概要
日本の財政状況は現在、非常に厳しい状況にある。政府債務の対 GDP 比率は他の先進民主主義国家と比べても非常に高く、また各種の試算によれば発散経路にある。財政危機の可能性を指摘する声もあるが、現在の状況が財政危機に直ちにつながるとは考えられない。今後、日本政府が財政再建に向けて強いコミットメントを示し、(1)税制改革、(2)社会保障制度改革、(3)経済構造改革(成長戦略)、などを進めていくことこそが、財政危機を回避するための最善・最良の方策となる。
他方、欧州諸国などで国家財政危機が連鎖する状況の下、事前に危機時の対応策を備えておくことは有益である。そういった対策を事前に備えておくこと自体が、市場の投機的な動きを抑制し、財政危機を未然に防ぐという効果をもちうる。この政策提言はこうした問題意識の下、今後の財政危機対応策の一つのたたき台となるべく、現時点で財政危機時の対応プランとして考えられるものを示したものである。
対応プランとしては、「危機の初期段階」における対応と、「本格的な危機」における対応との2段階に分けて考えた。前者の段階としては、長期金利が 2% 以上、漸進的に上昇している段階を想定する。この段階では、財政再建策へのコミットメントとともに、一部の地域金融機関や、その地域の経済に対する対策が中心となる。後者の段階としては、長期金利が3~5% を超えて非線形的に上昇するような場面を想定する。こうした状況においては、財政危機は、大量に国債を保有する金融機関の経営危機に波及する可能性が高いため、(1)政府の資金繰り対策、(2)金融機関対策、(3)国債の需給調整策、(4)財政再建への強力かつ迅速なコミットメント、が必要となる。また、危機時の迅速な対応を可能とするために、(5)政府の意思決定手順を定めておくことも必要である。
この提言書では、補論として地域金融機関についての簡単な分析も行った。地域金融機関はここ数年、保有国債を増やすとともに、デュレーションを長期化させている。これは都市銀行など大手行と反対の動きであり、地域金融機関の金利リスク量は増加しつつある。こうした中、財政危機時には、一部の体力が弱く国債依存度の高い地域金融機関6が資本不足に陥り、同時に、貸しはがしや貸し渋りに走る可能性がある。特に「危機の初期段階」においては、地域金融機関対策、地域経済対策が一つの中心となると考えられる。
政策提言の骨子
◎財政危機発生のトリガーと想定されるシナリオ
・日本における財政危機発生のトリガー(引き金)を複数想定
◎「危機の初期段階」(長期金利が2%程度漸進的に上昇している状況)における対応策
・地域金融機関、地域経済対策
・財政健全化策の事前策定・提示
◎「本格的危機時」(長期金利が3~5%を超えて非線形的に上昇している状況)における対応策
・財政危機対応会議の設置
・政府の資金繰り確保(財務省証券発行・日銀借入れ、予算執行停止・削減、海外からの資金調達等)
・金融機関対策(金融危機強化法・預金保険法の活用、日銀による資金繰り支援等)
・国債の需給調整策(各保有主体への働きかけ、日銀の対応策等)
◎地域金融機関への影響(分析)
・地域金融機関の国債保有リスクの上昇
・地域金融機関のストレステスト