第6回 現代アメリカ研究会報告 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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第6回 現代アメリカ研究会報告

January 9, 2008

1 第六回研究会の目的

第六回研究会が、12月20日に開催された。第六回研究会のテーマは、2006年中間選挙以降の第110議会の現状および特質と、2008年大統領選挙における主要候補者の選対本部や選挙アドバイザーの概要についてであり、客員講師の方(一名)および、本プロジェクト研究メンバーの久保文明氏、足立正彦氏によって、報告が行われた。

周知のように、イラク戦争の泥沼化もあり、2006年の中間選挙において、民主党は12年ぶりに両院で多数を占めるという、大勝利を収めた。では、大統領職を依然として共和党のブッシュが務める、いわゆる「分割政府」状況の中で、民主党多数派議会の議会運営や立法活動はどのように展開しているのだろうか。また、現在2008年大統領選に向けた予備選挙が行われているが、両党の候補者たちは、これまで議会において、どのような立法活動を行ってきたのだろうか。さらに、民主、共和両党の主要候補者たちは、きたる大統領選挙に向けて、どのような選対本部を創設し、また政策アドバイザーにどのような人物を起用しているのだろうか。その布陣は、今後の政権やその政策それ自体を占う上でもきわめて重要であるが、各候補者の人事面での特徴とは何か。

第六回研究会では、以上のような、現在行われている2008年大統領選挙の帰趨を考える上で極めて重要な諸問題について、包括的な検討が行われた。

2 第一報告「110議会の現状:2008年選挙を視野に」(客員講師の方による報告)

まず客員講師の方により、「110議会の現状:2008年選挙を視野に」と題された報告が行われた。報告は、民主党が両院で多数派を占める第110議会の現状と特質について概観するとともに、2008年大統領選挙に出馬している候補者たちの立法活動を検証し、さらに大統領選と同時に行われる議会選挙の動向について展望するものだった。

まず、110議会第一会期の特質について、?イラク戦費と撤退期限をめぐる攻防の激化、?行政監視の活発化、?ブッシュ大統領による拒否権の行使、あるいは行使するとの脅しの増加、という三点から、分析が行われた。第一の点は、新たに両院で多数派を獲得した民主党が、イラク戦費の承認問題と絡めながら、イラクからの撤退期限を明確化するように求め、ブッシュ政権と激しく対立してきた点をさしている。また第二の点は、110議会において、常任委員会の行政監視小委員会の数が増加している(合計14)点に象徴されるように、行政監視活動が活発化している点をさす。とりわけ、イラク関係の行政監視のための公聴会数は、倍増している。第三の点は、109議会までは少なかった、ブッシュ大統領による拒否権の行使が急増しており、また行使するとの脅しも増加している点をさす。実際、ブッシュ大統領の拒否権行使数は、2001年から2006年まではたった1件だったにもかかわらず、今議会では既に5件にも昇っており、現在審議されている2008年度歳出法案の多くについても、拒否権を行使するという脅しをかけている。

では次に、110議会において、新たに多数党となり、攻勢を強める民主党は、具体的にどのような政策を掲げ、また、それはどの程度実現にいたったのだろうか。下院民主党は、2006年中間選挙に際して主に六つの法案からなる、”Six for ‘06”と呼ばれる公約を発表している。ナンシー・ペロシ下院議長らは、これらの法案を最初の100時間で可決するとしていたが、その結果は以下のようになった。まず、9.11委員会勧告の実行(HR1)、最低賃金引上げ(HR2)、代替エネルギー(HR6)などに関する法案は、成立にこぎつけた。しかし、ES細胞研究の強化(HR3)は、両院を通過したものの、ブッシュ大統領の拒否権により不成立に終わった。他方、メディケア処方箋薬価規制の強化法案(HR4)、大学生学費ローン利子法案(HR5)などは、下院のみを通過するにとどまった。その他、Pay as you go rule法案や、ロビー規制法案も成立した。ブッシュ大統領が強く支持していた移民規制改革法案は、上院で共和党保守派を中心としたフィリバスターに直面し、また、子供向けの医療保険に対する補助金の増額法案は、ブッシュ大統領が拒否権を行使したことによって、いずれも不成立に終わった。また、現在審議されている多くの歳出予算法案も、ブッシュ大統領による拒否権行使の脅しを受けている。

全体として、110議会における民主党、とりわけ指導部の議会運営や立法活動は、どのように評価することが可能だろうか。たしかに、これまでの政治過程においては、主にブッシュ大統領が政策アジェンダを決定してきたのに対して、今議会以降は、むしろ民主党側が、より積極的なアジェンダ設定を行っているといえる。しかし、民主党の公約(マニフェスト)は、有権者の間ではあまり認知されておらず、また内向きであるため、1994年の中間選挙の際に共和党側が提出した「アメリカとの契約」に比べると、インパクトに欠ける点は否めない。また民主党指導部の議会運営についても、議席差が少ないこともあり、党派的な議会運営が継続されており(当初は党派性を排除し、より開放的な議事運営を行うと公約していた)、また閉鎖的な議事進行規則が多用される傾向にある。さらに、上院(リード)と下院(ペロシ)の間の意思疎通が不十分であるため、両院の民主党指導部間の連携関係が欠如している。加えて、ペロシ議長は、重要法案の作成にあたって、委員会ではなくタスクフォースを多用する傾向にあり、また人事面で、年功による常任委員長の選任を行うなど、年功序列主義に逆戻りしている点も見逃せない。共和党が両院で多数派を握った104議会(1995年から96年)と比較すると、党派的な議会運営や重要法案作成におけるタスクフォースの多用などの点では共通点がある一方で、審議日数・審議時間が増大している点、行政監視に力点が置かれている点、上院でクローチャーが多用されている点などの点で、かなり異なっている。共和党側は、この閉鎖的な議事進行などの点について激しく反発しており、民主党の議会運営は横暴であると主張している。

現在、大統領選挙に向けて、候補者の間で活発な論戦が繰り広げられている。では大統領選候補、とりわけ民主党候補者は、議会でどのような活動を行ってきたのだろうか。クリントン、オバマ、エドワーズなど主要候補者は、いずれも上院議員として同じ厚生労働委員会に所属してきた。しかし、法案提出数という点からみると、ヒラリーが圧倒的に多く、上院でトップ10に入るほど、多数の法案を提出している。彼女は、所属委員会以外の所管事項に関する法案も提出しており、これは、ヒラリーに頼って法案提出を求める団体が多数存在することを意味している。これに対して、最も法案提出数の少ないのがエドワーズであるが、厚生労働関係の問題には力を入れており、たとえば「患者の権利」法案については、その成立に大きな力を注いだ。

最後に、2008年大統領選挙とともに行われる議会選挙の帰趨については、どのような展望が可能だろうか。2008年の議会選挙では、上院における改選議席数については、共和党が22、民主党は12であり、上院の引退議員も、共和党については現時点で5人も存在する(民主党はゼロ)。こうした点からみると、民主党が相対的に有利である点は否めず、非常にうまくいけば、民主党の上院での獲得議席数は、フィリバスターを回避するに足る60に到達するかもしれない。その結果、上院が「法案の墓場」であることをやめる可能性もあろう。しかし、民主党にとって、楽観的なニュースばかりではない。議会の仕事ぶりをどの程度支持するか、という点についての世論調査結果をみると、民主党が勝利を収めた2006年以降も、その支持率は下がり続けている。すなわち、ブッシュ大統領の支持率だけでなく、民主党多数議会に対する支持率も同様に低下しているのであり、こうした点を考慮すれば、今回の議会選挙の戦いも、民主党にとっては決して楽観を許さないものといえるだろう。

3 第二報告「2008年米国大統領選挙主要候補者の選対本部・政策アドバイザーについて」(久保文明氏、足立正彦氏)

続いて足立・久保両氏が、「2008年米国大統領選挙主要候補者の選対本部・政策アドバイザーについて」と題された報告を行った。報告は、2008年大統領選挙に向けて、民主、共和両党の主要な候補者たちが、どのような選対本部を構え、またいかなる人物を政策アドバイザーに起用しているのか、という点について、詳細に分析したものだった。

まず、民主党であるが、やはりヒラリー・クリントンのスタッフが、量・質とともに強力な点が目を引く。その選対本部は、全体として、ホワイトハウス時代からの、15年来の仲間たちのネットワークを中心に構成されている。2006年の中間選挙に貢献した、Chuck Schumer上院議員に近いスタッフも選対本部に参画しており、その布陣は、民主党の二大パワーセンターである、ニューヨークとシカゴのハイブリッドという様相を帯びている。選対本部長には、ヒラリーと馬の合う側近中の側近、Patti Solis Doyleが、副本部長には、現在民主党が特に重視するバージニア州で活動してきた、Mike Henryが起用されている。また、政策アドバイザーとしては、外交・国家安全保障政策については、Madeleine K. Albright, William J. Perry, Richard C. Holbrooke, Sandy R. Bergerなど、民主党外交政策のエスタブリッシュメントである有力者が集結している。全体として、イラク反戦派とは、一定の距離を置いた布陣となっている。これに対して、経済政策についても、Robert E. Rubin, Lawrence H. Summers, Roger C. Altman, Gene B. Sperlingなど、ビル・クリントン政権八年間の経済政策を支えた、民主党エスタブリッシュメントの有力者が集結している。ただし、ゲッパートなど保護主義者も入っており、この点の調整が課題といえる。

他方、バラク・オバマであるが、選対本部には、自らの上院議員スタッフのほかに、Tom DascheleやGephartといった民主党元議会指導者の元スタッフや、アメリカ進歩センター(CAP)関係者が参画している。Julianna Smoot, Denis McDonough, David Plouffe, Cassandra Q. Butts, Bill Burtonなどがこれにあたる。また顧問には、ビジネス界との橋渡し役として、2000年ゴアの選対本部長だったWilliam M. Daleyが就任した。他方、政策アドバイザーについてであるが、外交政策担当アドバイザーについては、対外的に積極的な関与を行うという点では、ヒラリー陣営のそれと類似しているが、同時に、対イラク武力行使に対して早い段階で批判を展開した人物が目立つのが特徴といえる。また経済政策については、クリントン政権の自由貿易主義的政策、ビジネス・フレンドリーな政策を支持する経済アドバイザーを、多数起用している。

続いて、ジョン・エドワーズであるが、全米選挙キャンペーン組織は、ヒラリーやオバマと比較すると小規模であるが、2002年から既に6年間、継続的に大統領キャンペーンを展開してきた実績がある。また、2004年大統領選挙で、ハワード・ディーンの選対本部の中核スタッフを務めていた人間が多数参画しているのも、特徴的である。選対本部長には、民主党左派であり、労組と強固なパイプを持つDavid Bonior民主党元下院院内幹事が就任するなど、2004年と比較して、保護主義的な色彩がより前面に出ている。実際エドワーズ陣営は、党内左派や労組勢力を意識し、反自由主義、イラク撤退に焦点を当てた選挙キャンペーンを展開している。2004年のディーンと同じく、オンライン・コミュニケーションの面では、他の候補者と比較して、最も充実している。

これに対して共和党であるが、ルドルフ・ジュリアーニについては、その選対本部関係者の多くは、Anthony Carbonetti, Sunny Mindel, Chris Henickなど、ニューヨーク市長時代のスタッフやGiuliani Partners関係者によって構成されている。政策アドバイザーや政策スタッフは、Bill Simonが評議員を務める、ヘリテージ財団やフーバー研究所等の保守系シンクタンクから召集されており、全体として、内政面では穏健派的な色彩が強い一方で、外交面ではタカ派が集結している。とりわけ、外交政策アドバイザーには、新保守主義者(ネオコン)が、すなわち、米国の対イスラエル支援、スンニ派アラブ諸国との関係見直し、対イラク武力行使支持、米国イラク駐留継続支持、イスラム過激派との戦い、対イラン強硬策を支持する勢力が、多数起用されている。Norman Podhoretz, David J. Frumなどがそれである。これに対して、元マサチューセッツ州知事のミット・ロムニーであるが、そのスタッフは、州知事時代の側近で固められている。たとえば、選対本部長には、マサチューセッツ州知事元首席補佐官のbeth Myersが就任し、政策担当委員長には、財政保守派を意識するかたちで、財政規律政策諮問グループの委員を兼務するVin Weberが起用されている。

他方、ジョン・マッケインであるが、選対本部長には、2007年7月に、2004年にブッシュ陣営の政治担当ディレクターであったTerry Nelsonが事実上解任されている。彼の政策アドバイザーの特徴としては、マッケインが次期米国大統領として最も優れた資質をもつとして、共和党の外交政策エスタブリッシュメントが集結している点を指摘できる。たとえば、George P. Shultz, Henry A. Kssinger, Alexander M. Haig Jr., Lawrence S. Eagleburger, など有名な元国務長官メンバーが、そろってマッケインへの支持を表明しているのである。他方で、著名な新保守主義者である、「ウィークリー・スタンダード」編集長のRobert Kaganもスタッフとして参加しており、エスタブリッシュメントとネオコンという肌合いの異なるメンバーが、同時に参加している側面を見られる。その他、経済政策では、元上院議員の”Phil” Grammなどが参加している点が目を引く。

最後に、現在宗教右派を中心に支持を集めるマイク・ハッカビーであるが、1996年から約十年間アーカンソー州知事を務めていたこともあり、その選対本部のスタッフ人事には、南部の共和党人脈や、全米州知事会長、南部州知事会長当時の人脈が色濃く反映されている。また特徴的なのは、その選対本部が、キリスト教保守派のネットワークを活用して、ボランティア中心の占拠キャンペーンを展開している点である。いうまでもなく、ハッカビーは、宗教右派指導者の間で、支持が厚い。彼は、著名な宗教者であった故Jerry Falwerll牧師のジュニアや、有名なキリスト教指導者のTim LaHayeなどの支持を獲得し、また自ら全米のキリスト教・社会的保守派を糾合するために、30名の宗教指導者からなるFaith and family Value Coalitionと名づけられた組織を結成している。これに対して、ジュリアーニはクリスチャン・コアリションの創設者であるPat Robertsonの、フレッド・トンプソンはプロ・ライフ派最大の団体である全米生命権利委員会会長のWanda Franzの, そしてロムニーはPaul Weyrichの支持などを、それぞれ獲得している。

4 質疑応答

報告後、参加者との間で、質疑応答が行われた。

客員講師の方の報告については、ナンシー・ペロシは、民主党の中でもリベラル左派に属しているが、そのイデオロギーは議会運営にどのような影響を及ぼしているのか、2006年の中間選挙では、ブルードッグスやニュー・デモクラット・コアリションなどの党内穏健派が勢力を拡大したが、ペロシらはこれら勢力に配慮した議会運営を行っているのか、逆に、これら党内穏健派勢力からペロシらへ批判の声はあがってはいないのか、2006年中間選挙では、全米ライフル協会、中小企業団体、宗教右派などの保守勢力が、一部の若手民主党議員を支持したとされるが、そのような議員は民主党内にどの程度存在するのか、今後、全米自営業者連合(National Federation of Independent Business)など、共和党の主要な支持団体が民主党を支持する可能性はあるのか、今後イラク情勢が好転し、内政問題に争点が移行するとすれば、民主党はどのような動きを見せるのか、といった質問がなされた。

これに対して、久保氏、足立氏の報告については、現在地球温暖化問題などの環境問題が浮上し、今後洞爺湖サミットなどを経て、さらにクローズアップされる可能性があるが、ヒラリーは環境政策関連のアドバイザーを起用するのか、他の候補者はどうなのか、環境政策系のシンクタンクは、具体的に2008年大統領選挙に向けて、いかなる動きを見せているのか、サブプライム・ローン問題が悪化し、今後経済不況がさらに深刻化するとすれば、経済政策をめぐる各候補者の動向は大きく変化するのではないか、それは大統領選にいかなる影響を及ぼすのか、ハッカビーはどの程度まで善戦するのか、彼が脱落した場合その票はどこへ行くのか、福音主義者たちは、今後どのような動きを見せるのか、エタノールなどの新産業への投資をめぐる問題も、今後重要となるのではないか、といった質問がなされた。
文責:天野 拓

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    • 天野 拓
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