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政策提言「量の中国、質の日本 戦略的互恵関係への8つの提言」

September 30, 2008

政策提言
「量の中国、質の日本 戦略的互恵関係への8つの提言」

2008年10月
東京財団研究員
関山 健

1.「量の中国」「質の日本」

今年2008年は日中平和友好条約締結から30周年の節目である。この30年間中国は驚異的な発展を遂げ、日本と中国の関係もかつての「政府主導の友好関係」から「民間主導の相互依存関係」へと大きく変化した。

日本は、量の面(GDP、貿易量、外貨準備など)では早晩中国に抜かれることとなるだろう。しかし、質の面(技術力、サービス水準、社会発展度など)では日本がリードを保っている分野が多く、また今後もリードを保てるように努力していかねばなるまい。

こうした日中関係の現状を踏まえ、東京財団では、このたび日中関係の第一線で活躍する若手実務家による政策提言 「量の中国、質の日本 戦略的互恵関係への8つの提言」 (以下、「8つの提言」という)を刊行した。

これは、本年5月に 「北京五輪後の日中関係-8つの提言」 として公表した提言骨子をもとに作成したもので、19年度研究プロジェクト 「ポスト円借款時代の日中関係マネージメント研究会」 の最終報告書である。

日中関係に関する提言は珍しくないなか、「8つの提言」は、5月の骨子公表時には既に国内外のメディアで取り上げられ、少なからぬ反響をいただいた。

【メディア掲載例】
・朝日新聞(5月3日朝刊)「公害防止事業団 中国に設立提言 東京財団、政府へ」
・日刊工業新聞(5月12日)「相互依存関係強化を 東京財団 日中関係で提言」
・(中国)東方早報(7月30日)「日本のシンクタンク 五輪後の日中関係へ提言(仮訳)」

このたび改めて完成版を刊行するにあたっても、9月19日付の中国国営新華社通信の配信ニュースで「日本の若手専門家、日中関係の発展に向け提言まとめる」と紹介され、早くも注目を集めている。

2.なぜ日中は戦略的互恵関係を目指すのか

今年5月、訪日した胡錦濤・中国国家主席と福田首相は、今後の日中関係の基本方針として「戦略的互恵関係の包括的推進に関する共同宣言」を発出した。両国は、?政治的相互信頼の増進、?人的、文化的交流、友好感情の増進、?互恵協力の強化、?アジア太平洋地域への貢献、?グローバルな課題への貢献の5つを柱に、今後いっそう協力していこうという。

現在の日中関係は、民間主導の相互依存関係に支えられ、基本的には非常に安定している。しかし一方で、歴史認識問題、台湾問題、東シナ海ガス田開発など一朝一夕には解決しがたい根深い対立の種が存在しているのも事実である。また、中国の砂漠化や大気汚染が日本へも悪影響を及ぼしたり、日中両国の企業が国際市場で資源エネルギーや食糧を奪い合ったりといった利害対立が現実に生じている。

ここに、日中両国が今後も実務分野を中心に協力を進めていくべき意義と必要性がある。すなわち、環境保護、食料確保、資源エネルギー確保など、多くの実務分野では今のところ日中両国の利益が衝突しているのが現実であるが、双方が意識的に協力して対立構造を互恵構造に変えなければ、中国にとっても日本にとっても不利益でしかないからである。

確かに、第二次大戦後長い間、日中が地域秩序の確立や安定について共同して取り組むことは難しかった。最近では、中国が大国としての影響力拡大に邁進するにつれ、日中間にリーダーシップをめぐる新しい競争意識も芽生えるようになっている。

しかし、「8つの提言」第1章において、前田宏子・PHP総合研究所研究員は、「日中がともに責任ある大国たらんと目指している現在の状況は、両国が地域の安定と発展に対し協力して建設的な役割を果たすという新たな可能性をも生み出している。」と指摘している。

「責任ある大国」として行動し、他国の「対中脅威感」を払拭することに努めている中国にとっては、日本と協力することによって得られる信頼と、日本のもつ国際貢献のノウハウなどがメリットとなるであろうというのだ。

日中関係の質的な変化は、こうした政治面ばかりで生じているのではない。東洋経済新報社の西村豪太氏は、「8つの提言」第2章において、中国経済が抱える矛盾を指摘しつつ、今後の日中経済関係について、「ODA、直接投資など資金が日本から中国へ流れた時代から、双方向のフローが生まれる時代が近づいており、日本の政府、企業にもそのことへの認識が求められている。」と指摘している。

こうした変化を踏まえて、日中両国政府が、二国間の問題から国際的な共通課題への対応まで幅広く協力する戦略的互恵関係を目指すことに我々は異論ない。

しかし、何をどう協力していくかという具体的な検討こそ重要であり、今後に残された課題である。

3.戦略的互恵関係への8つの提言

この点、われわれ東京財団「ポスト円借款時代の日中関係マネージメント研究会」は、現場をよく知る実務家8人が今後約10年程度の日中関係を様々な切り口から予測して、中国との「戦略的互恵関係」構築に向けて日本として取るべき具体的なアイデアとして以下の8点を提示することとした。

紙幅の都合により、ひとつひとつの提言の背景をここで説明することは難しいが、詳しくは 「8つの提言」 をお読みいただきたい。

提言1「『日中実務家交流プラットフォーム』の開催」
「食と農業」、「環境」、「知的財産」、「資源エネルギー」、「文化交流」、「地域協力」などのテーマごとに、日中の若手実務家・専門家が定期的に意見交換・交流できる場として、年に1回程度「日中実務家交流プラットフォーム」を開催すること。

提言2「若手実務家研修プログラムの立ち上げ」
近年、多くの企業・官公庁が語学習得、中国理解、人脈作り等を目的に中国へ留学生を派遣しているが、みな外国人専用の語学コースで座学を受けているだけであり、1年の留学を経ても中国人の友人が一人もいないケースが珍しくない。そのため、「知中派」育成研修の受け皿として、ハーバード大学「日米関係プログラム」のような研修プログラム「日中関係プログラム」を中国の大学で開設すること。

提言3「中国における『食の安全』キャンペーン」を実施
中国産食品の安全性が不安視されるなか、税関における水際の取り締まりだけではなく、抜本的な問題解決と日本と中国双方の消費者の利益のために、「食の安全」に対する中国社会の意識向上を目的としたキャンペーンを実施すること。

提言4「『公害防止事業団』の設立」
環境保全投資が不足している中国において、これを長期・低利で安定的に供給する政策金融機関の設立を中国政府に働きかけ、日本からも専門家派遣などの形で協力すること。

提言5「日中間における『知的財産保護に向けた中長期計画』の策定」
中国製模倣品・海賊版製品によって日本企業が大きな被害を受けているが、これに効果的に対処するためには、一方的に中国へ改善を要請するだけでなく、日中間で協力して中国における法制度改善と摘発能力向上に向けた取り組みをバランス良く、包括的に実施していくことが必要である。そこで、日中共同で「知的財産保護に向けた中長期計画」を策定し、中国国民に対する啓発活動、地方部における適切な法執行の確保、知的財産権関連法分野における学術交流等を具体的に合意・確認したうえで、官民の適切なチャネルで毎年その進捗状況を確認していくこと。

提言6「学生向け日本紹介DVD無償提供」
日本を訪れることができる中国人は経済面や制度面の理由によって限られており、中国国内には「本当の日本」を紹介する映像資料が不足していることから、一人でも多くの中国人、特に若い中国人学生にもっと日本を知ってもらうために、日本紹介DVD(日本の歴史、文化(ドラマ、映画、文学、伝統芸能)、日常生活、政治、経済、IT事情、通訳養成に有益な資料等)を中国各大学に配布すること。

提言7「『アジア・コール・チェーン』の提言」
国内の低品質炭で自給している中国の石炭利用は、非効率で環境上も問題が大きく、エネルギー利用の効率化を目指す中国自身の政策方針にも沿わない。そこで、日中双方の商業上、環境上、エネルギー政策上の利益に適うビジネス・モデルとして、供給余力のある豪州やインドネシア等の「日の丸炭鉱」から、日本の海運会社が持つ専用大型船で中国沿海部の消費地へ高品質炭を運び、これを高効率で環境に配慮された日本のプラントで利用すること。

提言8「『日中共同メコン開発』の提言」
東アジア地域の統合にとって重要な地政学上の意味を持つメコン地域(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム)においては、現在日中両国が影響力争いを展開しているが、それでは日本にも中国にもメコン地域諸国にも得るところはない。そこで、この地域の開発や課題について日中両国で政策協調を図り、同地域の安定的発展に対して共同して取り組むこと。

※ 本政策提言は、各研究メンバーの個人的見解にもとづき東京財団が作成したものです。メンバーが所属する機関・団体の見解を示すものではありません

    • 東洋大学 国際教育センター 准教授
    • 関山 健
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