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第36回「介護現場の声を聴く!」

December 15, 2011

第36回のインタビューでは東京都豊島区で訪問介護事業などを展開する「有限会社ヒルマ薬局 本町まんぞく介護」部長の西谷剛さん、同社副部長の向笠恒一郎さん、豊島区で24時間訪問介護などを手掛ける「有限会社マルシモ」代表取締役の下地正泰さん、同社の居宅介護支援事業所である「有限会社マルシモケアプランサービス」主任ケアマネジャーの下地由美子さんに対し、利用者・家族への応対などケアマネージャー業務の苦労や、制度改革に向けた注文を聴いた。

インタビューの概要

<インタビュイー>
<画面左から>
下地正泰さん=「有限会社マルシモ」代表取締役
西谷剛さん=「有限会社ヒルマ薬局 本町まんぞく介護」部長
下地由美子さん=「有限会社マルシモケアプランサービス」主任ケアマネジャー
向笠恒一郎さん=「有限会社ヒルマ薬局 本町まんぞく介護」副部長
<インタビュアー>
石川和男(東京財団上席研究員)
※このインタビューは2011年11月21日に収録されたものです。
http://www.ustream.tv/embed/recorded/18660526

要 旨

堰を切ったように電話が…

第36回のインタビューはケアマネージャーの業務が主な話題となった。

ケアマネージャーの正式名称は介護支援専門員。要介護認定を受けた高齢者や家族の相談を受け、ケアプランを作り、介護サービス事業者との連絡、調整などに当たる職種だ。インタビューではケアマネージャーの一日の過ごし方が話題となった。

ケアマネージャーが1人当たりで持てる「標準取扱件数」は要介護の高齢者で35件、要支援で8件。これを超えると、介護報酬が段階的に下がる仕組みとなっている。下地由美子さんは以前、40人の利用者に対応していたが、主任という肩書になった現在は20人。一日の大半を他のケアマネージャーからの報告や、20人の相談業務に費やしているという。

しかし、以前に比べて取扱件数が半分に減ったとはいえ、「(事業所がオープンする9時を過ぎると)堰を切ったかのように電話が架かって来たり、メールが来たりする。各機関との(連絡の)ファックスで(午前中を)費やす」「(電話は)9時前に架かることが多い。その対応に午前中は終わり。サービス担当者会議も入る。それの繰り返し」と語った。

さらに、1カ月に最低1回はモニタリングとして利用者の自宅を訪問しており、「(利用者の自宅には)全員回る。一回では収まらない人がいる」という。

その上で、下地由美子さんは「(月の)全部がそういうことではないが、昼を抜いたり、トイレを我慢したりする時がある。夕方もバンバン電話が架かって来るので、それに対応しているうちに夜。夜中まで掛からないようにしているが、その調整に走り回って夜になる」と、多忙ぶりを強調した。

さらに、向笠さんが「基本は週休2日だが、土曜に出て仕事する時もある。(毎日ケアが必要な方は)ローテーション」「その人によって内容は違うが、電話やメールが一日何件も来る。その場その場で処理する事に追われて、気付くと夕方か夜7時。携帯に電話が架かって来る」と話した。

一方、現在は経営者の立場となった下地正泰さんは管理業務が多くなっているらしく、「利用者と接する所はないが、介護現場を下支えする立場」と話す。典型的な一日の過ごし方としては、「(朝9時に出社した後)支払い業務で午前中は終わる。午後は営業・挨拶回り。介護報酬の請求業務、利用者に領収書請求発行とか細々した支払い(がある)。夜は6~7時で打ち切り、お付き合い(の宴会)」と語った。

西谷さんもケアプラン作成業務に携わる機会が減っているため、出社した後はメールチェック、関連先の相談、郵便物の確認などの業務に従事するとともに、ブログを毎朝更新することをミッションとして課している。さらに、現在は「介護職員処遇改善交付金」の事務手続きを除けば、請求は一段落しており、「スタッフの顔色を見てケアする」とのこと。仕事が溜まっている時は遅くなるが、夜は7時頃に帰るパターンが多いという。

その後、ケアマネージャーとしての心構えや留意点に話題が移った。

向笠さんは「利用者が主人公。『その方の目線に合わせてどうしたいか』を常に忘れないでケアプランを立てるようにしている。家族が強いと(家族の意向に)流されがち。家族の要求に流され過ぎると、本質を見失ってしまう。丁度良いバランスを考える」と指摘。さらに、「(負担を)家族に押し付けようとすると、(苦情を)言われてしまう。人間関係を崩さないようにやっていくのが大変」と付け加えた。

下地由美子さんは「他のケアマネージャーが過酷になりがちな環境を如何にチームワークで乗り越えるかという所に重きを置いている。1人のケアマネージャーに掛かる負担が大きいので、それを組織化して何とか乗り越えようと力を入れている」と発言。その上で、他のケアマネージャーは概ね40件程度の利用者を抱えているとして、「(以前は)50件なのか分からないぐらいやっていた。(最近は)件数制限がキチンと敷かれるようになったが、1事業所でも結構な件数。1人のケアマネージャーが休みの時、他のケアマネージャーがバックアップして休める時に休めるようにしている」と述べた。

さらに、向笠さんと下地由美子さんが苦労として挙げたのが書類の多さ。

役所に対する申請書類が多いため、向笠さんは「書類が大変。書類をこなすことで自分の身を守れる部分があるので、『やらなきゃならない』とは思うけど、何とかならないか…」と不満を漏らした。

一方、西谷さんはケアマネージャーとして重視すべきポイントとして、「スピード感。相談が来た時にタイムリーに返してあげることは普段から気を付けている。忙しいとできなくなることがあるが、基本的に折り返す。それがサービスの質になると思う」と指摘した。


頻繁な制度改正に苦労

その後、話題はケアマネージャーに限らず、介護職全体の離職率の高さに移った。

「財団法人介護労働安定センター」の介護労働実態調査によると、2009年10月~2010年9月までの離職率が17・8%と前年同期比よりも0・8ポイント悪化し、不況にもかかわらず、離職率の高さは際立っている。

こうした状況を象徴する一幕として、西谷さんは「違う所で働いていた人を他事業所で(見掛けて)『アレッ?』という話は結構ある。本当に嫌になった時には業界から去る」「メール一本で『明日から来ません』という人もいた。(連絡も)何もないで来なくなる時もある」と指摘。

下地正泰さんも、同様の事例が実際にあったとして、「『何で?』という(思いは)最後に残るが、(離職が)起きることは止むを得ない。起こる直前に察知して気を付けている。結果的に突然にということはある」と話しつつ、各介護会社は求人方法として求人会社やハローワークを通していることを紹介してくれた。

しかし、これまでのインタビューでは介護職から離れた後も戻って来た経験談が話題に出ており、西谷さんも「履歴書を見ても、1回別(の)産業に行った人が何年後かに戻ってくる。多分働きやすい部分がある。『やっぱり介護がいい』というセリフを何度も聞いた」と語った。

一方、こうした離職率を解消する手段として、下地正泰さんは「どうしても介護職の悲惨な現実ばかり報道されるが。楽しませるのをどうしようかを日々考えるのが僕の仕事・使命。スタッフは利用者のことを思う。思ってくれているスタッフをどう盛り上げて行くか」と、現在の問題意識を披露。その上で、「答えは全然見付かっていないが、何で離職率が高いのか追究して、辞めないで貰えるように常に工夫」と語った。

同時に、スタッフを盛り上げる手段としては、飲み会による交流を重視しており、「意外と介護職場は年齢の幅が広く、集まりにくい部分があるので、私から声か出してなるべく参加して貰う。みんなが集まれる勉強会とか、みんなが望んでいるものを提供するのを課題として努力すべきと思っている」と述べた。

西谷さんも職員交流の意義を説いた。4人が参加する豊島区の在宅介護事業者で構成する「豊島区福祉事業者の会」(豊福会)は最初、有志による宴会からスタートしたが、豊福会での交流が「他の会社がどうやっているのか」などを聞いて勉強する機会になり、こうした機会が結果的に「離職率を下げたり、人材育成を担ったりできる」と期待感を示した。

同時に、西谷さんは「楽しんで働いている人達がいる会社に寄って来る。ブログで会社に『どういうスタッフ人がいる』『どういう勉強会(が開かれている)』とアップして行くことで、『こういう会社なんだ』『ここに来たら成長できるんじゃないか』と思って欲しいなと思っている。そういう所から入って来て貰えればいい」と述べた。

最後に、制度改革に向けた注文が話題となった。

まず、向笠さんが引き合いに出したのは「男性の寿退社」。向笠さんは「財源が厳しいのは分かっているので、そこまで求めて良いのか微妙な所」「業界のレベルアップは必要」としつつも、「ヘルパーにしてもケアマネにしても、報酬が少し低い。やっぱり給料が安いと優秀な人材が他の業界に流れるし、男性が結婚して子供を育てられない話を良く聞く。報酬を上げて頂けるような(対応)を」と求めた。

さらに、現在は要支援1の場合は4万9700円、要介護1は16万5800円、要介護度5の場合は35万8300円といった形で、要介護度に応じて定められている居宅介護サービスに関する月額利用上限について、「独居の人だと上限の中で間に合わない。サービスが間に合わず、やむなく在宅を諦めることがある。その辺が柔軟に使えるといい」と強調した。

一方、下地由美子さんが書類の多さを見直すよう求めた。「必要な書類を厚生労働省が決めて、ソフトが統一できている。それは助かっているが、何かサービスを導入するに当たって申込書を作って送らなければならない。申込書を毎日書いているような気がする」と話した。その上で、豊福会で申込用紙を統一することを検討しているらしく、書式が統一されれば「(事業者間で)頼みやすくなる」と語った。

西谷さんが注文を付けたのは改正頻度の多さ。介護保険は3年に1回見直されている上、それ以外でも制度の細かい見直しは多い。西谷さんは「(見直しの度に)システムがゴロッと変わる。今回もケアプランの中身がゴロッと変わる話が出ている。我々が新しく覚えなきゃいけないし、利用者に説明しなきゃならない」と不満を吐露。さらに、「(報酬計算ソフトの開発に)ソフト会社が入っているので、ソフトをゴロッと換えると費用を取られる。色々とマイナス面がある」「改正のごとに様式は変わる、請求の様式も変わる、システムを直すのも大変。ソフト会社も大変し、(事業所も)大変」と述べた。その上で、「そこに無駄金を使うんだったら、単純に分かりやすいシステムができたらいい。ストレスは法改正の度に付きまとう。もう少し詰めた議論をやった方が良い」と述べた。

下地正泰さんも「(介護保険が始まって)昔と違って世間の認知度が違う。介護保険が行われて良かったと思う」としつつも、介護報酬の引き上げを要望。さらに、2011年度末で3年間の期限が切れる介護職員処遇改善交付金を引き合いに出した上で、「10年間で短期間に実行されて(終わった)ことがある。それに対応して慣れて来た頃に廃止になってしまう。もう少し長いスパンで様子を見る(スタンスが)必要」と注文。その上で、「簡素化できるところは極力簡素化して、働く側が働きやすい業務の見直しを(やって)貰いたい」と改善を促した。

しかも、制度改正の情報が現場に伝わるのが遅いとの指摘も出た。

西谷さんが「(情報が)出て来るのが結構遅い。新年2月になるので、そこから4月の請求になると、ものすごい話になる」「(年末に改定される介護報酬の説明会は)まだない。劇的に変わる部分に対して1回(説明を)連絡会で議題が出て来るぐらい。区役所も大変」と指摘すると、下地正泰さんも「行政も未確定な部分は『言えない』というスタンス。小出しにして4月でギリギリ(に出て来る)。この時期で報酬改定が幾らになるか分からないと恐ろしい」と苦笑いしながら応じた。

これに対し、西谷さんは制度改正が経営に直結しかねないとして、「『変わって欲しい』と望んでいる部分はあるが、『余り変わらないで欲しい』という部分はある、システム変更など手間の部分は追い付かない」と強調した。

【文責: 三原岳 東京財団研究員兼政策プロデューサー】
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