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2015年のオバマ外交の行方―レームダック(死に体)神話に惑わされるな

January 14, 2015

渡部 恒雄 上席研究員

キューバとの関係改善へのイニシアティブによりオバマ政権への期待が変化

2014年11月の中間選挙で民主党は歴史的な大敗を喫したが、その敗因の一つが、オバマ大統領の外交および内政での指導力の欠如と指摘されていた。そのため、中間選挙直後には、2015年からの米国外交は他の大統領の政権末期にも増して、レームダック(死に体)化が進むのではないか、という予想が内外になされていた。

しかし、中間選挙後の二ヶ月を見る限り、オバマ大統領は外交で着実に得点を重ねてきている。2014年11月の米中首脳会談では、これまで国際条約上、温室効果ガスの削減義務を負わなかった排出量世界一位と二位の中国と米国が一定量の削減に合意した。また、12月にはキューバ革命以降、半世紀以上にわたり、断交してきたキューバとの国交正常化に向けての努力することをキューバのカストロ議長と合意した。これらは歴史に名を残すレガシー案件といえる。

オバマ政権のキューバとの関係改善は、必ずしも唐突な政策ではない。オバマ大統領は、政権発足当時からこの課題を自らの外交アジェンダに乗せていた。しかもこの政策は、イランや北朝鮮など、これまでの米国の政権が対話すら行わなかった相手とも、対話を行うという政権発足当初のオバマ外交の原点にも関わることであり、キューバとの成功は、イランとの劇的な関係改善への弾みとなる可能性も秘めている。

さらに、経済的にも、外交的にも、キューバとの関係改善は単なる二国間の問題ではなく、米国のラテンアメリカ全体への影響力の再構築、および将来のビジネス・経済利益に関わるものだ。これまで、米国のラテンアメリカ政策は、半世紀以上にわたり米国と対決してきたキューバと、それを支持するベネズエラ、ボリビア、エクアドルなどのボリバル同盟諸国の団結により、影響を削がれてきた。例えば、2005年には中南米全域を視野にいれた米国の米州自由貿易協定(FTAA)という提案がこれらの反米左派政権の反対で挫折している。

そもそも、米国の対キューバ関係改善の障壁は、フロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員(共和党)に代表される、現カストロ体制に批判的なキューバ系米国人の支持を受けた議会内の共和党保守派からの強固な反対という国内問題だった。中間選挙で敗北後、そもそも議会との協力をあまり考慮しなくていいオバマ政権にとっては、キューバとの関係改善という政策は共和党に対しての格好の牽制球でもある。キューバとの関係改善により、中南米全体でのFTAAなどの可能性が視野に入れば、それは産業界や農業界にとって、大きなビジネスチャンスであり、2016年の大統領選挙を考えると、共和党も反対ばかりを貫くわけにはいかなくなる。

この時期から、オバマ政権はレームダック政権ではないかもしれない、という論評が米国の主要紙を飾るようになった。2014年12月18日付のワシントンポスト電子版では、「オバマのキューバへの歴史的な政策転換は「死に体」の政権にはできない」(Obama’s historic shift on Cuba is far from ‘lame’)という記事が掲載された。この記事では、オバマ政権のキューバとの関係改善への取り組みに、共和党のマルコ・ルビオ上院議員や民主党のボブ・メネンデス前上院外交委員長らキューバ移民の子供たちの反対は理解できるが、同時にキューバを民主化するためには、むしろ米国との交流による「自由への酸素」が必要だとして賛同を表明した。( 1 )

同日のワシントンポスト電子版の論説面では、コラムニストのデイビッド・イグナティウスが、「最後の二年でオバマはギアを高速にアップする」(In his final two years, Obama breaks out his changeup)という論説を掲載した。イグナティウスは、ロシアのクリミア半島併合以来、共和党のオバマ外交への批判は、「優柔不断」で「弱い」というものだった。そしてその批判へのオバマ政権の答えは、最良の大統領に求められることは、一本のホームランを打つことではなく、シングル・ヒットや二塁打を積み重ねていくことだった。事実、オバマ政権はホームランを打っていないが、中国との二酸化炭素排出制限の合意、キューバとの国交回復への取り組みというシングル・ヒットを積み重ねているとイグナティウスは指摘する。そして彼は、現在も、長年対立してきたイランの核開発を制限する交渉、およびイスラム国への国際的な連合を作りつつあると指摘し、国内政策でも、議会が不法移民対策を行わなかったため、大統領権限で不法移民の米国滞在に道を拓いた、と主張する。そして、このような大統領権限によるオバマ政権の政策に対して、共和党が主導する上下院の議会が、それを撤回するのは現実的には無理だろうと考えている。( 2 )

事実、2010年に法案が成立したオバマケアと総称されるAffordable Care Act (患者保護並びに医療費負担適正化法保険法)に対しても、議会の共和党保守派はこれを撤回させるといいながら、それに成功していない。しかも、この法律による新しい医療保険制度は、当初はコンピューターのシステムエラーが相次ぎ、米国民に不評だったが、2014年11月15日からの第二回目の受付では、大きなエラーもなく、順調に進んでいるようだ。( 3 )  2014年12月21日付のニューヨークタイムズ電子版に掲載された「オバマは死に体大統領ではない?(Obama, the Least Lame President?)」という論説でも、中間選挙での大敗後、オバマ政権は不法移民への特別措置、中国との気候変動対策の合意、そしてキューバとの関係改善と、むしろ、次の選挙を意識しなくてよくなったため、より積極的な政策を取ることができ、共和党議会はそれを覆すような法的手段を持たない、という同様な指摘がなされている。(4)

好調な経済がオバマ大統領の脱レームダック化に貢献

しかし、いかにオバマ政権が中間選挙後、面倒な政治的な足枷からある程度開放されたとしても、世論の一定の支持がなければ、議会との相対的な関係から、政権が無力化するのは止められないだろう。そこを支えているのが、5.8%という低い失業率と、57ヶ月連続の民間セクターにおける雇用の増加という好調な経済である。中間選挙の時点では実感できなかった経済効果も、最近では米国民が最近じわじわと実感しているようだ。ギャラップ社が行った1月5日から8日までの調査では、回答者の45%が、今が質の高い仕事を探すのにいい時期と回答しており、これは2014年12月の36%から大きく増えている。(5)

また、同じギャラップ社の世論調査によるオバマ大統領の支持率は、中間選挙直前の2014年10月には41%まで下がったが、11月には42%、12月には44%、2015年1月9日から11日まででは支持率46%、不支持率48%と持ち直している。(6)

このように考えると、2015年のオバマ政権を単なるレームダック政権として扱うと、現状 を見誤るということがわかる。だからといって、中間選挙で共和党が上下院の両議会をコントロールしたことの影響が全くない、というのも現実ではない。オバマ政権が、今後の残り2年で、議会の立法措置が必要な政策においては、共和党が納得しないものは実現不可能であろう。しかし、裏を返せば、共和党も必要だと考えざるを得ない政策は、遂行可能なのである。一例を挙げれば、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の合意は、通商交渉権限を持つ議会の同意が不可欠だが、伝統的に共和党が前向きで、労動組合が支持する民主党の腰が引けている政策であり、2016年の大統領選挙で産業界の支持を視野にいれれば、共和党議会がオバマ政権に協力するインセンティブは十分にある。

日本にとっても、オバマ政権がTPP合意に動きだす可能性はグッドニュースだ。一方で、共和党が議会をコントロールする点で懸念材料もある。共和党が上院で過半数を取ったため、2015年から、上院軍事委員会の委員長は、ジョン・マケイン上院議員となった。彼は軍事費削減に反対しており、委員長に就任したら強制削減措置(sequestration)を変えると明言している。これは同盟国日本にとっては歓迎すべき点だが、同時にマケインには、以前に沖縄の普天間基地移設は実行不可能とみて、移転予算を計上せずに他の軍事予算にまわすべきと主張した経緯がある。昨年の沖縄知事選で、辺野古移転反対派の翁長氏が勝利したことを考えると、安倍政権にとっては米国側への説得が難航することも考えられる。

結論をいえば、2015年の米国を見る際に、オバマ政権が無力化していると単純に考えると実態を見誤る。同時に、議会を共和党がコントロールしたことによるオバマ政権の制約も、十分に認識していく必要があろう。2015年の米国の政策を見ていく際には、これまで以上に、政権と議会の力関係に注意を払う必要があるということだ。(終)

  • (1) Jonathan Capehart “Obama’s historic shift on Cuba is far from ‘lame’” The Washington Post, December 18, 2014 http://www.washingtonpost.com/blogs/post-partisan/wp/2014/12/18/obamas-historic-shift-on-cuba-is-far-from-lame/
  • (2) David Ignatius “In his final two years, Obama breaks out his changeup” The Washington Post, December 18, 2014 http://www.washingtonpost.com/opinions/david-ignatius-in-his-final-two-years-obama-breaks-out-his-changeup/2014/12/18/d3c0432a-86fa-11e4-9534-f79a23c40e6c_story.html
  • (3) Amy Goldstein and Jason Millman “HealthCare.gov opens without major problems for second enrollment period” The Washington Post, November 15, 2014 http://www.washingtonpost.com/national/health-science/healthcaregov-opens-without-major-problems-for-second-enrollment-period/2014/11/15/83ea3032-6cdc-11e4-a31c-77759fc1eacc_story.html
  • (4) Ian Ayres and John Fabian Witt “Obama, the Least Lame President?” The New York Times, December 21, 2014.
  • (5) Frank Newport “Americans Become More Positive About Jobs in January” Gullup.com, January 12, 2015, http://www.gallup.com/poll/180905/americans-become-positive-jobs-january.aspx
  • (6) “Gallup Daily: Obama Job Approval” Gullap.com, http://www.gallup.com/poll/151025/Obama-Job-Approval-Monthly.aspx
    • 元東京財団上席研究員・笹川平和財団特任研究員
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