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世界が見つめる日本の危機管理―今こそ国会は超党派で独立調査委員会の設置を

March 31, 2011

東京財団上席研究員
渡部恒雄


3月25日から27日まで、東京財団と協力関係にある German Marshall Fund(GMF)がベルギーで行うBrussels Forumに参加してきた。これは、特に米国と欧州を中心に、主要な政策関係者(政府、国際機関、民間シンクタンク、ビジネス)が年に一回一堂に会して、米欧を取りまく世界情勢を自由に議論するもので、今年で5回目を迎える。米国の重要な同盟国であり、欧州の経済パートナーである日本も、これまでも積極的に参加しているが、今回は、東北・関東大震災を受けて、急遽設置された日本パネルにおいて、渡邊頼純 慶応大学教授と石井正文 外務省総合外交政策局審議官が、日本の今後の方向性を明確かつ前向きに語り、米欧の識者に復興への日本の努力を共有することとなった。また、私自身も会場で、GMFのクレイグ・ケネディー会長やチャタムハウス(英王立国際問題研究所)のロビン・ニブレット所長ら、多くの友人たちから、日本の犠牲者へのお悔やみ、被災者への激励と連帯のメッセージを預かってきた。

そしてこのような日本への厚い友情に接し、日本を離れて祖国の危機を見ることで、日本が行うべき一つの重要なことを実感することになった。それは、現在の日本の危機対応の真摯な反省を、近い将来に世界に発信することの必要性である。そのために、国会はできるだけ早く、危機的状況が沈静化した時点での超党派の調査委員会の設置を事前に合意し、宣言しておく必要がある。

日本を離れての国際議論で感じたのは、日本の災害と原発管理への脆弱さに関する世界の懸念と同時に、日本の社会の根本的な強さに対する尊敬と期待の、二つの相反する感情である。それはとりもなおさず、今回の大地震と津波、そして原子力発電所の事故への日本政府と日本社会の対応が、世界の視線に晒され、今後の日本全体の評価の対象となっていくということでもある。例えば、日本は現在進行形の原子力発電所の事故をどのように解決していくのか? 大きなダメージを受けた国内生産基盤と経済を、どのように立て直していくのか? 世界は不安と期待で日本を見ている。

すでに、未曾有の災害に際して、略奪行為もなく、冷静に我慢強く対処している日本の被災者の対応について世界が大きく評価している。このような国は、世界にあまり類を見ない。福島第一原発の厳しい現場で、リスクを取って活動している技術者や関係者達に対しても大きな賛辞が贈られている。問題は、それらの現場の力、とりもなおさず、日本社会と日本の組織の大きな財産を、政治や企業の指導者層が、日本の国家としての力にきちんと反映させているか、という点である。政府や東京電力の情報開示という点についても、諸外国には疑心暗鬼がある。これが今の日本が直面している大きな課題といえる。例えば、日本は伝統的に、現場レベルの機能の優秀さと裏腹に、それが現場の積み上げ式であることもあって指導者層の戦略能力が一段劣ることが、野中郁次郎氏らによる学際的な研究『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』(中公文庫)等でも広く議論されている。

この点で、今後の指導者とオピニオンリーダーの責任は大きい。歴史における国際関係は終わりのないゲームである。現在の大震災も過去のものになる日が必ず来る。そのときには、新しい試練が日本を襲うこともあるだろう。その際に、日本が今の試練を乗り越えておけば、新しい試練に立ちむかう力となり、そうでなければ、大きなリスクを背負うことになる。例えば、安全保障上、死者と行方不明者が3万人にも及ぶような極限の状況で、暴力に訴えずに、冷静で着実な市民生活を送っているような強い社会に対し、ある国家があえて侵略や恫喝を企てることは大きなリスクになる。これは日本の強みとなる。経済的にも、そのような社会から生み出される製品や経済自体に対する信頼性はより高まることになるだろう。

また、今回の大地震に際してかつてない規模で動員され、着実に救援の任務をこなしている自衛隊の活動は、日本への攻撃の大きな抑止力となる。また同盟国の米軍も、「トモダチ」作戦という平時には考えられない規模での被災者の救出・救援活動を行い、自衛隊との緊密な相互連携能力も示し、日本は大きな安全保障の資産を保持していることを世界にアピールしている。このような資産にもかかわらず、日本が危機を深めることになれば、それは日本の指導者層の弱さであり、将来に渡り、弱い日本は、様々なリスクを呼び込むことになる。

今後の日本の課題は山ほどあるが、日本の大地震・津波・原発事故への対応が、その強さも弱さも含めて、透明性をもって、世界に着実に発信されていくことが一つの重要なカギとなるはずである。まだまだ、世界は日本が抱えている危機について、多くを知らないし、誤解や過剰反応も多い。したがって、今回の対応の中で、失敗も含めて対応を冷静に評価した報告書を出版していくことは、日本の次世代への大きな財産となるとともに、世界に対して日本の強さをアピールすることになる。逆に小手先の誤魔化しや隠ぺいは、むしろ、多くの面でマイナスをもたらすだろう。これは現在進行形の原発問題も例外ではない。

そのためには、震災・津波の被災者の支援、および原発の状況が安定する時点で、それまでの日本政府、地方自治体、東京電力の対応に関して、国会が超党派で専門家による独立的な調査委員会を組織し、妥協を排した真摯な報告書を作成することである。そして、その決定は現時点で、国会が超党派で合意しておく必要がある。実際、米国では2001年9月11日の同時多発テロへの政府への対応が、超党派の調査委員会で報告書にまとめられ、米国政府も議会も多くの教訓を学び、多くの政策改善に繋がった。何より、米国の民主主義の強さと透明性を世界に印象付けることに寄与した。米国に比べ、情報公開の伝統が弱い日本だからこそ、国会が現時点で将来の超党派の委員会の設置を決めることで、今の情報の透明性や記録の保持について、関係者に気構えや、緊張感を与えることになる。これは現在進行中の危機管理にもプラスに働くはずである。そのような透明性は、日本の民主社会の強さを結果的には世界にアピールすることになることは間違いない。日本を見つめる世界の目は、ときには優しく、ときには厳しいことを、日本人、特に政治指導者は忘れてはいけないだろう。

    • 元東京財団上席研究員・笹川平和財団特任研究員
    • 渡部 恒雄
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