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インタビューシリーズ「障害者の自立を考える」:垣内俊哉さん <インタビュー後記>

December 20, 2012


「インタビューを終えて」

2011年11月、ミライロがオフィスを置いていた大阪心斎橋近くのマンションの一室(現在は新大阪に移転)で、最初に垣内さんとお会いした時、その目力と全身からにじみ出すバイタリティーに圧倒されたのを覚えている。それまでの私は障害者を「一方的に支援を受けている社会的弱者」と見ていたが、垣内さんとの出会いは今までの認識を180度改める契機となった。

それから約3カ月後。 東京財団での研究会 にゲストスピーカーとしてお越し頂いた時も、「社会に役立つ事業だったとしても、利潤を生まなかったから長続きしない」「補助金は毒饅頭。ビジネスとして回る仕組みを創造し、自分達で自立して税金を払うことで社会貢献したい」「制度に基づくビジネスはやりません。制度改革に振り回されて自立できなくなるかもしれませんから」といった力強い言葉が次々と発せられるのを見て、「本当に大学生なの?(当時は立命館大学4回生)」と聞きたくなったのを記憶している。

それ以来、垣内さんのキャラクターやバイタリティーだけでなく、「できないこと」に着目するのではなく「できること」を伸ばすことを通じて障害者が当たり前のように働ける社会を目指す「バリアバリュー」という考え方に惹かれている。今回の企画は「垣内さんのような人を世の中に知って貰いたい」という思いで始めたと言っても過言ではなく、予想以上に垣内さんは快活かつ赤裸々に半生を振り返ってくれた。

何ちゃってバリアフリーの存在

「障害者だけでなく、高齢者や子育てママなど移動に不自由さを感じている人達のバリアーを当事者の視点で取り除く」。一言で評してしまえば、垣内さんとミライロのビジネスモデルは意外とシンプルである。

しかし、逆に言えば、街中の見えにくいバリアーが如何に移動の自由を妨げているかが分かる。同時に、今までのバリアフリーやユニバーサルデザインが必ずしも当事者の意向に配慮しておらず、その結果として外見だけ整備した施設、垣内さんの言う「何ちゃってバリアフリー」が巷にあふれていることの裏返しと言える。

例えば、垣内さんは入学を考えた関東地方の私立大学に対し、バリアフリー施設の有無を事前に電話で問い合わせし、スロープやエレベーターが整備されていることを確認したものの、実際に訪ねてみるとバリアフリー施設は使える代物ではなかった。

確かに近年は公共施設のバリアフリー化が進んでおり、国土交通省の最新調査(2012年3月末現在)によると、1日当たり平均利用者人口3000人以上の駅のうち、段差を解消している駅は81.1%、視覚障害者誘導用ブロックを設置している駅は92.6%に及ぶ。しかし、見かけの進ちょく率だけでなく、当事者にとって使いやすい設備になっているのかどうか、社会全体として再考する必要がある。設計・施工段階から当事者の意見を取り入れることも求められる。

同時に、障害者が大学進学を選択しやすくする上で、大学による情報発信を強化する重要性に気付く。バリアフリー化のみならず、障害学生支援室やコーディネーター、手話通訳者や点字翻訳の有無などについて情報が開示されれば、障害者が進学しやすい環境づくりにつながるのではないかと思われる。情報開示の重要性については、東京財団が2012年8月に公表した『障害者の高等教育に関する提言』で指摘したほか、文部科学省が設置している「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」でも論点になっており、国の制度設計や大学サイドの意識改革が求められる。

制度論に向けた視座

手術結果への絶望と自殺の企図、その後のリハビリ地獄、骨折した中での大学受験、「漆黒企業」と評する会社でのアルバイト、民野さんとの出逢い…。筆舌に尽くせない苦労と挫折、成功、喜びを経て、今の垣内さんとミライロができあがっており、垣内さんが「全て続いての今がある」と言っている通り、どれか一つ欠けただけでも、垣内さんのパーソナリティーやミライロのビジネスモデルは生まれなかったかもしれない。それだけ障害者のニーズや必要な支援には個別性があり、障害種別や程度区分だけで機械的に判断できるわけではない。同時に、垣内さんの経験を全ての障害者に敷衍できない以上、垣内さんの経験や意見だけで制度の改廃を断定的に論じることもできない。

その一方で、当事者の経験や意見が説得力を持つのも事実である。政策・制度に繋がる部分をインタビューから幾つか抽出したい。

まず、健常者と障害者が共に学び合う「インクルーシブ教育」について。障害の有無にかかわらず、全ての児童・生徒が同じ場で教育を受ける考え方が重要であることは言うまでもない。

しかし、「自分が他人と違うことに対して劣等感を感じてしまうのはいけない。そのためにも小学校、中学校、高校と、個々人が不自由なく生活できる環境を整備しておかないと、思い詰めてしまう障害者が出てきてしまうんじゃないか」という垣内さんの指摘も重く受け止めるべきであろう。

実際、垣内さんの場合、インクルーシブ教育で多くの仲間と経験を得た半面、体育の授業や運動会、修学旅行での歯がゆさが人と違うことに対する嫌悪感と歩くことに対するこだわりに繋がり、高校休学に結び付いた面は否めない。当事者の障害種別や困難度、ニーズ、受入体制などに応じて柔軟に考えるべきであり、インクルーシブ教育を実施しない場合も、例えば垣内さんが提案する「車いすバスケを健常者にやらせる」という方法や、通学していた中学校で実施した道路のバリアー除去といった形で、児童・生徒が多様性を理解できるカリキュラムや課外授業も考えるのも一案であろう。

第二に、大学に通う意義である。大学とは学問や専門知識を習得するだけでなく、社会性や論理性、人脈なども身に付けることができる場であり、教育と雇用を接続する重要な存在である。垣内さんもアルバイト経験と、民野さんという同志との出会いが起業のベースとなっている。

しかし、現在は大学に進学している障害者は少数派に過ぎず、日本学生支援機構の最新調査によると、全在籍者数に占める障害学生の割合は0.3%にとどまる。義務教育や雇用と比べて国の政策・制度も手薄だった点は否めず、文部科学省が2012年6月に検討会を発足させてようやく議論が始まったところである。

同時に、社会全体の理解を伴わなければ、政策の持続・拡充は難しくなる。障害者の大学進学が一般的になる社会の実現に向けて、今回のインタビュー企画を継続させるとともに、提言の普及活動や政策研究を続けていきたいと考えている。

三原岳 (東京財団研究員・政策プロデューサー)
    • 元東京財団研究員
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