タイプ
レポート
プロジェクト
日付
2010/9/21

2010年8月27日 現代アメリカ研究会報告

第1報告
報告者:西川珠子氏(みずほ総合研究所調査本部政策調査部主任研究員)
テーマ:オバマ政権の金融危機対応

本報告では、アメリカの金融危機対応の二つの柱、つまり?金融安定化策と?景気対策についての内容とその効果についての分析・評価がなされた。具体的な分析対象の政策は、前者は不良資産救済プログラム(Troubled Asset Relief Program、TARP;2008年10月3日成立の緊急経済安定化法に基づき実施)と金融規制改革法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act、DF法;2010年7月21日成立)、後者は米国再生再投資法(American Recovery and Reinvestment Act、ARRA;2009年02月17日成立)と自動車・住宅減税である。

?については、TARPは金融市場のパニック収拾には貢献したものの、中小企業や住宅市場支援には目立った成果がない。TARPの新規支出は実質停止しており、今後は出口戦略を遂行する段階にあり、とりわけ雇用創出の6割を担う中小企業に対する政府支援の継続が必要であるが、共和党による反対が根強い。
金融危機の再発防止策としてDF法が成立したが、抜本的改革の一里塚に過ぎない。DF法では住宅金融公社(Government Sponsored Enterprise, GSE)改革が先送りされた点も大きな課題として残されている。

?については、ARRAは大恐慌の回避には一定の成果を挙げたと評価できるが、「政策がなかった場合に比べた効果」を政府が強調しても、有権者の回復実感とは一致していない。自動車買い替え減税、住宅減税などの政策は、消費刺激効果はあったものの、支援政策終了後は失速が鮮明であり、一時的な効果しかなかった。
時系列的に見ると政策の重点はウォールストリートからメインストリートにシフトしているのだが、効果は限定的である。最優先課題である雇用創出では実績があがっていないことから、オバマ政権の失速は今後一層顕著になるおそれがある。

第2報告
報告者:廣瀬淳子氏(国立国会図書館調査及び立法考査局海外立法情報課課長)
テーマ:金融規制改革法の法案審議過程について

金融規制改革法は、大統領の最優先課題の一つであり、非常に重要な法案にも拘わらず、報道が少なく、国民の関心も医療保険改革法案と比較するとかなり低い。医療保険改革法の審議過程と対比すると、大きな違いをいくつか指摘できる。第一に政権が原案を提示したことで、これにより法案の審議時間が短くなった。大統領は、法案の90%に満足といっているように、原案に近い形で成立した。第二は、両院協議会によって調整できたことが特筆すべきである。しかも密室ではなく、ある程度オープンな形で調整された。最近の大規模な法案で両院協議会で調整される法案は、珍しくなっている。さらに、医療保険制度改革は業界団体の表立った反対はなかったが、金融規制改革法は金融業界からの強い反対があった。これを乗り越えて包括的な法案を成立させた意義は大きい。超党派での成立に向けた努力はなされたが、上院でも下院でも党派的な投票によって通過した。ブルードッグ(民主党中道派)は反対した。

ファニーメイ、フレディーマック問題が積み残されたこと、新たな規制機関が新設されることが共和党の反対の主な理由である。

今後の課題としては、移民、税制、雇用といった目に見える政策の立法の目処がたっていないことであろう。中間選挙までの期間ももう残りわずかであり、このまま選挙戦へと突入することは民主党にとって厳しいと言えるだろう。大統領の立法成果が支持率につながっておらず、議会側は大統領が議会の立法努力を過小評価しているとして、不満が高まっている。

質疑応答

Q:景気刺激策は日本でもやっていて、効果がないとよく言われている。うまくいかないと財政赤字が膨らむだけ。本当にうまくいくのか?ニューディールも、景気刺激というより、戦争特需。ティーパーティやウォールストリートの人たちは何もしないのが一番良いと言っている。理論と現実の観点から。
A:理論的には一定の乗数効果が認められている。ただし、「対策なし」を仮定した場合との対比でしか、実際の政策の結果を評価できないため、一般の人たちが実感として評価しにくい。一時的ではあるが、自動車・住宅販売は大きく押し上げられており、減税政策は一定の効果が見られたことは明らかである。

Q:今回の刺激政策は最大のものではあるが、もっと大きくあった方がよいのか、少なくてもよいのかという議論はあるのか。また、この政策は確かに一定期間では乗数効果は見られるだろうが、ある時期を過ぎれば財政赤字などによって効果を引き下げることもありうるのではないか。
A:当然、財政赤字が膨らむことにより金融市場が反応して金利が上がってしまい、効果を下げてしまうことはありうる。ただ、足元においては、金融政策が超緩和状況にあり、低金利が維持されているので、そうした影響は生じていない。臨界点がいつなのかと問われたら、市場に関わる様々なファクターの反応次第の側面があるため、見極めは困難である。

Q:オバマにとって、ARRAはインフラ整備という意味で成長戦略として捉えることができるだろう。メインストリートを支持基盤とする共和党がメインストリートを支援する政策に反対しているのが面白い。選挙までずるずるひっぱる戦略なのでは。
Q:成長戦略は長期的には景気対策・回復に効果があると思われるが、短期的にはどれだけの効果が理論的にあるとみられるのか。
A:政策内容によって効果が大きく異なるので一般論での短期的評価は難しい。今回の環境・エネルギー分野対策は従来にないものであり、短期的に投資が需要を押し上げる効果はあるであろうが、雇用のミスマッチが生じていることなどから雇用創出に結びつきにくくなっている可能性がある。

Q:世界恐慌との比較は面白いのでは。つまり当時は、実際、公共事業の影響はあまり大きくなく、金融政策などが功を奏したのである。今回の経済対策は、この件を参考にしたと思われ、非常に似ている。
Q:景気刺激策の決定権はだれにあったのか。
A:ローマー大統領経済諮問会議(CEA)委員長が辞任することになったが、サマーズ国家経済会議(NEC)委員長との間に確執があったとされる。ローマーはサマーズとは異なり、オバマ大統領に直接会って議論する機会をあまり与えらず、サマーズの経済政策に対する影響力が大きくなっていたとされる。

Q:金融恐慌が起きてしまったことについて、メインストリームの経済界の人たちの認識はどのようなものか?
A:モラルハザード、グリード、金融資本主義の暴走といった指摘がなされている。もちろん反省はあるが、行き過ぎた規制は金融業界の収益機会を奪い、貸出抑制などを通じてマネーの流れを停滞させ、経済成長を抑制するおそれもある。適正な規制の程度の判断は非常に難しいが、DF法では、ボルカー・ルール、役員報酬規制やデリバティブ規制などの面で、当初検討されていたよりは厳しすぎない内容となった。

Q:共和党やブルードッグは「財政拡大⇒大きな政府」という論理で反対なのか、それとも・・・・?
A:共和党と中小企業との関連についての議論よりも、「新たな規制機関、規制強化⇒大きな政府」というイデオロギー面が重要視されていたような印象が強い。

Q:医療保険改革成立過程よりも、金融規制改革成立過程の方がメディアは騒ぎたてなかった、という報告内容について。これはいいことなのか、悪いことなのか。また、騒ぎたてなかったから反対が小さい・少ない、もしくは騒ぎたてたから反対が大きいともとれるのではないか?
A:医療保険改革成立過程では、法案の審議期間が長いことや、「そもそも改革が必要なのか?」という議論も行われた。他方で金融規制改革法案は、多くの国民の生活に直結はするが内容が専門的で十分に理解されていない面がある。

Q:医療保険改革法でもホワイトハウスが指針を示したほうがよかったのでは、という指摘がある。
A:ホワイトハウスで改革の大枠を示していれば、あそこまで議会の労力を必要としなくても良かった面はある。現在他の法案審議がおくれている原因にもなっている。

Q:GDPは回復しても、非農業部門の雇用者数の実数は回復していない。その理由はなぜなのか。
A:景気回復初期には、企業は労働時間の延長によって対応するため、雇用拡大は遅行する。ただ、回復初期に見られる典型的な段階にあるのか、雇用のミスマッチにより構造的に回復が遅れているのかを見極める必要がある。

Q:景気はオバマ政権初期の政策によって上向いてきたが、減速傾向がある、とのことだった。だがARRAも既に75%終わっていたから、二番底の心配はないのでは?
A:最大の需要項目である消費や住宅等家計部門はまだふらついており、先行き不安材料となっている。
A:失業手当てを拡充したものの、雇用不安が根強い。ただ、企業の設備投資は堅調を維持しており、大底は支えられ、2011年も2%成長を維持すると予想している。

Q:中間選挙が終わり、共和党が勢いづいていたら、ブッシュ減税はどうなるのか。
A:富裕層減税なので、民主党からすれば継続しがたいのでは。

Q:継続するには新立法が必要であり、それをするには民主党は弱い。
A:上院共和党は減税を継続したがっていて、下院は様子見だが、ペロシ議長はオバマ大統領の25万ドル以上の世帯の減税廃止を支持している。

Q:オバマはブッシュ減税を減らす(特に金持ち減税。上位3%)と言って政権をとった。しかし景気対策のためか、まだ行っていない。その不作為は経済にプラスの効果はあったのか。
A:金融危機下で、あえて上位3%の減税廃止をおこなうと景気の落ち込みは一層深刻になり、大恐慌に陥るリスクもあった。

Q:いま、潜在成長率が下がっているという議論はあるのか。
A:バブル以前のレベルにまで下がってきているという意見が優勢。金融・不動産業中心の成長がこのまま続くと考えるのは難しい。CEAは2.5%程度と見ている。

Q:そもそも、金融危機以前からファニーメイやフレディーマックに対して、何らかの問題意識はなかったのか。
A:90年代からあった。暗黙の政府保証に対する問題意識は共和党を中心に強かったが、民主党としては、住宅取得支援という公的な役割を代替している機関なので維持したく、ロビー活動も強かったため、うまくいかなかった。

Q:海外の政府や企業などもたくさんファニーメイやフレディーマックの株を持っているから、破綻はまずいのだろう。
Q:サブプライムよりプライムローンの全体の件数が多い。安全といわれているプライムローンの差し押さえが多い状態はよくなっているのか。

A:サブプライムからプライムへの波及が一番懸念されている。延滞率を見ればサブプライムの方がとても高いが、金融業界などで失業が増え高額ローンの支払いが困難になっているため、延滞件数はプライムローンの方が多くなっている。
      

■報告:石川葉菜(東京大学法学政治学研究科博士課程)