2010年11月10日 現代アメリカ研究会報告 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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2010年11月10日 現代アメリカ研究会報告

December 3, 2010

報告者:清原聖子(明治大学情報コミュニケーション学部専任講師)
テーマ:アメリカにおけるインターネット選挙キャンペーンを支える文脈要因の分析

本報告では、日米韓の現代の選挙キャンペーンを比較し、なぜアメリカでは、選挙キャンペーンのスタイルがネットを駆使したものになっているのか?という点に着目した。その上で、近年のアメリカの選挙におけるメディアの役割・意味について、明快に論じた。
アメリカでは、ネットを積極的に活用するインセンティブが候補者側に制度的に内在している。つまり、政党ではなく候補者個人で戦う必要のある予備選挙制度の存在と、莫大な選挙資金を動かすために必要なコンサルタントの存在である。そうした土壌の中で、2004年から2008年にかけて、アメリカではめまぐるしいほどの情報通信技術の発達とメディア構造の変化が生じた。ブロードバンド・アクセスの著しい増加や、携帯電話加入者の増大、AT&Tのデータサービス収入増加、そしてテキストメッセージの利用などである。加えて、TV広告の重要性が低下し、政治ニュースを新聞やテレビニュースからではなく、ネットで入手するなど、メディアの多様化も進んだ。また、ソーシャルメディアの台頭に見られるように、メディアの多層化が進展し、伝達経路が多様化している。このように、アメリカの制度的特徴とメディアの変化が、2008年をネット活用による選挙の分岐点にしたといえるだろう。ただ、注意しなければならないのは、2008年選挙でソーシャルメディアを有効活用していたのは民主党であったが、2010年選挙では、共和党もまた有効にそれを利用するようになった、ということである。

報告者:前嶋和弘(文教大学人間科学部人間科学科准教授)
テーマ:ソーシャルメディアとアメリカ政治:2010年選挙とオバマ政権

本報告では、ソーシャルメディア(インターネット上で双方向のやり取りができるアプリケーションのこと。マスメディアとパーソナルメディアの中間的存在)に着目し、2010年選挙とオバマ政権を明快に論じた。
ソーシャルメディアには、二つの見解がある。ソーシャルメディアは変革をもたらす政治動員をするものなのか(変化仮説)、それとも、既存の政治構造を強化するものなのか(正常化仮説)。以上の視点に立って、アメリカ政治を分析する。
2008年選挙では、ソーシャルネットワークでは民主党優位とされていた。しかし、2010年選挙では、ティーパーティ運動のように、共和党の人々もソーシャルメディアを使うようになった。たとえば2009年9月のティーパーティ集会初参加者が集会を知った情報源がフェイスブック・マイスペースやツイッターであったように、ソーシャルメディアの運動がオフラインの選挙活動の充実へとつながる現象も生じた。
このようなソーシャルメディアは、選挙をどのように変えたのか。候補者にとっては、選挙戦術・運動の高度化と効率化、地上戦と空中戦との連携、運動の全国区化などといった変化が生じた。政治参加という点からは、双方向性のメディアであるため、政治的有効性感覚の潜在的な増加が指摘できる。そしてまた、リベラルか保守のどちらに向いているメディアなのかというよりも、大衆の「怒り」を動員しやすいメディアと考えられるかもしれない。この意味において、「変化仮説」が当てはまるのかもしれない。

質疑応答

Q:SMSは世代間ギャップがあり、シニア層は使わないというのが従来の状況だった。しかし今では、シニアも使うようになった。また個人間のつながりを重視する人たちもフェイスブックを使うようになったのは、興味深い。そこで質問?共和党もネットを選挙運動に積極的に使うようになったとあるが、選挙陣営・全国当委員会がトップダウンでインフラを整備したのか、それとも、下からの自発的な、ツールの利用のモチベーションが高まったためだったのか。次に、?ネガティブキャンペーンの影響についてだが、なりすましがいくらでもでき、一般人だけでなく対立候補陣営が用いることができる。一般人と関係者との差異はどうなっているのか。最後に、?予備選・党員集会において、ツイッターなどで他の党員集会の参加者とやりとりができてしまう点は問題なのか。
A:?どちらもある。トップダウンとボトムアップの双方が複雑に絡み合っている。?情報が伝達されていくので、双方の違いを見出すことができず、非常に難しい。?アメリカでは表現の自由がとても重視されている。そのため、問題になりにくいだろう。
A:?ティーパーティもNRCCも自発的に利用しようとしていたことは間違いない。


Q:?フリースピーチの問題、つまり、アメリカにおいては、言論の自由と言うことから、最高裁がかなりの程度、認める現状がある。ゆえに、規制することには非常に消極的である。逆に、日本ではどのように最高裁は判断するのだろうか??アメリカの選挙では、第三者の支援がよく行われているが、法律上、彼らは候補者陣営と相談をしてはいけない。日本ではこういった第三者支援はどうか。?予備選挙制度が候補者中心の選挙制度を構築しているのでイノベーションを生み出す、というのはその通り。推測で構わないが、どちらの政党・層が向いてるのだろうか?
A:?第三者の活動は認めないというのが、日本の状況だろう。?高学歴の人の方が使いやすいので、民主党若者が最初は使いやすい。が、候補者が情報通信に関心が高いかどうかもまた重要かもしれない。価値観的には、対抗勢力・野党が用いられやすいので、交互に使われるのでは。韓国でも野党のほうが積極的に用いている。
A:?・?日本の議論では、ソーシャルメディアを使うとおカネが減り、それとともに有権者への情報が減ると言われている。このように、選挙への規制と言うより、お金と有権者との関係に軸を置いた議論である。?軸がお金と有権者との関係にあるので、第三者はあり得ないというのが現状だろう。?ケースバイケースといえる。ポピュリスト的なほうに有利。つまり反対勢力・野党に有利。反対の声を吸い上げるのに有利。

Q:?どの割合で、選挙費用に占めるソーシャルメディア費用が伸びているのか。どの部分でおカネがかかっているのか。おそらく、人件費やマーケティングだろうが。
A:選挙資金は、メディアに約七割。やはり人件費は多いし、選挙産業も積極的に関わってきている。
A:有権者の要望に直接答えられるというメリットは、人件費と言うデメリットを上回る、という下院議員候補の話があった。ソーシャルメディア専門のスタッフを雇うなど。

Q:?ネットは政治参加の敷居を低くする。小波を吸い上げ大きくする効果があるように思えるが、どうかろうか。?現時点でネットを用いた政策運営はどう評価できるか。
A:?波を救いあげ大波にしていく流れが今、強くなってきている。ちょっとした呟きが一気に大きくなり、他のブログ、ネットニュース、果てはテレビ等へと広がる。?いろいろやっているのは確かなのだが、寄せられた政策案については、量が多くて大変で、また、イデオロギー的に偏ったものも多い。まだまだ前途多難だろう。
A:?ネットは確かにそのような、増幅させる機能がある。だが、今回の選挙においては、そうとも言えない。?FCCについては、上手くいっていると思う。

Q:?どういう人たちがソーシャルメディアを使えていない・関われていないのか。?また、効果はどのようなものがあるのか。
A:?29歳までが圧倒的に使っている。当然、過疎地は使えないところが多く、逆に、ブロードバンド環境の良い都市部などは確かに有利。?また、効果については、投票行動よりも、選挙資金集めにとって重要である。
A:?年齢の上の層は使っていないのだが、だからこそ参謀はそこを狙うだろう。メディアは投票行動結果にどれほど影響があるかという議論は昔からある。?効果については、補強効果と広く理解されているが、これもその流れにあるだろう。

Q:デジタルディバイド的なものはまだ残っているのか。あまりないのか。
A:iPhoneは高価であるし、カネの問題は依然多く存在する。
A:そういった言葉はもうあまり使われていない。だいぶ状況は変わってきている。

Q:?アメリカではテレビCMが減っていくのか。それとも、信頼度や多数への送信と言う意味で生き残るのか。?ユーチューブのようなものがテレビに出るのが日本では抵抗感があるが、アメリカではどうなのか。
A:?実際には、ネット広告へ流れるお金は多くなく、やはりテレビ広告が多い。お金集めにはネットはいいが、テレビ広告はまだ使われる対象としては強い。?2007年の討論会でCNNとyoutubeが協力するなど、むしろテレビがうまく利用していた。
A:?いかにソーシャルメディアを取り込んで生き残るかがメディアの勝負。?当分はなくならないだろう。空中戦・地上戦・ソーシャルメディアを用いたことが必要だろう。

Q:いずれ選挙も、個人個人を対象にした、マイクロ・ターゲティングによるものになるのではないか(Googleによる様々な情報管理)。情報売買もあるだろう。
A:確かに、情報が一点に集約しているところが強いだろう。
A:その通り。マイクロ・ターゲティングが増えるだろう。

Q:日本の50~60代の、若い方の議員はどのように見ているのか。
A:アメリカ型のものを取り入れるビジョンはあったが、なり済ましなどが色々と問題や懸念があって規模が小さくなってしまった経緯がある。
A:空中戦という考えはあまりないようだ。費用を安く、有権者に情報を、というように、金と有権者の関係ばかりを重視していたようだ。

■報告:石川葉菜(東京大学法学政治学研究科博士課程)

    • 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程
    • 石川 葉菜
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