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第10回「介護現場の声を聴く!」

June 15, 2011

第10回目のインタビューでは、居宅介護支援に携わる「ハートバンク株式会社」と介護分野のコンサルティング業務を実施している「ハードビジョン株式会社」代表取締役を務めつつ、「社団法人日本介護協会」理事を兼任する関口貴巳さん、小規模デイサービスなどを展開している「株式会社日本介護福祉グループ」取締役福祉住宅事業部長の飯野秀幸さん、8月から東京都文京区でデイサービス事業を展開する予定の「株式会社ライト・けあ」代表取締役の佐藤康広さんに対し、人材確保など介護業界の課題を聴いた。

インタビューの概要

<インタビュイー>(画面左から)
関口貴巳さん=「ハートバンク株式会社」代表取締役、「ハードビジョン株式会社」代表取締役、「社団法人日本介護協会」理事
飯野秀幸さん=「株式会社日本介護福祉グループ」取締役福祉住宅事業部長
佐藤康広さん=「株式会社ライト・けあ」代表取締役

<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)

※このインタビューは2011年6月6日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/flash/viewer.swf

要 旨

「あしつよ」のデイサービス

10回目のインタビューでは、佐藤さんが8月から始めようとしているデイサービスの話題から始まった。

デイサービスは本来、介護事業所が高齢者を自宅まで迎えに行き、半日や1日預かることで、家族の負担を軽減することに主眼が置かれている。しかし、佐藤さんの始めるデイサービスは「(事業所に)行った後の楽しみを提供しようと思っている」という。

サービスの名前は「あしつよ」。「足腰を強くしよう」というイメージのほか、「明日につなげよう良い人生を」という思いも込められており、デイサービスだけでなく、利用者に介護保険対象外のサービスとしてダンスや温泉旅行を提案する予定という。佐藤さんは事業の目的について、「その先の楽しみを提案して、みんなで足腰を強くしよう」と語る。

このため、通常のデイサービスと違って、預かるのは3時間程度。預かっている間も食事や入浴などのサービスは想定しておらず、あくまでも事業所で足腰を鍛える運動などを実施する予定だ。さらに、足腰を強くするため、事業所の近くに住む高齢者は直接、来てもらうことにしており、サービス利用者は午前、午後で10人ずつの利用を想定しているという。

こうしたサービスを思い付いた理由として、佐藤さんは「今までのデイサービスは預けるのが目的だった。家族に対する支援も大切だが、本人たちが生き生きと自立して行けるようなものを作れないか(と考えた)」と強調。さらに、「事業所に行って楽しいのも必要だが、その先にどうやったら(高齢者が)生き甲斐を見付けられるのか」「人としての尊厳を考えるに当たって、(自立やサービスの選択制を柱とする)介護保険を別の形で提供できないか」という問題意識も持っていたという。

また、高齢者向け住宅を担当している飯野さんは「ただ建物を建てるだけではなく、利用者に安心して住み続けて貰えるような空間を提供したい」と話す。具体的には、高齢者向け住宅に医療・介護サービスを付属させるという。

この関係では、これまで高齢者の入居を拒否しない住宅を登録する「高齢者円滑入居住宅(高円賃)」、主に高齢者を入居者とする「高齢者専用住宅(高専賃)」、一定の要件を満たした高専賃を認定する「高齢者優良賃貸住宅(高優賃)などの制度が整備されていた。しかし、4月27日に成立した改正高齢者居住安定確保法では従来の枠組みを整理し、▽床面積25平方メートル以上▽バリアフリーに配慮した設計▽安否確認や生活相談サービスを提供する▽提供するサービスなどの開示―といった要件を満たした住宅を都道府県に登録する制度として、「サービス付き高齢者住宅」が創設されることになった。

こうした高齢者向け住宅について、飯野さんは「ニーズは強い。介護が必要な方が安心して暮らせることを優先に考えており、募集の対象は医療機関やケアマネージャーを想定している」という。

その後、話題は人材不足の実情に移った。これまでのインタビューでも「1日で辞めた人がいる」「どこの大きな法人も若い人を雇うけど、育てていかない」などの声が出ているが、介護コンサルタント業を営む関口さんによると、現場の介護職員だけでなく、「当初の想定よりも経営環境が厳しい」という理由で、簡単に撤退を決めた経営者も散見されるという。

人材不足の原因として挙げられているのが待遇の低さ。給与水準の引き上げについて、関口さんは施設経営者による努力では限界があるとの考えを披露するとともに、「経営者が(明確な)理念経営をやらないと、人は付いて来ない」と指摘した。


コミュニケーションで苦労

続いて、介護業界に入った動機や介護職の苦楽に移った。

「介護をやりたいんだ」―。介護業界を志す友人から、こんな言葉を聞いて、佐藤さんは初めて介護の世界を知ったという。介護業界に入るに際して、「特に動機はなかった」というが、佐藤さんは介護保険制度が創設された2000年、ヘルパーとして介護の現場に入り、その後に個人事業主を経て法人組織を立ち上げるに至った。

一方、介護職の苦労に関しては、職員間のコミュニケーションを挙げた。佐藤さんによると、「高齢者に目を向けてケアしていると、気付くと無意識的に他の職員の目を気にして仕事している時がある」という。例えば、高齢者と会話を楽しんでいると、「何をゆっくりしているの?こっちは忙しく動いているのに…」という周囲の目が気になるらしく、介護職をやる上での苦労という。

また、別の業界で営業職をやっていた飯野さんは交流会を通じて、大手介護業界の経営陣から誘われたのを契機に、介護業界にやり甲斐を感じるようになったという。

その半面、介護職の苦労については、「離職率が高いと言われている業界の中で、同じメンバーで仕事ができないのは辛い」と話す。ただ、サービスのエンドユーザーである高齢者から「有り難う」と直接に声を掛けて貰える点に加え、「残ったメンバーとは、うわべだけではない仕事という位置付けを超えた結束がある」と述べた。

ただ、全般で言えば介護現場は一般的に暗いイメージを持たれており、介護職の楽しさや喜びは伝わっていない。このため、関口さんが理事を務める「介護維新会」では、介護職員による交流会として、「百人飲み会」という企画を開催しており、関口さんは「何か派手なことをやりたいと思った」と動機を述べた。飲み会の参加者をブログやTwitter、facebookで呼び掛けた所、遠く広島県の参加者を含めて、僅か1週間で集まったという。その時は渋谷のクラブを貸し切ったというが、盛況となった理由について、関口さんは「みんな何かアウトプットしたい(という願望がある)」と推測している。

こうした介護職のイメージ改善に関しては、佐藤さんも去年から「介護を小学生のなりたい職業No.1に!プロジェクト」というプロジェクトを始めている。「介護地獄」などと書き立てるメディアの報道には負の部分が多く、違和感を感じる機会が多かったため、学校で介護職の楽しさをPRする紙芝居を作成するとともに、YouTube上で放映しているという。

最後に、制度改革に向けた注文が話題となった。

佐藤さんは、2025年度に団塊の世代(1947~1949年生まれ)が75歳以上の後期高齢者に突入する点を引き合いに出しつつ、「(その頃には)介護人材は2倍必要と言われている。生産人口が減り、介護労働者を増やさなきゃならない中で、(それに変わる労働力として)外国人やロボット(産業の普及)を充実させないと、介護は成り立たない」と危機意識を露わにした。

一方、飯野さんは「(制度改革の)ベースとなる考え方に現場の声を生かして欲しい」と注文を付けた。

【文責: 三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】
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