アメリカ大統領権限分析プロジェクト:大統領権限と官僚制

菅原和行(釧路公立大学 准教授)

1.大統領権限と官僚制

アメリカ大統領の権限を分析するにあたり、公式の権限を観察するばかりでは、かならずしも実態を捉えているとは言いがたい。大統領による権限の行使には、それを可能とする権力機構の存在が不可欠となるため、権力機構の分析も併せて行う必要がある。とりわけ、行政国家化の顕著な現代では、巨大な官僚制をいかに統制できるかという点がきわめて重要な課題である。そのため、官僚制の統制は大統領権限のあり方を考察するうえでの一つの重要な論点となるであろう。

建国以来、歴代の大統領は行政組織の再編や人員の拡充などを通じ、自らに応答的な連邦官僚制の構築を図った。大統領の望む政策を実現するために組織や人員が拡大されたという点では、20世紀以降に見られる連邦官僚制の肥大化は大統領からの要請によって進行した面もある。しかし、ひとたび拡大した官僚制は、自律化を強め、大統領自身も十分に統制することが困難となる。その結果、近年の大統領は政策形成機能において、応答性の低下した省庁組織よりも直属機関(大統領府)や外部機関(シンクタンク、利益集団など)に一層の比重を置くようになった。また、人事行政においては職業公務員よりも、大統領の裁量によって任命可能な政治任用職を偏重する傾向が見られるようになった。さらに、クリントン政権以降、成果主義の行政管理によって官僚制の統制を図る試みも継続的に見られる。

2.政治任用による官僚制の統制

歴代の大統領は官僚制を統制するにあたり、まずは憲法の保障する官職任命権を用い、自らに応答的な政府の構築を図った。政治任用は資格任用とは異なり、大統領の人事裁量が担保されるため、大統領はその裁量によって自らの望む人物に官職を与えたり、専門知識を持った人物を政府の要職に任用した。この点に関してデイヴィド・ルイスは、政治任用が「政策」志向と「パトロネージ」志向に分けられることを指摘している。前者は各官職に求められる政策的知識・経験を重視し、各々に適合する人物を配置するものであり、後者は官職を与えたい人物があらかじめ決まっており、その人物が遂行可能な官職を宛がうものである。ルイスは両者が対照的な任用過程である点を指摘しているが、両者とも大統領が権力を維持するうえでは不可欠なものである。

一方、二大政党のイデオロギー的分極化を背景として、対立政党は大統領による政治任用を妨害しようと試みる。とくに、高級幹部職の多くは任命に際して上院の承認が必要な官職(PAS官職)であるため、対立政党の議員は議事妨害(フィリバスター)や審議保留(ホールド)によって承認の妨害を図る傾向が見られる。その結果、任用過程は長期化し、政権運営にも深刻な影響を与えている。オバマ政権においても政治任用過程の停滞が見られ、政権発足1年目に任用が完了したPAS官職は64%に留まった。これは歴代の政権に比べてもかなり低い水準である。このように、就任当初の大統領は政治任用によって官僚制の統制を試みるが、近年では政党分極化を背景として、それも困難になりつつある。

政治任用の偏重には批判も多い。政治任用職の増加により、職業公務員に依拠した専門性が失われ、行政の継続性も阻害されることが指摘される。一方、こんにちに至るまで、アメリカ連邦政府が多国の中央政府に比して多数の政治任用職を抱えている背景には、執政者の権力的要請に加え、執政者を取り巻く社会的要請が存在することも否定できない。目まぐるしく変化する現代社会においては、官僚制の硬直性はしばしば新たな政策課題への対応を遅らせるため、一定程度、執政者による柔軟な人事が可能であることが望ましい。また、政治任用者は職業公務員に比べ、かならずしも専門能力が劣るわけではない。政治任用者の持つ、各分野の専門知識、調整能力、人脈などは、職業公務員では獲得が困難なものも多い。その意味では、政治任用者の有効な活用や、官僚制の構成における政治任用者と職業公務員との適切なバランスは、大統領による官僚制の統制においても重要な課題となるであろう。

3.バロイングによる官僚制の統制

近年、政治任用による官僚制の統制が難しくなるなか、ある種の代替策として利用されているのがバロイング(burrowing)である。これは政治任用者を職業公務員の身分に転換する慣行である。政治任用者は一定の要件を満たし、所属機関の人事課と人事管理庁の承認を得ることにより、試験を受けることなく、職業公務員への転換が可能である。そのため、近年の政権では、政治任用者を職業公務員に転換させ、政権交代後も政府内に留まらせることにより、政策の継続や影響力の保持が試みられている。

バロイングには大統領や執政部ばかりでなく、政治任用者からの要請も強い。政治任用者に対する典型的なイメージは、シンクタンクや法律事務所に所属する優秀な人物が「ワシントンの回転ドア」を出入りして、順調にキャリアを重ねていくといったものであろう。しかし、実際には政治任用者はそのような人物ばかりでなく、退職後の再就職先がないため、その後も官職に残り続けたいと考える人物も多い。そのような人々にとって、バロイングによって安定した職業公務員の地位を得られることは非常に魅力的である。

このようにバロイングは、政治的意図によって用いられることが多いため、その弊害もしばしば指摘される。バロイングには、所属機関の人事課と人事管理庁の承認を要するものの、試験によって職員の能力を客観的に判定する手続きがないため、情実による転換が懸念される。また、それにより、職業公務員の担う専門性や政治的中立性が形骸化する恐れもある。

バロイングは政権移行期に増加する傾向があるため、トランプ政権への移行期には、共和党はオバマ政権によるバロイングを警戒していた。一方、オバマ政権にとっては退任後も医療保険改革などの成果を維持すべく、政治的影響力を残すための手段の一つであった。実際に会計検査院の報告によれば、2010~2015年には69名の政治任用者が職業公務員の身分に転換した。その後の数値はまだ公表されていないものの、政権移行期にも多数の転換が行われたことが推測される。

4.行政管理による官僚制の統制

大統領による官僚制の統制は、人事を通して行われるものに限らない。近年では広く行政管理の改革を進めることにより、官僚制の応答性を高める試みが見られる。とりわけ、クリントン政権のナショナル・パブリック・レビュー(NPR)や政府業績成果法(GPRA)の成立以降、成果志向の行政改革を推進され、「結果の管理」によって官僚制の統制する試みが見られるようなった。オバマ政権においてもクリントン政権から続く成果志向の行政運営が引き継がれ、業績目標の設定や業績評価の活用を積極的に行うことにより、効率的・生産的な行政管理が推進された。

一方、成果志向の行政管理は、大統領による官僚制の統制という面においては妥協的な選択肢といった意味合いも強い。近年、政党分極化を背景として、人事行政を通じた官僚制の統制が難しくなるなか、行政管理の改革を推進することによって官僚制を統制する以外に有効な手立てが見当たらない面もある。行政管理の改革は立法的手段よりも、行政命令や大統領覚書のように大統領の裁量によるものが多いため、議会を迂回して実施することが可能であった。

オバマ政権では経済政策に典型的に見られたように、景気刺激策、減税、医療保険改革、雇用対策など、リベラルと中道の間を揺れ動く状況が続いた。新自由主義的な行政管理が推進された背景には、官僚制の統制を図るとともに、党内のリベラル派と中道派の融和を図る意図も窺える。

一方、行政管理による官僚制の統制が、大統領の権限を有効に機能させるうえで、どの程度の効果があるかは検討が必要であろう。行政管理による官僚制の統制が、分極化への対応や党内融和、またそもそも財政的な要請によるものであるならば、限られた財源や資源の有効利用には資するであろうが、大統領の権限や政策的裁量を大幅に拡大するようなものになるとは考えがたい。とりわけ、大統領がリベラルな政策を志向した際、こうした新自由主義的な行政管理とどの程度の調和が取れるかは、今後も継続的な観察が必要であろう。

参考文献

  • Johannes, John R. (2015) Thinking about Political Reform: How to Fix, or Not Fix, American Government and Politics , New York: Oxford University Press.
  • Lewis, David E. (2008) The Politics of Presidential Appointments: Political Control and Bureaucratic Performance , Princeton: Princeton University Press.
    [邦訳] デイヴィッド・ルイス(2009)『大統領任命の政治学―政治任用の実態と行政への影響』(稲継裕昭監訳, 浅尾久美子訳)、ミネルヴァ書房。
  • Rein, Lisa (2016, November 23) “GOP Warns Obama Appointees against ‘Burrowing in’,” The Washington Post, A15.
  • Rourke, Francis E. (1992) “Responsiveness and Neutral Competence in American Bureaucracy,” Public Administration Review , 52 (6): 539-546.
  • United States Government Accountability Office (2016) “Office of Personnel Management, Actions are Needed to Help Ensure the Completeness of Political Conversion Data and Adherence to Policy,” Report to Congressional Requesters , GAO-16-859. http://www.gao.gov/assets/690/680178.pdf, 2017年3月24日アクセス.
  • 菅原和行(2015)「アメリカ連邦官僚制における中立的能力と応答的能力の動態―職業公務員と政治任用者に対する政治的要請の変化を中心に」『釧路公立大学 社会科学研究』第27号、39-55頁。
  • 菅原和行(2016)「官僚制―オバマによる応答性の追求とその限界」、山岸敬和、西川賢編著『ポスト・オバマのアメリカ』大学教育出版、43-60頁。
  • 渡辺将人(2016)『アメリカ政治の壁―利益と理念の狭間で』岩波書店。

菅原 和行

  • 福岡大学教授