タイプ
論考
プロジェクト
日付
2011/10/21

アメリカNOW 第81号 一歩引いて見る「Occupy Wall Street」 (安井明彦)

米ウォール街付近を中心とした抗議運動(Occupy Wall Street:以下OWS)は、ついに開始から一ヶ月を超えた。ニューヨーク在住の筆者にはわからないが、日本での報道も盛んらしく、「そちらは大丈夫か」などという問い合わせもいただくようになった。

OWSは2000年代の米国で繰り返し発生してきた草の根運動の系列に連なる。ネットルーツやオバマ旋風、そしてティー・パーティーなどは、政治・経済の双方でうっ積する国民の不満の表れとして位置づけることが可能だ*1 。一連の運動の発生は金融危機に先立っており、危機の後遺症が癒えるだけでは、これらを突き動かしてきた不満が消えるとは限らない。ティーパーティーが財政再建の機運を一気に高めたように、格差問題などを提起するOWSが今後の米国の方向性を左右していく可能性には注意が必要だろう。

こうしたOWSを始めとする草の根運動の意味合いは別にして、OWS自体の活動については米国でもさまざまな議論がある。組織・主張の成熟度合いやインターネットの役割、さらには既存政党との距離感のあり方など、論点の多くが黎明期のティーパーティーをめぐる議論と重なり合っているのが特徴だ。例えば米国では、ティーパーティーが共和党の力になるのかどうかが問われてきたように、OWSに寄り添うことが民主党の利益になるのかどうかが議論されている*2

OWSの先行きや位置づけは、いぜんとして流動的と言うしかない。しかし、限られた日本の報道では、抗議運動の盛り上がりに焦点が当たりやすく、こうした曖昧さを感じ取るのは難しいかもしれない。そこで本稿では、OWS自体の規模と世論の受け止め方に焦点をあてて、敢えて「一歩引いた視点」で現状を整理してみたい。OWSの意義を軽視するわけではないし、今後OWSが大きく成長する可能性を否定するわけでもない。誕生から一ヶ月が経過した時点を切り取って、相対感をもった評価の材料を提供することが本稿の狙いである。

1.運動の規模

第一の視点は、運動の規模である。OWSに動員力があるのは事実だが、その強さはティーパーティーの実績にはまだ遠く及ばない。

OWSの抗議運動のなかでも大きく報道されたのは、全世界での同時行動がうたわれた10月15日の出来事だろう。ニューヨークのタイムズスクエアに押し寄せるデモ隊の映像は、日本でも目にする機会があったはずだ。

それでは、当日のOWSによる動員数はどれくらいだったのだろうか。ニューヨークタイムズ紙のネイト・シルバーは、当日のOWSによる動員数を各地の報道をもとに推計している。これによれば、ニューヨーク(タイムズスクエア)での動員数は6,750人、当日の全米各地での動員数は約7万人だったという*3

こうした動員数は決して少なくはないが、必ずしも飛びぬけて大きいというわけでもない。例えば、ネイト・シルバーが同じ手法で2009年4月15日のティーパーティー運動による動員数を推計した際には、全米で約30万人以上という結果がでている*4 。報道で確認された抗議運動の発生箇所も、OWSが全米で約150都市だったのに対し、ティーパーティーは同じく300都市を超えている。

OWSのタイムズ・スクエアでの行動が注目されたのは、世界のメディアが常駐するニューヨークでの出来事だったことが追い風になったのかもしれない。例えば、今年2月にウィスコンシン州の州都マディソンで行われた労働組合の団体交渉権を巡る大規模な抗議運動は、全世界で今回ほどの注目を集めたとは言い難いが、ピークに達した2月17日の動員数は1万3,000人以上に達し、州議事堂には1,000人以上が泊まりこんだといわれる*5 。これに対して、OWSでウォール街近くの公園に泊まりこんでいる中核メンバーの数は100~200人と報じられている*6

参考までに、ニューヨーク周辺の「人出」を記しておく。デモの舞台となったタイムズスクエアには、一日で36万人強が訪れる*7 。デモと同じ週の月曜日(祝日)にニューヨークで行われたコロンバス・デーのパレードには数万人が集まったといわれる*8 。ちなみに、筆者の自宅から近いニューヨーク郊外(ロングアイランド)の港町でデモと同じ週末に行われた地域の祭りは、二日間で20万人の人出を見込んでいた*9 。同じくロングアイランドで週明けの月曜日に行われた労働組合のデモには、2,000人以上(主催者発表では3,000~5,000人)が集まったと報じられている*10

2.世論の受け止め方

米国の世論は概ねОWSに好意的だ。一方で、運動の浸透度には疑問も残る。

各種の世論調査では、ОWSを好意的に受け止める割合が、これを否定的に受け止める割合を総じて上回っている。タイム誌が10月9~10日に行った世論調査では、54%がウォール街での抗議運動に好意的、23%が否定的な回答を行っている*11 。ウォールストリートジャーナル紙が10月6~10日に行った調査でも、「支持する」という回答が37%であるのに対し、「支持しない」という割合は18%に止まった*12

こうした世論調査を受けて、「OWSはティーパーティーよりも支持されている」という分析も見受けられる*13 。ティーパーティーを好意的に評価する割合は、前述のタイム誌の調査で27%、ウォールストリートジャーナル紙の調査でも28%だからである。

一方で、OWSの浸透度には疑問も残る。ギャロップ社が2011年10月15~16日に行った世論調査では、OWSの「目的」と「抗議の方法」への賛否を聞いた問いに対し、「よくわからない」という回答が過半数(前者が63%、後者が55%)を占めている*14

米国民のOWSに対する関心は発展途上なのかもしれない。ピューリサーチセンターによれば、10月6~9日の期間に「もっとも真剣にフォローしたニュース」としてウォール街での抗議運動を上げた割合は7%に過ぎず、経済(27%)やスティーブ・ジョブス氏の死去(14%)、さらには来年の大統領選挙(12%)よりも低かった*15 。10月15日の抗議行動が行われた翌週の同じ調査(10月13~16日)では、ウォール街での抗議運動に関心をよせた割合が18%へと増加し、もっとも高かった経済への関心(20%)に迫ったものの*16 、それでも2009年4月時点でティーパーティーが集めた関心(27%)は大きく下回っている。さらに、やはり10月15日をはさんだギャロップ社の調査でも、OWS関連のニュースに対する米国民の関心の度合いは、1990年以降の主要なニュースに比べてやや低い水準にあるという結果がでている。

OWSの浸透度への疑問を考え合わせると、上述のOWSに好意的な世論調査結果にも注意が必要になる。

実はタイム誌やウォルストリートジャーナル紙の調査は、単刀直入にOWSへの評価を尋ねているのではなく、運動の内容を説明した上で意見を求めている。タイム誌の調査では「富裕層を優遇する政策や銀行救済策、さらにはわれわれの政治システムにおけるカネの影響力への抗議運動」、ウォールストリートジャーナル紙であれば「ウォール街や企業の政府への影響力に対する抗議や座り込み」といった具合であり、OWSという単語は使われていない。

こうした各調査機関の描写の仕方は、調査結果にバイアスを与えている可能性がある。回答者が認識するOWSそのものへの評価だけでなく、調査機関が整理した抗議内容への支持が反映されかねないからだ。実際に、「OWSの支持者かどうか」を単刀直入に尋ねたギャロップ社の調査では、支持者(26%)が反対者(19%)を上回ったものの、過半数(52%)が「どちらでもない」と答えている。

ティーパーティーへの評価との比較にも注意が必要である。タイム誌やウォルストリートジャーナル紙の調査では、OWSについてはその内容を描写しているのに対し、ティーパーティーについては単刀直入にその評価を尋ねている。内容を描写すればティーパーティーへの支持が上がるとは限らないが、少なくとも両者が同じ基準で評価されていないのは事実である。ちなみに、前述のギャロップ社の調査では、「ティーパーティーの支持者」と回答する割合(22%)が反対者(27%)を下回っているが、同社ではティーパーティへの支持について「通常は支持者と反対者はほぼ同程度で、多くは態度を表明しない」として、「現在のOWSに対する支持の度合いはティーパーティーと似通っている」と結論づけている。

こうした世論調査の結果からは、OWSの浸透度に疑問が残る一方で、OWSが主張していると「思われる」政策については、好意的な見方が強い可能性が示唆される。後者が事実であるとすれば、OWS自体の先行きにかかわらず、今後の米国の政策の行方を見極める上で見逃せないポイントである*17

ニューヨークタイムズ紙のデビッド・ブルックスは、「抗議運動をみていく際の要諦は、運動に参加している人たち自体ではなく、これを受け止める人たちを観察することだ」と指摘する*18 。OWSそのものだけでなく、これを受け止めた「米国の変容」を見定めていく必要がありそうだ。



*1:こうした点については、拙著「アメリカ 選択肢なき選択(日経プレミアシリーズ)」を参照願いたい。
*2:例えばクリントン政権で世論調査を担当したダグラス・ショーンは、「OWSの主張は米国民の主流から外れており、民主党がこれを支持すれば無党派層の離反を招く」と主張している(Douglas Schoen, Polling the Occupy Wall Street Crowd, Wall Street Journal, October 18, 2011.)。その一方で、ニュー・リパブリック誌のジョナサン・コーンらは、「リベラルはOWSのエネルギーを取り込むべきだ」と論じている(Jonathan Cohn and John B. Judis, Why Liberals Should Embrace Occupy Wall Street、The New Republic, October 13, 2011.)。
*3: Nate Silver, The Geography of Occupying Wall Street (And Everywhere Else), The New York Times, October 19, 2011.
*4: Nate Silver, Tea Party Nonpartisan Attendance Estimates: Now 300,000+, Five Thirty Eight, April 16, 2009.
*5:Scott Bauer, Todd Richmond, Thousands protest Wisconsin Anti-Union Bill, AP, February 17, 2011.
*6:AP, Wall Street Protest Functions Like a Small City, October7, 2011.
*7:Times Square Allianceによる。
*8:それでも例年の「数十万人」よりは少なかったと報じられている(AP, Columbus Day Parade Rolls Up New York's 5th Avenue with Heavy Police Presence and Thin Crowd, October 10, 2011.)。
*9:Oyster Festival.
*10: Robert Brodsky, Union Members Protest Mangano Bill, Newsday, October 17, 2011.
*11:http://swampland.time.com/full-results-of-oct-9-10-2011-time-poll/
*12: http://msnbcmedia.msn.com/i/MSNBC/Sections/NEWS/A_Politics/October_Poll.pdf
*13: David Weigel, Poll: Occupy Wall Street is Twice as Popular as The Tea Party, Slate, October 13, 2011.
*14:Jeffrey M. Jones, Most Americans Uncertain About "Occupy Wall Street" Goals, Gallup, October 18, 2011.
*15:Pew Research Center for People and the Press, Wall Street Protests Receive Limited Attention, October 12, 2011.
*16:Pew Research Center for People and the Press, Growing Attention to Wall Street Protests, October 19, 2011.
*17:もっとも、注2でとりあげたダグラス・ショーンのように、「OWSの主張は米国の主流の考え方とは相容れない」という見解も少なくない(例えば、David Brooks and Gail Collins, Is Occupy Wall Street Being Overhyped?, The New York Times, October 19, 2011.)。
*18:David Brooks and Gail Collins, Is Occupy Wall Street Being Overhyped? , The New York Times, October 19, 2011.

■安井明彦:東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・メンバー、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長