タイプ
論考
日付
2018/8/21

トランプ外交とアメリカ孤立主義勢力の眼差し (下):ブキャナン氏とシュラフリー氏に注目して

 

中央大学法学部非常勤講師

西住 祐亮

 

シュラフリー氏の外交論

フィリス・シュラフリー (Phyllis Schlafly) 氏は、反フェミニズム運動の急先鋒として知られた活動家であり、「プロファミリー」や「プロライフ」を掲げる保守系団体イーグル・フォーラム (Eagle Forum) の創設者 (1972年) でもある。前回の論考で注目したパトリック・ブキャナン (Patrick Buchanan) 氏と比べると、外交政策に関する発言や活動が注目されることは少ないが、このシュラフリー氏も、長きにわたって孤立主義的な主張を訴え続けた人物である[1]。シュラフリー氏は2016年9月に他界することになるが、このような姿勢は最後まで変わらなかったと言える。

 

具体的に見ていくと、シュラフリー氏自身は、朝鮮戦争 (1950年開戦) 以降のすべてのアメリカの戦争に不支持の姿勢を貫いたと主張しており、ベトナム戦争についても、シュラフリー氏は不支持であったという[2]。冷戦終結後の事例では、民主党クリントン (Bill Clinton) 政権が始めたコソヴォ紛争への軍事介入に強い反対姿勢を示していた[3]。また共和党ブッシュ (George W. Bush) 政権が始めたイラク戦争に際しては、イラクに駐留するアメリカ軍兵士への支持を表明しつつも、「イラクの国境を守る兵士がいるならば、アメリカの国境を守るべきである」と述べるなど、戦争そのものには不支持を表明していた[4]。加えて、リビア政府軍を標的とする空爆作戦に加わった民主党オバマ (Barack Obama) 政権の姿勢についても、リビアの反政府勢力に対する不信感や、大統領権限の拡大に対する懸念などを理由に、反対をしていた[5]。1990年代以降の北大西洋条約機構 (NATO) の東方拡大についても、「欧州諸国に対する福祉の継続」になるとして反対し、欧州の同盟国に対する負担要求の必要性を強調していた[6]

この他、外交政策の中では、通商政策もシュラフリー氏にとって関心の高い分野であり、シュラフリー氏は保護主義的な主張も継続的に打ち出してきた。1990年代に北米自由貿易協定 (NAFTA) へのアメリカの参加に反対したのに加え、近年ではアメリカと韓国の自由貿易協定 (KORUS) にも反対をしていた[7]

 

このように見てみると、シュラフリー氏の外交論も、トランプ氏が2016年の大統領選挙で掲げた「アメリカ第一 (America First)」の外交論と、かなり似通ったものであることがわかる[8]。シュラフリー氏は、主にイーグル・フォーラムのサイトを通して、こうした外交論を発信し続け、近年は、極右系の政治サイト『ワールド・ネット・デイリー (World Net Daily)』にも頻繁に寄稿していた。 

シュラフリー氏とトランプ氏の関係

ブキャナン氏とトランプ氏の関係としては、両者が改革党 (Reform Party) に所属した過去や、政策・思想面でのつながりがよく指摘される。しかし2016年大統領選挙では、両者の間で目立った接触はなく、ブキャナン氏がトランプ氏に支持や期待を表明するという、いわば一方向の関係であった。これに比べると、2016年大統領選挙時のシュラフリー氏とトランプ氏の関係はより双方向のものであり、両者の具体的な接点をはっきりと確認することもできる。

 

シュラフリー氏は、2015年12月という早い段階で、トランプ氏への支持を明言し[9]、その後の2016年3月には、闘病中であったにもかかわらず、ミズーリ州 (シュラフリー氏の地元) で開かれたトランプ氏の集会に参加した。この際、シュラフリー氏は登壇して演説も行い、トランプ氏に対する支持を正式に表明した (ただしトランプ氏への支持をめぐって、イーグル・フォーラムは内部で意見が割れたとされる)[10]。なおシュラフリー氏はこの演説で「我々が支持する候補は敗北を続けてきたが、ついに我々を勝利に導いてくれる候補に出会うことができた」とも述べており[11]、こうした発言からは、トランプ氏に対するシュラフリー氏の強い期待感を汲み取ることができる。

 

また2016年9月のシュラフリー氏の葬儀には、トランプ氏も参列し、シュラフリー氏の功績を称えるメッセージを述べた。その中でトランプ氏は、「彼女は決して重要なひとつの原則から外れることがなかった。それはアメリカに尽くすことであり、彼女は常に『アメリカ第一』であった」とも発言している[12]。こうしたシュラフリー氏との一連のつながりは、トランプ氏が社会・文化的な保守勢力からの支持を獲得する上で、一定の後押しになったとも見られている[13]。 

『保守派がトランプを支持すべき理由』

加えてシュラフリー氏が他界した翌日には、共著者二人とともにシュラフリー氏が執筆した『保守派がトランプを支持すべき理由 (The Conservative Case for Trump)』[14]が刊行された。シュラフリー氏はこの著書の冒頭部分で、(1)オバマ政権への批判、(2)オバマ政権の動きを制御できずにいる議会共和党 (共和党主流派) への批判、(3)そしてトランプ候補を支持すべき理由について強調している。その後の各章では、政策領域ごとに1章を割いているが、どの章でも強調されているのは、以上の3点であると言っていい。またこのうちの2つの章は、外交関連の政策領域を扱っており、「トランプ外交」(トランプ候補の外交関連の公約) に対するシュラフリー氏の評価を、ここから窺い知ることもできる。

 

通商政策を扱っている第2章では、オバマ政権が進めた環太平洋パートナーシップ (TPP) 協定への参加方針に反対すると同時に、そのオバマ政権に貿易促進権限 (TPA) を付与した共和党多数議会に対しても、「行政監視の役割を全く果たしていない」といった批判をしている。その上で、アメリカの労働者にとって好ましい貿易協定を各国に求めると宣言したトランプ氏への期待感を表明している。

 

安全保障政策を扱っている第8章では、「オバマ政権期に世界はより危険になり、アメリカは衰退する国家と見なされるようになった」と指摘した上で、具体的にオバマ政権下のアメリカで国防予算が削減されたことを批判している。またオバマ政権によるイスラム教徒への「過剰な配慮」が、国内テロ[15]の未然防止を妨げたとの主張もしている。その上で、国防再建や、イスラム圏からの一時入国禁止を公約に掲げたトランプ氏の姿勢を、高く評価している。他方、紛争介入に関する部分では、介入に前向きな共和党主流派[16]に対する批判を繰り返し、その上で、アメリカの国益を厳格に定義しようとするトランプ氏の姿勢を高く評価している。

 

このように見てみると、前回の論考で注目したブキャナン氏と同様、シュラフリー氏も、「アメリカ第一」の外交論を積極的かつ明確に支持していた。当然ながら、政権発足後のトランプ大統領の外交姿勢に、シュラフリー氏がいかなる評価を下しているかについて、知ることはできない。ただこれまでの議論を踏まえると、トランプ氏の外交公約の実現を歓迎し、外交公約からの逸脱に批判や失望を表明していると、想像することはできるように思われる (まさにブキャナン氏がそうであるように)。

孤立主義勢力に注目する今日的な意義

前回の論考で注目したブキャナン氏も、この論考で注目したシュラフリー氏も、少なくとも外交政策の分野では「傍流」と見なされてきた人物であり、この両者に注目する意義が一体どこにあるのかという見方も、一部ではあるかもしれない。しかしトランプ政権下の現状を踏まえると、こうした孤立主義勢力に注目する意義は、むしろ高まっているのではないかと筆者は考えている。というのも、ここで取り上げた二人と、オルタナ右派 (alt-right) と呼ばれるトランプ氏の中核的な支持層との間に、思想的・人的なつながりを指摘することができるからである。

 

確かに「オルタナ右派」という言葉そのものは、古くから使用されてきたものではなく、オルタナ右派が注目を集めるきっかけとなったのも、2016年大統領選挙でのトランプ氏の躍進であった。しかし「新しいボトルに入れた古いワイン」「ソーシャルメディアを手に入れたオールドライト」といった表現が頻繁に使われることからもわかるように[17]、オルタナ右派が、旧来のグループから思想を継承しているという見方は、多くの論考・記事で広く共有されている。

 

なかでもブキャナン氏を含めた「旧保守主義者 (ペイリオコン、paleo-conservative)」と呼ばれる旧来のグループと、オルタナ右派の思想的・人的なつながりを指摘する見方はかなり多い。トーマス・メイン (Thomas Main) ニューヨーク市立大学教授に至っては、オルタナ右派に関する近著『オルタナ右派の台頭 (The Rise of Alt-Right)』の中で、ペイリオコンとオルタナ右派が、いわば直系の関係にあることを詳細に論じている[18]

 

またシュラフリー氏は、『ブライトバート (Breitbart)』のコラムニストでもあるアン・コールター (Anne Coulter) 氏と、移民規制や反フェミニズムを掲げる活動をともにした過去を持ち[19]、コールター氏の側も、シュラフリー氏の政治姿勢を称賛するコラムなどを数多く残している。かつてのシュラフリー氏の活動を今日のオルタナ右派と重ね合わせるような見方も示されている[20]

 

若い世代、ソーシャルメディア、過激な表現といった新しい特徴を付け加えながらも、オルタナ右派は、旧来のグループの思想から多くの部分を引き継いでいると見られている。この点を踏まえると、ブキャナン氏やシュラフリー氏といった旧来の孤立主義者の主張を理解することは、トランプ外交に対するオルタナ右派の反応を見通す手がかりにもなると思われる。

 

おりしも2年目のトランプ外交は、1年目と比べると、孤立主義的・保護主義的な傾向を強めている。トランプ大統領が、米朝首脳会談の後に米韓合同軍事演習の中止を表明したことや、高関税政策を強化していることは、まさに象徴的である。トランプ大統領をこのような行動に駆り立てている要因については、いくつかの見方があるが、その1つとして、中核的な支持層 (オルタナ右派) に対する「外交成果」のアピールといったことも指摘されている。2018年の中間選挙が近づくにつれて、こうした誘因が強まることも予想されるので、孤立主義勢力の動向に注目する重要性は、これまで以上に高まっている、というのが現在の状況ではないだろうか。

 

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[1] 久保文明「外交論の諸潮流とイデオロギー:イラク戦争後の状況を念頭に置いて」久保文明編『アメリカ外交の諸潮流:リベラルから保守まで』日本国際問題研究所, 2007年, 36頁

[2] Donald Critchlow, “Remembering Phyllis Schlafly 1924-2016,” Politico, December 31, 2016. <https://www.politico.com/magazine/story/2016/12/phyllis-schlafly-obituary-eagle-forum-era-214559>

[3] Phyllis Schlafly, “Don’t Make the Vietnam Mistake in Kosovo,” Eagle Forum, April 14, 1999. <http://eagleforum.org/column/1999/apr99/99-04-14.html>

[4] John Whitehead, “A Vision of Victory: An Interview with Phyllis Schlafly,” Rutherford Institute,

April 8, 2003. <https://www.rutherford.org/publications_resources/oldspeak/a_vision_of_victory_an_interview_with_phyllis_schlafly>

[5] Phyllis Sclafly “Libya and the War Powers Act,” Phyllis Schlafly Eagles, June 24, 2011. <https://www.phyllisschlafly.com/libya-and-the-war-powers-act-443>

[6] Phyllis Schlafly, “NATO Expansion is European Welfare,” Eagle Forum, April 8, 1998. <http://eagleforum.org/column/1998/apr98/98-04-08.html>

[7] Phyllis Schlafly, “Korean Agreement is a Jobs Killer,” Phyllis Schlafly Eagles, October 12, 2011. <http://www.phyllisschlafly.com/korean-agreement-is-a-jobs-killer-427>

[8] 当然ながら細かく見ていくと、シュラフリー氏とトランプ氏の間にも、外交政策に関する立場の違いはある。例えば対露政策について、トランプ氏はロシアとの関係改善に意欲を見せ続けているが、シュラフリー氏はロシアに対して一貫して厳しい姿勢を示していた。Cliff Kincaid, “Trump’s Pro-Russian Policy

Threatens Israel,” Accuracy in Media, March 16, 2016. <https://www.aim.org/aim-column/trumps-pro-russian-policy-threatens-israel/> など。

[9]“Phyllis Schlafly: Trump is Last Hope for America,” World Net Daily, December 20, 2015. <https://www.wnd.com/2015/12/top-conservative-trump-is-last-hope-for-america/>

[10] シュラフリー氏はレーガン (Ronald Reagan) 大統領に対して強い支持を表明したのを最後に、それ以降はたとえ共和党候補であっても、支持を表明しなかったり、消極的に支持を表明したりするという姿勢を繰り返してきた。そうした近年の動きと比べると、トランプ氏に対するシュラフリー氏の明確な支持は、際立ったものであった。Critchlow, op. cit.などを参照。

[11] David Weigel & Jose DelReal “Phyllis Schlafly Endorses Trump in St. Louis,” Washington Post,

March 11, 2016. <https://www.washingtonpost.com/news/post-politics/wp/2016/03/11/phyllis-schlafly-endorses-trump-in-st-louis/?utm_term=.194bfc36e0c2>

[12] Eugene Scott, “In Eulogizing Schlafly, Trump Sees Spiritual Allies,” CNN Politics, September 10, 2016. <https://edition.cnn.com/2016/09/10/politics/donald-trump-phyllis-schlafly-funeral/index.html>

[13] Thomas Kaplan, “Donald Trump Praises Phyllis Schlafly as a Conservative ‘Hero’ at Her Funeral,”

New York Times, September 10, 2016. <https://www.nytimes.com/2016/09/11/us/politics/donald-trump-phyllis-schlafly.html> など。

[14] Phyllis Schlafly & Ed Martin & Brett Decker, The Conservative Case for Trump, Regnery Publishing, 2016. なお共著者の二人は、マット・ブラント (Matt Blunt) ミズーリ州知事の下で首席補佐官を務めたことのあるエド・マーティン (Ed Martin) 氏と、外交政策の専門家で、ウォールストリート・ジャーナル紙やワシントン・タイムズ紙での勤務経験があるブレット・デッカー (Brett Decker) 氏である。

[15] 具体的には、ボストン・マラソン爆破事件 (2013年4月) とフロリダ州オーランドでのテロ事件 (2016年6月) に言及している。

[16] 具体的には、ジョン・マッケイン (John McCain) 上院議員 (共和党、アリゾナ州) 、リンゼー・グラハム (Lindsey Graham) 上院議員 (共和党、サウスカロライナ州)、ロバート・ケーガン (Robert Kagan) 氏、ウィリアム・クリストル (William Kristol) 氏の名前を挙げて批判している。

[17] Iskander Rehman, “Rise of the Reactionaries: The American Far Right and U.S. Foreign Policy,” Washington Quarterly, Winter, 2018, pp.31-34.など。

[18] Thomas Main, The Rise of the Alt-Right, Brookings Institution Press, 2018, pp.63-64.

[19] Chuck Ross, “GOP Lawmaker Say CPAC Not Conservative on Immigration,” Daily Caller, March 6, 2014. <http://dailycaller.com/2014/03/06/gop-lawmaker-says-cpac-not-conservative-on-immigration/> など。

[20] John Nichols, “Phyllis Schlafly was Alt-Right before Alt-Right was Uncool,” Nation,

September 7, 2016. <https://www.thenation.com/article/phyllis-schlafly-was-alt-right-before-alt-right-was-uncool/>