タイプ
論考
プロジェクト
日付
2017/3/15

アメリカ大統領権限分析プロジェクト:トランプ大統領による政策実現を阻む州司法長官

 梅川葉菜(駒澤大学専任講師)

 

 

 筆者は、トランプ大統領の誕生前の2016年11月、東京財団アメリカ大統領権限分析プロジェクトにて、「オバマ大統領による政策実現を阻む州司法長官」[1]と題する記事を執筆した。その中で、近年、州司法長官が大統領の政策実現に対抗する主体として台頭してきていること、そしてそうした傾向が今後も継受されうることを指摘した。

 本稿では、トランプ新政権においても、やはり、州司法長官による、大統領の政策実現を阻止する動きが見られることを示し、トランプ政権下のアメリカ政治を理解する視角を提供したい。

トランプの行政命令に対抗する州司法長官

2016年11月、大統領と連邦議会の上下両院の過半数が共和党によって占められることとなった状況を踏まえて、民主党所属のワシントン州司法長官ボブ・ファーガソン(Bob Ferguson)は、次のように述べていた。

「私の役割は、トランプ政権が憲法に反する行動に出た場合に、それに対する防衛の最前線に身を置くことである。」[2]

 一見すると、ファーガソンの発言は、政治的なパフォーマンスのように聞こえる。一介の州司法長官が、大統領と政治的に争う最前線に立つことなどできようか。しかしながら、実際、ファーガソンは、トランプ大統領と直接対立したばかりでなく、トランプ大統領の政策実現の阻止に成功したのだった。ごくごく簡単に、振り返ってみたい。

 2017年1月27日、トランプ大統領は、イラン、イラク、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンの7か国の国籍を持つ人物と、全ての難民の入国の一時禁止措置等を命じた行政命令 (executive order) 13769号に署名した[3]。この行政命令は、イスラム教徒が多数を占める国からの入国を禁じるものであったことなどから、全米のみならず国際社会からも非難を集めた。また、事前の予告がなかったにもかかわらず猶予期間なしに入国禁止が実施されたことから、全米で混乱が広がったこともそれに拍車をかけた。

 その二日後の1月29日、全米の15州とワシントンD.C.の民主党所属の州司法長官たちが、大統領に立ち向かうべく、連名で以下のような声明を発表した[4]

「我々は、トランプ大統領による違憲で、反アメリカ的で、違法な行政命令を強く非難する。また我々は、連邦政府が憲法を遵守し、移民国家としての我が国の歴史を尊重し、そして出生地や信仰を理由に違法に何人も標的としないよう、協力して取り組む。信仰の自由は、これまでも、そしてこれからも常に、我々の国の基本的な原則であり、大統領であってもその真理を変えることはできない。」[5]

 上記の声明通り、民主党所属の州司法長官たちは、迅速に訴訟戦略に取り掛かった。1月30日、ワシントン州司法長官のファーガソンが、この行政命令の違憲性、違法性を理由に、ワシントン州シアトルの連邦地方裁判所に提訴した。翌月の2月1日には、ミネソタ州司法長官ロリ・スワンソン(Lori Swanson)がこの訴訟に参加した[6]

 シアトルの連邦地方裁判所はすぐさま対応し、2月3日、指定7か国からの入国禁止措置の執行を一時的に差し止めるよう命じた[7]。翌日、司法省は、その決定の即時取り消しを求め、サンフランシスコにある第9巡回区控訴裁判所に上訴したが、同日、却下され、審理が続けられた[8]

 これを受けて、多くの民主党所属の州司法長官たちが、ワシントン州とミネソタ州の支持へと動き出した。まず、2月6日、15もの州とワシントンD.C.の州司法長官らが、ワシントン州とミネソタ州を支持するアミカス・ブリーフ(amicus brief)を提出した[9]。翌日には、ニューハンプシャー州とノースカロライナ州の州司法長官が上記のアミカス・ブリーフの提出メンバーに加わった[10]。ちなみに、アミカス・ブリーフというのは、当事者以外の第三者が裁判所に提出する意見書のことで、アメリカの裁判においては、しばしばこの意見書が判決に重要な影響を与えることがある[11]

 民主党所属の州司法長官たちのアミカス・ブリーフの影響があったかどうかは定かではないものの、2月9日、第9巡回区控訴裁判所は、政権側である司法省の訴えを却下した[12]。同日のツイッターにおいて、トランプ大統領は、最高裁判所で争う姿勢を示した[13]が、その方針はすぐに撤回し、「訴訟にも十分に耐えられるよう補強した」新たな行政命令の発効を目指した[14]。事実上、トランプ大統領による政策実現が、ワシントン州司法長官ファーガソン率いる民主党所属の州司法長官たちによって阻止されたといえよう。

まとめと今後の展望

 トランプ大統領の「敗北」は、現政権においても、州司法長官が大統領の政策実現に対抗する主体として強い影響力を持っていることを意味し、これまでの傾向が継続していることを示している。アメリカ政治において、重要なアクターは大統領や議会だけに限らず、裁判所はもとより、連邦政府の外側の政治アクターである州司法長官にまで目を向ける必要性が、改めて確かめられたといえるだろう。

 ただし、気を付けなければならないのは、今回のトランプ大統領の「敗北」が、一時的なものに過ぎない、ということである。3月6日、トランプ大統領は、新たな行政命令13780号に署名した[15]。その内容は、裁判所の判決で効力を失った行政命令13769に類似するようなものであった。ただし、前回は名指しされていた7か国のうちイラクが外され、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンが入国禁止措置の対象とされた。また、前回と違い、即日で効力を発揮するのではなく、3月16日からとされた。

 そして、前回の行政命令の経過をなぞるように、民主党所属の州司法長官たちが、再び阻止を目指して動き出している。3月8日、ハワイ州がこの新たな行政命令に対して訴訟を提起した[16]。また、(日本時間の3月10日現在、)別の5州以上の州司法長官たちが協力して、この新たな行政命令の阻止のために法的措置を講じる可能性を示唆している[17]。依然として、トランプ大統領の行政命令の行く末には目が離せない。

 

[1] 梅川葉菜、『アメリカ大統領権限分析プロジェクト:オバマ大統領による政策実現を阻む州司法長官』< http://www.tkfd.or.jp/research/america/dpv5c2-1> (2017年3月10日アクセス)。

[2] Lawrence Hurley, “'First Line of Defense': Democratic States Vow to Fight Trump in Court,” November 18, 2016, Reuters, <http://www.reuters.com/article/us-usa-trump-democratic-states-idUSKBN13D17M> (2017年3月10日アクセス)。

[3] Donald J. Trump, “Protecting the Nation from Foreign Terrorist Entry into the United States,” February 1, 2017, Public Papers of the Presidents of the United States: Donald J. Trump, 2017, 8977-82.

[4] 15州の内訳は、カリフォルニア、ニューヨーク、ペンシルヴェニア、ワシントン、マサチューセッツ、ハワイ、ヴァージニア、ヴァーモント、オレゴン、コネチカット、ニューメキシコ、アイオワ、メイン、メリーランド、イリノイである。

[5] New York Attorney General, “A.G. Schneiderman and 15 Other State A.G.'s Condemn President Trump's Un-American Executive Order, Vow Action,” January 29, 2017, <https://ag.ny.gov/press-release/ag-schneiderman-and-15-other-state-ags-condemn-president-trumps-un-american-executive > (2017年3月10日アクセス)。

[6] Washington State Office of the Attorney General, “Trump Executive Order Lawsuit: Hearing Set for Seattle Federal Court Friday,” February 2, 2017, <http://www.atg.wa.gov/news/news-releases/trump-executive-order-lawsuit-hearing-set-seattle-federal-court-friday> (2017年3月10日 アクセス)。時期を同じくして、ハワイ州司法長官ダグ・チン(Doug Chin)が、独自にハワイ州連邦地方裁判所に提訴している。Audrey McAvoy, “Hawaii Sues Federal Government to Stop Trump’s Travel Ban,” February 3, 2017, Washington Times, <http://www.washingtontimes.com/news/2017/feb/3/hawaii-sues-federal-government-to-stop-trumps-trav/> (2017年3月10日 アクセス)。

[7] Nicholas Kulish, Caitlin Dickerson and Charlie Savage, “Court Temporarily Blocks Trump’s Travel Ban, and Airlines Are Told to Allow Passengers,” February 3, 2017, New York Times, <https://www.nytimes.com/2017/02/03/us/visa-ban-legal-challenge.html> (2017年3月10日アクセス)。

[8] Mark Landler, “Appeals Court Rejects Request to Immediately Restore Travel Ban,” February 4, 2017, New York Times, <https://www.nytimes.com/2017/02/04/us/politics/visa-ban-trump-judge-james-robart.html> (2017年3月10日アクセス)。

[9] Ariane de Vogue, “9th Circuit Court of Appeals to Hear Challenge to Trump's Ban Tuesday,” February 7, 2017, CNN, <http://edition.cnn.com/2017/02/06/politics/9th-circuit-court-of-appeals-trump-travel-ban/> (2017年3月10日アクセス); 15州の内訳は、カリフォルニア、ニューヨーク、ペンシルヴェニア、マサチューセッツ、ヴァージニア、ヴァーモント、オレゴン、コネチカット、ニューメキシコ、アイオワ、メイン、メリーランド、イリノイ、デラウェア、ロードアイランドである。

[10] United States Court of Appeals for the Ninth Circuit, “Amended Motion for Leave to File 20-Page Brief by Amici Curiae States in Support of Plaintiffs-Appellees,” February 7, 2017, <http://cdn.ca9.uscourts.gov/datastore/general/2017/02/07/17-35105%20-%20PA-MA-NY-CA-CT-DE-IL-IA-ME-MD-NH-NM-NC-OR-RI-VT-VA-DC%20Amended%20Amicus%20Motion%20and%20Brief.pdf> (2017年3月10日アクセス)。

[11]他方で、共和党所属の州司法長官は、ほとんど動きを見せなかった。唯一の例外は、テキサス州司法長官のケン・パクストン(Ken Paxton)である。彼は、トランプ大統領の行政命令を支持する立場から、ワシントン州とミネソタ州による訴訟にアミカス・ブリーフを提出した。パクストンは、オバマ政権期に、全米の共和党所属の州司法長官たちを率いて幾度となくオバマ大統領を訴えた中心的人物であった。Alex Samuels, “Texas Attorney General First in Country to File Brief Backing Trump Travel Ban,” February 15, 2017, Texas Tribune, <https://www.texastribune.org/2017/02/15/ken-paxton-files-brief-support-trumps-travel-ban/> (2017年3月10日 アクセス)。

[12] Adam Liptak, “Court Refuses to Reinstate Travel Ban, Dealing Trump Another Legal Loss,” February 9, 2017, New York Times, <https://www.nytimes.com/2017/02/09/us/politics/appeals-court-trump-travel-ban.html>(2017年3月10日アクセス)。

[13] Donald J. Trump, Twitter, February 9, 2017, <https://twitter.com/realDonaldTrump/status/829836231802515457 > (2017年3月10日アクセス)。

[14] Josh Gerstein, “Trump Team Plans a New Executive Order,” February 10, 2017, POLITICO, <http://www.politico.com/story/2017/02/trump-9th-circuit-ruling-next-steps-234902> (2017年3月10日アクセス)。

[15] Donald J. Trump, “Protecting the Nation from Foreign Terrorist Entry into the United States,” March 9, 2017, Public Papers of the Presidents of the United States: Donald J. Trump, 2017, 13209-19.

[16] Alexander Burns, “Hawaii Sues to Block Trump Travel Ban; First Challenge to Order,” March 8, 2017, New York Times, <https://www.nytimes.com/2017/03/08/us/trump-travel-ban-hawaii.html> (2017年3月10日アクセス)。

[17] Josh Gerstein, “States Ask Court to Stop Trump's New Travel Ban from Ever Taking Effect,” March 9, 2017, POLITICO, < http://www.politico.com/story/2017/03/states-seek-to-block-new-trump-travel-ban-executive-order-235888> (2017年3月10日アクセス)。