14]

中国からすれば、カンボジアと並ぶ友好国ラオスが議長国だったことも手伝い、ASEAN内部切り崩し工作は成功した。

2-2 中国と日米

習近平と縁の深い浙江省杭州市で開催されたG20サミットの場を借りて、米中、日米の首脳会談が行われた。

オバマと習による米中首脳会談はサミット開幕前日の9月3日に開催されたが、会談に先立ち、両国は潘基文国連事務総長に対し「パリ協定」批准書を寄託した。こうした協調姿勢にもかかわらず、懸案の一つである南シナ海問題での歩み寄りは見られなかった。習近平は、「南海における自らの領土主権と海洋権益を今後とも断固守るのと同時に、直接の当事者間協議により、争いを平和的に解決し、ASEAN構成国とともに南海(南シナ海)の平和と安全を守るとの方針を中国は堅持する」旨指摘し、米国の関与に反対する姿勢を示したのである [15]

一方、日中首脳会談はサミット終了翌日の9月5日、約1年5か月ぶりに開催された。新聞写真やテレビ映像に両国の国旗はなく、安倍、習の両氏ともに緊張した面持ちだった。日本外務省が判断する通り、会談は全体としては「前向きで充実した」ものだったが [16] 、南シナ海(及び東シナ海)問題では従来からの主張を双方が述べあうにとどまったようだ。中国側報道によると、習近平は、「南海問題では、日本側は言動に慎み、中日関係の改善に対して障害を設けないようにしなければならない」旨指摘している [17]

このように海洋問題をめぐる中国と日米の対立構図に、変化は見られない。

2-3 ドゥテルテ大統領という人物

7月の仲裁裁判所裁定の後も中国は南シナ海への進出を続けている。それは、6月末にフィリピン大統領に就任したドゥテルテ氏の継続性を無視した常識外れの外交パフォーマンスが、今のところ中国にとってプラスに働いていることにも拠るように思われる。

仲裁裁判所へ提訴するなど、南シナ海問題で対中最強硬派だったフィリピンとの関係を中国は急速に改善してきている。それを象徴するのが、ドゥテルテ大統領の中国訪問であった。

10月20日の中比首脳会談で、南シナ海問題に関し、習近平は以下の点を強調した。「外交関係樹立後の大部分の時間において、双方は南海問題に関し、二国間対話と協議を通じ、相違点を適切にコントロールしてきた。これは称賛に値する政治的知恵であり、これからも継続できる成功的実践であり、両国関係の健全かつ安定的発展確保の重要なコンセンサスの基礎である。友好的な対話と協議を堅持さえすれば、あらゆる問題に関して率直な意見交換ができ、相違点をしっかりコントロールでき、協力について話し合うことができ、当面は合意しづらい問題について暫く棚上げできる」 [18]

翌21日に発表された共同声明では、全47項目中の第40-42項において、次のような関連記述はあるが、仲裁裁判所裁定への言及はない。「双方は、直接関係を有する主権国家が友好的協議を通じ、平和的方法で領土と管轄権をめぐる争いを解決することを改めて述べた」、「双方は、南海で行動を取る場合は自制を保つこと、争いを複雑化し、拡大し、平和と安定に影響を及ぼすのを避けることにつき約束した」 [19]

以上からわかるのは、中国に対するドゥテルテの低姿勢である。氏は訪中に先立つ19日の会見で、南シナ海問題については「いつか習主席に『話をしましょう』という時がくるだろう。でも、温かい歓待を受けている今はその時ではない」と発言している [20] 。そうした姿勢が奏功したのか、フィリピンは中国から240億ドル(約2兆4,200億円)規模もの経済協力約束を取り付けた [21] 。また、フィリピンは麻薬犯取締問題について欧米諸国から人権無視の批判を浴びているが、麻薬中毒者更生施設などのプロジェクト向けに、習近平は90億ドル(約9,450億円)の融資を約束したという [22]

ドゥテルテは日本からも実利を得ている。訪中直後の10月26日に行われた日比首脳会談で、大統領は計213億8000万円の円借款獲得に成功した [23] 。これは、「南シナ海問題については、仲裁判断が出されたので、それに基づいて話をすることしかできない、国連海洋法条約を含む法の支配の原則に従っていずれかの時点で話をする、日本とフィリピンは同じような状況にある、フィリピンはいつも日本と同じ立場に立っているので安心してほしい、海洋問題においては、航行の自由の確保が必要である」 [24] としたドゥテルテに対する日本政府の大統領就任祝いであった。

ドゥテルテ大統領は、安倍首相との会談において「法の支配に基づく平和的解決の重要性」を確認する一方で、習近平国家主席との会談では「対話による解決を探ることで一致」した。すなわち、「日中がそれぞれ受け入れられる落としどころを慎重に読み、バランスを取った」との指摘がある [25] 。日中両国に対する同大統領の対応をみると、それは正鵠を射た指摘だと言えよう。

一方、ドゥテルテに翻弄され続け、対比外交に強い不安を抱き始めているのが米国だ。

オバマ米大統領を「ろくでなし」などと誹謗した同大統領の言動を理由に、米ホワイトハウスは9月6日、東アジアサミット開催に合わせて予定されていた米比首脳会談の中止を発表した。実のある議論ができないと判断したからであろう。会談中止の知らせを受け、ドゥテルテは「米大統領への個人攻撃と受け取られてしまったことを後悔している」との談話を発表した [26] 。だが、対米関係をめぐる氏の暴言はその後も止まらない。10月20日、中国訪問中に北京で開催された経済フォーラムでは「米国とは別れたことをご報告します。軍事的に、そして経済面でもです」と発言した [27] 。さらに、日比首脳会談直前の講演では「外国軍の支配を受けないよう、今後2年間で出て行ってほしいと考えている」と、米国との軍事協定の見直しを示唆するなどの発言を繰り返している [28] 。南シナ海問題のキープレイヤーであるフィリピンによって「はしごを外される」ことへの危惧が米国で高まり、日本で漂っている。

こうした一連の動きの後になされた、フィリピン大統領報道官の次の発言(10月28日)に注目が集まっている。「スカボロー礁でこの3日間、フィリピン漁師に対する中国側からの妨害がやんでいる」 [29] 。「あと数日待てば再び漁ができるようになるかもしれない」とした10月23日のドゥテルテ発言 [30] と重ね合わせて判断すると、中国側のこうした措置は、南シナ海問題を主権問題としてことさら騒ぎ立てることをせず、さらには、その暴言によって米国を混乱させているドゥテルテへの期待を表明しているのかもしれない。なお、仮にスカボロー礁の平穏が仲裁裁判所裁定に対する中国側の何らかの受け入れ表明を意味するのであれば、これはこれで歓迎すべきことである。

核心体制の誕生を控えた頃から、中国政治に新たな「うねり」が生じ始めた。時として党が定めた公的歴史観への批判を表明してきた月刊誌(『炎黄春秋』)が事実上の発禁処分を受け、改革派知識人らが持論を展開してきた言論サイト(共識網)がアクセス不能となった。また、外交面では高高度防衛ミサイル(THAAD)配備をめぐり、直近までは蜜月関係にあった韓国への非難を強めている。さらに、台湾の民進党政権に対する締め付けを強化している。近隣諸国からみると不安材料にしか映らないこうした状況も、中国国内ではむしろ「強さ」を求める習近平指導部の大きな成果として認識、喧伝されている。地域の平和と安定、そして繁栄のためには、大国中国と我々の間に存在するこうした認識上のギャップをなくすための自然体での交流がなによりも必要である。しかし、中国メディアは今後、核心の無謬性を強調するため、指導部が内外で抱える様々な問題を軽視する傾向を強めるだろう。これが、中国の政策立案者やオピニオンリーダーたちの現実を認識する眼を一層曇らせることにならないだろうか。

来年1月、米国では共和党のトランプ政権が誕生する。ドゥテルテに加えてトランプ。海洋権益問題や貿易問題、地球温暖化問題など、対中政策はどうなるのか。在日米軍の経費負担問題を含むアジアの安全保障政策に深刻な変化は現れるのか。既成の政治や秩序に戦いを挑んでいるかに見える二人の指導者の誕生で、アジア地域の前途に暗雲がかかり始めている。

しかし、危機はチャンスでもある。「アジア情勢に不透明さと不安定化をもたらす種を取り除くために、日本が主導権を発揮すべき時が巡ってきた」との発想が必要なのではないか。

第一に、米国をアジアにとどめるための役割がある。選挙戦時の極端な主張を多少は修正しつつあるものの、トランプは米国第一主義を掲げて次期大統領の地位を手に入れた人物である。TPPからの離脱やアジア重視政策の放棄などの方針の強行実施が地域の不安定化をもたらすことは火を見るよりも明らかだ。こうした事態の発生を招かぬよう、政府と財界が中心となって、氏とその周辺に粘り強い説得工作を行うべきだ。そうした意味で、先般の安倍・トランプ会談は新たな対米関係構築の良好なスタートになったと言えよう。

第二に、中国への働きかけである。既に指摘したように、核心体制下の中国がこれまで以上に威圧的な外交姿勢をとる可能性は否定できない。そこで、我々としては、自らが目指す「中国の特色ある大国外交」とは、何よりも近隣諸国の支持と尊敬があってのものであるという道理を受け入れるよう、官民一体で中国に働きかけるべきである。今年7月のASEAN外相との会議において、王毅外交部長は、「2017年前半にも(南シナ海)行動規範の大筋合意を望む」旨述べている [31] 。関係方面からの声に謙虚に耳を傾け、関係方面すべてが納得して受け入れるような規範策定に向け、中国が率先して努力するよう期待したい。

そして、第三に、アジアにおける協力体制の構築である。対米にしろ、対中にしろ、日本一国だけでの働きかけに限界があるのは言うを待たない。日本がリーダーシップを発揮し、安定と繁栄を望むアジア(と太平洋)地域の大きな声を両国に届け、両国間の橋渡しをする決意と努力が求められている。

[1] 「中共十八届六中全会在京挙行」『人民日報』2016年10月28日。

[2] 「堅定不移推動全面従厳治党」『人民日報』2016年10月28日。

[3] 「踏上全面従厳治党-≪関於新形勢下党内政治生活的若干準則≫和≪中国共産党党内監督条例≫誕生記」『人民日報』2016年11月4日。

[4] 「堅決維護党中央権威」『人民日報』2016年11月15日。

[5] 全文は『人民日報』2016年11月3日に掲載。

[6] 「関於≪新形勢下党内政治生活的若干準則≫和≪中国共産党党内監督条例的説明≫」『人民日報』2016年11月3日。

[7] 「関於党内政治生活的若干準則」本書編写組編『中国共産党党内法規選編』中国方正出版社、2015年、3~19ページ。

[8] 同上、229-241ページ。

[9] 「地方領導資料庫」<http://ldzl.people.com.cn/dfzlk/front/firstPage.htm>。2016年11月30日アクセス。

[10] 「北京市人民代表大会常務委員会関於蔡奇為北京市代理市長的決定」<http://www.bjrd.gov.cn/zdgz/rsrm/srd/201611/t20161101_167472.html>。2016年11月2日アクセス。

[11] 「人大常委会第二十四次会議在北京閉幕」『人民日報』2016年11月8日。

[12] “Joint Statement of the Foreign Ministers of ASEAN Member States on the Maintenance of Peace, Security, and Stability in the Region”<http://asean.org/joint-statement-of-the-foreign-ministers-of-asean-member-states-on-the-maintenance-of-peace-security-and-stability-in-the-region>。2016年11月3日アクセス。

[13] 「中国和東盟国家外交部長関於全面有効落実≪南海各方行為宣言≫的聯合声明」『人民日報』2016年7月26日。

[14] “Chairman’s Statement of The 28th and 29th ASEAN Summits”<http://asean.org/chairmans-statement-of-the-28th-and-29th-asean-summits>。2016年11月2日アクセス。

[15] 「習近平会美国総統奥巴馬」『人民日報』2016年9月4日。

[16] 「日中首脳会談」<http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/c_m1/cn/page1_000246.html>。2016年9月7日アクセス。

[17] 「習近平会見日本首相安倍晋三」『人民日報』2016年9月6日。

[18] 「習近平同菲律賓総統杜徳爾特会談」『人民日報』2016年10月21日。

[19] 「中華人民共和国与菲律賓共和国聯合声明」『人民日報』2016年10月22日。

[20] 「中国、ドゥテルテ氏厚遇」『朝日新聞』2016年10月21日。

[21] 「比、経済実利を追及」『読売新聞』2016年10月27日。

[22] 「中比 南シナ海棚上げ」『朝日新聞』2016年10月21日。

[23] 「フィリピンに対する円借款に関する書簡の交換」<http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_003860.html>。2016年10月28日アクセス。

[24] 「日・フィリピン首脳会談」<http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea2/ph/page3_001861.html>。2016年10月28日アクセス。

[25] 「ドゥテルテ流実利外交」『日本経済新聞』2016年10月27日。

[26] 「対中連携 出足に冷や水」『日本経済新聞』2016年9月7日。

[27] 「中国、ドゥテルテ氏厚遇」『朝日新聞』2016年10月21日。

[28] 「比大統領 親日サービス」『朝日新聞』2016年10月27日。

[29] 「中国、比漁師への妨害停止?」『朝日新聞』2016年10月29日。

[30] 「スカボロー礁に漁師戻れる」『読売新聞』2016年10月24日。

[31] 「南シナ海判決に触れず」『朝日新聞』2016年7月26日。

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