タイプ
論考
プロジェクト
日付
2012/9/6

胡錦濤政権の回顧と中国18全大会の注目点 ―外交・国防の領域に関して (3)

次は、中央軍事委員会の他のメンバーに関する分析に移る。解放軍は、現在近代化プロセスのまっただ中にある。しかも、解放軍は、その重点を「情報化条件下での局地戦争に打ち勝つ能力」に移しつつある。端的に言って、それは、陸軍偏重から、海空軍および第二歩兵や宇宙での作戦への転換である。つまり、解放軍が、こうした課題に適応するための組織的対応を感じさせるような人事配置をするかどうかが、18全大会の注目点となる。

具体的に指摘するならば、中央軍事委員会委員人事、特に総後勤部部長、総装備部部長、第二砲兵司令員等の人事に専門性が反映し、「生え抜き」が選ばれるかどうかが注目される。17期の中央軍事委員会委員として、総装備部部長と海空軍の司令員が新たに加えられ、彼等の地位は大幅に上昇した。しかし、総参謀長が陸軍の司令員出身であり、総政治部主任、海軍司令員、空軍司令員がそれぞれの生え抜きであることに比べ、後勤部部長、総装備部部長、第二砲兵部司令員には従来陸軍の司令員系統から選ばれることが多く、生え抜きが選ばれることがほとんどなかった*19

しかも、周知のように、解放軍には陸軍司令部がなく、陸軍司令員もいない。陸上部隊の司令部機能は総参謀部が兼ね、その司令員ポストに相当するのは総参謀長である。したがって、他軍種との統合作戦の最高責任者たる総参謀長は常に陸軍出身である。日本の自衛隊のように、陸海空自衛隊に幕僚長がおり、統合幕僚長を三幕僚長が輪番するような組織的慣行が、解放軍にはないのである。

地方においても、この構造は変わらず、大軍区の司令員は陸軍軍人であり、海空軍部隊の司令は大軍区では副司令員でしかない。また中央の機関や在外公館等で勤務する海空軍の将兵は、陸軍の制服に着替えることが求められることがある。つまり、さまざまな点で、解放軍はいまだに陸軍(特に司令員系統)中心の組織である。こうした組織形態が、前述した「情報化条件下での局地戦争」を戦う上で、大きな制約要因となっている可能性が高い。

現在の国防戦略が確定した2000年代以降、削減された定員の大半は陸軍であり、多様化した軍任務能力を担当しうる高学歴の将兵の導入が一層進み、海空軍、第二砲兵の将兵比率もまた上がっているとされる*20。これに加えて、米軍の事例を見るまでもなく、域外での作戦を行うには、補給が重要であり、総後勤部の重要性も上がっている。また、近代化した装備の開発・導入が急務であることから、総装備部の重要性も急速に上がっている。近代化を急ぐ解放軍は、こうした重要性を組織として一層反映する必要がある。こうした傾向が果たして18全大会の軍主要人事にどこまで影響を及ぼすかが注目点となる。

以下、表1にあるように、解放軍の内情に特に詳しい在オーストラリアの中国研究者、由冀の予測を紹介しつつ、中央軍事委員会人事に関する分析を進める。副主席に関しては、司令員系統では、常万全が順当であるが、政治委員系統は総政治部主任とともに候補者が多すぎて、予測が困難である。国防部長と総参謀長はともに司令員系統の数名の候補から選ばれる。海軍および空軍の司令員はそれぞれ海空軍の生え抜きから選ばれる。

注目すべきは、これまで「生え抜き」が選ばれることが少なかった上記の3ポストである。総後勤部部長は、これまで司令員系統から選ばれることが多かったが、総後勤部生え抜きの侯樹森が、副総参謀長を経由して選ばれる可能性が出ている。次に、魏風和は、第二砲兵部隊の生え抜きであり、最も若い副総参謀長でもある。魏が第二砲兵司令員になれば、軍種として「悲願達成」ということになるであろう。そして総装備部部長も、従来通り司令員系統がなるのか、張育林のような博士号を持つ生え抜きの技術者が選ばれるのかが注目点となる。

重要性を増している部門における生え抜き人事はその軍種・職種を重視していることを意味し、解放軍の近代化にも資するし、当該軍種・職種内の士気の向上にも繋がる。また、副総参謀長を経験した者が各軍種のトップに就任する慣習が形成されれば、統合運用にもプラスになるものと考えられる。

このほか、委員の候補の中には、軍幹部の「太子党」(いわゆる「軍二代」)が散見され、また習近平との関係を有する軍人も存在していることが確認できる。こうしたいわば「コネ」が軍人事にどう働くのか、また習近平の軍権掌握にどのように働くのかも、注目すべきポイントとなるであろう。


◇表1 予測される18期中央委員会時期の中央軍事委員会 ≪拡大はこちら≫


5.おわりに

本稿は外交政策と国防政策について、中国が抱える課題が何であり、共産党が18全大会でそれにどう対処しようとしているかを初歩的に考察し、18全大会の注目点を指摘した。外交政策と国防政策は、ともに胡錦濤政権からの継続が主となるであろうというのが現時点での結論である。しかし、そのことは、一定の傾向または趨勢の継続なのであって、変化がないことを意味するのではない。むしろ外交政策における「強硬さ」の継続や、国防政策における「資源投入の増大と近代化推進」の継続が、この地域を不安定化させる可能性は高まる可能性さえある。

この地域が安定化するために、中国はむしろ改革を進め、変化を求めなければならない。つまり、中国は、より統合的かつ透明な対外政策決定メカニズムを構築する必要があり、武力の行使や威嚇を慎み、増強される軍事力の透明性を向上させなければならないであろう。ただし、改革もまた安定を保証せず、むしろ不安定化を加速する可能性さえある。中国は、自らの高度成長に対応して、堅実な内部改革を進め、地域の安定化に貢献することができるかどうか、まさに岐路に立っているということができる。共産党が18全大会でこうした課題に取り組む姿勢を見せるのかどうか、注目していく必要がある。



    





*19 防衛省防衛研究所編『東アジア戦略概観2008』防衛省防衛研究所、2008年、85頁、http://www.nids.go.jp/publication/east-asian/j2008.html>。
*20 坪田敏孝「胡錦濤時代の中国の軍事・軍隊政策」、149頁。