CSR白書2020――社員ボランティア、消極派と積極派の分断をつなぐ

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CSR白書2020――社員ボランティア、消極派と積極派の分断をつなぐ

リクルートワークス研究所 主任研究員
中村 天江

1. CSR活動における企業内の「分断」
2. 社員ボランティアに注目すべき4つの理由
(1)ボランティア経験率は会社員が最も少ない
(2)危うい会社人間、強いボランティア
(3)社員の越境学習は、企業にもメリット
3. ボランティアに対する偏見
(1)企業には「制度はあるが風土がない」
(2)トヨタ、日本生命は経営方針
(3)風土なき会社に潜む「レッテル」
(4)社員ボランティアに対する冷ややかな本音
4. ボランティアを行う社員は有望
(1)むしろ「有望な人材」という事実
(2)「無意識のバイアス」が分断を生む
5. 社員ボランティアは、個人・企業・社会「三方良し」

1.CSR活動における企業内の「分断」

テクノロジーデバイドや環境問題、貧困、孤立など、今日の社会課題は複雑で、技術力と資本力のある企業の解決行動に期待が高まっている。かねてよりCSRCSV(共通価値の創造)が標榜されてきたが、2001年の国連によるSDGsの発表や、株式市場でESG投資が活発になるにつれ、社会課題への取り組みを表明する企業は増加する一方だ。いまやCSR推進室やサステナビリティ推進室を設置し、NPOとの協業や社員ボランティアの推進、本業事業を通じた活動を行う企業は珍しくない。

しかし、このような流れとは裏腹に、企業のCSR推進部門は長く、ある難題を解決できずにいる。それは「CSRに積極的な一部の社員と、それ以外の社員の温度差が大きく、CSR活動を社内で一定の範囲以上に広げることができない」という悩みだ。

CSR推進部門だけで実行する施策や、本業事業を通じた取り組みでは、このような悩みは生まれないが、社員ボランティアのように社員の自主性に委ねた活動では、その取り組みに対する社員の温度差が如実に表れる。

実際、筆者らが企業にインタビューをしていても、社会貢献活動積極派のCSR推進部門や本社企画部門とは全く異なる、一般社員の本音に遭遇することがある。ボランティアに対して、「自分とは無縁の活動」というだけでなく、「仕事が暇だから逃げているだけ」といった辛辣な意見を聞くことも少なくないのだ。

そこで、本稿では社員ボランティアをめぐる企業内の分断と、その解決策について論じていきたい。 

2.社員ボランティアに注目すべき4つの理由

(1)ボランティア経験率は会社員が最も少ない

企業のCSRには多種多様な活動があるなかで、筆者が社員ボランティアに注目する理由は4つある。第1に、企業人のなかに「社会の役に立ちたい」と思っていながら、行動に至っていない人が相当数いるからだ。

実は、この30年間で、社会の役に立ちたいと思いながら、ボランティア活動に至らない個人は倍増している。「社会の一員として、何か社会のために役立ちたいと思っている」人は、1986年の47.0%から2016年には65.0%まで増えているにもかかわらず、実際にボランティア活動をしている人の割合は、期間中に多少の上下はあるものの、1986年は25.2%、2016年は26.0%と横ばいのままである(図表1)。

図表1:個人の社会貢献活動

出所:上段 内閣府(19862016)「社会意識に関する世論調査」
  下段 総務省統計局(19862016)「社会生活基本調査」


そのなかでボランティア経験率が最も低いのが会社員である。職業別にボランティア経験率をみると、会社員は12.9%で、派遣社員・契約社員・パート・アルバイトは14.3%と、主婦・主夫20.2%、学生21.9%よりも低いだけでなく、同じように働いている自営業・家族従業者24.1%や医師・弁護士等の資格職22.6%、公務員・団体職員27.1%よりも低い(図表2)。 

図表2:ボランティアの経験率

出所:内閣府(2016)「平成28年度市民の社会貢献に関する実態調査」

今の会社員には潜在的なボランティア活動ニーズが存在するのである。

 
(2)危うい会社人間、強いボランティア

第2の理由は、企業人のキャリア形成において、ボランティア活動が有益な経験となるからである。

図表3は、将来のキャリア展望と所属コミュニティの関係を分析したものである。「キャリア展望」とは、今後のキャリアや人生を「自分で切り開いていける」「明るいと思う」などの合成変数である。長い職業キャリアを充実して過ごせるかは、長寿社会では非常に重要だ。

図表3の結果をみると、キャリア展望が最も低いのは「同じ部署の同僚」のコミュニティだけの人、逆に、キャリア展望が最も高いのは「ボランティア・NPO」のコミュニティに参加している人である。つまり、将来のキャリアの展望は、職場に人間関係が閉じている「会社人間」が最も低く、ボランティア・NPO活動を行っている企業人が最も高いのである。

この違いは次のように説明できる。会社人間は、同じ部署の同じメンバーのなかで、しかも役職という上下関係による意思決定ができる環境で、過去の延長で仕事をしている。一方、ボランティアやNPOでは、自ら新たなコミュニティに飛び込み信頼関係をつくり、お金という判断基準がないなかで、チームで1つのことをなしとげていく。

会社人間とボランティア人材では、不確実な環境における自己効力感に差があり、それが不透明な未来への姿勢の差となって表れるのだろう。 

図表3:所属コミュニティとキャリア展望の関係

注:「キャリア展望」とは、これからのキャリアや人生について「自分で切り開いていける」「前向きに取り組んでいける」「明るいと思う」の合成変数。数字は因子得点。
出所:リクルートワークス研究所(2018)「人生100年時代のライフキャリア」 

(3)社員の越境学習は、企業にもメリット

第3の理由は、社員のボランティア活動は、企業にとってもプラスになるとの研究結果が出てきているからである。

プロボノ(仕事の専門性や経験を活かしたボランティア)活動の前後で、「多様な意見の統合」や「メンバー間の信頼関係の構築」の能力が向上し、プロボノがダイバーシティ・マネジメントの経験になることがわかっている[1]。あるメーカーでは、プロボノ経験後、社員の仕事に対するスタンスが前向きになり、企業に対する忠誠心が高まった[2]

さらに、社外活動を積極的に行っている管理職は、そうでない管理職に比べ、「社外活動が本業に活きる」と考える割合が2割も高く、6割を超えるという調査結果も存在する(図表4)。

ビジネスの不確実性が高まり、柔軟な発想や、変化への適応力がますます求められる今後、社員の社外活動の充実は企業にとってもメリットがあるのである。  

図表4:社外活動が本業に活きるという管理職の認識

 

(注)スピルオーバー:「プライベートでの経験が仕事でも生かされている」等、3項目の平均値を中央値で高群と低群に分割。
 出所:リクルートマネジメントソリューションズ(2018)「RMS Message vol.51」 

(4)自助・公助から、共助社会へのシフト

そして第4の理由は、人口減少と長寿化が進んでいる日本社会では、共助社会への転換が急務であり、ボランティアはそれを体現するものだからである。

日本では人口構造の変化から、社会保障費などの公助をこれ以上拡充することは難しい。かたや、個人のキャリア自律も乏しく、頼るコミュニティもサービスも十分普及していない現状で、長いキャリアの発展を、個人の自助努力だけに期待するのも限界がある。よって、共助の仕組みを健全に整えていくことが必要なのだ。

なかでも、ボランティア活動をしたいと思っていながら、できていない企業人がいるのであれば、その人たちが活動しやすい環境を整備する意義は大きい。個人の選択の自由を広げることになるからだ。

ただし、ここで留意が必要なのは、「社会コストの削減を目的としたボランィアへの負担の転嫁」である。このような行政側の思惑がすける政策は、これまでも強く批判をされてきた。あくまで個人の選択肢を増やし、個人の自由意思を尊重することが重要だ。

このような前提を満たすことができれば、社員ボランティアは、個人・企業・社会「三方良し」を具現化する存在となる。 

3.ボランティアに対する偏見 

(1)企業には「制度はあるが風土がない」

社員ボランティアを推進するうえで、企業の環境は重要だ。経団連の調査によれば、実はすでに8割以上の企業がボランティア支援の何らかの制度を導入している(図表5)。ところが、ボランティア休暇の取得率は極めて低く、「仕事を休めない」「上司・同僚の理解が得られない」「ボランティアどころかPTA活動にも参加できない」という声があちこちから聞かれる。

この状況を大阪ボランティア協会の早瀬昇常務理事は、企業のボランティア支援には3段階「①奨励→②促進→③後援」あるが、日本企業は制度整備という「③後援」から取り組み、職場でボランティアに対する前向きな風土をつくる「①奨励」や、ボランティアに対する心理的なバリアの払拭といった「②促進」が後手になりがちだと説明する。

「制度はあるが風土がない」という状況は、働き方改革やダイバーシティ推進でも往々にしてみられ、日本企業の特質がボランティア支援でも表出しているといえる。だとすると、社員ボランティアを普及する鍵は、企業の風土づくりということになる。 

図表5:ボランティア支援制度の導入率(複数回答)

出所:日本経済団体連合会(2014)「2014年度社会貢献活動実績調査結果」

 
(2)トヨタ、日本生命は経営方針

実際に社員のボランティア活動率が高い企業をみると、企業内の風土醸成に取り組んでいることがわかる。

トヨタ自動車は、創業80周年だった2017年度、全社員の約6割、4.5万人がボランティア活動を行った。3割だったボランティア活動率が3年間で倍増したのだ。多忙な社員も参加できる簡易なボランティア・プログラムを開発し、社外での活動をポイント換算し会社から寄付するなどの施策を社員にメールで周知したそうだ。

日本生命も、3年連続で約7万人がボランティア活動に参加している。日本生命ではボランティア活動を人材育成方針の一環と位置付け、ホームページにも掲げている。役員が積極的にボランティア活動を行い、各拠点の取り組みをメールで全社に紹介している。

この2社に共通するのは、社員ボランティアの推進がCSRなどの担当部門に閉じておらず、経営として推進していることだ。単に制度を整えるだけでなく、経営から「ボランティア活動を行うことは善きこと」というメッセージが発信されていれば、現場の社員は同僚の目を気にせず活動に参加できる[3]。 

(3)風土なき会社に潜む「レッテル」

一方、社員のボランティア活動を支援する制度はあるにもかかわらず、現場の社員が参加しにくいと感じている企業では、上司や同僚が気になって「参加できない」「活動していることを内緒にしている」といったコメントが聞かれる[4]

つまり、企業内には、制度があったとしても、ボランティア活動を行いたい社員と、ボランティア活動を評価しない上司・同僚の間に、ボランティア活動に対する価値観のギャップが存在するのである。消極派のステレオタイプな偏見を払拭し、価値観のギャップを解消することこそ、職場の風土醸成の要となる。

実際、先行研究でも、「企業ボランティアへの取り組みが、仮に制度的に整い、十分な情報提供がされていたとしても、社員にとって、先に挙げたボランティアに参加したがために貼られる『暇な人というレッテルへの懸念』や『メリットが社内に共有されていないために生じるハードルの高さ』など風土や文化的な影響で、参加に至っていない場合がある」、「禁欲的な活動のイメージからの解放」や「イメージや情報のバリアを解消して参加しやすい環境整備を進める」必要があるとの指摘がなされてきた[5][6]

先のトヨタ自動車や日本生命は、経営方針としてトップダウンで風土を醸成している。しかし、多くの企業では、ここまでの取り組みはなされておらず、CSR推進部門やボランティア活動を行いたい一握りの社員の行動力にかかっているのが実態だ。

 

(4)社員ボランティアに対する冷ややかな本音

いまや、ボランティアの力なく、震災や豪雨などの危機は乗り越えられない。行方不明男児を発見した捜索ボランティアの男性がスーパーボランティアとして脚光を浴び、芸能人のボランティア活動が話題になることもある。

ボランティア活動に意味を見出している人にとっては、このようにボランティア活動は有益で発展性が大いにある。だが、それが多数派ではないから、「社会の役に立ちたい」人は増えているのに、企業は支援制度を整備してきたのに、ボランティア経験率は増えていないのである。ボランティア積極派と消極派の間には、残念ながら、深い溝が存在しているのだ。

では、消極派はボランティア活動をどのように見ているのか。筆者が実際に企業で聞いたコメントをあげてみたい。
 

「ボランティアは意識高い人がやるもの」

「ボランティアは素晴らしいと思うけど、自分にはちょっと」

「子育てで忙しくてボランティアどころではない」

「ボランティアなんて暇な社員がやっているんだろうと考えている役員もいる」

「会社がいやでたまらなくてボランティアに逃げ出している」

「ボランティアをしているのは仕事が忙しくなくて、優秀ではない人たち」
 

前半の3つは、禁欲的な慈善活動のイメージや、時間的な制約が阻害要因になっていると指摘するものだ。しかし、後半の3つは、ボランティア活動を行う社員に対して、企業人として低評価を下したものになっている。このような上司がいる職場で、部下がボランティア活動を積極的に行うのは容易ではない。

ボランティア積極派にはにわかには信じられないかもしれないが、企業のボランティア消極派のなかには、こういった本音が厳然と存在する。なぜなら、同じような趣旨のコメントを、いくつもの企業でCSR部門から遠い事業現場の方からは、繰り返し聞くからだ。

はたして社員ボランティアに対するこの評価は妥当なのだろうか。もしこれが偏見だとしたら、どうすればその偏見を払拭できるのだろうか。  

4.ボランティアを行う社員は有望

(1)むしろ「有望な人材」という事実

そこで筆者らは、 日本財団ボランティアサポートセンターが行った調査のデータを用い、社員ボランティアに対する「仕事ができないヒマな社員がやるもの」「会社で評価されないからボランティアに逃げている」というレッテルが本当に正しいのか検証した[7]

その結果、明らかになったのは、そのようなレッテルは偏見の可能性が高いということだった。

ボランティア活動を行っている社員はそうでない社員と比べ、労働時間は短くない。 さらに、自己効力感やボランティア活動が仕事に活きると考えている割合が高く、組織に対する愛着も強い。企業によっては、ボランティアを行っている社員のほうが、むしろワークエンゲージメントが高く、人事評価も平均より良い。

ここから浮かび上がるのは、ボランティア活動を行っている社員がいまひとつなのではなく、高いポテンシャルを持った人材を、上司や同僚が過小評価しているという事態だ。複数の先行研究が、ボランティア経験を通じた能力開発や本業へのメリットを指摘していることを考えれば、「仕事ができない」「仕事がヒマ」という評価のほうが不適切であってもおかしくない。 

(2)「無意識のバイアス」が分断を生む

なぜポテンシャルのある人材を過小評価してしまうのだろうか。それは、心理学の「無意識のバイアス(unconscious bias)」によって説明できる。

無意識のバイアスとは、「男性は女性より仕事ができる」「年をとると能力は低下する」 「育児中の女性は働きたがらない」 といった決めつけや思い込みのことだ。近年、さまざまな場面で、アンコンシャス・バイアスの問題が露呈しているため、ダイバーシティ研修などでは、悪気がなくてもアンコンシャス・バイアスが存在し、個人の選択や組織の人材マネジメントに負の影響を与えることを学ぶようになっている。

おそらく、これと同じことが、社員ボランティアでも起きている。ボランティア活動を行ったことがなく、意味がないと思っている人が、ボランティアを行う社員の意欲やポテンシャルを理解できていないのだ。

5.社員ボランティアは、個人・企業・社会「三方良し」

 企業を取り巻く環境は変化の連続だ。デジタライゼーションやグローバリゼーションといった変化に適応し、新たな社会的な事業を生み出していかなければならない。社員に求められているのは、過去の成功体験をひきずることではなく、変化の兆しを察知し、新たな協業者と手を組み、イノベーションを起こしていくことだ。

そのような変化を牽引するのに、ボランティア活動を行う社員の情報感度や問題解決への意欲、行動力は大いに役立つだろう。ある企業の人事は、社員ボランティアの分析結果に対して、「人事がこれまでに把握していなかった、ポテンシャルのある光る人材を発見した気分です。今後、彼らに任せる役割など考える余地があると思いました」と述べている。

ボランティアは一般に利他的な活動と考えられている。しかし、社員ボランティアは、個人・企業・社会の「三方良し」の活動である。社員ボランティアを広げていくには、積極派の目には見えない、消極派の「無意識のバイアス」を払拭し、企業全体でボランティアに前向きな風土を醸成していくことが肝要である。

 

 

[1] 石山恒貴(2018)『越境的学習のメカニズム実践共同体を往還しキャリア構築するナレッジ・ブローカーの実像』福村出版

[2] 藤澤理恵(2015)「『Panasonic NPOサポート プロボノ プログラム』参加者への調査からのご報告」

https://www.panasonic.com/jp/corporate/sustainability/citizenship/pnsf/npo_summary/2017_rmreport_01.html20201013日)

[3] トヨタ自動車、日本生命の取り組みは、リクルートワークス研究所(2019)『個人のキャリアを豊かにする企業の社会貢献活動 社員ボランティア2020をレガシーに』から抜粋。

[4] 労働政策研究・研修機構(2019)『生涯現役を見据えたパラレルキャリアと社会貢献活動 ―企業人の座談会(ヒアリング調査)から―』

[5] 小林智穂子(2016)『社員による企業ボランティア参加に関する現状と課題』全労済協会

[6] 社会福祉法人大阪ボランティア協会編(2011)『テキスト市民活動論 ボランティア・NPOの実践から学ぶ』 大阪ボランティア協会

[7] 分析に用いたデータは、日本財団ボランティアサポートセンター(2019)「東京2020オリンピック・パラリンピックにおける社員ボランティア<大会前>調査」。東京2020オリンピック・パラリンピックで大会ボランティアをする予定の社員と予定のない社員のデータを比較した。分析は、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所主任研究員藤澤理恵と共同で行った。




『CSR白書2020 ――社員ボランティア、消極派と積極派の分断をつなぐ』
(東京財団政策研究所、2020)pp. 102-111より転載

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中村 天江

  • リクルートワークス研究所 主任研究員