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第二期第6回研究会【給付付税額控除研究会】 

August 18, 2009

7月24日、小林航 財務総合政策研究所 主任研究官(個人の資格で報告)より「GMI vs NIT-2つの制度の代替性と補完性」についての報告を受け、その後メンバーで議論を行った。

1. はじめに

公共経済学の教科書等では、「NIT(negative income tax)はGMI(guaranteed minimum income)よりも効率的な制度」として紹介される。その場合、NITとGMIは代替関係にあり、NITの導入を主張する場合にはGMIの廃止も併せて主張する必要がある。他方、GMIを廃止せずにNITを導入することが正当化されるためには、両者の間に補完性(役割分担の可能性)が見出される必要がある。わが国では、給付付税額控除と生活保護制度は切り離して議論される傾向があるが、両者の間に補完性はあるのだろうか。

2. GMIとNITの基本構造

GMIとNITの基本構造は以下の図のようなものである(Yは課税・給付前所得、Cは消費(課税・給付後所得)を表す)。GMIのもとでは,最低でもGだけの消費が可能となるが,給付対象者は給付前所得が増えても同額だけ給付が減らされてしまうため(限界税率は100%),就労意欲を大きく損ねてしまう。そこで提案されたのがNIT(負の所得税)である。これは給付額の減少分を所得の一定割合だけにする(限界税率はt<1)ことで,就労意欲の促進を図るものである。GMIと同様に最低でもGが保障され、Gを超える人々(Y

3. 2つのNIT案

これまで提案されてきたNITは大別すると2つに分類される。1つは、「GMIの代わりにNITを導入する」案である。このとき論点となるのは,最低保障所得Gをどのように設定するかである。既存のGMIにおけるGを維持するならば,給付額と給付対象者は拡大し、改革に必要な財源は膨大なものとなることが予想される。他方で、財政負担を抑えるためにGを低めに設定すると、従来の最低生活費が保障されない家計が出てくる。いずれにせよ、このNIT案では既存のGMIとの関係が強く意識されることになる。

もう1つは、「所得控除の代わりに税額控除を導入する」案である。累進所得税のもとでは、高所得者ほど所得控除の恩恵が大きいため、制度設計次第では税収中立的な改革も可能となる。この種のNIT案では、既存のGMIとの関係は特に議論されないことが多い。

4. 日本の生活保護制度とNITの補完性

日本の生活保護制度は,単純なGMIではなく,勤労義務が課されたGMIである。したがって、働けない人には生活保護制度で最低所得を保障し,働ける人には働いて最低所得を獲得してもらう、というのが1つの理想形である。この場合、給付付税額控除は働ける人のための制度としての役割を担いうるが、勤労義務と勤労誘因との関係や、最低賃金と勤労誘因との関係も慎重に検討する必要がある。

また、現実にはこの理想形は容易には実現しないかもしれない。事前(ex ante)の観点からは、働ける人と働けない人をどう見分けるか,という問題がある。また、事後(ex post)の観点からは、実際に失業者がいたとして,それが努力の不足によるものか,あるいは能力や運の不足によるものかを識別するのが困難,という問題もある。この場合,長期失業者はGMIで救済しつつ、就業努力も継続させる必要があり、単純な役割分担は成立しない。当然ながら、この問題を考えるためには、失業保険や職業訓練が担うべき役割についても慎重に検討する必要がある。

5. 議論

・アメリカのEITCも,もとの考え方としては「平均的な労働時間×最低賃金でも相対的貧困に陥ることを防ぐ」ことを目的としていた。また,生活保護制度の受給者の9割は高齢等で働けないという話もある。その意味で給付付税額控除と生活保護制度が補完的だという話はよく分かる。

・給付付税額控除については批判的な意見もある。給与補助になってしまい,劣悪な企業に対しても「今のままでいい」という誤ったメッセージになってしまう可能性がある。

・アメリカでも同様の批判はあり,導入にあたってはその点に気をつける必要はある。

・最低賃金を上げていった場合,最低賃金で労働者を雇えない中小企業をどう救済していくか。

・最低賃金で雇えない企業は淘汰されてよいという議論もある。実際,スウェーデンでは最低賃金も払えないような付加価値の低い産業(Bad job)は無くし,国をあげて高付加価値産業への移行を目指している。

・日本の生活保護制度,最低賃金,課税最低限のあり方等については,その役割分担についてきちんとした整理が必要と考える。

・それはその通りで,実際の制度設計についても,例えば生活保護制度は資力調査あり,給付付税額控除は資力調査なし,という対応になるのではないか。

・アメリカでも今回のEITCの拡大は生活保護の減額とパッケージで行われている。ただ,日本の場合は,パッケージで減額できるほど生活保護が充実しているとは思えないが。

※なお、報告内容は小林氏が個人としてまとめたもので、組織としてのものではない旨、御断りいたします。


以上

文責:中本淳・プロジェクトメンバー

    • 元東京財団研究員
    • 中本 淳
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