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【開催レポート】シンポジウム「大国スーダン -和平・復興への挑戦と日本の役割」

March 7, 2008

■ ゲストスピーカー:ナーフィア・アリー・ナーフィア(スーダン政府大統領補佐官)
■ コメンテーター:佐藤啓太郎(アフリカ紛争・難民問題担当大使)
■ モデレーター:青井千由紀(青山学院大学国際政治経済学部准教授)

東京財団は3月7日、日本財団ビル2F大会議室で「大国スーダン -和平・復興への挑戦と日本の役割」と題するシンポジウムを開催した。本財団が実施している「国連研究プロジェクト」(北岡伸一主任研究員)の公開研究会として行われたもので、ゲストスピーカーには外務省の招きで来日したスーダン政府の実力者、ナーフィア大統領補佐官が登壇、大量虐殺や難民発生などで注目を集める同国西部のダルフール紛争や、南北内戦終了後の国づくりについての見解を表明した。

講演の中でナーフィア補佐官は、2005年に成立した南北包括和平合意(CPA)の履行状況について「非常に順調」と強調。2011年に実施予定の南部スーダンの帰属を問う住民投票についても、「結果を尊重する」と確約した。反面、ダルフール問題に関しては、単なる2つの部族抗争が内的な政治要因や隣国チャドの影響などで大規模な紛争に拡大したと指摘。「我々には交渉の用意がある」とする一方で、反政府勢力の一部が交渉のテーブルにつかないことが和平の障害になっていると批判した。

佐藤大使は、日本政府がスーダン支援のためにすでに2億ドルを供与していることを紹介。「世界が平和でないと日本は生きていけない」として、政府としてもできる限りの支援を継続する考えを表明した。

シンポジウムは、国連研究プロジェクト・メンバーでもある青井准教授をモデレーター役に進行。会場に集まった約100名の聴衆は真剣に登壇者の話に聞き入り、質疑応答も含めた議論は白熱したムードが漂った。

各氏の発言、会場との質疑応答の主な内容は以下の通り。

 

スーダン概況と問題提起・・・青井准教授

「スーダンの南北問題は、2005年1月に南北包括和平合意(CPA)が成立し、20年以上続いていた内戦が終了、同年7月に暫定統治政府が樹立された。情勢はおおむね平穏で、和平合意の着実な履行が非常に重要だ。」

「一方、ダルフールについては情勢は悪化の兆しがある。2003年2月ごろから紛争が激化、国連やアフリカ連合(AU)による仲介努力が続いているが、和平交渉も滞っている。2006年のダルフール和平合意(DPA)というのがあるが、一部の主要反政府勢力の署名拒否のため、有名無実化し、紛争は継続している。2004年6月から展開されていたAUミッション・イン・スーダン(AMIS)は、最近、国連・AU共同のハイブリッド・ミッションに引き継がれたが、状況の安定化に貢献できるかどうか、難航が予想されている。」

「AUは前身のアフリカ統一機構の平和・安全保障面を強化したものだが、ダルフール問題は、アフリカ自身が域内の紛争、平和、開発の問題にどの程度対応できるかという点において、その力が試される重要なケースだ。」

 

「プロパガンダには屈しない」・・・ナーフィア補佐官

「スーダンは、天然資源が豊かで石油以外にも鉱物が多い。200万エーカー以上の耕作可能地があり、水も豊富だ。農業資源のポテンシャルは非常に高い。自由主義的な経済政策を採用しており、ここ数年8%、10%、11%というという安定した経済成長率を示し、インフレ率も制御されてきた。」

「インフラ整備にも力を入れており、各州を結ぶ道路をつくり、9つの新空港を建設し、2つの港を整備した。特に通信インフラ整備はアフリカの中で最も進んでいる。大学の数も増えた。だが、広大な地域を開発するには、外国からの投資が必要だ。スーダンは、西洋諸国との関係が構築できないということで、中国やインド、パキスタン、インドネシアなどアジアとの関係を歓迎している。日本の人々にもスーダンに投資することのポテンシャルを理解してもらいたい。日本の民間部門からの投資をお願いしたい。」

「南北包括和平合意については、権力や富の共有などに関する6つの議定書のうち、『アビエ議定書』以外は、SPLM(スーダン人民解放運動)との話し合いは非常に順調だ。暫定政権で様々なサービスを提供できるようになろう。和平合意によると、国家元首選挙、総選挙、州知事選挙などが2009年に行われることになっている。私たち与党国民会議党(NCP)も野党のSPLMも、選挙の準備を着々と進めている。また、選挙の前提となる国勢調査も国連機関の支援を受け、2008年4月15日に実施することが決まった。」

「ダルフール問題は、2つの部族の衝突に端を発しているが、内部的な政治が絡み複雑化した。さらに、隣国のチャドの紛争も関係している。ダルフールの反政府勢力のリーダーは、チャドのデビ大統領と同じ部族ということだ。当初、デビ大統領は彼らを支援してはいなかったが、家族の内部、特に兄弟からの強い圧力を受け、やむを得ず支援するようになった。クーデターの試みのようなこともあって、大統領はこうした行動を強いられた。」


「我々が確信を持って言えるのは、プロパガンダには屈しないということだ。我々はビジネスでも鉱物資源についても協力したいと思っている。我々はいろいろな形で話し合いには参加し、協力的であろうとしている。しかし、我々としても我々の国益があるわけだから、それに沿った形でというふうに思っている。亀裂は確かにあり、それを何とか埋めようと、米国、英国とも対話をしようとしているが、我々に対する否定的な見方はなかなか直すことができないようだ。対話を繰り返すことで、現実的になっていくことができればと思っている。」

「ダルフールに関しては、我々には交渉の用意がある。2006年のアブジャ和平合意に署名はしていないが、国連のビジョンを最大限に取り入れていきたいと思っている。かつて20余りの勢力があったが、今は5つだ。そのうち、3つの勢力は交渉の準備があるというが、残りの2つの勢力は交渉のテーブルにつかないといっている。ハリル・イブラヒムが率いる『正義と平等運動(JEM)』」とアブデルワヒード・ヌールが率いる勢力『スーダン解放運動/戦線(SLM/A)』だ。」

「これまで日本政府からは、直接的な援助も、国連機関を通じての援助ももらっており、非常に感謝している。日本は様々な専門知識、ノウハウをもち、非常にアフリカに関心を持っていることも知っている。東京でのアフリカ開発会議(TICAD)には我々も参加したいと思う。我々は門戸を開放して、日本の投資をぜひ誘致したい。そして、アフリカ全体にも日本が投資してくれることを望んでいる。」

 

「スーダン支援は継続」・・・佐藤大使

「スーダンは9か国と国境を接している。国境のそばに住んでいる人々は同じ部族である場合が多い。同じ部族が迫害されると心情的な支援が与えられる。アフリカの問題が非常に複雑なのは、日本人が考えられない国境線、国境ということから起きている。スーダンは面積で日本の7倍だ。北部はアラブ文化圏で南はアフリカ文化圏だ。東部、南部、西部、北部など言葉の違いもある。多文化の中で統治をするのは大変だ。」

「ダルフール紛争はもともと、農耕を糧とするアフリカ系の人々と牧畜を生業とするアラブ系の人々が水の問題でいさかいを起こしたことに始まるといわれる。いさかいで1人か2人が死んだのだろう。昔は、何か紛争が起きれば、村長(むらおさ)のような者がいて、伝統的な解決方法でその場をうまく収拾した。例えば、人が1人死ねば、お互いに羊か何かを交換して、また平和な生活を何百年、何千年も続けていくというふうにだ。」

「ただ、今回は、こうしや解決力が近代化の中で弱くなり、成功しなかった。さらに政治的な意図を持った人間がこのいさかいを利用したのではないか。また、南北包括和平合意がうまく行く方向になければダルフール問題は起きなかったかもしれない。ダルフールの人々も東の方の人々も、南北和平によって南北だけの政治・社会情勢が確立されるということに懸念を持ったに違いない。紛争という形であれ、何であれ、自分たちの権利も訴えなければいけない、という思いが戦禍を拡大してきたのだろう。」

「私は、この4年半ぐらいの間にダルフールを含めてスーダンを約10回訪問した。ダルフール紛争で20万人が殺され、200万から250万人が難民もしくは国内避難民になっているという数字がある。個人的にはにわかに信じがたい。真実はその中間ぐらいのところにあるのでなはいか。政治指導者が英知を持ってあたれば、南北問題の解決は可能だが、ダルフール問題がそう簡単にいくか、個人的には大変心配している。」

「日本はこれまでに、2005年のノルウェーでのプレッジ会合でスーダン支援のために1億ドルの拠出を約束したが、現実に使ったのは約2億ドルだ。これからも必要に応じて援助し続ける。世界が平和でなければ日本は生きていけない。スーダンの人たちは大変温和で親しみやすい。何か手助けをして彼らがより良い生活を送れるような支援をしたい。」

 

会場との質疑応答

 

――南北包括和平合意では、2011年に南部スーダン側は自らの帰属を問う住民投票を行うことになっている。南側が独立を選択した場合、北側はどうするのか。
ナーフィア:我々はSPLMに対し、パートナーシップを持ち、統一を目標にして交渉を行っている。しかし、南側の人々が分離の決定を出した場合には、我々は嫌ではあるが、尊重をすることは確かだ。
スティーブン・ウォンドゥ駐日大使(会場から進み出て発言):南北包括和平交渉の際、私は反政府軍の一員で、末席で関与していたが、これが成功したのは私たちにリーダーシップがあったのが大きい。軍としての指令体系、政治的な構造もきちんとしていた。ダルフール問題の場合は、どんな協定であっても成功するはずがない。なぜなら、反政府側は様々な組織がそれぞれ別々のアジェンダをもち、リーダーシップも目標もないからだ。政府側には対峙する相手がいないのが現実だ。単に山賊がバラバラにいるという状況ではだめだ。まとまっていれば交渉はできる。
――ダルフール紛争に関し、国際刑事裁判所(ICC)は重大犯罪を犯した政府関係者と民兵組織指導者のスーダン人2人に対して逮捕状を発令したが、これにどう対応するか。
ナーフィア:国際刑事裁判所は加盟国に対してのみ強制力を持っており、スーダンはこのチャーターに加盟していない。ハーグのICCでやっていることは彼らが勝手にやっていることで、我々はそれに対応する責任はない。
――ダルフール地域内におけるスーダン政府軍と民兵組織ジャンジャウィードとの任務、役割は。
ナーフィア:ジャンジャウィードが何者であるのか、明確に分かっていない。政治的に使われている表現だ。暴力を振るって、何でも略奪していくというのが、ダルフール人がいうジャンジャウィードだ。残念ながらアラブ人を指して使われることが多い。アラブと非アラブの間の紛争の火種とするような感じで使われているが、アラブ人だとかマサリート人だとかということでなく、何百年もの間共存してきたわけで、結婚もしているし、アラブ人だけということではない。
――ダルフール紛争の一因として、気候変動や砂漠化、水の問題などがあげられ、環境難民という形でメディアにとりあげられている。気候変動でダルフールのような紛争が起こり、何十万人もが死ぬとなれば世界中で起こりうることだ。人間の力を超えて起こる問題にスーダン政府はどういうガバナンスを考えているか。
ナーフィア:国内避難民が砂漠化のせいだというふうに言ったことはない。紛争のせいで国内避難民になっているわけで、その解決にはやはり部族間の和解が必要だ。完全な和平をダルフールに樹立するには、政治的な合意を反政府勢力との間で達成し、人民のためのセキュリティーを実現することだ

(報告・相原清)

    • 読売新聞社
    • 相原 清
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