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「ポスト円借款時代の日中関係マネージメント」第5回研究会概要レポート(その1)

October 3, 2007

去る9月29日、第5回研究会が開催されました。第5回研究会は、「日本、中国、文化交流」および「模倣品・海賊版対策から見た日中関係」の2つのテーマについて研究メンバーからの報告をもとに議論を深めました。今回は、「日本、中国、文化交流」についての報告と議論の概要を掲載します。

1.報告概要

(1)これまでの日中文化交流

・70年代、80年代の日中文化交流は、政府間協定による交流事業や、ODAによって設立された「日本研究センター」(通称「大平学校」)を拠点とする交流事業など、「官主導」の文化交流であった。

・これに対し、近年は、日本のマンガ。アニメ、ドラマに親しみ、旅行者・留学生などの人的往来も増え、インターネット上で直接情報を得ることもできるようになって、交流のチャンネルが多様化・大衆化した「民主導」の文化交流となっている。

(2)現状、問題点、課題

・在中国大使館の広報文化センター、国際交流基金の日中交流センターなどが様々な交流事業を行っているが、交流者(ユーザー側)の視点が欠けている。例えば、青年交流事業については、「大学受験で忙しい高校生が1年間も日本になど行ってられない」という声もある。

・企業も様々な文化交流を主催・共催・後援することがあるが、ここ数年は、中国における反日ムードの高まりのなかで、日本関係のイベントに関わることに後ろ向きな企業が多い。

・文化交流の効果拡大にマスコミ報道が果たす役割は大きいと考えるが、文化交流がニュースとして取り上げられること自体が少ない。

(3)各アクターにできること、役割

・文化交流が日中関係に決定的な影響を与えることはなく、むしろ、両国政府間の政治関係の良し悪しが文化交流の実施にも影響を与えるので、政府ないし政府系機関には、文化交流の発展のためにも良好な政治関係の構築を望む。

・企業については、反日ムードのなかであるからこそ、日系企業として企業イメージのアップにつながる交流イベントに積極的に参加してもらいたい。
・マスコミについては、日中関係の多様性の報道という観点から、文化交流についても積極的に取り上げてもらいたい。

・学者、留学生、旅行者を含め、これからの日中文化交流においては、個人が果たす役割が大きい。かつての高倉健主演映画「君よ憤怒の川を渡れ」や三浦友一、山口百恵に始まり、芸能人やスポーツ選手のイメージは中国における対日本・日本人感情を大きく変える影響力がある。

2.ディスカッションの概要

・日中関係全体の文脈で考えたとき、文化交流は、両国間の相互理解・相互信頼を高めることによって、両国関係の安定に貢献するものだと考える。

・交流の機会が増えれば摩擦や衝突の機会も増えると言えるが、だからと言って交流をやめるのではなく、交流の機会を更に増やし、より一層相互の理解を深めていくことが唯一の解決の道である。そのためには、「下手な鉄砲」ではないが、様々な交流事業が行われることは歓迎すべきことである。

・一方、費用対効果の観点から言うと、近年の日中文化交流事業は、同じようなものが多すぎて非効率である。今までタイアップしていない団体・機関や、他人がやってこなかった分野を見直すことが必要。

・例えば、日本政府が草の根無償援助で建てた小学校に日本の文具企業が在庫のノートを寄贈するなど、政府と企業が共同して相乗効果を高めるアイデアはいくらもあるはずだが、大使館などにはコーディネーターがいないのが問題。

・企業が係わる個々の文化交流事業については、相互理解や対日感情の改善というマクロな目的もさることながら、企業イメージ向上を通じた?商品・コンテンツの売り込みや?人材確保といった目的が入る。

・政府レベルの日中文化交流については、大使館や国際交流基金など外務省系の交流事業以外にも、文部科学省系の機関・団体などが独自に実施しているものがある。

・国土交通省が「Yokoso Japan」というキャッチフレーズの下で様々な観光促進事業を使っているが、それと文化交流事業を共同で開催するなど、縦割り行政の枠を超えた取り組みをすれば、より少ない費用でより大きな効果を生めるはず。

・日本を中国において効果的に売り込むというマーケティングの視点から、ターゲット層やキラーメッセージを絞り込んだ文化交流を企画することが大事。大使館や国際交流基金の担当者に広告代理店などからの出向者を置いたら、今とは全く異なる文化交流ができるようになるだろう。


(以  上)

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