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第3回「税と社会保障の一体化の研究―給付つき税額控除・納税者番号制度―」研究会議事要旨

June 5, 2007

今回は、財務省村木審議官(厚生労働省より出向中)から、個人の資格で、「給付付き税額控除制度が、低所得層の労働インセンティブを高め、生活をサポートする制度として機能するか」という点を中心に行なわれ、以下質疑が行なわれた。

報告概要は次の通り。

ワーキングプアの実態としては、低所得(生活保護基準以下)層の増加、生活保護世帯の増加、非正規労働者の著しい増加(パート・アルバイト、臨時・日雇い、派遣・請負)等の事実があげられる。

増加要因は需要(景気、グローバル化、産業構造等)供給(意識変化等)双方の要因があり、特に、若年層の増加が問題となっている。

この状況が続けば、現在及び将来所得に大きな格差をもたらす可能性がある。もっとも、ジニ係数上昇のかなりの部分は高齢化と世帯規模の縮小が要因。

他方で(低所得層の増加ではなく)高所得層の顕在化が格差拡大意識をもたらしているとも考えられる。日本人の中流意識は変化していない。

また、 景気回復に伴い、正規労働者が増加している。全体としては、低所得層の将来的な増加が懸念される、という認識ではないか。

格差を国際比較したOECDの分析では、わが国は、墨、米などに続いて5番目だが、別の統計を用いると中位。絶対的な基準では貧困率は低い。欧州諸国の失業率は10%前後。

従来型の貧困労働者層はあまり増加していない。フリーターが大きく増加(200万人)。また、母子・父子家庭も増加(80万世帯)。

非正規労働者世帯の状況としては、若年フリーターの多くは親と同居(パラサイト)という事実は注目すべきである。

パートタイマーの多くは配偶者または子どもとなっているが、世帯主や単身も増加傾向にある。

問題意識を持つべき点は、若年非正規労働者のキャリア形成が困難となること、(親の死による)単身貧困世帯の増加がみこまれること、格差の固定化・国民の階層化、教育格差の再生産等々である。

このような現状認識の下で、給付付き税額控除制度は、「最低賃金の所得+給付金により貧困ラインを超えて働けば、それだけ豊かになる」という政策目標(メッセージ)を送ることになるので、わかりやすいというメリットがある。

他方で、日本では従来、勤労を尊ぶ国民性や福祉の水準がそれほど高くないことから、「福祉の罠」に陥っている層は少ないと考えられており、その問題を先取りする政策に緊急性が見出せるか否かという点にある。

今後は、国民意識の変化等を踏まえ、労働インセンティブを高める政策を含めた総合的な政策が必要不可欠である、という認識は間違っていない。

対象別の効果としては、生活保護受給者に対しては、一定の労働インセンティブを高める効果を持つものの、受給者の多くは、高齢者や障害者世帯である。

フリーターに対しては、現時点の効果は疑問である。それは、フリーターとなった原因の多くは、労働需要の質(正規が少なく非正規が多い)、本人の職業意識の希薄さや能力の低さに求められ、金銭的インセンティブにより労働供給が増えるわけではない。

また、多くは親と同居しており、(現時点では)世帯としての貧困ではない。

ただし、将来(10年後)には現行フリーター世代の労働モラルが著しく低くなる危険性があり、大きなテーマとなるだろう。

フリーターの単身貧困世帯の増加に対しては、労働だけではなく、教育・訓練に対するインセンティブを高める必要がある。

母子・父子家庭に対しては、生活保護受給者同様、一定の効果が期待できるが、総合的な対策がより重要であろう。

高齢者(年金受給者)については、必ずしも貧困層ではないが、高齢労働力の活用が期待される中で、年金、労働収入、給付付き控除制度の適用を含めて考えるべき。

総合的な対策としては、適合する労働需要の喚起、就労を支える環境づくり、教育・訓練、キャリア形成、均等待遇・・・採用、待遇、教育訓練等である。

給付付税額控除制度の論点としては、次の諸点があり、十分な検討を要する。
・個人単位の納税・労働収入と世帯単位の生活保障の接合
・所得テスト、資産テストの実行可能性
・申告制度を原則とすることの効率性・実行可能性
・国と地方の関係(生活保護費の大半は地方負担)
・限界的な所得層におけるディスインセンティブ
・累進課税の強化等により税収中立の制度改革とするのか、あるいは消費税等に財源を求めるのか

これに対して意見交換の概要は次の通り。

・「給付つき」の部分が、制度としてばら撒きにならないためには、誰をターゲットとするのかについて、しっかりしたコンセンサスを作ることが必要。フリーター(ワーキングプア)と母子家庭を主たるターゲットとするのか。
・子供の貧困対策、というコンセプトはどうか。
・子供の貧困という定義がはっきりしないのでは。
・その場合、フリーターには勤労税額控除、母子家庭には児童税額控除、というすみわけにするのか。
・高齢者についてもこの制度の対象となるのか、また、すべきか。
・ワーキングプアは、早急に対処するべき問題か、それとも将来に向けての大きな問題という認識でよいのだろうか。
・貧困ラインという定義がはっきりしない。生活保護基準なのか、課税最低限なのか。
・フリーター層の職業訓練をどうするかという点は重要な課題。
・給付が減る場合のディスインセンティブが問題となるのではないか。
・OECDの税のレポートには、EITCが先進国のトレンドとして位置づけ得られている。

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