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【論考】医療DXに向けた医療法等の一部改正(上)
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【論考】医療DXに向けた医療法等の一部改正(上)

March 3, 2026

はじめに

2025年(令和7年)12月、第217回臨時国会で「医療法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第87号)が成立・公布された。この改正法は、地域医療提供体制の再構築や医師偏在是正といった課題に加え、オンライン診療の推進や医療情報基盤の構築など医療DX関連の制度改革を盛り込む幅広い内容となっている。本稿では、2回に分けてこの法改正に関して、医療DXに関連する主要な改正項目とその背景、施行スケジュール、さらには医療現場・社会で議論となっている課題について政策的観点から深掘りする。東京財団では、研究プロジェクト「AIデータ利活用社会の実現」[1]において、日本の人口減少がもたらす医療資源逼迫と地域格差・偏在に対処し、同時に持続可能性があり信頼されるグローバルなデータ流通(Data Free Flow with TrustDFFT)とAI活用を支える三層ガバナンスモデル(地域・国家・国際)を検討している。今回は、医療DXとの関係で国家レベルのガバナンスモデルに関して述べ、次回は、地域医療構想との関係や実装に向けた課題等、地域レベルでのガバナンスモデルに関して述べる。

令和7年医療法等改正法の概要と背景

今回成立した「医療法等の一部を改正する法律」は、医療法のほか地域医療介護総合確保促進法、健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、高齢者医療確保法、介護保険法など広範な関連法を改正するものである。高齢化に伴う疾病構造の変化や人口減少に備え、地域で質の高い適切な医療を効率的に提供する体制の構築を目的としており、下図に示すように、その柱は(1)地域医療構想(地域医療提供体制)見直し、(2)医師偏在是正の総合対策、(3)医療DXの推進の3点である[2]。本稿では、このうち(3)の医療DXに関する改正点を中心に紹介する。

(出典:厚生労働省 医政局「医療法等の一部を改正する法律の成立について(報告)」(第122回社会保障審議会医療部会 資料4、令和7年12月8日)

法改正の背景と制度設計の経緯

今回の法改正に至った背景には、日本の医療提供体制が直面する構造的課題とデジタル技術への期待がある。後者に関連して、高齢化による医療ニーズ増大や生産年齢人口の減少を見据え、政府は「全世代型社会保障構築」に向けた改革工程の中で、地域医療構想の見直し・医師確保策と並ぶ重要項目として「医療DX推進のための必要な法整備」を掲げていた[3]。2022年には内閣に総理大臣を本部長とする「医療DX推進本部」を設置し(令和4年10月決定)、翌2023年6月に具体的工程表「医療DXの推進に関する工程表」を策定するなど、政府一丸となってデジタル化の道筋を示している[4]。この工程表では、少なくとも2030年までにほぼ全ての医療機関で電子カルテを導入することや、支払基金をシステム開発・運用の中核機関として抜本改組することなどが明確に打ち出されている。また、規制改革実施計画(2023年6月閣議決定)でも医療データ利活用に関する特別法の制定検討等が盛り込まれ、法制度面の整備が急務とされていた[5]

厚生労働省の審議会においても、医療DXに関する制度設計の検討が精力的に行われていた。社会保障審議会の医療部会および医療保険部会では、2040年頃を見据えた医療提供体制改革の議論の中で、医療DXの推進やオンライン診療の位置づけ、支払基金の役割見直し等が主要論点となった。特に医療部会は2024年12月、「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的改革に関する意見」をとりまとめ、電子カルテ情報共有サービスを法制度上位置付け令和7年度中に本格稼働させることや、支払基金を医療DXの基盤的組織として改組すること、オンライン診療の更なる推進等を提言した[6]。この部会意見は改正法の具体像に大きく影響を与え、実際に改正法案にこれらの方針が反映されている。

法案策定の過程では超党派の合意形成も見られた。政府提出の「医療法等改正案」は2025年2月に閣議決定され第217回通常国会に提出されたが、この時点では成立に至らず継続審議となった。その後、同年6月に政府・与党(自民党)と日本維新の会、公明党の3党間で医療DX推進策等に関する合意[7]が交わされ、秋の臨時国会での法案修正へとつながった。修正内容には、2030年までに電子カルテ普及率約100%を達成する目標の明記や、地域医療構想に関わる病床削減支援制度の創設などが盛り込まれている。こうした合意の下、法案は衆議院で与野党5党(自民・維新・公明・立憲民主・国民民主)の賛成多数により可決され、2025年12月5日に参議院本会議で成立した。なお日本共産党とれいわ新選組は法案に反対票を投じており、オンライン診療への規制緩和や支払基金改組の内容について一部異論があったこともうかがえる。

また、新型コロナウイルス感染症の流行を通じ、医療データの集約・共有基盤整備の必要性が広く認識された点も背景として重要である。パンデミック下で明らかになった情報連携の遅れや、紙媒体中心の事務手続きの非効率さを教訓に、政府は平時からのデータ活用とオンライン診療の有用性に着目した。感染症法の改正を含む今回の医療DX推進策には、平時・緊急時を問わず迅速に患者情報を集約し、機動的な医療提供やサーベイランスに活かす狙いがある。感染症発生届の電子化(電子カルテ共有システム経由の届出)はその象徴的な措置であり、将来の公衆衛生危機への備えとして位置付けられている。

以上のように、医療DX関連法改正の背景には、高齢化・人口減少に対応した持続可能な医療体制構築の必要性と、コロナ禍で加速したデジタル化の流れがある。政府内の戦略的なロードマップ策定、審議会での専門的議論、与野党合意による政策調整を経て、医療DX推進の制度設計が具体化された経緯が読み取れる。

次に、医療DX関連の具体的な改正項目を見る。

医療DX推進のための主な改正項目

2025年成立の改正医療法等では、医療DXに関連して以下の制度改革が柱となっている。

電子カルテ情報共有サービス

医療DXの一環として推進してきた「全国医療情報プラットフォーム」すなわち全国の医療機関や薬局で患者の電子カルテ情報を共有できる新たな仕組みが法的に位置付けられた。患者の診療情報(いわゆる「3文書6情報」)を、社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)または国民健康保険団体連合会に提供し、他の医療機関が閲覧できるようにする「電子カルテ情報共有サービス」である。

(出典:令和7年2月26日第115回社会保障審議会医療部会資料1「医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について(報告)」

提供された電子カルテ情報は医療機関間の共有目的以外に利用できないよう法令で厳格に制限され、患者の同意の下で情報閲覧する仕組みとなっている。このサービスを通じて、患者が複数の医療機関を受診しても検査・治療の重複を防ぎ、医師が過去の病歴を正確に把握できるようになる利点が期待される。また、この情報基盤は感染症発生時の届出にも活用可能とされ、医師等が電子カルテ共有システム経由で発生届を提出できるよう制度化された。

(出典:令和7年2月26日第115回社会保障審議会医療部会資料1「医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について(報告)」

 政府は本サービスの設計を令和5年度から開始しモデル事業を経て、令和7年度中(2025年度中)の本格稼働を目指している。さらに本改正には「令和12年(2030年)末までに電子カルテ普及率を約100%にする」国家目標が明記されており、クラウド技術等の先端技術を活用して全ての医療機関で紙カルテから電子カルテへの移行を実現する方針である(参議院附帯決議四)。また、電子カルテ情報共有サービスの運用に伴う費用の負担について、サービスの普及状況及び効果等を定期的に検証した上で、最低でも五 割程度の普及率に達するまでの基盤整備期間中は、国において必要な財政支援を行うこととされている(参議院附帯決議五)。 

オンライン診療の法制化と受診環境の整備

これまでガイドラインに基づき特例的に実施されてきたオンライン診療が、医療法上正式に定義され法律の枠組みに組み込まれた。

(出典:令和7年2月26日第115回社会保障審議会医療部会資料1「医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について(報告)」) 

改正法では「オンライン診療」を「医師または歯科医師と患者の電子計算機を通信回線で接続し、映像及び音声の送受信によって互いの状況を認識しながら通話できる方法による診療」と定義している。これによりオンライン診療の基本的な実施要件や手続きが法律上整備され、対面診療との関係性など運用ルールが明確化された。従来のガイドライン(オンライン診療の適切な実施に関する指針)に代わり、法的拘束力を持つ「オンライン診療の適切な実施に関する基準」(オンライン診療基準)が定められることとなった(現在整備中)。また、オンライン診療を受けるための「オンライン診療受診施設」に関する規定も新設され、患者が遠隔地の医師の診療を受ける際に利用できる拠点(受診用の施設)の基準が定められた。今回の法改正により、例えば郵便局等の施設がオンライン診療拠点として認められる道が開かれている。郵便局は全国の市町村に配置されており、医師不在地域でも患者が身近な場所でオンライン診療を受けられる環境整備につながると期待される。改正法はオンライン診療の普及促進を掲げつつ、安全性確保の観点から必要な規制も盛り込んでいる。オンライン診療を提供する医療機関には対面診療との適切な組み合わせや、急変時に備えた地域医療機関との連携体制確保などが求められており、医療安全に配慮した制度設計となっている。 

医療情報の二次利用促進

厚生労働大臣が保有する医療・介護データベースについて、ただちに個人が特定されない仮名化した情報であれば企業や研究機関への提供・利活用が可能になる規定が新設された。既にNDB等の公的なデータベースの二次利用に関しての法整備がなされており、次世代医療基盤法上の「仮名加工医療情報」との連結も可能となっていたが、これにより、データベース関連法全般に関して、仮名化した情報の活用が法的に裏付けられた。 

 

(出典:令和7年2月26日第115回社会保障審議会医療部会資料1「医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について(報告)」) 

支払基金の改組と医療DX推進体制の強化

医療DXの中核的なシステム運営主体として、厚生労働省所管の支払基金の役割が大きく拡充される。改正法では支払基金を抜本的に改組し、その名称を「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」(通称:基盤機構)に改めることとした。

(出典:令和7年2月26日第115回社会保障審議会医療部会資料1「医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について(報告)」) 

新たな基盤機構の目的には、質の高い医療の確保や医療機関・保険者の業務効率化に資する医療情報の収集・分析と、そのための情報基盤の整備・運営が明確に追加されている。具体的には、前述の電子カルテ情報共有サービスや各種医療データベースの開発・運用を担う「医療DXの運営母体」として位置づけられた。支払基金は従来、診療報酬の審査支払業務を本来業務としてきたが、今後はその機能を維持しつつ、医療DX推進のためのシステム面を一手に引き受けることになる。この改組にあたり、基盤機構のガバナンス強化策として意思決定機関を見直し、従来の理事会に代えて医療保険者、医療提供者、被保険者代表、地方自治体、IT分野有識者など各関係者で構成する「運営会議」を新設することも盛り込まれた。以上により、公的団体である支払基金を軸に国全体の医療情報基盤を構築・運営する体制整備が図られる。

マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)への完全移行

医療DX推進策の一環として、マイナンバーカードを健康保険証として利用する仕組み(いわゆる「マイナ保険証」)への移行も大きく進められた。改正医療法等と同時期に関連法令や制度整備が行われ、2025年12月以降は原則として従来の紙の健康保険証は使用できなくなり、全国民がマイナンバーカードによるオンライン資格確認で受診する体制に移行している。もっとも、マイナンバーカードを持たない人のために市区町村から「資格確認書」の発行を受ければ受診は継続可能であり、経過措置として2025年中は紙保険証と同等の機能を持つ資格確認書が交付される。マイナ保険証に反対する声もあるが、マイナ保険証の導入によって、医療機関の窓口でオンライン資格確認端末を用いた受診歴・薬剤情報の取得が可能となり、診療・服薬の重複防止や患者の利便性向上が期待される。また、マイナポータルを通じて本人が健診結果や処方歴等を閲覧できる仕組みも整備されつつあり、個人のヘルスデータを一元管理・活用する基盤が整うことになる。政府はマイナ保険証の円滑な普及のため、医療機関に対してオンライン資格確認システムの導入支援を行うとともに、2023年から診療報酬上の加算(医療DX推進体制整備加算)によりマイナ保険証利用を促進している(2026年の診療報酬改定ではさらに「電子的診療情報連携体制整備加算」が設定され医療DXの推進がなされている[8])。マイナンバー制度を所管するデジタル庁とも連携し、患者情報を安全かつ効率的に活用できるよう制度面・技術面のフォローが進められている。

医療現場・社会における課題と論点

医療DX関連法の成立は将来の医療提供の革新に道を開く一方で、現場や社会からいくつかの懸念や課題も指摘されている。政策関係者として留意すべき主な論点は以下のとおりである。

中小医療機関の対応負担と電子カルテ標準化の課題

最大の課題の一つは、診療所や中小病院における電子カルテ未導入施設への対応である。2023年時点で電子カルテの普及率は病院で65%、診療所では55%にとどまり、多くの小規模医療機関が依然として紙カルテに依存している[9]。こうした施設が今後数年で電子カルテを導入し、情報共有システムに接続するためには相当の負担が予想される。電子カルテシステムの初期導入費用は高額であり、ハードウェア整備やネットワーク環境構築、スタッフ研修にもコストが伴う。とりわけ財務基盤の弱い中小病院では、日常診療を維持するだけで精一杯でDXに割ける余力が乏しいケースも多いと指摘される。政府もIT導入補助金や診療報酬上の加算措置などで支援を行っているものの、「費用対効果が見えにくい」「人的リソースが不足」といった現場の声は根強く、電子カルテ導入を強制されるなら診療を辞めざるを得ないとする声も聞かれるところである。

さらに、電子カルテの規格統一(標準化)も大きな課題である。現在、医療機関ごとに様々なベンダーの電子カルテが使われており、そのデータ形式や項目定義は統一されていない。単に普及率を100%に引き上げても、システム間もしくはデータの互換性が確保されなければ患者情報の円滑な共有は実現しない。改正法では厚労大臣に「医療情報化推進方針」の策定を義務付け、電子診療録等情報の標準化推進が謳われている。しかし、実際の標準仕様策定やベンダー調整は難航する可能性がある。医療現場からは「国が主導する標準型電子カルテの開発が思うように進んでいない」との指摘もあり、互換性確保に向け政府のより強力な関与が求められている。(特に中小の医療機関の)現場の負担軽減のためにも、標準仕様に準拠した(クラウド)電子カルテの提供や、低コストなサービス展開が急務である。

プライバシー保護と患者データの利活用

医療情報の集約・共有が進む中で、患者プライバシーの保護も重要な論点である。電子カルテ情報共有サービスでは、患者の診療情報が一旦支払基金等に集められ必要時に提供される仕組みだが、患者の不安を払拭するには厳格な情報管理と透明性の確保が欠かせない。地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律(総確法)の改正により、提供された電子カルテ情報の目的外利用禁止を明記し、他の医療機関が閲覧する際には都度患者の同意を要件とするなどプライバシーに配慮した設計となっている。また、厚労省は匿名加工した診療情報データを公衆衛生向上のために限って活用・提供できる規定を設け、営利目的の広告利用などは明確に排除している。もっとも、一度に膨大な医療データを扱うことになる支払基金や関係機関の情報セキュリティ対策、漏えいや誤結合防止策などについては、不断のチェックと改善が求められる。マイナンバー制度に絡んでは過去にデータ誤登録等のトラブルが社会問題化した経緯もあり、国民の信頼を得るためには運用面で万全を期す必要がある。患者への十分な説明と同意取得の徹底、情報閲覧履歴の管理・開示など、プライバシー保護と利活用促進のバランスに細心の注意を払うことが肝要である。

オンライン診療の質・安全と地域医療への影響

オンライン診療の法制化に対しては、医療現場から診療の質や安全性への懸念も表明されている。特に初診からのオンライン診療の是非や、対面診療との適切な役割分担については専門家の間でも議論が分かれる。精神科診療にオンラインをどこまで認めるか、慢性疾患患者のフォローをオンラインで代替できるか、といった論点は引き続き検討課題である。国会審議の附帯決議では「オンライン診療に過剰な規制を設けず患者の利便に資すること」「安全性を踏まえ科学的根拠がある場合にはオンライン精神療法の初診解禁を検討すること」など柔軟な対応を求める一方、「急変時対応が困難な地域以外で一律に事前の受入医療機関合意を求める規定は設けないこと」など、安全性担保策にも言及している。今後、オンライン診療ガイドラインの見直しや診療報酬上の評価も通じ、対面診療との棲み分けを明確にしつつ質を維持する仕組みを整える必要がある。

また、新設されたオンライン診療受診施設については、営利企業の参入や医療安全管理の問題が指摘されている。例えば神奈川県保険医協会は、企業が設置可能な受診施設は「オンライン診療ビジネスのリアル拠点づくり」に他ならず拙速だと批判し[10]、全国保険医団体連合会も「安全管理が曖昧になりかねない」と懸念を表明した[11]。過疎地等で医師がいない地域への対応策として期待される一方、過度な営利化や質の低下を防ぐガバナンスが課題となる。政府は郵便局の活用など公共性の高いインフラを組み合わせる方針だが、地域医療との調和を図りつつ慎重に進める必要がある。

システム導入・運用コストと人的リソースの確保

医療DXの推進は中長期的には業務効率化や医療費適正化に寄与すると期待されるが、短期的にはシステム導入・運用コストが医療機関の負担増となる現実も直視すべきである。電子カルテやオンライン資格確認端末の導入費用、ソフトウェア保守料、情報セキュリティ対策費といった直接コストに加え、新システムへの移行期間中の一時的な業務停滞やスタッフ研修の負荷といった間接コストも発生する。特に小規模クリニックでは専任のIT担当者を置けない場合も多く、ベンダー任せになりがちな実装・保守に不安の声がある。政府は今後、診療報酬改定や補助金交付を通じて「DX投資のコスト回収」ができる仕組みを示すことが重要である。例えば電子カルテ導入には現在、中小医療機関向けの補助金や税制優遇措置が設けられているが、現場からは「制度を知らない」「手続きが煩雑」との指摘もある。政策周知とサポート体制の強化により、DX推進の恩恵が経営的にも感じられる環境づくりが求められる。

さらに、DXを使いこなすための人的リソースの確保・育成も大きな課題だ。高齢の医師・看護師にとって電子カルテ操作はハードルが高く、紙から電子への業務転換には相応の時間と努力が必要である。一方で若手職員にはデジタル技術に習熟した人材も多く、DX推進は人材確保策にもつながるとの指摘がある。実際、ある病院では「紙カルテでは若いスタッフが集まらない」との危機感から電子カルテ導入を決断した例も報告されている。今後は医療現場のDXを担う人材育成に向け、研修プログラムの充実やITコーディネーターの派遣など支援策を検討すべきであろう。 

おわりに

本稿では、202512月の医療法等の一部改正における医療DXに関連する部分(国家レベルでのガバナンスモデル)を紹介した。医療データの共有に関しては法的にもシステム的にも政府が進めつつあるが、地域の現場との調整はまだ必要である。
またオンライン診療に関しては、次回紹介する他の改正点と相まって、地方における診療体制を支えるものとして重要な点である。ぜひ次回記事とあわせてご参考にしていただきたい。

【参考文献・出典】

[1] AIデータ利活用社会の実現 | 研究プロジェクト | 東京財団
[2] 厚生労働省 医政局「医療法等の一部を改正する法律の成立について(報告)」(第122回社会保障審議会医療部会 資料4、令和7年12月8日)
[3] 医療法等改正案の概要及び論点
[4]  医療DX推進本部|内閣官房ホームページ
[5] 内閣府 『規制改革実施計画』(令和5年6月16日)
[6] 2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見|厚生労働省
[7] 自由民主党・公明党・日本維新の会「医療法に関する三党合意書」
[8]
中央社会保険医療協議会 総会(第647回)総-1個別改定項目について
[9] 「医療DX令和ビジョン 2030」厚生労働省推進チーム(第6回)(令和7年1月 22 日)資料3「病院の情報 システムの刷新に係る方向性について」
[10]
2025/12/3 政策部長談話「営利企業の医療参入の梃つくる医療法改正  偽装クリニックの温床、『オンライン診療受診施設』に反対する」 | 神奈川県保険医協会とは | いい医療.com
[11] 【要望書・医療法等改正】 オンライン診療は医療安全管理に危惧 - 全国保険医団体連合会

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