タイプ
論考
プロジェクト
日付
2010/10/26

アメリカNOW 第60号 「中間選挙とティーパーティ運動再考」:2010年の話題書で読み解くアメリカ(4) (渡辺将人)

まもなく11月2日に全米で投票が行われる中間選挙は、オバマ政権の命運を決する。今号で扱うのは、ティーパーティ関連書とブッシュ夫妻の自伝である。

政党を超えた草の根運動?
中間選挙の台風の目となっているティーパーティについては数多くの書籍が出ているが、ここで事例に取り上げたいのは2010年9月に出たばかりのMad As Hell: How the Tea Party Movement Is Fundamentally Remaking Our Two-Party Systemである。本書の特徴はティーパーティ運動を保守運動と位置づけるのではなく、反二大政党エスタブリッシュメントとして、保守・リベラルを横断した運動と解釈している点である。ティーパーティ運動の解明が一筋縄ではいかない一因に超党派性が絡んでいることが、本書で理解できる。著者のスコット・ラスムッセンとダグラス・ショーンは、ポピュリズムには右派と左派の両方があると定義する。右派ポピュリストは政府そのものが問題であると考え、ポピュリスト左派は労働組合、リベラル活動家などの間にも存在すると述べる。彼らの定義によれば、「ムーブ・オン」などのリベラル運動もポピュリズムに含まれる。そしてティーパーティ運動をその延長戦上に位置づけるのだ。

ティーパーティ運動は大半において保守であるが、共和党運動では断じてないと本書は繰り返す。政治エリートへの反乱なのだとして、共和党を含む政治エリートに敵意をむき出しにしている。これまで共和党に投票してきたが、無党派になり今回はティーパーティを支持するという選挙民事例を個人名で紹介している。本書カバーに名を連ねる政界著名人推薦者もいささか分裂気味だ。ラッシュ・リンボーのような保守系の人気者から、フランク・ランツのような保守系世論調査専門家もいれば、ジョー・トリッピのようなリベラル系の人物も名を連ねている。「ディーン選挙をアメリカで最もパワフルなムーブメントに押し上げた者として、本書のティーパーティのムーブメント分析がいかに重要か理解できる」とトリッピは推薦の言葉を述べている。ティーパーティ運動の解明の鍵は、反エスタブリッシュメントにある。

9月15日にはデラウェア州の共和党予備選で、ティーパーティが支持するクリスティン・オードネルがベテランを破って勝利しているが、カール・ローブがオードネルを「勝ち目がない」として批判したことが共和党内で騒ぎとなった。FOX NEWSの日曜討論番組FOX News Sundayはローブとオードネルの対話の場を提供しようと試みたが、オードネル陣営がローブとの対面を避けるためか、土壇場で出演をキャンセルして、これが共和党内でのオードネルの印象をさらに悪くした。リンボーらがローブのオードネル批判をせっかくの保守運動の勢いに水を差すのかと揶揄し、共和党内はエスタブリッシュメントとティーパーティ擁護派で分裂の様相を呈した。

ティーパーティ運動の仮装とプラカードは何を伝えるか
ティーパーティ関連書籍でもとりわけ興味深いのは、ティーパーティ運動の写真を集めた写真集が既に出版されていることだ。Don't Tread on US: Signs of a 21st Century Political Awakeningはティーパーティのイベントに参加する人々が掲げる膨大な数のサインばかりを集めた写真集である。本書の写真を眺めれば一目瞭然であるが、この運動は仮装や立て札、サインなどによるビジュアルのアピールが大きな特色となっている。星条旗、鷲などをベースに、愛国的なトーンで塗り固められているが、最も多いのは「社会主義化を食い止めろ」という立て札である。「これ以上わたしのお金を無駄遣いするな」という反税的なメッセージが大半である。批判の対象としてやり玉にあがっているのはオバマであるが、オバマ陣営のロゴをもじっているものもある。レーガンをヒーローとして掲げるサインも多い。「政府が問題だ」というレーガンの言葉をレーガンの写真とともに掲げる者もいる。マケインを取り出して「彼も同類だ」として共和党指導層を批判するもの、共和党の象のロゴ、民主党のロバのロゴを中傷するイラストもある。

気になることは数点である。第一に「社会主義」批判が過剰に蔓延しており、スターリン、マルクスにオバマを並べるサインがあまりにも多いことである。これはきわめてミスリーディングなメタファーであり、反税金の小さな政府志向と全体主義嫌悪が都合良く混同されたレトリックである。しかし、この手のサインは1つや2つではない。第二にオバマ個人への中傷としていささかやり過ぎではないかというサインもあることだ。ヒトラーに被せたり、骸骨のお化けのようにしてしまったり、政治言論としては異例なほどに個人攻撃が目立つのは事実だ。実際には、リベラル派や無党派層も巻き込んだ、穏健な反税運動、反エスタブリッシュメントのポピュリズム運動であったとしても、一部のこうしたサインが人種差別的なのではないかという懸念を民主党側にもたらしているのかもしれない。

第三に、年配層と小さな子供、そして圧倒的に白人層が多いことだ。子供は家族に連れられて参加しているのであろうが、ティーパーティに好意的なこの写真集ではかわいらしい子供にプラカードを持たせている写真をかなり掲載している。第四に、きわめてよく組織されているという印象は拭えないことだ。写真集を見ればわかるが、使用されているプラカードやサインで使用されている木材や紙が均一である。選挙キャンペーンでフィールドのオペレーションを経験したことがあれば、サインやプラカードが組織的に管理されないと準備できないレベルの出来映えであることはわかる。勿論、自分たちで、自宅の庭で作成したものもあるだろうが、少なからず誰かに「支給」された材料を用いていることを示している。運動は自発的な参加であっても、その過程でロジスティクスやインフラを支援するメカニズムが機能していることが窺える。

ただしティーパーティ運動の傾向性には地域差もある。興味深いのは深南部や文句なしに保守的な地域の運動ではなく、オバマに好意的でリベラルであったはずの地域の運動だ。9月下旬、ウィスコンシン州、ミネソタ州などの下院選区を回った。注目選挙区の1つは下院のベテランのデイビッド・オビー下院議員の退任に伴うウィスコンシン州7区の空席である。95%以上が白人という農業地帯で、連邦下院で最もリベラルな議員の選挙区がティーパーティ系の支援を受けている共和党候補に奪われようとしている。対抗馬の民主党候補ジュリー・ラサは、ウィスコンシン州内で活発化するティーパーティ運動の気配を感じとって、無党派の離反を食い止めるために「中道化」路線のキャンペーンを展開していた。

しかし、地元民主党関係者からはラサ候補に対して落胆の声も見られた。オビー議員は民主党内でも有数のリベラルな議員で、ファインゴールド上院議員など全米でリベラルな議員を輩出しているこの地域の民主党員は「リベラル」であることに誇りを持っている。ティーパーティの勢いを懸念しての安易な中道化には不満も少なくない。オビー議員周辺もラサ陣営には一定の距離を保っている。ティーパーティ運動が元来リベラルだった選挙区に持ち込まれたことで、民主党内にどこまでリベラルな姿勢を堅持すべきかの迷いが生じ、メッセージにぶれが生じている。これはそのままオバマ大統領とどのような距離感を保ってキャンペーンを展開すべきか、という全米の民主党候補者の共通の悩みにもつながっている。

ウィスコンシン州やミネソタ州のティーパーティ運動は、さほど保守的ではない。候補者への依頼メッセージの中に、宗教的文言が多いのは土地柄であるし、基本的には反税金を掲げる穏健な運動だ。しかし、ただそれだけでも民主党内をかき乱すには十分な力を持ち得ている。ティーパーティ運動が意外な力を発揮するのは、現職議員の引退で隙間があいた選挙区かもしれない。

NDNローゼンバーグの中間選挙への視点:そしてブッシュ自伝
NDNのサイモン・ローゼンバーグも民主党のダメージは地域差が生じると分析している。経済の停滞を直撃している「ラストベルト」と呼ばれる地域のダメージは避けられないとする。オハイオ、ペンシルヴァニア、インディアナなどである。他方で人口動態的に若年層とマイノリティの多い、西部、南西部、フロリダは善戦が期待されると見ている。フロリダの知事選は民主党優位である。テキサスの知事選でも共和党に民主党候補が肉薄している。この乖離は拡大傾向にあり、西部がますます民主党優位になると同時に民主党を中西部を失っていくという。

オバマの支持率に関しては独自の楽観論を提示した。「オバマの支持率は47%から46%で推移している。46%が選挙で彼に抗う投票行動を行った。つまり、2年前の大統領選挙時と何も変わらない。しかも、経済は70年ぶりに最悪の状態である。オバマの支持率がこういうときもっと下がらなかったら、いつ下がるのか。大統領はアメリカ史上における大変な環境汚染の災害に見舞われた。イラクとアフガニスタンの戦争は順調ではない。1930年代以来最悪の経済。しかし、彼は支持を失ってはいない。これは大変に驚嘆に値することなのだ。アメリカの46%がオバマを嫌っている。彼らはどうなってもオバマのことを好きになりっこない。それが今日の不支持率の46%である。彼は民主党支持を少し失ったかもしれない。しかし、驚異的なことに不支持率は同じなのだ」。このように指摘したローゼンバーグは、消費の回復には期待できないとしながらも、1994年の民主党大敗のときと構図は違うと語った。

ティーパーティ運動については「中長期では共和党を害する運動である」と指摘する。「今年は害にならないかもしれないが、2012年の大統領選挙での予備選過程で候補者がティーパーティの支援を得るために右傾化するが、これは本選での当選可能性を低める」と述べた。また今回の共和党予備選において、ティーパーティ系の候補者との戦いで、共和党候補が本選での選挙資金を浪費すれば、これは民主党の漁父の利となる。ティーパーティ運動の盛り上がりが必ずしも、民主党を大破させるとは即断できない。

またローゼンバーグは次のように述べた。「ティーパーティのことを私は『リアクショナリー・ライト』『ラディカル・ライト』と呼んでいる。彼らは一般的に理解されている意味での保守ではない。彼らは未来に対しての怒りを持っていて、過ぎ去った時代へのノスタルジーで動いている」「ティーパーティ運動の原動力は、高齢化していく年配の白人が将来の経済に不安を感じていることによる」「土着的で後ろ向きの政治環境が存在している。共和党までノスタルジックな政党になり、機能しなくなっていく」

ティーパーティ運動が吹き荒れるアメリカで一番所在のない思いをしているのは、実は穏健派の共和党議員とその支援者だという。共和党穏健派とも仕事をしてきたローゼンバーグは「そうした穏健な共和党員がどんどん減っている」と懸念する。民主党リベラル系の議員スタッフは「共和党穏健派が党内に居場所を失いつつある現在こそ、民主党はそうした層に手を伸ばしていく時期かもしれない」と認める。しかし、そこで障害となるのは民主党としてリベラルな基礎票をどう維持しながら穏健中道路線に向かうかだ。ニューデモクラット運動の立役者のローゼンバーグも、リベラル派を巻き込んだ大連合が必要と説く。「私たちはかつてはニューデモクラットと足並みを揃えてきた。現在もそれは変わらないが、リベラル派との仕事が増えてきている。私たち(NDN)を箱の中におさめてしまうことはできない」。ニューデモクラットの印象が強い組織名をNDNに変えたのも、ローゼンバーグの民主党大連合への新たな願いが込められているのかもしれない。今度の中間選挙そしてその後の政治運営は、党内分裂を阻止して連合をうまく築けるかが両党に課せられた課題となりそうだ。

ところで、中間選挙後にはブッシュ前大統領の復活も待ち構えている。自伝Decision Pointsの出版を兼ねテレビ出演を本格的に再開する。最初のインタビューはNBCの朝番組Todayのマット・ラウアーと11月8日に行うことが決定している。自伝は邦訳すれば『決断の時』。10の主要な決断をめぐる考えを綴っているとされており、9・11についても言及があるという。執筆を手伝ったのはスピーチライターのクリス・ミッシェルである。

政治関係者の間では11月9日の発売が早まるかどうかが関心の的だった。民主党の失点になる決定的事実が明かされれば、中間選挙で共和党の追い風となるかもしれないし、ブッシュ大統領のことを嫌う共和党員やティーパーティ支持者には不評となり、共和党候補の印象を悪くするかもしれなかった。ブッシュの経済、ブッシュの戦争のせいでオバマが苦しんでいる、というレトリックをかえって強化することになるとすれば、じっと静かにしているのが、ブッシュが共和党のためにできることだったのかもしれない。内容が判明していないだけに効果が読めなかったが、最終的に出版社は中間選挙後のほうが営業的には扱いが大きくなるから、という公式理由で出版前倒しを思いとどまった。実際には共和党側の政治的判断がそれなりにあったはずだ。胸をなで下ろしている選挙関係者は、両党にいることだろう。日本についてどのような言及があるのかも注目点だ。ローラ夫人の自伝では、小泉総理の訪米時にエルビス・プレスリーの家を訪問した思い出が記されていたが、夫人の立場上政策的な言及はなかったし、ローブも日本への言及は特になかった。中間選挙後はしばらくブッシュ前大統領が話題となりそうだ。これがオバマ政権にとってどのような効果をもたらすかは、選挙結果次第である。



■ 渡辺将人: 東京財団現代アメリカ研究プロジェクトメンバー、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授