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【開催レポート】第6回「『税・社会保障制度の抜本改革』を考える」討論会

May 24, 2011

■ 第6回「税・社会保障制度の抜本改革」を考える討論会

 【日時】 2011年5月24日(火)18:00~20:00

 【会場】 日本財団ビル2階 会議室(港区赤坂1-2-2)

 【発表者】 伊藤達也(PHP総合研究所コンサルティングフェロー、

            元総理大臣補佐官<社会保障国民会議担当>)
       松山幸弘(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)

 【コーディネーター】 亀井善太郎(東京財団研究員・政策プロデューサー)

 【共催】 東京財団、(株)PHP研究所、構想日本、

      みずほ総合研究所(株)、(株)日本総合研究所

 【議論に参加した国会議員】(50音順、敬称略)
   阿部俊子(衆)、河野太郎(衆)、遠山清彦(衆)、橋本 勉(衆)、柚木道義(衆)

 

討論会概要

第6回の討論会は、キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹の松山幸弘(以下、松山氏)、PHP総合研究所コンサルティングフェロー、元総理大臣補佐官(社会保障国民会議担当)の伊藤達也氏(以下、伊藤氏)より、それぞれの税と社会保障制度改革に関する考えについて説明があった後、出席した国会議員による質疑応答、意見交換が行われました。

松山氏からは、添付の資料の通り、厚生年金積立金の流用の問題点に関する指摘がありました。

続いて、社会福祉法人全体の財務データ推計および社会福祉法人が共同拠出で事業を行っている大阪府での例を示し、東日本大震災の復興にその収益と資産を活用する「復興事業基金」を創設すべきとの提言を示しました。

社会保障制度改革については、とくに医療分野について、オーストラリアやアメリカでの例を挙げて、IHN(Integrated Healthcare Network:統合ヘルスネットワーク)が広域にわたる非営利医療事業体として地域のニーズに応え、かつ、健全な経営を実現していることを示しました。これらのIHNは一定規模の地域や市場を対象に、医療技術の進歩を踏まえた急性期病院の見直しを行い、在宅・予防などのフルラインで患者を囲い込む戦略によって急成長を遂げています。病院経営の成功は、結果として、患者と政府の負担を軽減することにつながることになります。我が国においても、長野県厚生連では国・公立病院以上に公益機能を果たしながら、診療報酬が厳しいと言われた当時でも、傘下の55拠点全てで黒字を達成しました。また、100以上の拠点を持つ浜松市をベースとする聖隷福祉事業団でも経常収支黒字27億円を達成しています。国の予算カットや制度云々ではなく、地域での工夫によって経営改善ができ、地域の医療ネットワークを維持できることを明らかにしました。

伊藤氏からは福田・麻生政権における社会保障国民会議を担当した首相補佐官として、その経験を踏まえ、現在の政府の集中検討会議や政府与党について、問題を提起しました。

衆参のねじれという現在と同じ与野党関係のもと、福田政権において社会保障国民会議は始まりました。与野党を超えた合意が必要とされることから、立ち上げ時には会議メンバーに民主党の支援団体である連合や同党のブレーンを入れること、政党の思惑によらない現場を精通している方に加わってもらう等の工夫を重ねました。また、社会保障改革は国民の関心が高く、直接影響することであるため、透明性の確保に努め、情報公開を進めました。会議や資料の公開はもとより、シミュレーションに使ったデータの開示等、定量的な面でも幅広い議論ができるように配慮しました。これにより、一つの案にまとめるには至りませんでしたが、年金、医療・介護、少子化対策の3分野について、2015年度時点の国民負担も含めて今後の選択肢を示すことができました。

一方、社会保障国民会議の議論を進めるにあたっては、歳出改革が不可欠と考え、取り組みました。当時と比べると社会保障国民会議のときの基礎的財政収支は6兆円の不足、現在ではそれが28兆円に拡大しており、より厳しい状況に陥っていること、加えて、社会保障国民会議の経験を踏まえると、現在の政府の集中検討会議は透明性が十分でなく、何が出てくるのかがよくわからない形になってしまっており、国民の信頼を得ることは難しいのではないかとの指摘がありました。また、本来、社会保障改革はマクロ経済運営との整合性が不可欠であると共に、世代間の負担の関係の見直し等、真に取り組むべき論点について、真正面から取り組むべきであるが、いまの政府を見ていると「税率はじめにありき」で段取りを考えているだけのように見えるとの指摘もありました。

国会議員の参加は5名となり(出席国会議員の個別名は上記参照)、上記の説明を受け、社会保障制度改革が進まない理由、現場の知見を踏まえた医療制度改革に加え、先日の政府の集中検討会議で管総理が示した「安心3本柱」についても、議員を交えた活発な議論が展開されました。

■超党派協議はなぜ進まないのか

野党議員からは「まず政府案を示すべきであり、叩き台がないのに超党派協議に応じるべき」との意見がありました。加えて、別の野党議員からは伊藤氏が指摘したように、政府の検討の進捗があまりに明らかになっておらず、議論の経過で公開される政府案等も具体性に欠け、何が議論されているのかがよくわからないとの指摘もありました。これは税と社会保障制度の一体改革あるいは抜本改革としておきながら、何を対象とするのか、その論点を明らかにしないまま、集中検討会議が進められてきたことに問題があるものと考えられます。すでに社会保障国民会議の経験を踏まれば、同会議で議論されてきたことの繰り返しになっているとの指摘もあります。具体策を小出しにするのではなく、何を論点とし、何を合意するのかをまず明らかにせねばなりません。

■真に取り組むべき論点は解決を優先すべきもの、与野党の合意が可能なもの

国全体を考え、解決を優先すべきもの、あるいは、与野党の合意が可能と見込まれるものが、いま取り組むべき論点です。これまでの討論会でも繰り返されてきたとおり、年金制度改革、納税者・社会保障番号制度は条件に沿うものであり、最優先で取り組まねばならないというのが各議員の共通認識と思われました。医療・介護や少子化対策は、それぞれの政党の考えが異なるところが多いため、それぞれの主張を闘わせるべきで当面の合意を目指すべきではないとの意見がありました。

■管総理が示した「安心3本柱」に対する評価

先日、管総理が示した「安心3本柱」のうち、3つめのポイントには自己負担「合算上限制度」の導入が示されました。また、同制度の導入には番号制度の導入が前提とされています。重要なのはインフラとしての番号制度であり、政策の目的が未だ明らかになっていない自己負担「合算上限制度」といった個別の施策をはじめにありきで先行させるよりは、番号制度の基本設計を超党派できちんと議論すべきとの指摘がありました。加えて、そもそも、「安心3本柱」と謳うにしては、真に取り組むべき論点になっていないとの指摘が多くありました。

■政策検討に必要なパラメーターやシミュレーションモデルを政策当局から離すべき

社会保障国民会議での経験やこれまでの厚労省とのやりとりを考えても、政策検討に必要なパラメーターやシミュレーションモデルは政策当局から切り離すべきとの意見が松山氏からあり、多くの議員が同意しました。

■トップダウンではなく、現場の知見を踏まえた医療改革の必要性

松山氏による医療現場を踏まえた提言は参加議員の高い評価を得ました。地域特性や疾病構造に基づいた二次医療圏の見直し等、地域レベルで改めるべき政策があるとの指摘が多くの議員からされました。

■次回(最終回)の議論に向けて

政府における検討は6月を目途にまとめられる予定ですが、本日の議論でも明らかになったとおり、これまでの経過を見ていると、国民に密接な政策でありながら、何を対象とする議論なのか、また、そうした問題に国民の代表である議員がどれだけ関わっているのかがいまひとつ明らかになっていません。この討論会は政府の検討に直接関わることができない与野党議員すべてが有識者の意見を踏まえて、どう考え、どう行動するのか、その契機となるべく実施してきました。議員相互の討論によって、合意できるポイントも明らかになってきたように思います。

東日本大震災は我が国の社会保障政策の問題も明らかにしました。次回の議論では社会保障制度全般の課題も含め、今後、政治において、どのような議論が実現されるべきかについて、国会議員の討論を中心に進めます。

東京財団 研究員・政策プロデューサー
亀井善太郎


議事録はこちら>

<中継録画はこちら>

  

■当日の資料等

   *松山幸弘氏の配布資料はこちら
   *「社会保障国民会議最終報告 付属資料」はこちら

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