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韓国漁業の歴史的変化と課題

はじめに

1910年の韓国併合で日本と韓国は1911年から明治漁業法の同一の漁業法体系を保有することとなった。韓国の独立後、韓国は朝鮮戦争の混乱で諸制度の整備が遅れ、日本は戦後の民主化政策がすすめられ、それぞれの法体系に変化が見られた。韓国の漁業は沿近海漁業(日本でいう「沿岸・沖合漁業」)は1980年代半ばから、沿岸漁業と近海漁業の対立、主要資源の減少などで沿岸域での資源と紛争は一段と悪化した。

1982年国連海洋法条約を日本は1996年6月に韓国は日本に先立ち1996年1月に批准した。

日本はTAC(総漁獲可能量)制度を1997年に導入し、韓国は1999年から導入したが、同時にIQ(個別漁獲割当)制度を導入した。韓国の漁業生産量は1980年には日本の約20%相当量から2017年には80%の水準まで追いついた。これは日本の漁獲量の減少と韓国の養殖業生産量の増大が主たる原因である。本稿では2018年から2019年にかけて筆者が行った韓国現地調査の内容を踏まえ、韓国漁業の歴史的変化と課題を考察する。

1.韓国漁業法制度の歴史

1)日韓の歴史的関係

江戸時代と明治時代の日本の漁業は、漁業権の慣習のもとで拘束があり、自由な発展が望めない状況で、新天地を求めて西日本の漁業者は朝鮮半島南部を中心とした朝鮮海域に出漁した。

日本漁業の進出の後押しをしたのが18762月に調印された「日朝修好条約(条規)」である。日本漁業の韓国への進出が本格的に始まり、その後大日本帝国の韓国併合によって韓国総督府が設置され、そこで1910年に制定された明治漁業法を基に漁業令が公布された。これが1929年には朝鮮漁業令となる。これは日本から進出した資本漁業者他が韓国水域で漁業を行うには好都合な法律であった。

韓国が1945年に独立を迎えた。日本は、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の下で戦後の民主化政策がすすめられ、漁業法も民主化の概念を持ち込み資本漁業を沿岸域から排除した。これらを盛り込み1949年に漁業法を改正するが、朝鮮戦争での国内混乱で韓国の漁業法の改正・制定は1953年を待った。その大部分は朝鮮漁業令をそのまま取り入れた。その後1963年に工業化の方針に合わせて沿近海漁業並び遠洋漁業の振興と個人漁業権の免許による養殖業と定置網漁業の振興を図った。韓国は、漁業振興政策について日本の漁業政策と制度を規範にしながら策定した。在日韓国大使館の水産官は日本の政策を学ぶ重要なポストであった。

2)韓国漁業政策の変化

1982年国連海洋法条約の成立と1994年の発効以降、日韓の政策と制度の差は次第に明らかとなる。漁業法制度とシステムの改革に対する姿勢について、韓国政府は、現行漁業法では変化する国際・国内への対応が困難であるとの姿勢を有し、国連海洋法条約の精神と趣旨を国内の諸制度に反映させようとした。その具体例が1999年にTAC制度と合わせて導入したIQ制度である。

2.IQ(個別漁獲割り当て制)の導入

1)漁業生産量の減少

韓国の漁業生産量は、241.0万トン(1980年)から増加を続け1990年半ばには350万トンに達した。これは主として沿近海の漁業生産量が増大したためであるが、172.6万トン(1986年)をピークにして沿近海漁業は衰退の傾向を見せる。これは主要資源の減少、コストの増大と不法操業による過剰漁獲が原因で減少した。

韓国政府は、1990年頃からそれまで国内法制を日本の漁業法制度とシステムに倣っていたのを次第に方向転換し、欧米から学ぶ方向に転換しだした。留学生も、米国を中心とする大学に派遣するようになった。

韓国は、それまでの伝統的な漁業調整やインプット・コントロールを主体とする漁業規制から国連海洋法条約の規定や1995年国連公海漁業協定(国連海洋法の規定の実施のための協定)に規定されるアウトプット・コントロール(漁獲総量規制)に重点を移行しつつある。そのような水産業政策の一環として、TAC/IQ制度を導入した。

それでも、現在の漁業生産量は92.6万トン(2017年)である。2016年以降2018年(暫定値)まで3年連続して100万トンを割っている[1]

2)TAC/IQの導入

①魚種の増加

日本に遅れること2年で、1999年のTAC(総許容漁獲量)制度と共にIQ(個別漁獲割当量)制度を導入した。

サバ類・マアジ・マイワシ・ベニズワイガニの4種を対象としたが、2001年にウチムラサキガイ、サザエ、タイラギ(二枚貝の一種)にも拡大、 2002年にズワイガニ、2003年にワタリガニ、2007年にスルメイカと、2010年にハタハタ、カンギエイを追加した。2011年では、漁獲量の少ないマイワシを削除し、TAC/IQの対象は11種の魚貝類である。

②設定プロセス

韓国のTACとIQ方式の漁獲量・漁獲枠の設定のプロセスは、日本の農林水産省水産庁に相当する海洋水産部が国立水産調査振興院(NFRDI)の科学評価に基づいて提案し、それを漁業者に提示する。漁業者との協議後は、水産業界・漁業専門家・地方政府職員および海洋水産部職員をメンバーとするTAC委員会で提案を検討し、中央漁業調整委員会(各地域の代表、各漁業界代表、漁業専門家)で最終的に決定される。

IQは過去2~3年の漁獲実績に基づき、大型巻網漁船などには組合を通じて個別漁船毎に配分する。イカ釣りなどの小型漁船については、慶尚南道など地方行政区を通じて、同様に漁獲実績に応じて個別漁船ごとに配分する。操業の当初に総TAC枠の70~80%を配分し、20~30%は操業結果を基に配分している。

③監視・取締制度とデータ収集の強化

漁業者による正確な漁獲量の報告と、その検証が重要であり、漁業者が勝手に自ら選択した漁港への水揚げは、禁止されている。TAC/IQ魚種の水揚げは、政府が指定した180漁港に限定され、漁業者が水揚量の報告を行なう。政府派遣オブザーバーが漁業者の漁獲量をチェックし、両者に差が生じた際にはオブザーバーの報告を採用する。

政府は月別に全体の漁獲を監視し、漁獲量が漁獲枠の80%に達するまでは週毎に、80%を超えた後は日ごとに漁獲デーが報告されなければならない。

漁獲量がIQの80%に達した時点で政府は漁業者に通報し、IQに達した漁業者には漁業操業停止を命令する。

データ収集は、漁業者の正確な義務的報告の励行と、オブザーバー制度を通じたデータ収集のダブルチェック体制を敷いている。

資源評価の信頼性が極めて重要な位置を占めている。TACはすべてABC(生物学的許容漁獲量)以下(資源が急速に回復したガザミを除く)に設定される。資源評価には外国人科学者も参加する。全国180か所の漁港で2000年には10人、2005年に14人だったオブザーバーは、2010年は70人、2018年現在は85名である。近々200名に増員予定である。(国立科学調査振興院)

3.今後の課題と将来展望

韓国の沿近海の漁業生産量は、IQの導入にもかかわらず、その減少傾向が進んでいる。しかし、大方は、IQを導入していなければ減少は深刻であったというものである。このような状況に対して、国民も魚食や水産業に対する関心が高く、NGOのその動向を見守っている。また、韓国政府はTACの設定プロセスに国民や消費者の代表も入れることも検討中である。

1)IQ魚種増の検討

現在、カタクチイワシ、タチウオとイシモチ(キグチ)の追加を検討中である。これらの魚種は漁獲量も多く、伝統的に韓国の魚食には欠かせない。カタクチイワシは、加工ないしはキムチとして、タチウオもキムチやなべ物食材として、イシモチ(キグチ)は乾燥して、冠婚葬祭や正月や「晴れ」の食材であり、資源と漁獲の悪化とともにその価格が高騰している。

IQを導入したもののマサバ、スルメイカやベニズワイガニ及びズワイガニの減少がみられる。

2)ITQ制度の導入へ

現在、公式にはITQ方式は採用されていないが、漁業者間では非公式に漁獲枠の譲渡があることを政府は認識している。移譲性の賦与は、漁獲の権利に価値を与え、所有権の認識を高め資源管理意欲を増すとの理解である。ITQの導入を現在検討中の魚種は単一魚種を漁獲する大型巻き網漁業によるマサバと、定着性の性質を有し漁獲管理のしやすい、ベニズワイガニが候補に挙がっている。双方の漁業界から早期にITQに移行の要望が上がっているが、業界の熱心さからマサバのほうが早くITQ魚種に移行するとの見方が強い。

3)国際社会へ打って出る韓国

最近では、国連食糧農業機関(FAO)の支援の下に、釜慶大学内に世界水産大学を設置する構想を進めている。そこに世界から留学生を集め教育し、韓国の学位とFAOの認証を卒業生に与える構想である。その前段階として20189月には韓国内で「漁業管理」に関する国際専門家シンポジュームを開催している。

 

[1] この間に日本の漁業生産量も1282万トン(1984年)から430万トンまで約3分の2を失った。656万トンを200カイリ排他的経済水域内で失った。

 

小松正之

小松 正之

  • 上席研究員

研究分野・主な関心領域

  • 水産業
  • 捕鯨
  • 海洋
  • 地球生態系及びリーダシップと交渉論

研究ユニット

資源・エネルギーユニット