タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/9/24

アメリカ大統領選挙UPDATE 7:「崖っぷちのロムニー陣営」(袴田 奈緒子)

「世論調査に過度に反応しないで下さい。経済の実態がオバマ政権のアキレス腱という事実は変わっていないし、大統領選はミット・ロムニーが勝利します」

経済低迷の元凶であるオバマ大統領を有権者は支持しないはずだ、と訴えたメール。今月10日、ロムニー陣営が支持者らに送ったものだ。6日に終了した民主党大会を機に、オバマ大統領の支持率がロムニー候補を引き離し、「選挙に負けるのでは」との懸念が共和党サイドに急速に広がったことが背景にある。“パニック”の沈静化を狙って送られたメールだが、主要メディアが大きく取り上げたことで、かえって「危機感にさいなまれるロムニー陣営」というイメージを膨らませてしまった。

ロムニー候補が支持率で、オバマ大統領をほぼ完全な横並び状態まで追い詰めた党大会直前の意気軒昂ムードは今や昔。党大会以降のロムニー陣営は度重なる誤算に見舞われた。

1.期待外れの党大会
党大会に向け、ロムニー陣営には2つの目的があった。第1に「大富豪」「冷徹な経営者」のイメージがつきまとい、ロボットのようだと揶揄されるロムニー氏の人間らしさを前面に出し、有権者に共感してもらうこと。第2に「Mr Fix-It(再生請負人)」としてのロムニー氏を印象づけ、経済が停滞する今、大統領にふさわしいのはロムニー氏だと思ってもらうこと。

どちらの点についても、当初の目的を果たせたとは言い難い。妻のアン夫人は「今夜は愛について語りたい」と演説を切り出し、高校時代のなれ初めや夫、父親としてのロムニー氏のエピソードを紹介。ロムニー氏自身も指名受諾演説で「愛」という言葉を連発して家族愛を強調したり、あまり語ってこなかったモルモン教の信仰について触れたりし、「人間ロムニー」を理解してもらおうと腐心した。しかし、党大会直後の調査(ワシントンポスト/ABCテレビ)では、ロムニー氏を好意的にみる人は44%、8月上旬時点(42%)とほぼ同じ水準にとどまり、「人間味アップ作戦」は不発に終わった。

また、ロムニー氏は「再生請負人」として投資ファンド時代やソルトレーク冬季五輪を立て直した実績をアピール。「雇用」という言葉を30回近く使い、「小さな政府」路線による経済再生を約束したが、雇用創出に向けた説得力ある処方箋は打ち出さずじまい。大幅減税と財政均衡をどう両立するかについても曖昧なままで、党大会後には米メディアや保守派の論客らが「もっと具体策を説明して」と声を揃えた。態度を決めかねていた無党派層らをロムニー陣営に引き寄せる材料を提供できたとは考えにくい。

2.8月の資金集めで敗北
ロムニー陣営が前述のメールを流したのと同じ今月10日、8月に両陣営が集めた資金額が発表になり、オバマ大統領側が4か月ぶりに勝利した。オバマ陣営が集めた額は総額1億1400万ドル(約89億円)で、7月(7500万ドル)と比べると大幅な増加。オバマ大統領の支持率が党大会を経て大きく伸びたことが鮮明になった直後だっただけに、同陣営が上昇気流にのったイメージを加速した。

3.外交が争点に急浮上
中東での反米デモの広がり、なかでも9月11日におきたアメリカ・駐リビア大使の殺害を機に、これまで脇役だった外交が突如として重要争点に浮上した。外交に関してはオバマ大統領のほうが信頼できると答える人が多く(オバマ氏49%、ロムニー氏39%:ニューヨークタイムズ/CBSテレビ調査)、ロムニー側としてはもともと勝負したくない分野。外交での弱さは経済に的を絞った選挙戦を展開してきた一因でもある。

ロムニー氏が党大会の演説でアフガニスタンについて言及しなかったことへの批判が高まっていた矢先のタイミングで外交に注目が集まった形。大使殺害が明らかになった直後、ロムニー氏は(米外交公館攻撃への)オバマ政権の対応は「恥ずべきものだ」と強く非難。「超党派で追悼すべき事件を政治利用しようとしている」と民主党やメディア、共和党内からも厳しく追及された。ホワイトハウスで沈痛な面持ちで会見したオバマ大統領と比べ「選挙で勝つことしか考えないロムニー氏」との印象を与え、最高司令官としての資質を疑わせる結果を招いた。

4.景気低迷下でも進まない“オバマ離れ”
最も大きな誤算は、経済が回復していないにも関わらず、オバマ大統領への支持率があまり下がらないことだ。民主党大会が終わった翌日(9月7日)発表の8月の雇用統計は雇用の増加ペースが予想を下回る内容だったが、大統領の支持率にはほとんど影響しなかった。ロムニー陣営は今回の選挙を「オバマ大統領の信任投票」と位置付け、「経済が好転しなければ、有権者は大統領を見限りロムニー氏に投票する」と予測していた。だからこそ、自らの政策の具体論をあまり語らず、現政権の批判に終始してきた面がある。

選挙戦終盤を迎え、この戦術の限界が露呈している。好感度50%超を誇るオバマ大統領の人気が根強いからか、ロムニー氏が自身を「経済再生請負人」として売り込めていないからか、定かではないが、ロムニー陣営が前提中の前提としてきた「景気低迷⇒オバマ離れ⇒ロムニーに投票」という勝利の方程式が揺らいでいることは明らかだ。経済への対応が優れている候補として、7月時点ではロムニー氏を挙げる人が43%、オバマ大統領を6ポイント上回っていたが、最新の調査ではロムニー氏と大統領がともに43%で互角だった(ウォール・ストリート・ジャーナル/NBC調査)

誤算続きの1週間を経て、選挙戦術への批判も高まった。共和党大会以降、選挙活動のペースを急激に落としたロムニー氏。9月初め~20日の間で集会や演説が全くなかった日が約半分。相変わらずのエンジン全開ぶりで激戦州を駆け巡るオバマ大統領とあまりに対照的だ。ロムニー陣営は「資金集めや討論会の準備のため」としているが、人間性や政策がいまだ浸透していないロムニー氏こそ、有権者と直接触れ合うことを優先すべきとの声が大勢だ。保守派の論客からは「もっと具体的に」「もっと積極的に」と軌道修正を求める悲鳴にも似たアドバイスが目立ってきた。女性トークショーホストのローラ・イングラムは「こんなに景気が悪い状況でオバマ大統領を倒せないのなら、共和党は解党するべきだ」とロムニー陣営への不満を露わにしている。同じころ、重要な激戦州の世論調査で相次ぎオバマ大統領の優位が明らかになったほか、ロムニー陣営の内部対立を伝える報道も飛び出し、一段と暗雲が垂れ込めてきた。

トンネルの出口はどこに?~突然の戦略転換、カギ握る討論会
崖っぷちに立たされたロムニー陣営、9月半ばに突然の戦略転換を余儀なくされた。停滞する経済に焦点をあて、オバマ政権離れを促す従来の手法を改め、ロムニー氏自ら、具体的な政策を説明していく。新CM「The Romney Plan」では、中小企業支援や公正な貿易の推進、財政赤字の削減など党大会で掲げた「1200万人の雇用創出」に向けた具体的な道筋を示す。「なぜオバマ大統領ではダメか」の説明に偏りすぎていたとの反省の下、今後は「なぜロムニー氏が大統領にふさわしいか」の議論を深めるという。


しかし、「チームロムニー」にとっての“悪夢”は終わっていなかった。ロムニー氏が富裕層を対象に開いた非公開の資金集め会合を隠し撮りした映像がネット上に公開され、やり玉にあがったのだ。「アメリカ国民の47%は所得税を払わず、政府に依存した生活を送っている。彼らの面倒をみるのは私の仕事ではない」との発言が“弱者切り捨て”として激しい批判を浴び、ダメージコントロールに追われる羽目に。新戦略の立ち上げも台無しになった。連日メディアに映し出されるのは防戦一方のロムニー候補。
「もう勝てないのでは」と考える人が増えると、「負ける候補」というイメージが強まり、実際の敗北を招くという「自己実現的予測(self-fulfilling prophecy)」の恐怖が共和党支持者を包み始めた。

トンネルの向こうに光が見えないロムニー陣営。「いかにして国民の生活を豊かにするか、有権者に直接語りかける」という新戦略を軸に挽回をはかる。集会、演説、CMなど激戦州におけるロムニー氏の露出を一気に増やすという。さっそく、9月最終週にフロリダ、ネバダ、コロラド、オハイオ各州での遊説が追加された。さらに、「選挙戦の流れを変える最大のチャンス」と狙いを定めるのが、10月3日を皮切りに3回予定されているオバマ大統領とのテレビ討論会だ。国全体が二極化している現在、投票日直前まで態度を決めていない無党派層は従来より大幅に少ない。だが、共和党予備選での討論会が証明したように、討論会での出来不出来が投票行動に影響を与える可能性は十分ある。ロムニー氏は予備選の討論会で、自身のクリーンヒットで躍進したというよりは“敵失”で勝ち残った感が強い。支持率で劣勢の今、この手法では勝利できない。果たして逆転ホームランは出るのか。

過去の大統領選ではわずかな例外を除いて、9月半ば時点の支持率が上回っていた候補者が最終的な勝者となった。ロムニー氏は定説を覆せるだろうか。残された時間は長くはない。