論考「現代世界政治の発展趨勢と中国の国際的役割」

東京財団客員研究員
北京大学国際関係学院院長
王緝思

改革開放30年以来、中国と国際政治経済は密接な関係を持つようになった。今日、世界政治の行方を判断するに際し、中国の実力とその世界的役割についての評価が欠かせない。同時に、中国の発展方向を判断する場合にも、中国が置かれている国際環境や世界政治の動向と構造変化を研究しないわけにはいかない。そこで筆者は、現代世界政治の特徴および発展趨勢と中国が世界で果たすべき役割について、4つの方面から意見を述べたいと思う。

1.経済のグローバル化

(1)グローバル化の影響

現代世界政治の一つ目の特徴は、経済のグローバル化がもたらすマイナスの影響が日に日に表面化し、非伝統的安全保障問題と不均衡発展という現象が目立ちつつあることだ。

冷戦終結後、経済のグローバル化は加速度的に発展し、それが多くの国家や地域の繁栄、技術の進歩、情報の流通、人の流動を促し、そして政府の透明性を高めてきた。また、各国間の経済協力が戦争のリスクを減少させ、政治的衝突の敷居を高くしてきた。しかし、経済のグローバル化がもたらしたマイナスの影響が、近年徐々に明らかになってきている。経済成長と物質的財産の増加に伴って現れたのは、エネルギーや天然資源のハイスピードな消耗、地球生態環境に対する破壊、富の集中と格差の拡大、そして資本と人的資源の加速的流通がもたらした、より複雑化した社会の矛盾である。金融危機、食料不足、エネルギー問題、環境汚染、気候の変化、不法移民、国際犯罪、テロ、伝染病、製品安全など、多くの新たな安全保障問題が世界政治の議論の中心となっている。

アメリカにおけるサブプライムローン問題の深刻化が引き金となった今回の世界的金融危機は、各国内での厳格かつ有効な管理監督制度と国際面での調和制度が欠落している状況下において、経済のグローバル化がもたらした弊害を露呈させた。今回の危機は金融と経済の領域で生じたが、それは必然的に政治その他の領域に蔓延し、利益分配のバランスを一層崩し、いくつかの国では社会矛盾が激化するだろう。

国際経済や社会発展の不均衡は、こうした新しい安全保障問題と領土主権を中心とする伝統的安全保障問題を交錯させ、各国の社会安定に対する打撃となり、国際政治における衝突要因を増加させることになった。たとえば、人々は、エネルギー、食料、水資源の不足を心配するようになり、領土争奪という「一度は冷たくなった灰」に再び火を入れることになった。いくつかの研究によると、冷戦後の世界において、武力衝突は社会経済発展が相対的に遅れているサブサハラ、中東、南アジア、東南アジアに集中しており、その大多数が国内衝突であって、国内衝突がまた国際衝突と地域情勢の不安定を引き起こしているという。現在の世界金融危機の影響が実体経済にまで及ぶことになれば、経済の衰退を引き起し、現存する衝突や動乱を激化させるだろう。

(2)グローバル化の中の中国

改革開放開始からの30年間は、中国経済が少しずつグローバル経済に溶け込んできた30年間とも言える。中国は他国と共にグローバル経済の巨大な成果を享受し、そして他国と同様、グローバル化の反作用に遭遇し、新しい安全保障問題の重大な挑戦に直面している。2008年だけでも、南方の雪害、四川省の地震といった深刻な自然災害や、食品の安全、生産現場の安全を脅かす事故などがあった。国際石油価格の高騰と下落、欧米の金融危機などの国際要素も、中国経済にとっては打撃である。

中国の発展には、少なくとも4つの大きな挑戦が待ち受けている。一つ目は物質資源(特にエネルギーと水資源)の不足、二つ目は生態環境の悪化、三つ目は国内経済社会の不均衡(貧富格差、地域格差、都市農村格差の拡大)、そして四つ目は、この先起こるかもしれない大規模な自然災害あるいは伝染病である。

これらの問題に立ち向かうために、中国政府は科学的発展観と社会調和の促進という指導思想を打ち出している。まず、成長方法を転換し、内需を拡大し、人と自然の調和的発展のための計画を統一して行う。さらに、経済建設、人口増加、資源利用、そして生態環境保護の関係を適切に処理し、民主と法治を健全化させ、社会全体を生産発展、生活向上、生態改善の文明的発展の道に推し進めようとしている。中国は、この道を進むことによってのみ、あらゆる新しい安全保障問題に対して適切に対応し、持続可能で安全かつ迅速な発展を実現することができる。

世界の経済発展と貧困解消に対する中国の突出した貢献は衆目の認めるところである。新しい挑戦にあたって、中国は新しい世界的役割を演じなければなるまい。それはつまり、中国自身が国情に基づいた持続可能な発展の道を進み、世界経済の牽引車となるだけではなく、人類の共同資源を守るためにさらなる貢献をしなければならないということだ。

この方針に従えば、中国が軍事拡張を行わず、同時に外部との経済摩擦と資源獲得においても競争を最小限にコントロールしなければならないことになる。そしてこの道によれば、中国が自主的にイノベーションを行い、科学技術と教育への投資を拡大し、国際協力を積極的に行わなくてはならないことになる。

2.宗教と民族主義

(1)宗教と民族主義の復活

現代世界政治の二つ目の特徴は、世界的な宗教勢力と様々な民族主義が復活していることだ。

冷戦の終結は、二大イデオロギーの敵対が終結したことを意味する。しかし、人類の歴史は、これまでも思想的な激動に満ちていた。グローバル化がもたらした複雑な矛盾のなかで、人々は精神的な拠り所として集団への帰属意識を求め、依存している。そうして、伝統宗教の復興の中で、一部では宗教勢力のいわゆる「原理主義」が復活し、特定の集団から崇拝されるようになった。そしてこれらの集団が自分達を虐げられた民族であると認識する時、民族問題と宗教問題は相互に結びついて国家内部の民族分裂を産む傾向があり、国際勢力の干与を受けることになるのだ。

国家意識、宗教意識、民族意識にとって、グローバル化は諸刃の刃である。グローバル化のある一面では、国家主権が打撃を受け、人や情報が国境を超えてハイスピードで流通し、各国の相互理解が深まっているが、別の一面では、社会が対外的に開放されることによって人々は「自分たち」と「彼ら」の違いをより強く意識するようになり、多くの人が自分の国、自分の教派、自分の民族に対するアイデンティティを強めて、自分たちの伝統文化、風俗や価値観を守ろうという意識を持つ結果、外からの影響を排斥しようとするのだ。注意しなければならないのは、グローバル経済の発展が社会発展のバランスを一段と崩すと経済民族主義が目に見えて高まるようになり、それが貿易の保護主義や国際資本流動への警戒として現れるのである。

宗教と民族主義は、ある意味において社会の凝結力を強化する作用がある。一方で、それは平和、安定、繁栄を破壊する方向に導かれる可能性もあり、異なる宗教、教派、民族の間でわだかまりや憎しみさえ産むことがあるのだ。

(2)文化文明の橋渡し役

古くから続く文明大国として、中国は世界規模での思想動乱や文化発展に注目してきた。中国の門戸開放は、経済的な開放だけではなく、世界文明と民族文化や思想に対しても扉を開き、世界文明からその精髄を吸収することであった。中華文明は、本来、異なる文化、宗教そして民族の特色を融合したものであり、したがって多彩である。中国人は文明と文化の相互融合を提唱しており、隔絶、怨恨、民族分裂を主張しているわけではなく、ましてや宗教、教派、民族、国家の矛盾を暴力によって解決するのは尚更反対である。中国が演じることのできる、そして演じるべきである役割は、異なる文明と民族の間の橋渡しであって、世界の調和を促進することである。

中国は、自国の文化を強化すると同時に、外部に対する文化的な影響を強化したいと考えている。すなわち、「ソフトパワー」を強化したいと願っている。国家が文化というソフトパワーを強化する過程は、自国と自民族が最も大事にする文化伝統を他国や他民族から分離し、人類の普遍的な価値体系の一部とする過程である。実際、中国が進める調和の思想とは、世界の他の文明や宗教の中でも表現されていることであって、ただ理解や表現方法が異なるだけである。

中国がソフトパワーを強化することは、他国のソフトパワーの弱体化を意味するわけではない。中国人がすること、またすべきことは、まず自国内で調和の取れた社会を実現し、民族や宗教集団同士を互いに寛容にさせることである。同時に、社会制度と価値観の異なる国家と共通認識を深め、相互理解を促進することである。

中国が経済開放と文化開放を同時に行えば、中華文明は、様々な文明が混ざり合うその歴史の流れの中で、独自の役割を発揮することができるだろう。

3.パワーバランス

(1)パワーバランスの転換

現代世界政治の三つ目の特徴は、権力の中心、富の中心、そして発展のエンジンが、今まさに転換しつつあることだ。

近年、国際政治構造と大国間のパワーバランスには深刻な変化が生じてきている。冷戦終結直後は、アメリカが唯一の超大国としての地位を確立し、EUは勢いを加速し、日本はアジア経済をリードした。彼ら先進国が国際的な制度を制定し、実行していたのである。しかし、今世紀に入ってから、西洋諸国全体のパワーが相対的に低下する兆しが出てきている。アメリカが2003年に開始したイラク戦争及びその他一連の対外行動は、アメリカ自身の国際的なイメージを損ない、その「ソフトパワー」を弱めることになった。また、今やアメリカの経済はサブプライムローン問題による打撃を受け、「ハードパワー」も傷ついている。EUと日本の経済発展はパワー不足という問題を徐々に露呈し、高齢化や人口減などが経済制約となっている。国際的な金融危機がヨーロッパに与えた打撃は、アメリカさえ凌ぐものとなっている。全体的に言えば、先進国は自信を失いつつあり、ますます多くの困難とプレッシャーに直面しているのだ。

それに比べて、中国、インド、ロシア、ブラジル、南アフリカなど多くの新興国家は、グローバル化という発展のチャンスをつかみ、迅速に国力を増強し、国際的にもますます力を発揮している。西洋人の間では、「成長は東洋にあり、債務は西洋にある」、「歴史の聖火は今まさに西洋から東洋に移動している」と言われているようだ。

しかし、世界の権力、富、そしてエンジンの重心が西洋から東洋に移る過程は、順風満帆ではない。必ずや嵐、障害、落とし穴があるだろう。権力、富、エンジンの転換には、困難、トラブル、そして批判も伴うものである。また、そのような「歴史の聖火」の転換は長期的な発展趨勢なのかどうか、その歴史的な意義は何か、観察研究していかなくてはなるまい。

(2)中国の発展方向

地理的にいえば、中国は「東洋」の国家のひとつであることから、「東洋」すなわちアジア太平洋地域において、経済協力と安全保障を促進していかねばならない。しかし、中国は「東」と「西」で線を引くことによって自国の安全戦略を確定させたり、軍事同盟を組織あるいは参加したりはしない。中国は、アジア太平洋地域との協力関係のなかで開放原則を保持しつつ、域外国家の利益と要求も考慮する。中国の経済協力はすでに「東西南北」という世界的な規模で展開されているのであって、中国の戦略計画が「東洋」「西洋」という概念の制限を受けたり、他の大国とその「勢力範囲」を争うようなことをしたりはしないのである。

中国は新興国家の中で最も速く発展しており、外部の資源や市場への需要も大きくなってきている。また、共産党が指導する社会主義国家として、国際的な権力と富の転換過程でどのような役割を果たすのかが非常に注目されている。ひとつの大国が台頭する際、既存の権力バランスを打ち破り、世界秩序に打撃を与え、国際的な衝突を招くのは国際関係史の法則である。したがって、中国の台頭も例外ではなく、だからこそ中米の最終的な対立と衝突は避けられないものだとする向きがあり、非常に影響力のある考え方になっている。

この種の考え方は、中国が現在の国際事務を処理するにあたって重視し、回答せざるを得ない問題を提起している。それは、中国は日ごとに増大する自国の実力と影響力をどのように評価し、どのように運用するかということだ。中国がいかに平和への意向を表明し続け、自国は発展途上国であってその前途には困難や障害が待ち受けているのだと強調しても、中国の台頭に対する世界の懸念は減少するどころか、かえって増加するだろうということを認識し、冷静な頭と平常心を保たなければならない。

一般的な情報開示と「中国脅威論」に対する反論だけではまったく足りない。より重要なのは、自国の行動様式と明確な戦略をもって、いわゆる「大国の悲劇」という歴史の法則を打ち破ることである。

世界の権力と富が転換する過程で、中国は冷静かつ客観的に自国の実力を量り、浮つくことなく、様々な国際的パワーバランスの変化を慎重に分析しなければならない。さらに、国際的道義の原則を守り、国際政治闘争の渦の中心に不必要に巻き込まれることは避けなければならない。

そのために中国は、まず第一に、同盟を組まないという政策を守り、大国集団政治を行なわないことが必要だ。第二に、中国は全方位の開放政策と協力態勢を維持し、イデオロギーや社会制度で線を引いたり国家関係の遠近を決めたりはしない。第三に、中国は自主的なイノベーションを行い、内需拡大を出発点として、物質資源に過度に依存しない新たな現代化発展モデルを創出しなければならない。このようにすれば、国際構造の転換過程において、中国の発展は他国にとって予測可能な安定要素となり得るだろう。

4.国際ルールと国際秩序

(1)ルールと秩序の転換

ここまで述べた三つの特徴と動向という基礎によって、現代世界政治の四つ目の、そして最も重要な特徴が自ずから見えてくる。それはつまり、国際ルールと秩序が重大な変革を経験しようとしているということである。

国際政治の最も原始的な法則は、いわゆる「ジャングルの法則」と呼ばれるものである。すなわち、弱肉強食で、法も神もないというものだ。しかし、塗炭の苦しみ、争いの結果の共倒れという戦争の教訓、そして日増しに緊密化する国家間の経済的相互依存が、国際法、国際関係準則、国際組織・機構、規範の形成を促進してきた。

無数の事実が説明するのは、第二次世界大戦後に形成された国際組織や現存する国際協力の制度は、グローバル化の過程においては既に時代遅れとなっており、深刻な「構造的な国際赤字」が出現していることだ。例をあげれば、国連改革が一部に強い要望があっても進展しないこと、ドーハラウンド(新多角的貿易交渉)の失敗によって世界貿易体勢は緊急の修繕を要することが証明されてしまったこと、IMF(国際通貨基金)は日に日に拡大する金融危機になす術がないこと、エネルギーや気候変動などの問題について世界的な協力機構がいまだ設立されないこと、人道的介入の原則と規則についての争いが大きいこと、国際社会で民族分離主義の処理方法に関する共通認識が欠けていること、国際的な影響が日々増大する様々な非政府組織や多国籍企業の行為を基準というレールに乗せる必要があること、G8では対応できない日々緊迫する世界の挑戦に応えるための長期的視点を持った大国間調整の制度が出来ていないこと、などが挙げられる。

総じて言えば、世界を統治するための「赤字」は次第に大きくなり、既存の国際制度は新たに出現する世界規模の問題にますます対応出来なくなり、改革とイノベーションを切実に迫られているのである。改革なくして、地域衝突や民族宗教の矛盾に対して世界はコントロールを失い、大国間の協力を深化させることも維持することもできず、さらには人類と自然界の調和さえも深刻に破壊されてしまうだろう。

(2)国際ルール制定への積極参与

経済のグローバル化に積極的に参加して利益を享受する者として、これまで中国は、既存の国際政治経済秩序から新たな認識を学び、徐々に適応していく過程を経験してきた。WTO(世界貿易機構)加盟後、中国は多くの重要な国際機構において積極的な役割を果たすようになり、それに伴うルールを守り、義務を果たしてきている。それと同時に、国際社会の中国に対する注目や期待も高まり、中国はより多くの国際的責任を負うべきだという声も日に日に大きくなっている。

今後の中国は、既存の国際ルールの再認識と順応を経て、これまで以上に活発な役割を果たすことになる。すなわち、現状の合理的秩序と国際ルールを維持である。たとえば、世界最大の温室ガス排出量国として中国は、「京都議定書」が2012年失効する前に具体的な省エネや排出量削減方案を提出し、新しい国際的枠組みの協議と立案に参加することになる。また、エネルギー消費大国、エネルギー生産大国として、中国は世界のエネルギー価格などの問題に従来以上に大きな声をあげることになるだろう。また、核大国として、そして宇宙技術が急速に発展している大国として、中国は核不拡散、軍縮、宇宙空間の平和利用などの国際的な制度においても、その役割を果たさなければならない。さらに、WTOがドーハラウンド(新多角的貿易交渉)に失敗すれば、中国は貿易大国として関係国と協力して新しい解決策を模索する必要があるだろう。

国際ルールの制定に積極的に参与し、国際政治経済秩序を改善することは、中国が近年掲げる「平和発展路線の堅持」や「調和のとれた世界の共同構築」などの理念をさらに充実させ、促進させることになるだろう。

5.まとめ

以上まとめれば、日ごとに複雑化する世界政治において、中国は4つの役割を演じなくてはならないということだ。すなわち、(1)まず自ら持続可能な発展路線を堅持し、(2)世界中の様々な民族の融合を促し、(3)国際レジームを安定的に移行させ、(4)合理的な国際ルールと秩序を提唱することである。

現在、海外において中国の現状と未来に対して議論が紛糾して意見がまとまらないばかりでなく、中国国内の世論や学者専門家の間でさえ、その将来の行く末と国際戦略について諸子百家のごとく議論が噴出している。筆者がここで申し上げたことは、独自の見解に過ぎない。

中国が国際的責任を果たすための外交戦略とは、まず中国自身の主権、安全そして発展という3方面における国益に基づき、そして同時に国際情勢と世界の中国に対する期待をも考慮したものでなければならないと筆者は信じている。そして、国内構造と国際構造という2つの大局と両者の相互作用を深く研究し、その基礎の上で国家に政策提言し、国際世論に応えることは、中国の学者が果たさなければならない重要な責任であり、重大な任務だと考える。

(訳:東京財団研究員 関山健)

王 緝思

  • 元東京財団客員研究員/北京大学国際関係学院院長