タイプ
論考
プロジェクト
日付
2013/12/19

アメリカNOW 第110号 「財政合意成立後の米国の「デフォルト・リスク」を考える」(安井明彦)

  米国議会が財政合意の立法化作業を終えた。政府閉鎖やデフォルトなど、今後の米国財政運営に関するリスクについて、今回の合意の意味合いを「政治的な環境」と「手続き的な対応」に分けて整理しておきたい。

立法化された財政合意

 「何やら妙なことが起こっている」

 2013年12月17日付けの米ニューヨーク・タイムズ紙は、党派対立に明け暮れてきた米議会が財政合意の立法化に進んでいる展開を、こう皮肉交じりに報じた*1。翌2013年12月18日、米上院は超党派予算法(Bipartisan Budget Act of 2013)を可決した*2。既に下院は2013年12月12日に同法案を可決しており、2013年12月10日に上下両院の予算委員会委員長が発表した財政合意*3は、議会での立法作業を終えた。

 今回の財政合意の主眼は、2014・15年度の2年間について、強制歳出削減を見直した上で、改めて歳出水準*4を定める点にある。これまでの歳出上限は超党派予算法によって修正され、強制削減の規模は2年間の合計で約630億ドル縮小された。

改善している政治的環境

 懸念されてきた政府閉鎖やデフォルトといった財政運営混乱のリスクについて、今回の財政合意の立法化はどのような意味合いを持つのだろうか。政治的な環境と、手続き的な対応の2つの観点から整理したい。

 政治的な環境は、明らかに改善している。2011年夏のデフォルト騒動を持ち出すまでもなく、2010年の議会中間選挙で「ねじれ議会」が誕生して以来、党派対立の中心的な論点である財政運営は、常に大きな混乱の中にあった。歳出額などの予算の枠組みを決める「予算決議」は、2011年度から3年連続で成立していない。ところが今回は、2014・15年度の2年分の歳出額で上下両院が合意している。「快挙」というに値する出来事だ。

 快挙が実現した理由は二つある。第一に、「対立疲れ」によって、現実路線への転換が可能になった。これまでの財政協議では、歳出法の作成や債務上限の引き上げといった定例的な立法作業に、「向こう10年間で4~5兆ドルの財政健全化」「オバマケアの廃止」など、大きなテーマが組み合わされたことで、党派対立が深刻化した。しかし、ついには政府閉鎖を招いた対立の連続は、それぞれの政党にとって必ずしも生産的ではなかった。とくに共和党は、自党支持者からも不評を買っている*5。最近では、対立一辺倒の路線に嫌気がさした共和党指導部が、強硬姿勢を強いてきたティー・パーティー系の勢力を公然と批判し始めている*6

 今回の財政合意の特徴は、その目線の低さだ。中長期的な視野での財政健全化など、厳しい対立の対象となってきた論点は棚に上げ、「当面の歳出水準」という目前にある最低限の課題に集中することで、両党は合意にこぎつけた。もちろん、今回の合意をきっかけに党派対立が融解し、一気に超党派政治の時代が訪れると考えるのは早計である。富裕層増税の是非や年金・医療保険制度改革のあり方など、今回の合意は両党の意見が大きく異なる部分を素通りしている。いぜんとして米政治は目前の課題をひとつずつ片付けていくのが精一杯であり、むしろ、今回のように現実的な路線を維持できるかどうかが、今後のオバマ政権の政策運営を評価する軸になる。

 第二の理由は、対立の中心となってきた論点が小さくなってきたことだ。何よりも、米国の財政赤字は順調に縮小している。中長期的な財政健全化の必要性は残るが、当面は財政赤字の削減を急ぐ状況にはない。また、長年の論点だった税制の行方についても、2013年1月にブッシュ減税の取り扱いが決まったことで、ひとつの区切りはついている*7。さらに、オバマケアについても、2014年1月の本格稼動が近づく中で、「廃止論」は現実味を失いつつある*8

 米国は、党派対立の論点が移り変わる「端境期」に差し掛かっているのかもしれない。オバマ大統領が2013年12月4日の演説で格差対策を残り任期の最大の課題にあげたように*9、財政を舞台とした「政府の大きさ」をめぐる対立から、「政府による所得再配分の是非」といった「政府の役割」にかかわる論点に、党派対立の主戦場が移っていく可能性が指摘できる。

いぜんとして必要な手続き的対応

 このように、財政運営を取り巻く政治的環境は改善している。しかし、実際に政府閉鎖やデフォルトを回避するためには、関連法案の立法化などの手続き的な対応が必要である。この点については、今回の合意によって進展した部分もあれば、手つかずとなっている部分もある。

 政府閉鎖については、今回の立法によって手続き的な対応の第一歩が踏み出された。現在の米国は暫定予算で運営されており、1月15日までに歳出法(もしくは暫定予算)が成立しなければ、政府機関は再び閉鎖に追い込まれる。今回成立した超党派予算法は歳出水準を決める法律であり、これだけで政府閉鎖が回避されるわけではない。しかし歳出水準は、予算編成のなかでも論争的な部分である。この部分での合意が立法化されたことで、今後の歳出法の審議は、政策分野ごとの配分が中心的な論点となる。相対的な難易度は低く、潜在的な対立点は残るものの*10、政府閉鎖に追い込まれる可能性はかなり低下した。

 デフォルトに関しては、今回の立法化では手続き的な対応は取られていない。既に述べたように、今回の合意は目前にある最低限の課題に集中したことで可能になった。米議会予算局によれば、米国がデフォルトを回避するためには、2014年3月にも債務上限引き上げ等の立法的な措置が必要となる*11。デフォルト回避のために必要な債務上限の引き上げは、政府閉鎖が回避された後の課題となる。

 もちろん、政治的な環境の改善は、デフォルトの回避に向けても好材料である。ただし、手続き的な観点では、債務上限を引き上げる際の「条件」を見極めるべきだろう。オバマ政権や民主党が要求するような「無条件での債務上限引き上げ」で共和党がまとまるとは限らず、最低限の体面を保つ意味でも、何らかの「条件」で合意する必要が生じかねない。実際に、上院共和党のマコネル院内総務は、「無条件の債務条件引き上げなど想像もできない」と述べている*12。この点では、むしろ今回の歳出水準での合意によって、「条件」の候補が少なくなったとみることすら可能である。いかに穏当な「条件」で早期に合意できるかが、債務上限引き上げの焦点になるかもしれない。

デフォルトはテール・リスク

 そもそも米国政府のデフォルトに関するリスクは、テール・リスク(確率は低いが発生すると非常に巨大な損失をもたらすリスク)の性格が強い。実際にデフォルトに陥る蓋然性だけではなく、万が一にもデフォルトに陥ってしまった場合の混乱の大きさを意識する必要がある。

 たしかに今回の合意に示された政治的な環境の改善によって、デフォルトが発生する蓋然性は低下している。いくら目線は低くても、今回の財政合意が快挙であることに疑いの余地はない。同時に、立法措置によって債務上限を引き上げなければならない現行の仕組みが変わらず、「決められない政治」に陥りやすい「ねじれ議会」が続く以上、何らかのボタンの掛け違いで、思いがけずデフォルトに陥るリスクは残る。確度高くリスクを封じ込めるには、政治の関与がなくても自動的に債務上限が引き上げられる仕組みが必要である。

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*1: Peter Baker and Jonathan Weisman, Budget Deal Offers a Reprieve From Washington Paralysis, New York Times, December 17, 2013
*2: 手続き的には、2014年度暫定予算(H.J.Res.59)に対する修正として可決。
*3: 財政合意の内容等については、小野亮・山崎亮・安井明彦「財政合意と米金融政策への示唆」(みずほ総合研究所『みずほインサイト』2013年12月11日)
*4: 毎年度の予算措置が必要となる裁量的経費。
*5: 安井明彦「米「デフォルト」は瀬戸際で回避」(みずほ総合研究所『みずほインサイト』2013年10月17日)
*6: Carl Hulse, Boehner's Jabs at Activist Right Show G.O.P. Shift, New York Times, December 13, 2013
*7: 安井明彦「見逃されがちな「財政の崖」回避の功績」(東京財団『アメリカNOW』第98号、2013年1月15日)
*8: 安井明彦「オバマケアは本当に「復旧」したのか」(東京財団『アメリカNOW』第109号、2013年12月16日)
*9: The White House, Remarks by the President on Economic Mobility, December 4, 2013
*10: たとえば、オバマケアの実施費用の取り扱いが論点となる可能性が指摘されている。Daniel Newhauser and Humberto Sanchez, Compromise is No Big Deal, CQ Weekly, December 16, 2013
*11: Congressional Budget Office, Federal Debt and the Statutory Limit, November 2013, November 20, 2013
*12: Seung Min Kim, Mitch McConnell Skeptical of 'Clean' Debt Ceiling Hike, POLITICO, December 17, 2013


■安井明彦:東京財団「現代アメリカ」プロジェクト・メンバー、みずほ総合研究所調査本部政策調査部長