イラン選挙、保守派圧勝で高まる開戦の可能性

イスラエル空爆で日本の石油航路が危ない

東京財団研究員
宮原 信孝

アフマドネジャディ大統領派の退潮

3月2日行われたイランの国会選挙は、テヘランを中心とする選挙区で50議席ほどが未決定ではあるが、既に決まった議席では、反大統領派が圧勝する情勢で、アフマドネジャディ大統領派の退潮は決定的となった。

1年半前、テヘランを訪れた際、イラン有識者から聞いた話が思い出される。イランではアフマドネジャディ大統領と保守派の間で1979年のイスラム革命以来、最大の政治闘争が起こっているが、結局は同大統領が敗れるだろう、というものだ。今回の結果は、それが現実になりつつあることを証明している。

アフマドネジャディ大統領は、ハーメネイ最高指導者と貧困層を中心とする民衆の支持の下、保守派の腐敗を追及し、その特権を剥奪して勢力を増大させてきた。しかし、ハーメネイ師の支持が失われ、ガソリンへの補助金の廃止と物価の高騰により民衆の支持が離れてしまった今、結果はご覧の通りである。

保守派の台頭で、核問題はどう変わる

世界にとっての問題は、この保守派の台頭により、核問題についてのイランの対応が変わるか、ということであるが、結論から先に言えば、変わらないであろう。確かに、ソルタニエ国際原子力機関(IAEA)担当大使は、「全ての関連施設への立ち入りを含めIAEAの査察に協力することに合意する」と述べた。だが、天野IAEA事務局長は、3月5日、「イランのパルチン施設で活発な動きが続いている証拠がある」と述べ、「なるべく早く施設に行く必要がある」と強調している。「IAEAの査察に協力する」というイランの対応は、核問題に関する駆け引きの1つと見たほうがよい。

イランは、イスラム革命以来、米国をはじめ、世界中から制裁を受けてきたと認識し、その中で生きのびるためには、脅しすかしや、その他あらゆる駆け引きの手段を使った外交を行なってきている。アフマドネジャディ大統領であろうと保守派であろうと、誰が主導権を握っても、イラン・イスラム体制の護持と核能力保持を基礎に外交を行うことは、何ら変わらない。

以上を前提として、今回の対イラン制裁強化について考えてみよう。

今回の米国とEUの対イラン制裁強化は、イランに少なからぬ影響を与えていると見ることができる。この制裁強化の目玉は、イランからの原油輸入の禁止と原油輸入をドル決済する他国の企業や銀行に対する制裁である。イランは、その多くが米ドルによって決済される原油輸出代金によって、食糧を含む国内で必要な商品を輸入しており、各国のイラン原油輸入の禁止ないし削減は、イラン経済を直撃する。

英エコノミスト誌によれば、イラン原油の輸出先と輸出全体に占める割合は、2011年上半期の調査統計で中国23.9%、EU19.9%、日本15.0%、インド14.6%、韓国10.6%、トルコ8.0%となっている。その中でEUの約20%分が確実に消え、日本、韓国も着実に量を減らすことになろう。

中国、インドは、米国とEUの制裁への同調を拒否しているが、一時的な増加はあっても、敢えて輸入の絶対量を増やすとは思えない。他に確かな輸出先を増やさなければ、輸出の絶対量は縮小し、イランの収入も著しく減少することになる。

イランの原油収入が激減すれば、食料品輸入に影響が及び、イランの国民生活を直撃する。報道によれば、イラン側の支払いリスクを危ぶむマレーシアやシンガポールの業者は、植物油の輸出を停止し、インドでも米の輸出停止の動きが出ている模様である。ドルやユーロを使った決済が制限され、現地通貨による現金決済においても輸入コストが急上昇している、とも伝えている。物価上昇が続いている中、物資そのもの、特に国民全てに直接の影響を与える食糧の欠乏が現実のものとなる時、たとえ外圧に対する国民の団結があったとしても、国民の不満の矛先は政府に向かうことは避けられない。

イスラエル、イラン核施設爆撃は秒読み?

昨年から続くアラブの変動は、イランの唯一とも言える味方のアサド政権下のシリアにも及び、イランがアラブ諸国に対して影響力を振るう重大な術を失いつ つある。レバノンのヒズボラやパレスチナのハマスへの資金・兵器供給や政治軍事指導が困難になり、結果として、イランの影響力は削減されることになる。バハレーンへの支援は、サウジ・UAE軍の介入による安定化が進んだことで、イランの存在感が薄れている。また、イエメンのシーア派も、サーレハ大統領の国外退去で混乱が収束してきている。イランが、アラブ諸国に力を誇示する地域がほとんどなくなっている。

米軍はイラクから完全に撤退したが、ペルシャ湾の海軍プレゼンスは維持、いや増強さえしている。イランも海軍力を増強し、かつ、米国の圧倒的な空・海軍力に対抗して非対称戦を遂行することを企図し、その能力を強化しているが、その影響の甚大さを勘案すれば、巷間言われているところのホルムズ海峡封鎖の挙にでることは、現在の政治的駆け引きが続いている段階ではないだろう。

イランの域内での孤立感は、1年半前と比べてかなり強まっている。

このような中、域内外交上、イランにとって強力な駆け引き材料になってきているのが、核能力だ。イスラエルのバラク国防相は、昨年11月の時点で「(地下深く作られた)フォルドウ(宗教都市コム近郊)の施設でウラン濃縮が行われるようになったら、少なくともイスラエルは単独で軍事攻撃はできないので、イランの核開発計画を止めるには1年未満しか残されていない」と述べた。最近のイランでの核関係技術者の暗殺は、イスラエルの諜報機関の仕業と見られている。

また、米国の支援があろうがなかろうが、イスラエルがイランの核施設を空爆する可能性が増しているとも言われている。オバマ大統領は、イスラエルに自制を求め、これに対しイスラエル側も現時点ではイラン外交を見守っているが、同大統領に対しネタニヤフ・イスラエル首相は、「長く待てない」と述べている。

イスラエルが、イラン核施設に対する軍事攻撃を実行した場合、イランにとってはイスラエルを長距離ミサイルなどで反撃する口実になる。それだけも米国とイランの緊張は高まるが、もしイランが実際に軍事行動に出れば、イスラエルを守るために米国は対抗することになる。そうなった場合、戦闘や対立がどのよう な広がりを持ち、どのくらいの期間続くのか、予想することは難しい。

石油航路確保に日本も行動を

イランでは、国会選挙の結果は保守派有利となったが、アフマドネジャディ大統領とハーメネイ最高指導者を含む既得権益を持つ保守派との対立は依然続いていると見るべきである。そのような中、制裁で国民生活が打撃を受け、国民の不満が政権と体制に向かう可能性がある。

もし、そこで、イスラエルによる核施設攻撃が実施されれば、いかなることが起こるであろうか。まずは、国民は反イスラエルでまとまり、政府に協力するだろう。また、この結果戦争になったとしても、国民はそれを受け入れ、戦争中の耐乏生活を忍び、政府の指導に従う、という可能性は低くない。

イスラエルによる核施設攻撃は、イラン政府と体制の危機を和らげる効果を持つということだ。イランは、必ずしも長距離ミサイルでイスラエルを攻撃しなくてもいい。別の方法で戦争状態に持ち込むことも可能だ。

1987年、イラン・イラク戦争末期に日本関係船舶が一時的にペルシャ湾への入湾停止に陥ったことがあった。日本関係船舶が国籍不明のガンボートに襲われたからである。また当時、浮遊機雷がペルシャ湾に密かに流された。これはイランとイラクのどちらが流したのか不明のままだった。ホルムズ海峡の閉鎖は、軍艦を並べて物理的にペルシャ湾に入湾させないという方法ばかりではないのである。

ペルシャ湾やホルムズ海峡で何か船に危険が起こるかもしれないという状況を作り出した場合、当然、船舶保険料は上がり、それに合わせてそのほかの船舶運用コストも上昇する。そのような状況では、いつタンカーの運行が停止されるか分からないので、より安全な時にペルシャ湾外に運び出そうとして、石油・ガスの価格も上昇する。

そのような状況下、日本は、イスラエルを助ける米国の同盟国として、またペルシャ湾諸国からの石油・ガスの依存度が最も高い先進国として、船舶の安全航行のための貢献をしなければならない状況に追い込まれる。それは、イランからの石油輸入を減少させた上でのことである。

最近では、政府内でイラン緊迫に備えて、ソマリア沖の海上自衛隊を強化することが検討されているという。これはひとつの方法ではあろうが、ペルシャ湾から安全に原油輸入を実現するための対応ではない。

日本関係船舶の安全航行と原油供給の安定化――。日本は、この問題について、主体的に取り組まなければならない時期に来ている。

「日経ビジネスONLINE」 (3月13日掲載記事)より転載

宮原 信孝

  • 元東京財団研究員